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きみのせなか」(2008/07/26 (土) 22:53:32) の最新版変更点

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 瑪瑙のことなんて放っておけばよかった。  だってあの子は森に慣れているから、わたくしが心配……じゃない、わざわざ見に来てあげなくても、 もうすぐ屋敷に戻ってきたでしょうから。  ともかく、森の見回りに行ったままなかなか帰らない瑪瑙が悪いのだ。  「……不覚、ですわ」  わたくしは痛む足をさすった。  歩きづらい森の中で、つまづいてひねってしまったようだ。  窪地でたった一人。  涙がにじみそうになるのを、頭を振って振り切る。  その時。  「――何してるの?」  猟銃を背負って、いぶかしげな表情で瑪瑙がのぞきこんでいた。  ……いけない。本格的に涙が出てきた。  「……ちょっと散歩に出ただけですわ」  「もしかして怪我したの? ちょっと待って、今行く」  「け、結構ですわよ!」  ざざ、っと葉を揺らして、窪地に瑪瑙が降りてくる。  「鶏冠石、痛いの? 涙が……」  「こ、これは、貴女が乱暴に降りてくるから埃が目に入ったんですわ!」  思わず口をついて出た悪態に、瑪瑙は微笑んで返す。  「その元気があれば大丈夫だね」 ◇  「……一人で歩けますわ」  「何言ってるの、キミみたいなお嬢様が靴も履き替えずに。よく足をひねっただけで済んだね」  「生意気なことを言わないで頂戴」  「はいはい」  わたくしは瑪瑙の背に揺られて、森を出る。  背の丈も同じくらいなのに、しっかりとわたくしを背負って、瑪瑙は歩いてゆく。  「帰ったら手当てしてあげるね」  「……その前に、お茶が飲みたいですわ」  「はいはい」  顔を見られなくてよかった。  わたくしの顔は涙で汚れているし、何より瑪瑙にこんなに甘えて安心しきった顔なんて、見られたら恥ずかしくて 死んでしまう。  「……ありがとう……」  思わずつぶやいた後で、恥ずかしくなって瑪瑙の背に掴まる手に力をこめた。  瑪瑙の返事はなかった。  聞こえなかったのか、それとも聞こえないふりをしてくれたのか。  「……もうすぐ森を出るよ」  屋敷に帰ったら、ちゃんと瑪瑙にお礼を言おう。  恥ずかしくて言えないかもしれないけど。  わたくしは暖かい背中でうとうととしながら、そんなことを考えた。

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