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模様……替え?」(2008/07/26 (土) 23:40:00) の最新版変更点

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 天気良し、部屋良し、俺良し。 「よし、思い立ったら即行動。化石、模様替えするぞ!」 「模様替えっ。シマウマのしましまを横にするんやな!」 「なんでやねん」  とりあえず、元気いっぱいにボケてくれた化石にツッコミを入れつつ、部屋を見渡す。  ……さて、模様替えとは言ったが、家具らしい家具が片手で数えられるぐらいしかないわけだ。  四畳半にあるのは小さいタンス、丸いちゃぶ台。後は最近ついに手に入ったテレビに、 極めつけの段ボール製テレビ台。俺の力作だ。 「とりあえずタンスを右から左へ」 「受け流すん?」 「流しません」 「そやなー。でもマスタ、模様替えはうちも賛成やけど、代わり映えしないと思うんや」  うぅむ、いきなり事実を言われるとくじけそうになってしまう。  ……いや、ダメだ。模様替えならまだまだやることはある。 「そうだな。じゃあ試しに壁紙張り替えたり蛍光灯の傘変えたり……よし、早速店に」 「あかーんっ」  その一声と同時に、俺の後頭部を破裂音と衝撃が襲う。 「マスタっ、マスタたるものゼロ円模様替えやらなあかんっ!」  腰に左手を当て、右手に持ったハリセンを俺に突きつけてくる。 「いてて……吉本式はやめろっつーの」 「あかーんっ。ぬるいこと言うマスタにはビシーっとやな」 「勝手なこと言うなっ。つか俺が何でゼロ円で模様替えしないといけないんだよー」  俺の言葉を聞き、急に厳しい表情を浮かべる化石。いきなり何なんだ。 「何でもかんでも、価格上昇や……。小麦粉があかんなってきたっちゅーのに、 このままやと生命線のもやしも」 「とりあえず節約しろ、と」  俺の言葉に、化石が二度首を縦に振る。腕を組みながら。 「今のうちらはサバイバルや。油断したら資本主義っちゅー肉食獣に食べられるんや」 「そ、そうだな。でも模様替えに賛成してる奴の意見とは思えないぞ」  ……沈黙。そして何故か化石の顔が赤くなる。 「う……うちやて、女の子……やもん」  うつむき、小さく呟いた一言は、確かに俺の耳に届いた。  うむ、全く持ってその通りだ。うんうん。  これはやはり、普段苦労をかけてる化石のためにも頑張ってみようじゃないか。 「という訳で……その、いらない物ありますか、カーテンとか」  頭を振り絞って考えた末、化石に留守番を任せてやってきたのはペリドットさんの所。  この後は鶏冠石ちゃんの家にも寄る予定だ。厚かましいが、貧乏人にあるものは 下げるための頭ぐらいだ。  という訳で、早速ペリドットさんとそのマスターさんに対し、頭を下げる俺。 「そんな頭下げなくてもいいですって。えっと、何かあったっけか」 「そうですねぇ。小物類ならいくつかありますが、カーテンのようなものはさすがに」  だよなぁ。普通の家に余ってるカーテンなんてないだろう。 「ですが、【化石のマスター】さんも妹のために頑張ってくれていますから。少し待っててくださいね」  一言残してペリドットさんがリビングから出ると、廊下に置かれた電話を手に取り、 どこかに電話をかけ始める。  ガラスのはめられたドア越しで、誰かと話している様子が分かる。 「あ、俺も何か探してきます。とりあえずゆっくりしていってください」  そして【ペリドットのマスター】さんも立ち上がった頃、電話を置いたペリドットさんがこちらに戻ってくる。 「【化石のマスター】さん、とりあえず話はつけてきましたので、このまま家へ戻っていてください」 「話……誰にですか?」 「来てからのお楽しみですよ。あ、その前に私も何か用意しますので、もうしばらく待っていてくださいね」 「じゃあ俺も」  そう言い残すと、二人ともリビングを出て各々の部屋へ向かったようだが。  さて、一体どんなことが起こるんだろうか……。  花柄の写真立てや花瓶が入ったダンボールを両手で抱え、自宅へ戻る。  