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重たくない?」(2008/07/27 (日) 00:08:50) の最新版変更点

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「ねぇ、殺生石。いつも思うんだけど」  僕の隣でお茶を飲む殺生石。  視線の先には、毛並みの美しい立派な狐の九尾。 「何でしょう……だんな様?」 「ん、あぁごめん。あのさ、その尻尾って重たくない?」  その尻尾は、9本とも殺生石の身長と同じぐらいありそうな、 とても大きなものだ。  ふくらみのほとんどは体毛だとしても、これだけの尻尾を織り成す付け根部分が9本ともなれば、 相当の重さになると思う。  そんなものを、外すわけにも行かずいつもつけている殺生石。もしかしたら、 相当体に無理がかかっているかもしれない。 「重たい、ですか」 「うん。これだけ大きいとさすがに気になっちゃって。もしかして気に障った?」 「いえ、別に。体重のことではありませんから。それにだんな様になら、 わたくしのことを包み隠さず教えて差し上げますよ……ふふふ」 「そ、それは心の準備が出来てないから、また今度ね」  その言葉に、残念そうな顔で返事をする殺生石。 「……で、この九尾が重いか、ですか。率直に言えば、かなり重いです」 「やっぱり。いつもそれじゃ疲れるでしょ。どこか凝ったりしてたら僕が…… あ、いやその、下心がとか、そういうのじゃないから」  自分のセクハラ的発言に気付くがもう遅い。あわてる僕の顔を見て、殺生石は微笑みを返してくる。 「まあ。わたくしならそれぐらい構いませんのに。相変わらず初心なのですね」 「せ、殺生石ぃ」 「ふふ、ごめんなさい。それより、お心遣いはありがたく思いますが、 このことは気にしなくても問題ありませんよ」  つまり、尻尾が付いてても問題ないということ、かな。  ずっとこういう姿をしていると、それに適した体になっているって事なのだろうか。  神通力とか色んな力を持っているけど、実は細い体に似合わず力が強いとか……。 「……そうですね。だんな様はわたくしの良人ですから、どうしているかお教えします」  と、僕が何も尋ねていないのに、殺生石が立ち上がる。  そして僕を自分と向かい合わせ、九尾を自在に動かして見せた。 「このように、わたくしの尻尾は自由自在に動きますが……失礼」  動きを止めた尻尾。その一つの根本に、殺生石が手を伸ばす。  一体何を……そう思ったとき、手に取った尻尾の長さが、急に変化する。  伸びた? いや違う。殺生石の手を見ると、なんと体からはずれた尻尾を握り締めていた。 「え……?」  これは、どういう状況なのか。  この状況を目の前にして、全く理解が出来なかった。 「実は、こうして外すことが出来るんですよ。この尻尾全て」 「え、えぇっ!? い、いい、痛くないのっ?」 「平気です。外れるように出来ているのですから」  手に持っていた1本の尻尾を丁寧に床に置くと、更に残った尻尾を外しにかかる。  2本、3本、4本……9本目の尻尾を外した後には、狐耳を付けただけの豪華な着物を着た女の子が一人。  床には、まるでほこり取りを思わせるふかふかの毛に覆われた尻尾が……。 「驚きましたか? 疲れたときはこのように尻尾を外すんです」 「そ……そう、なんだ」  もう、何と言っていいのか分からない。  あまりにも単純なことなのに、ものすごく複雑なことのように思えてしまって。 「もちろん、これは誰にも秘密で……秘密ついでですから、他にも外れるところを」  と、今度は両耳を両手で掴み……まさか。  そう思ったときには、すでに殺生石の耳は頭頂から見事に切り離されていた。 耳がないと、普通の姫カットの女の子だ。 「これ以外にもまだ外れる場所があるんですが、ここから先は召し物を脱がなくては……」  これ以上、何が外れると言うのか。  それに対する好奇心もあったが、これ以上はまずいと頭が警笛を鳴らす。  止めなければ。そう思っているはずなのに、僕の喉は声を出すことが出来ない。  どうしたんだ、さっきまでは普通に……。 「でも、だんな様ですから……特別に」  そんな僕を気にする様子もなく、殺生石は自分の着物の裾に手を伸ばし……。  ああぁぁ、ダメダメダメっ! これ以上はずれたらホラー映画……じゃない! とにかくダメっ!  必死に顔を手で伏せ、見ないようにする。  見ちゃダメだ、見ちゃダメだ、見ちゃ……。 「だんな様、お顔を見せてください。だんな様……」 「……だんな様、もう朝です。起きてください」  ダメだ、この手をどけたら大変なことに。 「もう。そうして顔を隠しても、朝は待ってくれません。さぁ、起きてください」  顔を覆う僕の手に、殺生石の手が触れる。  指先の冷たい感触。それで力が抜けた手を、優しく持ち上げる。  あぁ、結局僕は殺生石に逆らえない……。 「……あれ? 耳、付いてる」 「っ、いきなり何を言っているんですか。これがなければ、だんな様の声を聞くことが出来ないじゃないですか」  と、不機嫌そうに答える殺生石の姿。  ややぼやけた視線の先には、いつも通りの着物に、狐の耳と、豪勢な九尾。  そして、ここが居間ではなく自分の部屋で、僕は布団の中で、パジャマ姿。 「……夢?」 「夢の時間はもう終わりです。さあ、起きてください。遅刻してしまいます」  殺生石に優しく諭されながら、僕は体を起こす  次第に鮮明になる視界。朝日の差し込む自室と、どこか呆れた様子の殺生石。 「もう、こんな寝ぼけた顔で。だんな様、早くお顔を洗ってきてください」 「う、うん……あ、殺生石」  僕が起きたことを確認し、部屋を出ようと立ち上がる殺生石。 「何でしょう?」  いつも通りの笑顔で、僕の方へ顔を向けてくれる。  ……でも、すぐにその顔は、再び呆れ調子になってしまう。 「えっと……殺生石の尻尾って、外れるの?」 「……夢でもわたくしの事を想って頂けるのは嬉しいですが、そんな世迷い言があるはずないでしょう」  ……ですよねぇ。

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