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「ねえ、ケイタ」
「!」
 ようこの突然の呼びかけに、隣で小説を読んでいた啓太はびくっと肩を震わせた。
いつものように、駅や公園のくずかごからしゅくちで失敬してきた、雑誌の類を読みふけっていた彼女である。
その後の言葉は決まっている。
「ね、これ」
「駄目! 今金欠なんだよ!」
 ようこが続きを言うか言わないかの間に、啓太は掘っ立て小屋が軽く揺れるくらいの声で否定をした。
今度はようこの方が肩を震わせる。
「なによ~、まだ何もいったないじゃないの」
「お前が雑誌を読んで発する言葉はいつも決まってるだろ? これ食べたいとか、ここ連れてってとか、
 日々金欠に悩んでるうちには縁の無い事なの!」

 啓太が一通り主張を発すると、ようこがぷくっと頬を膨らませた。
図星だった。今、思わず伏せた雑誌のページは、新しく出来たお洒落な喫茶店のページを開いている。
しかし、一度発した以上は引き下がれない。ここで納得するような性格では無いのである。
 違うもん、と言って適当にページをめくり、そのページを啓太の目の前に突き出した。
「わ、わたしが見せたかったのは、これ!」

「…は?」
 啓太が見たページは、いわゆる「女の子が一人寂しい夜を過ごす時のHowto」のページであった。思考がかたまり、頭の中が白くなる。
「…これを、どうしろと?」
「あ、え? えーと…っ!」
 普段彼女は情報量の多い、読み物系のページは読まない。当然、こんなページを開いた事すら無かった。
当然、自分が開いたページの意味する事は分からず、一瞬あたふたした後、
それが何やら身体を使ってやる体操みたいなものだと解釈した。
「これ、やるから見てて!」
「ブーッ!」
 思わず啓太が噴出した。更に頭の中が混乱する。
何故? いきなり? そう思ったが、ようこの勢いは止まらない。
「え、えーと、まずこう、足を開いて」
「ちょ、ちょっと…」
「想い人を頭に描きつつ…って、必要ないかこれは」
 ようこは後先考えず、書いてある情報をそのまま実行していく。
本当に特に何も考えていないので、その作業はどこか機械的だった。

「らくなたいせいをとって、大きく深呼吸して、指を」
 ようこが次のページをめくろうとした時、啓太の手が反射的に動いた。
このままではやばい! とてつもなくやばい! 動物的勘がそう言っている。
見てみたい。でも、最後まで見てしまったら、自分はきっと…。
「よ、ようこ!」
「?」
「分かった! お前の好きな所に一つ連れてってやる。だからその先は今ここで実行するな。
 俺が居ない時に、ドクトルも居ないのを見計らってやるなら良いが、それだけはやめてくれ!」

 ようこは、ん~と首をかしげた。一瞬『好きな所』という言葉に反応したが、
啓太がここまで言うには何か裏があるに違いない。そっちの方が彼女にとってみれば気がかりだ。
そう思っている間に、啓太は焚き火の中にその先数ページをビリビリっと破って捨ててしまった。
 ようこがあーっと声を発し、啓太は必死に別のページを差し出す。
文句を言おうとしたが、そのページのチョコレートケーキが美味しそうだったので、
思わずその場は受け入れてしまった。


 その夜…。
「やっぱ、きになる…」
 寝付けない。昼間見たそのページの続きが余りに気になって。
マネキンが自分の胸とか、お腹とかを触っていた絵の意味も気がかりだ。
じぃっと横で寝息を立てている啓太を見つめていたようこが、ぱちんと指を鳴らした。
「ケイタでじっけんしてみよう」
 ようこはいそいそと啓太のとなりに座り、そっと上体を起こさせた。
まだ彼はすやすやと寝息を立てている。適当な毛布でその体勢をキープさせ、
手をとり、うろ覚えの記憶の通りに、啓太の腕をそわそわと動かす。
何だかめんどくさいし、この体操に何の意味があるんだろう。

 しかし、その腕の動きを見ていたようこに、あるイメージが思い浮かんだ。

…これは『くすぐりっこ』だ!

 その昔、幼き日の啓太が自分と遊んでくれた時に、一度だけしてくれた事があった。
それはすごくくすぐったくて気持ち良くて、犬神として啓太に仕えてからも要求した事があったのだが、
残念ながら未だ実現したことのないスキンシップであった。
 今なら、行ける!
そう確信した彼女の行動は早かった。
ようこは目をギラッと輝かせると、両指を啓太の至るところに忍び込ませた。

「ぅぶひゃぁっ!?」
 彼女の指が活動を始めると、啓太は目を覚ました。
その瞬間、全身を這い回る世にもくすぐったい感触。こんな悪戯をするのは…
「ふ、ひょうこ! ひゃ、へ、やめ、」
「わ、これおもしろ~い♪ 何で今まで気付かなかったんだろ」
 抵抗しようとしても、ふわふわと上に覆いかぶさってくる彼女には、暖簾に腕押し、
何の効果も為さない。こうなったら、こうなったら…
 くすぐり返すしかない。どういう訳か、そこに思考が辿りついた。
がばっと力を振り絞って、ニヤニヤしている彼女に手を伸ばすと、同様に、思いっきり指を使い始めた。
「きゃっ♪ ケイタぁっははははは」
 嬉しそうに、ようこはくすぐり返すスピードを増す。啓太も負けじと、くすぐり返す。
何時の間にか、二人の身体はくんずほぐれつ、上になったり下になったり。
 お互い負けず嫌いの二人は、こうなると片方がギブするまで、夢中になった。
ついでに、啓太は何時の間にか全裸になった。
ついでに、彼の大事な部分が、反射的に増長した。
最後に、啓太がようこの上で馬乗りの形になった。ようこの方も、既に下着は取れかけ、
非常に際どい状態になっている。
「へへ、負けちゃったぁ…」
 ようこは、気恥ずかしそうに露出しかけた胸を手で覆うと、月明かりのなかでにこりと微笑む。
既に頬は蒸気し、瞳には涙を溜め、満足そうに笑い、こてっと急に眠りに落ちた。
まだ半分夢心地で、訳も分からぬまま勝利してしまった啓太は、訳も分からずそのままようこの上に倒れ込んだ。
気持ち良い…。
思わず、再び眠りに入りながら、啓太の腰はそのままようこのお腹の上を…。

 翌朝。
「な、な、な…」
 啓太が起きると、そこには信じられない光景があった。
ようこが、ぽーっとしてこちらを見て座っている。
彼女のお腹の上に、なめくじが這った様な後が残っていて、そこからは特有の薫りがする。
そして、自分は全裸、彼女は半裸。
 髪の毛はどう考えても冒されたとしか見えないくらい乱れており、
小屋の中もすっかりぐちゃぐちゃだ。
そしてようこが、とどめとばかりに、一言発した。

「せきにんとって、ね?」
「どしぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!」
 啓太は、再び眠りについた。
昨日の週刊誌の燃えカスが、静かに舞っていた。

                        終

[ ◆iEaEevCZCY |06/11/15](2/749-752