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二人の決断っ!」(2006/10/16 (月) 02:28:44) の最新版変更点

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<h4><b>二人の決断っ!</b></h4> <dl> <dd><br> 「ショッピング?」<br> 「はい。これから街へ参ろうと思っているのですが、啓太様もご一緒に如何かと」<br>  その日、河川敷にある啓太のマイホームにせんだんが訪れていた。<br>  乗馬をした日以来、度々訪ねて来るようになり、この日もまた差し入れを持って啓太の前に姿を現したのだ。<br> 「別に良いけど、俺なんかより仲間の誰かと行った方が楽しいんじゃないか?」<br> 「いえ、そんなことはありませんわ。それに皆はあまり私のお買い物には付き合ってくれませんの」<br>  そう言ってせんだんは扇子で口元を隠し、少し俯いた。<br> 「そっか」<br> 『せんだんってば服を買い物に行くと、すぐにひらひらな服を着せようとするんですよね~』<br>  というたゆねの言葉を思い出した啓太は微笑みながら、<br> 「分かった。いいぜ、俺で良ければ付き合うよ」<br> 「そうですか! ありがとうございます」<br>  せんだんは嬉しそうに頭を下げた。<br>  とは言ったものの気掛かりがあった。啓太は腕を組んで、<br> 「でもな~、行ってる間にようこが帰ってきたら厄介なんだよな~」<br> 「書置きをしておいては如何でしょうか」<br>  せんだんが提案した。それを聞いて啓太は「う~ん」と唸り、<br> 「いや……あいつの場合、それでも」<br>  お仕置きされている自分を想像し、身震いした。<br> 「では、やはりご一緒して頂けないということでしょうか」<br>  せんだんが再びしゅんとなった。<br> 「あ、いや、俺だって、せんだんとデートしたいよ。でも、まずようこをどうにかしないと」<br> 「……デート?」<br>  せんだんは目をぱちくりとさせて啓太を見る。<br> 「ん? ああ。これって、デートのお誘いだろ?」<br>  啓太が尋ねた。すると、せんだんは慌てふためき、<br> 「え。そ、そんな、わ、私は……その」<br>  しどろもどろになって、<br> 「ただ、ショッピングをご一緒して頂こうかと」<br>  みるみる顔を赤く染めていき、<br> 「デ、デートだなんて……そんな」<br>  ついに扇子で顔を隠してしまった。<br> 「せ、せんだん?」<br>  その様子に、<br> 『本当に分からないで言っていたのか』<br>  と、啓太は思わず苦笑してしまった。<br> 「ま、まあ、デートじゃないならそれはそれで別にいいんだよ。さっきも言ったように、問題はようこにどう言い訳するかだ」<br>  啓太が顎に手を当て改めて思案していると、<br> 「啓太様~」<br>  聞きなれた声が聞こえてきた。駆け足で走り寄って来る声の主へ向けて、啓太は手を揚げながら、<br> 「う~っす、ともはねも来たのか」<br> 「こんにちは~。啓太様~」<br>  ぽふっと、ともはねは啓太に抱きついた。そんなともはねを見てせんだんはぽんと手を打ち、<br> 「そうですわ。ともはねにもご一緒してもらいましょう。そうすれば、ようこも納得するのではないでしょうか」<br> 「はえ? いったい何のことですか?」<br>  ともはねは状況を飲み込めず、首を傾げながら啓太を見上げた。<br> 「いや、実はな」<br>  啓太はそれまでの経緯をデート云々のところは省いて説明した。<br> 「そうだったんですか~」<br>  事情を把握したともはねは「うん」と一つ頷くと、せんだんを見上げて、<br> 「分かった。じゃあ、あたしも一緒に行くよ。啓太様も一緒だし、いつもよりも楽しそう♪」<br> 「そうですか。では、啓太様、そういうことで宜しいでしょうか?」<br> 「ああ。