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最後の一線

川平啓太はこの日、ひどく苦悩していた。
「う~む」
額には一筋の汗。
彼にしては珍しいシリアス顔だった。ベッドの上であぐらを掻き、ただ壊れたラジオのように唸りを漏らす。
そして、合間合間に聞こえる、風呂場での途切れの無いざーっという水音。
それは先ほど、意味ありげな言葉と共に消えたようこのものだった。
「ホント、どうしよう……」
彼は今、人生の瀬戸際に居た。
本能的には、というか願望的には、ひどく嬉しいはずなのに。
理性が、夢が、そしてプライドが、彼をかんじがらめに捕らえていた。
――逃げてしまおうか。
そんな最中、甘美な悪魔の解答が、ふっと脳裏に浮かんだ。
どこでもいい。この際男だ女だはいい。誰かの家に逃げ込めさえすれば!
だが、彼は自虐的な笑みをふっと浮かべると、その考えをかぶりを振って吹き飛ばした。
「後が怖い」
間違いなくぼこぼこにされる。
たとえ見つからなかったとしても、最近とみに仲良くなったともはねに頼んで探知されるかもしれない。
それくらいは間違いなく、やる。地の果てまで追いかけてくる。
逃げられない。
恐怖の感情が徐々に彼を蝕んでいった。奥歯がかち合い、かたかたと鳴り始めた。
彼は半ば諦めたような顔でそのままベッドに横倒しになると、再び苦悩の海に沈み始めた。
どうすればいいのか。というか、そもそもなぜこうなったのかを……
今日は何かがおかしかった。
とは言え、ほんの少しの差異だった。用心が無ければ見逃していただろう程の。
学校から帰り、首を鳴らしながら玄関に上がると、ばたばたと笑顔で迎えてくれた。
「おかえりなさい。ケイタ、疲れたでしょう?」
そういうと有無を言わさず鞄を奪い、「お茶入れるねー」との声と共に奥へ消えた。
きょとんと彼はそんな後姿を見つめていたが、やがて微笑ましげに目を細めた。
最近はいつも、驚くほど彼女は甲斐甲斐しかった。
なでしこも最早、彼女の熱意と飲み込みの早さには目を丸くするほどだった。
「本当に、愛されてるんですね、啓太様」
なでしこがそう微笑むと、えへへ~とようこは顔を綻ばせた。
啓太はその光景を思い出しながら、そのままの顔で靴を脱ぎ、部屋に上がる。
ようこは台所でまだお茶の準備中なようだ。
彼は畳んで置いてある着替えを手に取ると、ちゃっちゃと着替えを始めた。
やがて、ちょうど着替えを終えた頃に、お盆を持ったようこが台所からやってくる。
お盆の上にはよく冷えた麦茶と、皿に盛られた少々いびつだが香ばしい匂いのするクッキー。
「お、うまそうじゃん」
「そお?」
彼は皿に手を伸ばし、一枚を口に入れ咀嚼する。
しばらくの沈黙の後、
「う、うまい」
「ホント?」
ようこは眩しそうな顔で笑った。
ん、と口に含んだまま彼は小首を傾げる。
「それね、私が焼いたんだよ」
「え、マジか?」
「うんうん」
彼女はお盆を卓袱台に置くと、啓太にすいっと身を寄せた。
彼は上機嫌になって、差し出された頭をぐりぐりと撫でてやる。
「えへへ~」
彼女は甘えたように、顔を彼の胸元に擦り付けた。
そんなしおらしい態度に、少しどきっとしてしまう。
「……どうしたの、ケイタ?」
「あ、いや、なにも」
胸に去来した気持ちをごまかす様に、彼はにっと笑った。
「あ、そうそう! とりあえず二枚目が欲しいな!」
「そお? 嬉しいな」
彼女は深くは追求せず身を離し、舞うように台所口へ跳ねる。
側に掛けてあったエプロンを付けると、それを翻すようにこちらを振り返った。
「ね、ケイタ。今日は何食べたい?」
彼は幸せの絶頂だった。

いつかの賭けとは違う、本当に自然な動作一つ一つにどきどきする自分が居た。
一定の距離を保ちながら、さりげない媚が彼の本能を少しずつくすぐっていた。
「お~」
夕食は、リクエスト通り和風一色に染まった。
豆腐の浮かんだ味噌汁。香ばしい焼き魚。大根の煮物。ナスの漬物。
彼は卓袱台の前にあぐらを掻くと、いただきますと呟きかっ込み始めた。
