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オンリーワン・ドリーム」(2008/07/26 (土) 23:55:17) の最新版変更点

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 セットする時間を間違えた目覚ましは、見事なまでに僕を遅刻ギリギリの時間に目覚めさせた。  午前7時40分。最寄りのバス停から駅まで、遅刻せずに間に合うバスは15分後の1本のみ  頭から、熱が一気に抜けていく。ベッドから飛び起きた僕の手は、 真っ先に壁に掛けてあった制服へ伸びる。  さぁ、時間との勝負だ!  ブレザーに袖を通しながら一階に下り、廊下からダイニングに顔を覗かせる。  テーブルで黙々と朝食を食べている妹。カウンター越しのキッチンで朝食を作る母親の後ろ姿。  ……え、妹? 僕っていつから妹が。 「兄者、おはよう……遅刻ギリギリだな」  と、小脇に荒巻を抱えた妹が、渋い口調で呟く。 「お、おはよ。というか、雲母ちゃんだよね?」 「妹の顔を忘れるほど寝ぼけてるのか」 「い、いや……」  確かに、妹という記憶はある。あるんだ。  だけど何だろう、この不自然な感覚は……じゃないっ。今はまず目の前の問題解決を! 「か、母さんおはようっ。もう時間ないからご飯はいらないよっ! じゃあいってき」  母さんの背中に呼びかけながら、ダイニングに背を向け玄関へ向かおうとした、そのときだった。  肩を女性の細い手でがっちりと捕まれ、全く身動きを取れなくさせられる。 「あらあら、だめですよぉ。朝はちゃんと時間に余裕を持たないと」  そう言って再び振り向かされると、そこには笑顔のまま怒りの空気を放つ母さんの顔。  メガネをぎらりと輝かせ、今にもダメ息子に制裁を与えようと……って。 「ぺ、ペリドットさん?」 「ふふふ。気が動転するのはいいけれど、ちゃんとネクタイを結ばないと」  より一層強い殺気を放ちながら、適当に結ばれていた僕のネクタイを直してくれる。  やっぱり何か変……だけど今は、そんなことを深く考える余裕が頭に存在しない。  学校に、遅刻する! 「あ、あのっ、後はバスで」 「ダメです。だらしないのは許しませんよ」 「いや、でも……」 「だ・め・で・す」  結局逆らうことが出来ず、ネクタイをきちんと結ばれた後は口にトーストをくわえさせられる。 「はい、いってらっしゃい。車に気をつけてね」 「ふ、ふぁい……へっ!」  ダイニングの時計に目をやると、すでにバスが来るまで残り8分。  走って間に合うかも分からない……僕はあわてて玄関へ向かい、 靴を足に引っかけたらその場で止まることなく外へ出る。  もう、挨拶している余裕もない。途中転びそうになりながら靴を履き、アスファルトの道を走り抜ける! 「……ダメな兄者だな」  バス到着まであと5分。  住宅街を必死に駆け抜ける僕の隣に、同じ学校の女の子が姿を現した。  僕と同じく、遅刻寸前の女の子。同じく余裕のない顔を浮かべながら、必死に同じバス停を目指す。 「お、おはよぉっ!」  金髪のロールがかかったツインテールを振り乱すその姿は、間違いなく金剛石ちゃん。 「え、ちょっ、金剛石ちゃんっ、何で制服……」 「私服登校なんて出来るわけないでしょーっ。それに朝練あったって、ジャージで登校なんてしない!」  そうか、今日は毎月数回ある朝練のない日なんだな。それで油断して遅刻寸前。いつものパターンだ。  ……いやいやいや、問題はそこなの? 「そ、それより時間危ないからっ、手ぇ繋いで!」 「え、ちょっ、うわぁっ!」  繋いでと言いながら僕の腕を掴むと、足並みを更に早める。  さすが、僕何かよりずっと体力がある。ひ弱な男一人引っ張るのに、 労力なんてそれほどかからないのだろう。  