「落雪注意」(2007/12/03 (月) 23:46:23) の最新版変更点
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昨晩から続いた雪も止み、青空を見せた早朝の事。
雪の様子を見ようと、外に出た私を出迎えてくれたのは、先客が踏み入れたであろう、松の木の下へと続く足跡と、水色の髪をした雪だるまだった。
膝まで埋もれるほど積もった雪。森の中でも一際開けた場所にある、屋敷の前庭に、だ。
……何がどうなったのか、何となく察しは付く。
足跡を辿りながら、その雪だるまの元へ近づいてみるが、その前に雪だるまの方がこちらを振り返る。
「あうぅ……」
今にも泣き出しそうな顔をした、ホープによく似た雪だるま。
いや、もちろん本人だが。
「一体何をやっているんだ。まったく」
屋敷に連れ戻し、暖炉の前にホープを座らせる。
濡れた髪を、洗い立ての白いバスタオルで拭く。暖炉の前に座っているはずなのに、彼女に触れた手には、わずかな冷気が伝わってくる。
「雪が、とても綺麗だったから……くしゅんっ」
「宝石乙女なのに、くしゃみとはどういう事だ?」
「わ、分からないけど……くしゅんっ……止まらなくて……くしゅんっ」
私の顔色をうかがいながら、何度も可愛いくしゃみをこちらに披露してくれる。
「でも、足跡のない場所は……歩くの、楽しいから」
そんな子供の発想に、ため息が漏れてしまう。
「相変わらずだな、君は」
「そんなに呆れた顔をしなくても。アメジストも、そういう時期はあったと思うけど」
「……ない」
彼女の頭にバスタオルをかけ、ソファへと戻る。
窓から見る前庭は、松の木の付近を除けば真っ新な雪原だ。
さすがに歩くのが楽しいとは思わないし、正直長く生きていれば見慣れてしまう風景。
だが、不思議と嫌な気分はしなかった。何よりこの季節は、夜が静かで心地よい。
「アメジスト。朝食を食べ終わったら、雪だるまでも」
「遠慮しておく」
早速、窓際に置かれたソファに、バスタオルを被りながら腰を下ろすホープ。くしゃみはどうやら止まったようだ。
そんな彼女に即答。予想通り、不平を漏らす子供のような顔が浮かぶ。
「ダメ?」
「だから遠慮しておくと」
「あまり座っているとお尻から根っこが……うぅ」
こちらが聞く耳持たないと気付くや、今度は立ち上がって窓から外を眺め始める。
この落ち着きのなさ、相変わらずどこか子供っぽいというか。
大体、どうして雪に対してそこまで興味を示すことが出来るのか、どうも理解しがたい。
「もしかして、雪は初めてなのか?」
ふと、頭を過ぎった疑問。
だが、そんなことあり得るのだろうか。彼女だって宝石乙女、これまでの長い間に、雪原の一つや二つは。
「初めてじゃ、ない……けど、誰かと一緒に見るのは、初めてで」
唐突に浮かぶ、彼女のわずかに影のかかった顔。
相変わらず、この顔は苦手だ。見ていると苛立ちが湧いて来るような……。
「一人で、見ていることは多かったけれど……その」
……苛立ちが、収まらない。
これ以上彼女の顔を見ているのが、いい加減つらい。
そして、この顔に弱い自分が、何よりも腹立たしい。
「そんな顔をするな」
早くこの顔を見ないようにするために、結局折れるのは私。
「1時間、1時間だけだ」
窓際で、バスタオルを被るホープの頭に手をやる。
湿ったタオルの感触と、人形なのに伝わる、彼女のぬくもり。
長く宝石乙女をやっていても、この感触にはいつも違和感を感じる。
「……じゃあ、早く行きましょう。自分と同じ大きさの雪だるま、作ってみたかったの」
こちらに向けられる、ホープの笑顔。
この笑顔を見たいと思う自分もまた、自分自身に違和感を感じてしまう。
――また、いつものパターンだ。
そのことに対する呆れと苛立ち、そしてホープの笑顔を見て感じる、わずかな違和感。
自分のことを理解出来ないのは、本当に腹立たしい。
「じゃあ、早く朝食を食べましょう。あっ、今日は私が朝食を」
「断る」
雪まみれとなった、屋敷の前庭。
そこの中央に鎮座する、雪だるまが二つ。
辺りは足跡が浮かび、所々に大きなくぼみも出来ている。
それは、雪原とはほど遠い。