割れ物満載だから、なるべく慎重に歩みを進める。そして自宅アパートの自室前が 視界に入ってきた頃、その前に化石が立っていることに気付く。 「あっ、マスタ! 大変やっ」  ゆっくり歩いていた俺の傍に駆け寄る化石。その表情は、ボケる余裕もないほど驚いている様子だ。 「どうした?」 「どしたもこしたも、さっき虎ちゃんとおっきーが……あー、ちゅーかはよ来てっ」  俺の背後に回り、背中を押し始める化石。  時折小石でバランスを崩しそうにもなりながら、何か問題が起きているらしい自室の中に入る。  そういえば、虎目石ちゃんだか誰だかがどうと……。 「あっ、やっと男手のご帰還ねー。ほらほら、とっととその荷物置いて手伝いなさいよー」 「やはり乙女なのだからゴシック調……ん、おかえりなさい」  そこでは、ツナギ着て頭に鉢巻を巻いた虎目石ちゃんと置石ちゃんが、 円筒形に巻かれた壁紙を選んでいる最中だった。 「【化石のマスター】さん、ゴシック調とバロック調、どっちがいい?」 「え、ゴシ……?」 「もぉ、どうして和室で洋風なモン選ぶのよー」 「私達、宝石乙女だもの」 「微妙に漬物石とか否定する物言いするんじゃないわよ……あー、男はとっとと外に家具出しなさい」 「いや、えっと……何でいるんだ?」  呆然とする俺の顔を見て、置石ちゃんが露骨なため息をつく。 「何だ、ペリ姉さんが聞いてないの?」 「模様替えで困ってるから、手伝ってあげてと。私達、こういうの得意だから」 「へぇ……女の子なのに」 「虎置姉妹は伊達じゃないってことよー。あぁ、今回は料金サービスで、 ペリ姉さん怖いからいたずらも無しね。残念……」  目で見て分かるほど、肩を落としてがっかりした様子を表現する置石ちゃん。 「当たり前。じゃあ【化石のマスター】さん、家具を外に出しておいて。それが終わったら、 内装の話を」 「わ、分かった……あ、ちょっと」  急展開に少し戸惑いつつも、何とか当初の目的を思い出し、 俺の背後に立つ化石の顔を見つめる。 「内装はこっちの要望を聞いてやってくれないかな。元々そのつもりで模様替えするつもりだったから」  俺がそう言うと、化石が口元を緩めてにっこりと笑う。  うん、この顔が見られるだけでも、これから頑張る価値はありそうだ。           ◆  汚かった壁は真新しい白い壁紙。  ちゃぶ台の下には、桜色の小さなカーペットが敷かれ、タンスの上には、 虎目石ちゃんに撮ってもらった記念の写真を入れた写真立て。 その隣は非常食用の野草を入れた花瓶。  テレビはそのままだが、テレビ台はせめてダンボールだというのはばれないようにと、 布をかぶせることでごまかした。  今迄から比べれば、これはあまりにも大きな変化だ。それゆえに、 俺も今回ばかりは素直に驚き、そして嬉しい限りだ。 「おー、きれいになったやんー」  化石と並んでちゃぶ台の前に座り、部屋全体を見渡す。 「そうだな。これも虎置姉妹の実力ということか」  ちなみに、置く場所が確保できなかったもらい物の小物は、押入れの中で厳重に保管されている。 「ちょっと壁が殺風景だから、今度掲示板でも拾ってくるか。小さい奴」 「ええなぁー。でも何貼るん?」  その質問に、口に手を当てて少し考え込み……。 「……スーパーのチラシ?」  結局、その程度しか思いつかない俺が少しむなしかった。 「チラシっちゅーても、新聞取ってないやんー」 「ま、まぁそうなんだけどな。あはは」  つまらない冗談で、二人向かい合って笑いあう。  こんな風に日々をすごせたなら、たまには思いつきで行動するのも悪くないかもしれない。  そして、こんなことに快く協力してくれた人達には、深く感謝しないと。 何かおもてなしが出来ればいいのだが……。 「あ、マスタ。大家さんには話つけたん?」 「え?」 「えって、勝手に壁紙貼ったらあかんちゃうの?」 「……さぁ?」  ……まぁ、いいことがあれば悪いこともあるんだろう。世知辛い世の中だもの。

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