ようこはそんな彼をにこにこと見つめながら、茶碗にご飯をよそっていた。
彼女もやがて食事を始めたが、こまめにお茶を注ぎ、告げると嫌な顔一つせず醤油を取りにいった。
やがて食べ終わり。二人でご馳走様と言い合うと、お盆に食器を積んで危なっかしくようこが台所に消えた。
「ふー、満足満足」
今や自分よりもうまくなった彼女の料理に、彼は心底満足していた。
ふっと、遠い昔のように彼女との馴れ初めを思い出す。
あの頃は、まさか彼女と共に居て安息が得られるとは微塵も思っていなかった。
ふー、ともう一息大きく吐き出したとき、にゅっと彼女が台所口から顔を出した。
「ん、どした?」
「あのね、ケイタ」
彼女の顔は何故か赤かった。もじもじとしながら、搾り出すように告げる。
「お風呂入ってくるから、ベッドで待っててね」
「おうおう、りょーかい」
返答を聞いて彼女はきゃーと叫びながら消えた。
彼はやれやれと苦笑し、立ち上がり、ベッドに腰掛けたところで。
「えっ!?」
と気づいた。
少しは冷静さを取り戻していた。
というか、
「どこがほんの少しの差異だよ、俺!」
が本音だった。
流れとは言え、一度受諾した以上、真っ向から向かい合ってやるべきではないのか?
んー、と彼は眉を寄せる。
しばらく考えた後、おし、と彼は両膝を叩いた。
「とりあえず」
なんとかなだめすかして、回避しよう。
身と夢を同時に守るためには、どうもこれしかないようだ。
一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ、ケモノのように。
『全てを忘れて……』
と思ったけれども、所帯を持ちたくない彼の決意は鉄の如く硬く、血を吐く勢いでそれを一蹴にした。
「うがああああああああうっ!」
「ど、どうしたの、ケイタ」
「うおっ!?」
いつの間にか、タンクトップにショーツといつもの姿になったようこが立っていた。
仄かに香るシャンプーの匂いにくらっとしたが、
「や、いや、なんでもないぞっ! うん!」
いたずらの見つかった子供のように、彼はあたふたと苦しい言い訳をする。
ようこはそんな彼を、くすっと艶っぽい笑いと共に見つめた。
ゆっくりと膝を折り、ベッドに寄りかかり、ゆっくりと体重を掛けていく。
軋むベッド。迫る距離。
ぼーっと彼女の瞳を見つめたまま呆けていた啓太だったが、ふと現世に返りかぶりを大きく振った。
そして、彼女の両肩を突っ張るように押さえた。
「ケイタ?」
ようこの顔が、わずかに曇る。
罪悪感に苛まれながら、ケイタは用意していた言葉を一息に吐き出した。
「や、ようこ! そういうのは一時の気の迷いであってな! その場の空気でやっちゃあ、うん、まずいと思うんだ俺は! ほら、まだ俺って学生だし!
な! いや、別にお前に魅力がないとか、お前を悪く言ってるわけじゃないぞっ! ただ俺はっ! お前と俺との将来のためにだなっ! なっ!
とりあえず、ちょーっと俺と冷静になろう! なっ! お願いしますどうにかしてください」
最後らへん本音が僅かに出た気がするが、言いたいことは全て吐き出した。
運動したわけでもないのに緊張でぜはぜはと荒い息をする啓太を、きょとんとした顔でようこは見つめていた。
しばしの沈黙。
まさか、まずったか? と啓太が冷や汗を垂らすほどの沈黙の後。
ようこは再び頬を赤らめた。
「ケイタ。ケイタってばほんと優しいねっ」
「お、おう! 俺は優しい男だぞっ!」
「でもね」
くすりと笑って、彼女は肩に掛かった彼の腕を外した。
重力に引かれ、胸をつぶすような形で彼に寄りかかる。
火照った肌の熱さと、柔らかい胸の感触と、痛いくらい響く鼓動と、彼女の吐息が入り混じり、彼は意味も無く泣きそうになった。
全てを預けきった体勢で、夢見るようにようこは囁く。
「私なら、別に、いいんだよ?」
ダメだこいつ、まったく聞いてねぇ……
今度こそ涙が出てきた。
「ね、ケイタぁ」
甘えるような声。
彼はただ、神に、いや、祈れるもの全てにすがった。
――どうか、タイミングよく邪魔が入りますように!