だけど、男としては恥ずかしい姿だ。女の子に引っ張られての登校なんて。 「じ、自分で走るよぉ」 「今更遠慮しない! 大体アンタ昔から……あっ!」  こちらに顔を向けて走っていたせいか、金剛石ちゃんは完全に、 曲がり角から飛び出してきた人影に気付くのが遅れてしまった。  足を止めてももう遅い。僕を引き連れたままその人影と激突し、皆その場で尻餅を付いてしまった。 「ひゃうっ!」  金剛石ちゃんとは違う女の子の短い悲鳴。  思いっきり尻を打ち付けた僕だったが、その声はあまりにも聞き覚えがあった。 「ったぁ……ちょっとっ、どこ向いて走ってるの……あれ?」  女の子が立ち上がりながら、こちらへと顔を向けてくる。  同じ学校の制服。腰ほどまで伸ばした銀髪。そして……。 「げ、月長石っ」  ネコミミのヘアバンドが印象的な、僕の大切な人。 「なぁんだ、アンタかぁ。というか、また金剛石に引っ張られてたんだ」  電柱にでも頭をぶつけたのか、目を回している金剛石ちゃんを横目に、月長石がため息をつく。 「まったく、どぉして幼馴染み役が金剛石なのよぉ。普通ならあたしでしょー」 「え、役……?」  唐突に出たその単語に、僕の頭は更に混乱する。 「うん、役。途中までは面白かったのになぁ。大体雲母が兄者ってさぁ」 「え……えーと、つまり」 「深く気にしたらダーメ。ほら、それより遅刻するんでしょ? 早く行こうよ」  そう言うと、月長石は座り込んだままの僕の手を取り、そのまま引き起こしてくる。  そう言えば時刻は……あぁ、もう間に合わない。1分前だ。 「遅刻確定、ね」 「そうだね……はは」  もう諦めるしかない。がっくりと肩を落とし、ため息を一つ。 「まぁ、こんなところでしょげててもしょうがないよ。と言うわけで、今日はサボり決定ー」 「え、ちょ、サボりは……」 「いいからいいから。ほらっ、金剛石目ぇ覚ます前に行くよ!」  その発現に対する意見を言う前に、今度は僕と腕を組んだ月長石が僕の体を引っ張る。  だが、その方向はバス停ではなく、ゲームセンターやらが集まる商店街。  もう月長石の頭の中に、登校という選択肢はなくなってしまったようだ。 「……まぁ、目を覚ましちゃうのはアンタの方だけどね」  小さな月長石の声。  それは、耳元でうるさい風切り音のせいで、上手く聞き取ることが出来なかった。           ◆ 「げ、月長っ……せ、き?」  ……今日二度目の目覚め。  枕元では目覚まし時計がけたたましく鳴り響き。僕はただ天井の模様をぼんやりと眺めている。 「……夢?」  そう呟きながら、目覚ましを止めて時刻を確認。  7時15分。いつも通りの時刻。そしていつも通りの朝。 「あ、はは」  冷静になってみると、ただ笑うしかなかった。  ――だって僕、バス通学じゃないし。 「おはよーって、何朝っぱらから額に汗流してるのよー」  そう言って窓から部屋に侵入してきたのは、いつものマント姿の月長石。 「お、おはよう。ちょっと夢で走ってて」 「夢で? なぁに、もしかして遅刻しそうだったの?」  目をそらす僕を見て、それが図星だと確信したのだろう。にやにやと笑いながら、 ベッド脇に腰を下ろす。 「ふーん、夢かぁ。その夢、もしかしてあたし出てなかった?」 「え? うん、一応……」 「やっぱりぃ? にしし、昨日の薬は大こ……っとと。で、あたしはどんな役で出てたのよぉ?」  その言葉に、僕はただ言葉を詰まらすことしか出来なかった。  だって、あのとき月長石を見て浮かんだ言葉。それを教える事なんて、到底僕には……。 「ねぇねぇ、黙ってたら分からないじゃないのよ。幼馴染み? 転校生? それとも恋び……」 「わーわーわーっ!!」

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