本当に、遠く、賑やかな風景だ。
昨晩から続いた雪も止み、青空を見せた早朝の事。
雪の様子を見ようと、外に出た私を出迎えてくれたのは、先客が踏み入れたであろう、松の木の下へと続く足跡と、水色の髪をした雪だるまだった。
膝まで埋もれるほど積もった雪。森の中でも一際開けた場所にある、屋敷の前庭に、だ。
……何がどうなったのか、何となく察しは付く。
足跡を辿りながら、その雪だるまの元へ近づいてみるが、その前に雪だるまの方がこちらを振り返る。
「あうぅ……」
今にも泣き出しそうな顔をした、ホープによく似た雪だるま。
いや、もちろん本人だが。
「一体何をやっているんだ。まったく」
屋敷に連れ戻し、暖炉の前にホープを座らせる。
濡れた髪を、洗い立ての白いバスタオルで拭く。暖炉の前に座っているはずなのに、彼女に触れた手には、わずかな冷気が伝わってくる。
「雪が、とても綺麗だったから……くしゅんっ」
「宝石乙女なのに、くしゃみとはどういう事だ?」
「わ、分からないけど……くしゅんっ……止まらなくて……くしゅんっ」
私の顔色をうかがいながら、何度も可愛いくしゃみをこちらに披露してくれる。
「でも、足跡のない場所は……歩くの、楽しいから」
そんな子供の発想に、ため息が漏れてしまう。
「相変わらずだな、君は」
「そんなに呆れた顔をしなくても。アメジストも、そういう時期はあったと思うけど」
「……ない」
彼女の頭にバスタオルをかけ、ソファへと戻る。
窓から見る前庭は、松の木の付近を除けば真っ新な雪原だ。
さすがに歩くのが楽しいとは思わないし、正直長く生きていれば見慣れてしまう風景。
だが、不思議と嫌な気分はしなかった。何よりこの季節は、夜が静かで心地よい。
「アメジスト。朝食を食べ終わったら、雪だるまでも」
「遠慮しておく」
早速、窓際に置かれたソファに、バスタオルを被りながら腰を下ろすホープ。くしゃみはどうやら止まったようだ。
そんな彼女に即答。予想通り、不平を漏らす子供のような顔が浮かぶ。
「ダメ?」
「だから遠慮しておくと」
「あまり座っているとお尻から根っこが……うぅ」
こちらが聞く耳持たないと気付くや、今度は立ち上がって窓から外を眺め始める。
この落ち着きのなさ、相変わらずどこか子供っぽいというか。
大体、どうして雪に対してそこまで興味を示すことが出来るのか、どうも理解しがたい。
「もしかして、雪は初めてなのか?」
ふと、頭を過ぎった疑問。
だが、そんなことあり得るのだろうか。彼女だって宝石乙女、これまでの長い間に、雪原の一つや二つは。
「初めてじゃ、ない……けど、誰かと一緒に見るのは、初めてで」
唐突に浮かぶ、彼女のわずかに影のかかった顔。
相変わらず、この顔は苦手だ。見ていると苛立ちが湧いて来るような……。
「一人で、見ていることは多かったけれど……その」
……苛立ちが、収まらない。
これ以上彼女の顔を見ているのが、いい加減つらい。
そして、この顔に弱い自分が、何よりも腹立たしい。
「そんな顔をするな」
早くこの顔を見ないようにするために、結局折れるのは私。
「1時間、1時間だけだ」
窓際で、バスタオルを被るホープの頭に手をやる。
湿ったタオルの感触と、人形なのに伝わる、彼女のぬくもり。
長く宝石乙女をやっていても、この感触にはいつも違和感を感じる。
#ref(jm1_1900.jpg)
「……じゃあ、早く行きましょう。自分と同じ大きさの雪だるま、作ってみたかったの」
こちらに向けられる、ホープの笑顔。
この笑顔を見たいと思う自分もまた、自分自身に違和感を感じてしまう。
――また、いつものパターンだ。
そのことに対する呆れと苛立ち、そしてホープの笑顔を見て感じる、わずかな違和感。
自分のことを理解出来ないのは、本当に腹立たしい。
「じゃあ、早く朝食を食べましょう。あっ、今日は私が朝食を」
「断る」
雪まみれとなった、屋敷の前庭。
そこの中央に鎮座する、雪だるまが二つ。
辺りは足跡が浮かび、所々に大きなくぼみも出来ている。
それは、雪原とはほど遠い。
本当に、遠く、賑やかな風景だ。
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