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「同志、君もシベリアで……」(2007/12/09 (日) 02:02:07) の最新版変更点
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「マスタマスタマスタっ、大変や!!」
いつもより三割増しに騒がしく帰ってきた化石。
このように、慌ててくる化石が持ち込んでくる話は、大抵俺が苦労することになる。
「大変やー!」
「ぐあっ、こ、こら! 手元狂う! 内職がぁぁ!」
「そんなんどーでも……ええ訳ないやん……ちゃう! それより大変や!」
俺の腕をしっかりと掴みながら、そのメガネを鼻先まで近寄らせてくる。
……というか、ヘタすればくっつくぞ。あんなところとこんなところが。
「うちらに重大任務や! ペリ姉からの直々や!」
「分かった分かった。だからこの距離で大声出すな。つばが飛ぶ」
「クリスマスツリーの準備? 俺達が?」
化石が言う重大任務とは、あまりにも庶民的なものだった。
今年の宝石乙女が集まるクリスマスパーティ。その装飾のメインを飾るツリーを、俺達が用意するというものだった。
方法は自由。予算と賃金はペリドットさんが出してくれるという、なかなかの条件。というか、お金をもらってまですることなのかと、恐縮してしまう。
……そんなこと言えるほど、余裕もないけど。
「そやっ、重大や! うちらの働きが、直にパーティの盛り上がるにかかってるんや!」
「そ、そうか? みんなで騒げれば別に」
「マスタは甘い! クリスマスっちゅーたらツリーやって、サンタはんも言っとるで!」
残念ながら、そんなサンタの格言は聞いたことがない。
しかし、化石はずいぶんと熱が入ってるな。まぁごちそうも食べられるし、みんなと楽しく盛り上がれるし。気持ちは分かる気がするが。
「だけどな、別に去年と同じツリーでも……いや、どうしても新しいのが欲しいなら、去年と同じように」
「ダメや! うちらは虎置ツリーを越える物を作らなっ!」
「……何故そこで張り合うんだ」
そもそも、ツリー一つで盛り上がれる化石が、なんだか心配になってきた。
「ええかっ、うちらはいっつもいっつも裏方や。目立つ事なんてこれっぽっちもなかったんや」
「そ、そうだけど……でも化石は結構目立つと思うんだが」
その言葉に、化石が眉をつり上げる。おでこの輝きもわずかに増した。
「ダメやっ。うちとマスタはコンビなんやで! ちゃんとマスタも目立たなあかんっ」
そういってくれるのは嬉しいのだが、どうしてか素直に喜べない。
「……と、とりあえず話を本題に戻そう。化石、お前はどんなツリーを作る気なんだ?」
「へ? そやなぁ……」
どうやら、ノープランでここまで盛り上がっていたらしい。
化石らしいといえば、それでいいのだが……時々突拍子もないこと言うからなぁ。
「虎置ツリーは確かぁ……裏山の木を倒してきたっちゅーてたやん」
「そうなのか」
「二人の家、山ん中やから。それでや……うちらはもっと、すごーいとこから木を調達してみるのはどやろ?」
「……すごい所って?」
その言葉に、化石は手をあごに当ててシンキングタイム。
そして、頭に電球でも浮かんだような顔を見せて一言。
「シベリア」
『か、化石……俺はもう、ダメかも知れん』
『ダメやマスタっ、弱音吐いちゃあかん! みんなとクリスマスパーティするんやろっ!?』
『だってよぉ……きょ、共産党員でも……ない、のに……ス○ーリンの姿、が……』
『ま、マスタ? マスタっ! だめや! ヒゲのおじさんのとこ行ったらあかんっ! マスタあぁぁぁー!!』
「まぁ、それは冗談やけど……マスタ? なんで目だけどこか遠いとこ行っとるん?」
「……え? あぁすまん。先人達がくぐり抜けたシベリアの大地が見えてた」
「? なんかよぉ分からんけど」
俺も一体何を考えているんだ。
大体、ツリーを探しにシベリアまで行く姿を、何故俺は本気で想像した?
行く訳無いだろう。大体旅費だってバカにならないだろうし、そんなのペリドットさんだって許さないはず。というかまず課題が多すぎて実現なんて夢のまた夢だろ。それなのに俺は……。
「マスタ……んー、何かマスタ、疲れてるみたいやな。ツリーの話はまた後でや」
こちらに苦笑を向けながら、俺の隣へと席を移す化石。
「うちもお仕事手伝うよ。そしてこんなのぱぱっと終わらせて、二人ですっごいツリー作ろうな?」
「あ、ああ。そうだな」
何が楽しいのかは分からない。
ただ、ツリーの話をする化石の顔は、いつもにも増して明るい笑顔。
どんな目に遭うかは分からない……ただ、こんな笑顔を浮かべる化石との共同作業なら、まぁやってもいいかと思えるのが、自分自身のことだというのに、とても不思議に思えた。
「……そか、シベリアは無し、やな。じゃあ……」
何か小声で呟いた気もするが、そこは聞いていないことにする。
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