全然おっけ~だぜ」<br>  <br>  そんなこんなで、三人で街へと繰り出した。一応、ようこに書置きを残して。<br> </dd> <dd><br> <br> 「せ、せんだん、いくらなんでも……これは」<br>  とあるメンズファッションショップ。そこで、啓太はせんだんとともはねに服を見繕って貰っていた。<br> 「よくお似合いですわ、啓太様」<br>  にっこりと微笑むせんだん。<br> 「そ、そうか~?」<br>  啓太はまじまじと姿見に映る自分を眺めた。<br>  黒のスーツ上下に革靴に白いシャツ、そして柄物のネクタイ。ここまではいい。<br>  問題は手に持たされたステッキと頭の上にちょこんと乗ったシルクハットだ。<br>  背が高く髭を蓄えているような年配のおじ様や、例えば仮名史郎のような容姿ならばよく似合うだろう。<br>  しかし、啓太はネコ耳メイド服が似合ってしまう程に童顔で華奢だ。これではまるで、胡散臭い少年マジシャンのよう。<br>  何より、シルクハットと言えばついついあの人物を連想してしまう。<br> 「あたしも似合ってると思いますよ」<br>  そんな啓太を見ながら、ともはねも笑顔で言った。<br> 「いや~、でも、俺にはこの帽子は似合わないんじゃないか?」<br>  シルクハットを脱ぎ、ステッキの先に被せながら啓太が問うと、<br> 「そんなことはありませんわ。とてもよくお似合いです」<br>  せんだんは改めて褒め、<br> 「かっこいいですよ、啓太様♪」<br>  ともはねも便乗して褒めた。<br> 「う~ん……まあ、せっかくお前らが選んでくれたしな~。でも、俺に買えるかどうか」<br> 「何を仰っているのですか。私達がコーディネートして差し上げたのですから、代金は私がお支払い致します」<br>  そう言うと、せんだんはバッグから財布を取り出し、すっとカードを抜いて、<br> 「これでお願いしますわ」<br>  店員に渡した。そして、店員の指示に従って端末に暗証番号を打ち込んだ。<br> 「お、おいおい、ほんとにいいのか? 結構するんじゃね~のか?」<br> 「このくらい問題ありませんわ」<br>  せんだんは事も無げにそう答えた。<br>  それを受けてもなお、心配な啓太は自分より薫家の台所事情に詳しいであろう、ともはねを見遣った。<br> 「またいぐさに叱られちゃう」<br>  ともはねは小声でそう呟いていた。<br> <br> 「……絶対注目浴びてるよな、これ」<br>  三人で街路を歩む。そんな中、啓太がそう独り言ちると、<br> 「何か仰いましたか?」<br>  啓太から半歩下がった位置を歩くせんだんが訝しがりながら尋ねた。<br> 「あ~、いや、何でも」<br>  ない。とは、言えない。実際には何でもあるからだ。<br>  先程せんだん達に見立てて貰った衣装のせいか、周囲から好奇の目で見られているように感じるのだ。<br>  きっと、『何だかよく分からないがおかしな三人組』と、思われているに違いない。某妖怪人間みたいな。<br>  そこで、どこに行っても目立つことには変わり無いだろうが、啓太はこの場を逃れようと、<br> 「なあ、せんだん。どっか入らないか?」<br> 「あら、お腹が空かれましたか? では、そこのカフェにでも参りましょうか」<br>  丁度、近くにあった喫茶店へと入った。<br> <br></dd> <dd><br> 「ふい~」<br>  席に着き注文を終えると、啓太はテーブルへと突っ伏した。<br>  好奇の目に晒されることには慣れきっている。今まで何人にぞうさんを見られたことか。<br>  なのに、今日は妙に疲れてしまっていた。何故かは分からない。<br> 「お疲れになりましたか?」<br>  そんな啓太の様子に、申し訳無さそうにせんだんが尋ね、<br> 「いやいや、んなことね~ぜ」<br>  啓太は心配掛けまいと、背筋をしゃきっと伸ばしてみせたが、<br> 「それなら良いのですけど」<br>  せんだんは腑に落ちないといった風にそう言った。