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紅白の因縁」(2008/02/21 (木) 20:56:49) の最新版変更点

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 殺生石は巫女が嫌いだという。  確かに、妖怪と神事では仲が悪いのは当然だと思う。だけど初詣に行こうとしたら。 『神に頼るぐらいならわたくしを頼ってください!』  なんて、泣きながら言われるとは思いもしなかった。 「マスター……おみくじ」  そういって、電気石が手渡してきた物。  他の子と初詣に行ったときに取ってきたおみくじかな。その紙は、まだ開かれた形跡がない。 「これは僕の分?」  うなずく電気石。 「そっか、ありがとう」 「いいんだよー」  電気石からおみくじを受け取り、早速中身を開いてみる。  僕じゃなく電気石が引いてきた物なんだから、僕の運勢でもない気が……お、大吉だ。 「小吉?」 「ううん、大吉」 「大吉……すごい?」 「うん」 「マスター、すごい……ばんざい」  まるで背伸びをするように、両腕を頭上に上げる電気石の姿。  それにしても、何年ぶりの大吉だろう。この手の物はあまり信じていないけど、何かいいことがあるかもと期待してしまう。  と、そこに玄関のドアが開く音。そして廊下から迫る足音。 「ご主人様ーっ、ただいま戻りましたー!」  紙袋片手の蛋白石が、勢いよく居間へと入ってくる。 「おかえり。蛋白石、もう少し静かにね」 「えへへ、ごめんなさい。それでご主人様、殺生石はどこですか?」  そんな蛋白石の言葉と同時に、台所からミカンを取ってきた殺生石が姿を現す。  腕に抱えるほどのミカン。ホント好きだなぁ。 「妾が何か?」  蛋白石の方に顔を向ける殺生石。  黄色い耳が、わずかに揺れる。 「あっ、よかったー。あのね、今日ペリドット姉様からいい物もらってきたんだよっ」 「ペリドットから……?」  話は聞いていなかったかのように、殺生石が呟く。  そんな彼女に笑顔を向ける蛋白石。床に紙袋を置き、おもむろにその中へ手を。  一体何が出てくるのか。蛋白石の笑顔と共に、袋の中身がその姿を見せる。 「じゃーんっ」  蛋白石は笑顔を浮かべ、電気石はぼんやりとその光景を眺める。  そして殺生石は……あぁ、やっぱりすごく嫌そうな顔をしてる。抱えていたミカンも、床に落としてしまった。 「おめかしにどうですかって、紅白の着物だよー」  いかにも巫女さんの服を連想させる、二着の着物。着物についてはよく分からないけれど、普段殺生石がしているように、重ねて着る物なのだろう。  だけど、形状を察するに赤い方を上に着るような気がする。何だか金色の刺繍もしてあるし、上に羽織った方が見栄えがいいと思う。 「殺生石は洋服好きじゃないんだよね。でもこれなら、今年のクリスマスは殺生石もサンタになれるよっ」 「いや、妾はそのようなものを……」  殺生石が、巫女さんの服を連想したのは間違いない。本当に嫌そうだ。 「それに日本では紅白はめでたいよー。ねっ、ご主人様?」  蛋白石の笑顔が、今度はこちらに向けられる。 「え、うん。多分」  どうしてなのかとか、理由までは知らないけど。 「ほら、ご主人様もそういってるから。はいっ」  それがどういう理由になっているのか。とにかく、嬉しそうに二着の着物を殺生石に向ける。  当然、殺生石の表情は困り果てている様子だ。蛋白石の厚意を無碍にも出来ないし、生理的嫌悪感も拭えないだろうし。  ……でも、着たら似合いそうだよなぁ。 「わ、妾にそのような煌びやかなのは似合いませんから。気持ちだけで」 「えーっ、絶対似合うよぉー。そうですよねー、ご主人様っ」 「……綺麗なの、似合う。ばんざいー」  蛋白石に続いて、電気石までこちらに顔を向けてくる。  どうしてここで僕に振るかなぁ……しかも、すごく期待に満ちた眼差しまで。 「そ、それは……うん、似合うと思う。うん」  ごめん、殺生石。この二人の眼差しに勝てなかった。  多分、僕の答えが最後の頼りだったのだろう。期待を裏切る答えで、殺生石の顔に焦燥の色が浮かぶ。 「そそ、そんなっ。妾はっ」 「よかったね。きっと着たらご主人様も喜んでくれるよー」 「ばんざーい」 「確かにそれはよい話……じゃなくてっ、何を詰め寄ってきているのですかっ。主様っ!」  着物を手に詰め寄る蛋白石と電気石。  そんな二人から助けてくれと言わんばかりの、殺生石の視線。 「え、えっと、二人とも……」  何とか二人を止めようと、声を掛ける。  だけど……。 「さぁっ、向こうで早速試着だよーっ」 「だよー」 「あっ、こら、離しなさい! あ、主様ってば!」 「殺生石……あの、二人とも話を」 「ご主人様ー、着替えを覗いちゃめーですよー」 「めー」  結局僕の言葉は聞き入れられず、隣の部屋とを仕切るふすまが、電気石の手によって閉められる。 「いやぁーっ!」  ……ごめんね、殺生石。今度実家からミカン届くから、それで許して。 「主様が……あんな事を言うから……」 「ご、ごめんね、本当。でも巫女服じゃないからそんなに嫌がる必要は」 「連想するだけでも嫌です! あんな、あんな……あぁ、思い出したら腹が立ってきました」  ……例の着物を着せられ、涙目の殺生石。  一体、昔神様か何かとどういう因縁があったのか。ちょっと気になってしまった。  でもね、口には出せないけれど……やっぱ殺生石って着物が似合うなぁ。 #ref(news4vip-1199538865-179-1.jpg) 110スレ目「蒼星石とか翠星石とかいるぐらいなら黒曜石が」より ----
