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「ご主人様、桃の節句です!」  と、僕の隣で正座をした蛋白席が一言。  確かに明日は桃の節句、雛祭りだ。だけど男の一人暮らしで雛人形もないし、 何か食べてそれで終わりということになりそうだ。  ……最初は、その予定だった。だけど蛋白石のこの期待に満ちた顔を見てしまっては、 しっかりと祝ってみたいとも思ってしまう。 「うん、そうだね。もう3月かぁ」 「はい。きっと美味しい桃がたくさん食べられるんですよねぇ。今から楽しみです!」  ……あれ? 「とっても甘くて瑞々しくてぇ……あっ、きっとジュースにしたら美味しいですよっ」  両手を頬に当てる蛋白石。腕で胸が寄せられて、普段から気になる谷間が一層際立って…… いやいや、何を考えてるんだ僕は。  でも、何だろう。  僕と蛋白石の間に、ものすごい意識の違いがあるように感じられる。 「えへへぇ……私、桃大好きですよぉ」 「ねぇ、蛋白石。もしかしてものすごい勘違いしてない?」 「へ? 何がですかぁ? 桃の節句は桃を食べてお祝い……ん、何のお祝いでしょう?」 「えーっ!!」  轟いた。  蛋白石の驚きの声が、家中に轟いた。狭いアパートだけど。 「も、もも、桃の節句って、花が咲く季節だからそういうんですかーっ」 「うん、旧暦の話だけど。あと桃の実は基本的に夏だよ」 「そんなぁーっ。ややこしいですよぉ!!」  と、珍しく床でじたばたと手足を振り回す蛋白石。  そこまでショックだなんて、相当桃が好きなんだなぁ。 「うぅ……せっかくたくさん食べられると思ったのに……50個くらい」 「それ食べ過ぎ……桃って高いんだよ?」 「だから、お祭りだと安く食べられるのかなって」  そんなお祭りがあるなら、僕も連れて行ってあげたいところだけど。あいにくその手のものを聞いた事はない。 「じゃあご主人様、桃の節句って何のためにあるんですか?」  諦めたのか、体を起こして再び正座。 「ん? 雛祭りだよ。女の子のお祝い」 「女の子、ですか。知りませんでした……うぅ」  すっかり意気消沈といったところか。なんだかまともにお祝いも出来ないともなると、 ものすごく申し訳ない気持ちになってしまう。  さて、どうしたものか……。 「……ねぇ、どうしても桃食べたい?」 「へ? いえ、食べられる季節じゃないなら、その……食べたい、です」  蛋白石の食欲は正直だ。思わず苦笑を浮かべてしまう。 「それじゃあ、明日桃缶買ってくるから、それで我慢してくれないかな?」 「モモカン……桃の缶詰ですか?」 「うん」  僕の言葉を聞いて、蛋白石の顔が少しだけ明るくなる。 「……そ、それじゃあ、それでいろんな桃の料理とか……みんなで、作りたいなぁ」 「あ、それいいね。せっかくだからみんなでいろいろ作ってみようか」  桃の料理なんて、作ったことないけど。  だけど、蛋白石がにっこりと笑ってしまうと、そんなことはどうでもいいことになってしまう。  せっかくの女の子のお祝いなんだ。男である僕が少し苦労してみるのも、いいのかもしれない。 「それじゃあご主人様、早速材料をっ。お荷物たくさん持ちますよ!」 「うん、そうだね。だけどまずは何を作るか決めてから、ね」 「はいっ」           ◆ 「で、こんなにも大量の桃缶を買ってきたわけ、ですか」  テーブルを埋め尽くすように並べられた桃缶を見て、殺生石がつぶやく。 「うん……ちょっと、調子に乗りすぎた」 「え、えへへ……」 「これは4人で食べきれる量ではありませんね。明日の祝いは相当派手になりそうで」 「おまつり?」  ため息をつく殺生石に、目を輝かせる電気石。  そして僕は、この桃祭りがいつまで続くのだろうということを、危惧せずにはいられなかった。 「でも、缶詰なら日持ちしますよね?」 「あ……」

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