<br>  暫くして、注文した品が運ばれてきた。<br>  それぞれに頼んだ品が置かれる中、頼んだ覚えのないお菓子まで置かれ、<br> 「あら、これは頼んでいませんわよ?」<br>  せんだんが軽く注意すると、ウェイトレスはにっこりと微笑みながら、<br> 「当店は只今キャンペーン中でして、こちらはカップルでいらしたお客様にサービスさせて頂いております」<br>  その言葉を、啓太は『ああ、なるほど』と軽く聞き流して、コーヒーを口に運んだ。<br>  だが、せんだんは、<br> 「カップル?」<br>  意味が分からないといった顔になり、<br> 「は!」<br>  とした表情になって、<br> 「わ、私達は、ち、違いますわ!」<br>  慌てて否定する。<br> 「え? ご夫婦ではないのですか? お子様もいらっしゃいますし」<br> 「ぐふ!」<br>  啓太はコーヒーを噴出しそうになった。流石の啓太も、そんな風に見られているとは思っても見なかったのだ。<br> 「あたし、そんなに子供じゃありません!」<br>  ともはねは一人違うところに食い付いて怒った。<br> 「……」<br>  そして、せんだんは固まっていた。<br> <br>  その後、ウェイトレスの誤解を解き、お詫びにと、サービスのお菓子をそのまま貰った。<br>  硬直は解けたようだが、せんだんは押し黙っている。<br>  何となく話しかけ辛い雰囲気。<br>  啓太は考えた。自分とせんだんのことを。<br>  お互いに派手な格好をしているだけに、恋人として見られていてもおかしくないとは思っていた。<br>  それがまさか夫婦、しかも、子持ちと思われていたとは。<br>  そこでふと、自分が何故疲れてしまったのかが分かった気がした。<br> 『せんだんと恋人として見られているかも』<br>  頭の奥でそう考えて、緊張してしまっていたのではないだろうか。<br>  そう思うと、何だか胸の奥が熱くなっていく。<br>  しかし、すぐに『な、何を考えてんだ、俺は。相手は犬神だぞ!』と、首を激しく振って思考を吹き飛ばす。<br> 「ど~したの? 啓太様」<br> 「やはり、お疲れになられたのでは?」<br>  啓太の顔をともはねが覗き込み、せんだんも扇子の向こうから視線を投げかけていた。<br> 「お~、いやいや、さっきも言ったろ? だいじょ~ぶだって」<br> 「ですが」<br>  言うや否や、せんだんは急に何かを思いついたような眼になり、<br> 「啓太様。この後、もし宜しければうちへ寄って行かれませんか?」<br> 「うちって、薫んちにか?」<br> 「随分とお疲れのご様子ですし、啓太様がいらっしゃれば、皆も喜びます」<br> 「うん。そ~だよ、啓太様。うちにおいでよ」<br>  ようこのことが頭を過ぎるが、そう二人の女の子に誘われて、断れる川平啓太ではなかった。<br> 「よ~し、んじゃあ、お邪魔させて貰うか」<br> 『この格好で街をぶらつくよりはましだろう』<br>  という思いもあって、啓太は快諾した。<br></dd> <dd><br> <br> 「薫は仕事か。相変わらず忙しい奴だな~」<br> 「薫様は啓太様とは違いますからね」<br>  川平薫邸。着いて早々、玄関付近でばったり出くわしたたゆねに嫌味を言われてしまった。<br> 「しょ~がね~だろ。俺には死神の呪いが残ってんだ」<br>  啓太がそう反論していると、<br> 「あっれ~。啓太様、何ですか? そのかっこ~」<br> 「ぷふ。全然似合ってませんよ~?」<br>  いまりとさよかが現れ、啓太を嘲笑った。<br> 「うっせ~よ。俺だってな、好きで」<br>  こんな格好してるわけじゃない。と、続けたかったが、折角せんだんとともはねが選んでくれた服、というか帽子だ。<br>  それにスクール水着やらメイド服なんかと比べたら圧倒的に普通なのだから、嫌がる理由などない。