 殺生石は巫女が嫌いだという。  確かに、妖怪と神事では仲が悪いのは当然だと思う。だけど初詣に行こうとしたら。 『神に頼るぐらいならわたくしを頼ってください!』  なんて、泣きながら言われるとは思いもしなかった。 「マスター……おみくじ」  そういって、電気石が手渡してきた物。  他の子と初詣に行ったときに取ってきたおみくじかな。その紙は、まだ開かれた形跡がない。 「これは僕の分?」  うなずく電気石。 「そっか、ありがとう」 「いいんだよー」  電気石からおみくじを受け取り、早速中身を開いてみる。  僕じゃなく電気石が引いてきた物なんだから、僕の運勢でもない気が……お、大吉だ。 「小吉?」 「ううん、大吉」 「大吉……すごい?」 「うん」 「マスター、すごい……ばんざい」  まるで背伸びをするように、両腕を頭上に上げる電気石の姿。  それにしても、何年ぶりの大吉だろう。この手の物はあまり信じていないけど、何かいいことがあるかもと期待してしまう。  と、そこに玄関のドアが開く音。そして廊下から迫る足音。 「ご主人様ーっ、ただいま戻りましたー!」  紙袋片手の蛋白石が、勢いよく居間へと入ってくる。 「おかえり。蛋白石、もう少し静かにね」 「えへへ、ごめんなさい。それでご主人様、殺生石はどこですか?」  そんな蛋白石の言葉と同時に、台所からミカンを取ってきた殺生石が姿を現す。  腕に抱えるほどのミカン。ホント好きだなぁ。 「妾が何か?」  蛋白石の方に顔を向ける殺生石。  黄色い耳が、わずかに揺れる。 「あっ、よかったー。あのね、今日ペリドット姉様からいい物もらってきたんだよっ」 「ペリドットから……?」  話は聞いていなかったかのように、殺生石が呟く。  そんな彼女に笑顔を向ける蛋白石。床に紙袋を置き、おもむろにその中へ手を。  一体何が出てくるのか。蛋白石の笑顔と共に、袋の中身がその姿を見せる。 「じゃーんっ」  蛋白石は笑顔を浮かべ、電気石はぼんやりとその光景を眺める。  そして殺生石は……あぁ、やっぱりすごく嫌そうな顔をしてる。抱えていたミカンも、床に落としてしまった。 「おめかしにどうですかって、紅白の着物だよー」  いかにも巫女さんの服を連想させる、二着の着物。着物についてはよく分からないけれど、普段殺生石がしているように、重ねて着る物なのだろう。  だけど、形状を察するに赤い方を上に着るような気がする。何だか金色の刺繍もしてあるし、上に羽織った方が見栄えがいいと思う。 「殺生石は洋服好きじゃないんだよね。でもこれなら、今年のクリスマスは殺生石もサンタになれるよっ」 「いや、妾はそのようなものを……」  殺生石が、巫女さんの服を連想したのは間違いない。本当に嫌そうだ。 「それに日本では紅白はめでたいよー。ねっ、ご主人様?」  蛋白石の笑顔が、今度はこちらに向けられる。 「え、うん。多分」  どうしてなのかとか、理由までは知らないけど。 「ほら、ご主人様もそういってるから。はいっ」  それがどういう理由になっているのか。とにかく、嬉しそうに二着の着物を殺生石に向ける。  当然、殺生石の表情は困り果てている様子だ。蛋白石の厚意を無碍にも出来ないし、生理的嫌悪感も拭えないだろうし。  ……でも、着たら似合いそうだよなぁ。 「わ、妾にそのような煌びやかなのは似合いませんから。気持ちだけで」 「えーっ、絶対似合うよぉー。そうですよねー、ご主人様っ」 「……綺麗なの、似合う。ばんざいー」  蛋白石に続いて、電気石までこちらに顔を向けてくる。  どうしてここで僕に振るかなぁ……しかも、すごく期待に満ちた眼差しまで。 「そ、それは……うん、似合うと思う。うん」  ごめん、殺生石。この二人の眼差しに勝てなかった。  多分、僕の答えが最後の頼りだったのだろう。期待を裏切る答えで、殺生石の顔に焦燥の色が浮かぶ。 「そそ、そんなっ。妾はっ」 「よかったね。きっと着たらご主人様も喜んでくれるよー」 「ばんざーい」 「確かにそれはよい話……じゃなくてっ、何を詰め寄ってきているのですかっ。主様っ!」  着物を手に詰め寄る蛋白石と電気石。  そんな二人から助けてくれと言わんばかりの、殺生石の視線。 「え、えっと、二人とも……」  何とか二人を止めようと、声を掛ける。  だけど……。 「さぁっ、向こうで早速試着だよーっ」 「だよー」 「あっ、こら、離しなさい! あ、主様ってば!」 「殺生石……あの、二人とも話を」 「ご主人様ー、着替えを覗いちゃめーですよー」 「めー」  結局僕の言葉は聞き入れられず、隣の部屋とを仕切るふすまが、電気石の手によって閉められる。 「いやぁーっ!」  ……ごめんね、殺生石。今度実家からミカン届くから、それで許して。 「主様が……あんな事を言うから……」 「ご、ごめんね、本当。でも巫女服じゃないからそんなに嫌がる必要は」 「連想するだけでも嫌です! あんな、あんな……あぁ、思い出したら腹が立ってきました」  ……例の着物を着せられ、涙目の殺生石。  一体、昔神様か何かとどういう因縁があったのか。ちょっと気になってしまった。  でもね、口には出せないけれど……やっぱ殺生石って着物が似合うなぁ。 #ref(news4vip-1199538865-179-1.jpg) ----

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