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大切なものを守れるように」(2006/09/22 (金) 10:51:34) の最新版変更点

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  ガッ!!   重い音がして、斧が飛んだ。それで勝負は決まった。 「珊瑚、まだまだ甘いわね」   ふわりとした微笑みはそのままに、淡緑色の髪をなびかせてその人は言った。 「くっ……さすが、師匠……!」   押し出すように、そう言うのが精一杯だった。   優しい手の感触で目が醒めた。 「大丈夫?」   優しい声。師匠の、ペリドット。 「――っ!」   って、膝枕! 「こら。暴れちゃ、めーよ。頭を打ってるみたいだし」   起き上がろうとした頭を押さえられて、子供のようにぽんぽんとなだめられた。優しい動きなのに微動だにできないってどんな力なんだ……。 「……無様なところをお見せしました」   恥ずかしさに消え入りそうになってつぶやいた。 「そんな台詞は一人前になってからお言いなさい」   くすくすと笑って頭を撫でられる。 「今は鍛錬なさい。いつか、あなたに大切な人ができたときに、守れるように」   胸の奥がちり、と痛んだ。そう言った師匠の顔が、少しだけ悲しそうだったから。   大切な人を守れるようにというなら、今自分が守りたいのは……。 「そんな顔をなさらないでください、師匠。某はもっと強くなってあなたをお守りしますから!」   思わず、頭を撫でていた手を握っていた。 「……あっ……失礼しました……」   自分がしたことの意味に気がついて、顔が熱くなった。何を言っているんだ某は! 頭を打ったからだと思いたい……。   きょとんとしていた師匠は、くすくすと笑いだした。 「うん、ありがとう。嬉しいわ……でもね」   握った暖かい手がそっと包み返してくれる。 「いつかあなたにも、この庭園の外に大切な人が現れる日が来る。そのときに、後悔のない日々を送れるように」   大切な人……某には、わからない。自分には、この庭園と、お父様、姉妹たち……そして、師匠。これだけが、大切なものだから。 「某には……わかりません」   庭園の外に行くということは、この穏やかで幸福な日々から離れるということだ。そして、この優しい手からも。 「……いつか、ね。後悔しないように。本当のところ、私があなたに伝えたいのは、これだけなの」   某は、泣いていたのかもしれない。優しい笑顔が、うまく見えなかった。   だだっ子のように手を握って離さない某の髪を、師匠はいつまでも優しく撫でてくれていた。   そして遠くない未来、某は師匠の言葉の意味を知ることとなる。それは甘く温いゆりかごのような庭園から出てこそ、知ることができるものだった。   お父様や姉妹たちへの愛は変わらない。某は大切なものを守る。お父様を。姉妹たちを。そして。 「……珊瑚」 「はい、主殿」
  ガッ!!   重い音がして、斧が飛んだ。それで勝負は決まった。 「珊瑚、まだまだ甘いわね」   ふわりとした微笑みはそのままに、淡緑色の髪をなびかせてその人は言った。 「くっ……さすが、師匠……!」   押し出すように、そう言うのが精一杯だった。   優しい手の感触で目が醒めた。 「大丈夫?」   優しい声。師匠の、ペリドット。 「――っ!」   って、膝枕! 「こら。暴れちゃ、めーよ。頭を打ってるみたいだし」   起き上がろうとした頭を押さえられて、子供のようにぽんぽんとなだめられた。優しい動きなのに微動だにできないってどんな力なんだ……。 「……無様なところをお見せしました」   恥ずかしさに消え入りそうになってつぶやいた。 「そんな台詞は一人前になってからお言いなさい」   くすくすと笑って頭を撫でられる。 「今は鍛錬なさい。いつか、あなたに大切な人ができたときに、守れるように」   胸の奥がちり、と痛んだ。そう言った師匠の顔が、少しだけ悲しそうだったから。   大切な人を守れるようにというなら、今自分が守りたいのは……。 「そんな顔をなさらないでください、師匠。某はもっと強くなってあなたをお守りしますから!」   思わず、頭を撫でていた手を握っていた。 「……あっ……失礼しました……」   自分がしたことの意味に気がついて、顔が熱くなった。何を言っているんだ某は! 頭を打ったからだと思いたい……。   きょとんとしていた師匠は、くすくすと笑いだした。 「うん、ありがとう。嬉しいわ……でもね」   握った暖かい手がそっと包み返してくれる。 「いつかあなたにも、この庭園の外に大切な人が現れる日が来る。そのときに、後悔のない日々を送れるように」   大切な人……某には、わからない。自分には、この庭園と、お父様、姉妹たち……そして、師匠。これだけが、大切なものだから。 「某には……わかりません」   庭園の外に行くということは、この穏やかで幸福な日々から離れるということだ。そして、この優しい手からも。 「……いつか、ね。後悔しないように。本当のところ、私があなたに伝えたいのは、これだけなの」   某は、泣いていたのかもしれない。優しい笑顔が、うまく見えなかった。 #ref(14075.gif)   だだっ子のように手を握って離さない某の髪を、師匠はいつまでも優しく撫でてくれていた。   そして遠くない未来、某は師匠の言葉の意味を知ることとなる。それは甘く温いゆりかごのような庭園から出てこそ、知ることができるものだった。   お父様や姉妹たちへの愛は変わらない。某は大切なものを守る。お父様を。姉妹たちを。そして。 「……珊瑚」 「はい、主殿」

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