彼は意を決し、ようこの背に腕を回した。
彼女はんっと唇を突き出し、目をつむった。
できるだけ、できるだけゆっくりと、彼は顔を近づけていく。
10センチが5センチに。5センチが3センチに。鼻同士がかすめた。
彼はお約束を信じていた。絶対に、自分は、間違いを犯さないと信じていた。
だが、彼の願いは、無残にも。
ちゅ、と唇が合わさった瞬間、崩れ落ちた……
「ね、ケイタ」
くぐもった声で、ようこは笑った。
「いちじのきのまよい、ってのも、悪くないよ?」
啓太は笑った。涙を浮かべたまま。
吹っ切ったように、彼は乱暴にようこを抱き寄せた。
今度は深く。唇が合わさった瞬間舌を伸ばし、彼女の口内へ侵入を試みる。
ようこは満足げな、うっとりしたような顔で抵抗をやめ、少し口を緩めた。
舌は歯を割り、ようこの舌を探り当て、ゆっくりと絡もうとする。それに答えるようこ。
しばらく部屋を、唾液が舌で跳ねるぴちゃぴちゃという音が支配した。
たっぷり数十秒、息継ぎと共に二人は離れた。
ようこは先ほどの感触を思い出すかのように、妖艶な笑みでぺろりと唇を舐める。
彼は身を起こすと流れる動きで体を入れ替え、彼女を下に組み押さえた。
彼女は顔を赤く染め、つつ、と視線を外す。
「可愛いぞ、ようこ」
「やだ……」
少々加虐的な興奮を覚え、待ちきれないとばかりに彼は豊満な胸に顔を落とす。
「きゃっ」
ノーブラゆえの弾力のある柔らかみに包まれ、ふごふごと熱い息が布を透過する。
そのまま、顔をはさむ様に両腕で胸を寄せた。
「あ、やぁ」
ふにふに、と粘土のように胸をこねる。
まったく抵抗せず、だが確かな弾力と共に変形する胸。
ふと目線を上げると、口を真一文字に結んで必死にこらえる彼女の顔が見えた。
「声、出していいぞ」
イヤイヤと首を振るようこ。彼はにやりと笑うと、
「これでもか?」
胸の頂上へ一気に手を滑らせた。
とたん、電撃が走ったように彼女の体が跳ねた。
「あっ!」
啓太はにまにまと意地の悪い笑みを浮かべたまま、僅かに硬くなった乳首を布越しに擦る。
それも執拗に、強さをわざと手加減した上で。
「あ、う、いやっ、やっ、あ」
ようこの声がだんだん艶味を帯び始めた。
そんな彼女の新鮮な反応が楽しく、もはや押し付けるように布地で擦っていた。
ワンアクションに彼女の嬌声が呼応する。
「……そろそろ」
「え?」
「そろそろ生がいい」
こうなると彼女は、そりゃめちゃくちゃ可愛かった。
今や彼の脳裏には「生きててよかった!」とだけが地震速報のよう過ぎっている。
彼はタンクトップの裾に指をかけると、一気に捲り上げた。
「きゃっ!」
弾けるように胸がこぼれ出た。乳首はすっかり尖り、皮膚は興奮からか仄かに赤い。
彼は片房に顔を寄せると、ぺろ、と先を舐めた。
「ひぐぅっ」
びくりびくりと跳ねる彼女の体。右手は空いたほうの胸の先をまさぐる。
ちろちろと先端を舐めながら、彼はプルトップを開けるかの如く先を引っ掻き始めた。
「んっ、あ、いやっ! やっ!」
もう目の焦点が合ってなかった。
啓太ももう盛ったケモノのように荒い息を吐き出すのみだった。
熱気は熱気を誘い、次第にテンションが上がっていく。
ひとしきり甘美な果実を堪能した後、彼はふと乳首をいじっていた右腕を離した。
「あ……」
名残惜しそうな声。
だが彼は我関せずとばかりに、今度は下方へ腕を這わせる。
ようこが意図に気づき、小さくあっと叫んだが後の祭り。
くちゅ、と布地を指が触れた。
確かな変化を感じ取り、にまにまと啓太は笑う。
「……濡れてるぞ」
「や、やだっ」
「何がやなんだ?」
彼は笑顔のまま、指を上下に這わせ始めた。
亀裂に僅かに指がめり込んだ状態で、それに沿ってくちくちと淫猥な音が答える。
「や、やあ……んっ、あぁっ」
「ここがいいのか? ん?」
「うん、あっ……もっとぉ」
「うひゃひゃひゃ、正直になれ正直になれ」
オヤジくさく囁きながら、もう少し指を深く差し入れた。布がこれ以上入れまいと抵抗する。
だがショーツを引き伸ばす形のまま、彼は縦横に中をかき回した。
「はぁ……んっ……んぁ……」
すっかり彼女の顔はとろんとしている。
もはや抗議の声を上げる気配もなく、ただ与えられる快楽に身を任すのみだった。
そして彼は最後の砦、薄い白布の縁に指をかけた。
彼女は啓太を一度見つめると、こくんとうなずく。
そして腰を少し浮かせた隙に、ずるっと一気に引きおろした。
透明な糸が一本、とろっと引き伸びて切れた。彼女は恥ずかしさのあまり顔を両手で押さえた。
啓太はショーツを足から引き抜くと、ひくひくと呼吸するその部位を見つめた。
毛に包まれ、とろとろとした蜜のあふれるそこはひどく扇情的で、ついついごくりと生唾を飲む。
それは、彼が今までに見たどんなビデオや本のそれよりも美しく、そして淫猥だった。
彼はそうするのが当然のように、自然に顔をそこに近づけていた。
「あっ、ダメっ!」
ようこの制止も届かない。
彼はそっとそこにキスをすると、ちろりと蜜を舐め上げた。
「ようこの匂いがする」
「あ……ケイタのばかぁ……」
羞恥に苛まれ、目を潤ませるようこ。
だが、何度も舌で触れているうちに、次第に艶のある声に戻り始めた。
「んっ……いや、ダメ……んっ、汚いから、んっ……」
「まあ気にするな」
「気にする……あ、よ……」
しばらく夢中で舌で嬲っていた彼だったが、ふとすぐ目の前に充血したモノが見えた。
つつ、と舐め上げながら、口元をそちらへゆっくりと近づけてゆく。
「え……あ」
ようこの力の無い抵抗。
啓太はかまわずそこを勢いのまま口先で擦った。
「ぅあっ!」
いきなり比べ物にならない刺激が襲い掛かり、耐え切れず大きな声が漏れた。
彼はその反応に満足すると、今度は優しく唇でしごき始めた。
「ぁ……んん、ひゃっ」
どんどんと蜜が奥から溢れてくる。
顎の下が濡れるのも構わず、啓太は一心不乱にそこをついばむ。
そして、いきなり歯を立てた。
「あ、ぁ、あぁああっ!」
耐え切れず、彼女は身を震わせた。
がくがくとひとしきり跳ねた後、ぴしゃっと蜜が飛び啓太の顔を濡らす。
彼はそれを酔ったような顔でぺろりと舐めた。
「イったか」
「……はあ、はぁ」
荒い息を吐き出しながらも、イヤイヤをするようこがとてもいじらしい。
彼は上体を起こすと、我慢できない形相で自らのズボンとトランクスをずりおろす。
すっかり硬くなり、反りかえった男根が、蛍光灯でてらてらと光っていた。
「ようこ、いいか?」
「ケイタ……きて」
頷きあう。
股の間に身を割って入れると、ゆっくりと秘裂にあてがった。
少しだけ先を沈め、一息ついた。
そして、
「うりゃっ!」
「ぁああっ!」
ぞぶりと肉を掻き分け、一気に奥へ突き刺さった。
イったばかりのようこは快楽に震え、もはやただベッドを固く握り締めるのみである。
そんな彼女を啓太は容赦せず突き立てる。
「はっ、はっ、はっ、はっ!」
「あ、んぁっ! はぁっ! んん!」
彼女の膣は温かく、そして搾り取ろうと彼の肉棒を締め付ける。
今まで感じたことのない快楽に、啓太もまた、ぶるぶると震えていた。
打ち付ける。声が上がる。
「ふんっ!」
「んぁあっ!」
一際奥へ差し込むと、それに応じて声も高く大きくなった。
「うりゃ! うりゃうりゃ!」
「あぁっ! んぁ! ぁっ!」
まるでおもちゃで遊ぶ幼児のように。何も考えず、ただピストンを繰り返す。
何度そうしただろうか。
啓太は己の限界が来たことを悟った。
「ようこ、いくぞ、いくぞ!」
「うん、ぁっ! いいよ! きて! ケイタきてっ!」
「はぁ、はぁ! はぁ! はぁっ!」
「くる、きちゃう! なんかきちゃう!」
そして腰が浮くほど引き抜き、止めとばかりに奥に打ち付けた。
「うっ!」
「あ……ぁあああああぁあああぁ!」
嬌声を上げ、ようこは仰け反った。
啓太は全てを一気に解き放ち、彼女の膣中にどくんどくんと脈打ちながら注ぎ込む。
たっぷり数秒、溜まっていた分を出してから、彼はすっかり緩くなったそこから肉棒を引き抜いた。
とろりとベッドに精液と愛液の混じった白い液体がこぼれた。
「ふ」
啓太はそれを見て、ようやく我に返った。
やっちまった。とうとうやっちまった。
川平家でおそらく初めての獣姦。モノノケのパパ。
どこか達観した顔で、すっかり乱れたようこの顔を見つめていた。
だが、同時に、どこかすっきりした気持ちが心の奥底にあるのも事実だった。
こうなるのが当然だったかのように。初めからこうしたかったかのように。
「……とりあえず、もしもの場合はばっちゃんに相談だな」
こういう場合でもかなり能天気な彼だった。
ようこに寄り添うようにベッドに崩れ、気絶したらしい彼女の髪を撫でる。
やがて、疲れが出たのか、啓太もまた意識を失い……
はっ、と目を覚ました。
起きてすぐ地面を確かめる。ベッドだ。
だが、シーツはまったく乱れた様子も無く、恥ずかしいシミも残っていない。
まさか。まさかだが。
「……夢オチ?」
それは未だに聞こえるシャワーの音や、固く閉ざされたズボンのジッパーからも明らかだった。
啓太はいろいろな感情が混ざり合った顔でふと思慮する。
夢とは言え、俺はなんてことを。
夢でよかったー! モノノケのパパじゃなくてよかったー!
なに、要求不満なのか、俺?
夢オチとはベタベタじゃないか、流石に?
肯定否定いろいろな意見が脳内で飛び交う。
だが、総合的な結論としては「夢でよかった」に尽きた。
夢とはいえ、あそこまで乗り気だった自分に自分で身震いがする。
「たまってんのかな~」
とりあえず彼は、一般的な成人男性がそうするようにズボンのジッパーを下げ、トランクスを引っ張り、そこの安全を確かめた。
少々先走ってはいるが、特に夢精したような様子は無い。
ほ、っと息を漏らし、ジッパーを上げかけたその時。
「……ケイタ?」
「ぶはっ!?」
突然かけられた声に反射的に仰け反った。
そして声の方向を振り返って……
「お、おまえ、そのかっこう」
「ん、いいでしょう、これ」
彼女はその見慣れない着衣を翻すように回る。
「べびーどーるだって。雑誌で見て、ニワトリさんに頼んじゃった♪」
いわゆる半スケのキャミソールだ。
普通に見るのとはまた違う、透けた向こうで見える下着がどこか扇情的だった。
啓太は無意識に後じさりした。ズボンがずりおち、トランクスがあらわになった。
ようこはそんな彼の様子を見て、何を思ったかくすりと笑う。
「そっか、ケイタも、我慢できなかったんだ」
ゆっくりと膝を折り、ベッドが軋んで沈み、彼に身を寄せてゆく。
啓太はそれを見つめたまま、イヤイヤをする。
だが、抵抗の甲斐なく、ようこは彼の胸を押して倒した。
逆光になった彼女は、小悪魔のように笑ったまま、唇をぺろりと舐めた。
「私も、我慢できないの……ケイタ」
そっと顔を寄せ。
「ね、しようよ」
よりにもよって。
こういうオチだなんて。
彼は自らが辿るであろう未来を、結末を思い出す。恐怖のあまり歯の根が合わない。
「今晩は寝かさないから、ね?」
啓太は心の中で絶叫した。
それは悲鳴だったかケモノの咆哮だったかは……自身でもわからなかった。

[06/09/16-ようこ好き-2-224~234]