<br>  そう考えた啓太は、<br> 「……似合ってるだろ~が」<br>  そう言ってハットの鍔に手を掛け、「ふっ」とクールに振舞うが、<br> 「なにそれ~、だっさ~い」<br>  たゆね、いまり、さよか、三人に笑われ、<br> 「なんだよ~、笑うこたね~だろ~?」<br>  釣られて啓太も笑った。その光景を見ながら、せんだんは目を細めて微笑んでいた。<br>  それから暫く、せんだん、ともはねにたゆね、いまり、さよかを含めた五人の犬神と啓太は雑談に耽っていた。<br>  大半は啓太がたゆねにセクハラ発言をして殴られ、それをいまりとさよかがからかうというものだったが。<br>  そんな中、啓太は殴られ飽きて話題を変えようと、<br> 「そういや、せんだん。アンダルシアは元気にしてるか?」<br> 「ええ、元気にしていますわ。様子をご覧になられますか?」<br>  せんだんはそう返し、<br> 「おう、あいつには世話んなったしな。会わせてくれ」<br>  啓太は乗り気になるが、<br> 「え~、啓太様、馬小屋に行くんですか~?」<br> 「くちゃいですよ~?」<br>  いまりとさよかが鼻を摘みながら言った。せんだんはそれに同調し、<br> 「そうですわね。啓太様、馬の臭いがお苦手でしたら」<br> 「んなことね~って。ほら、案内してくれよ」<br>  啓太は言葉を遮って促した。<br>  結局、いまりとさよかは勿論、たゆねとともはねもついて来なかったため、啓太とせんだんの二人で厩舎へと向かった。<br> <br> <br></dd> <dd>「さあ、啓太様。こちらですわ」<br>  アンダルシアの厩舎。その外観は明らかに啓太のマイホームよりも立派だ。<br>  ちょっとした敗北感を覚えながらも、啓太はせんだんについて行った。<br>  少し入ったところで、美しい芦毛の馬アンダルシアがひょっこりと顔を覗かせていた。<br> 「よっ。元気そうだな」<br>  啓太はそう言って手を伸ばし、アンダルシアのうなじを撫でてやった。<br> 「こないだはお前のお陰でいい思いさせて貰ったよ。あの時のせんだんのム……うおっほん! いや、元気そうで何よりだ、うん」<br>  危ない、もう少しで口を滑らせるところだった。と、額を拭う。だが、<br> 「私のム……? いったい何のことでしょうか?」<br>  せんだんは聞き逃してはくれなかった。<br> 「あ~、いや、その……せ、せんだんのム、ム、ムジナの呼び名って何だったっけな~って」<br>  苦し紛れの言葉だった。どう考えたって関係ない。なのにせんだんは、<br> 「はい? ボルフェナンスキー・ルチア・セント・フェルディナンド・カンタービレですが。それが何か?」<br>  疑問の表情を浮かべながらも、きちんと答えてくれた。それに対し、啓太は『これは誤魔化せるかも』と、<br> 「そうそう、そのポリフェノール何とかっての」<br> 「違います。ボルフェナンスキー・ルチア・セント・フェルディナンド・カンタービレです」<br> 「え~っと、その、いい名前だよな、アンダルシアもそうだけど。流石せんだん、センスあるよな~」<br> 「そう言って頂けると光栄ですわ。実は私も気に入っていますの」<br>  あっさりとせんだんを丸め込むことに成功した。<br> 「そっかそっか」<br>  アンダルシアを撫で続ける啓太。<br> 「……」<br> 「ん? 何だ、せんだん。俺の顔になんか付いてるか?」<br>  啓太は急に押し黙ったせんだんからの視線が気になって聞いた。だが、<br> 「……」<br> 「せんだん?」<br> 「……は! な、何でしょうか、啓太様」<br> 「いや、お前こそどうしたんだ? 急に」<br> 「い、いえ、別に」<br>  せんだんは言葉を詰まらせた。少し頬が赤い。それを見て啓太は、<br> 「お前、顔が赤いぞ。熱でもあるんじゃね~のか?」<br>  そう言ってせんだんの額へと手を伸ばし、<br> 「け、啓太様?」<br>  せんだんは「何が起こっているのか分からない」といった表情で、<br> 「あ」<br>  啓太の掌を額に受け、更に頬を赤く染めた。<br> 「やっぱ熱いぞ。顔もさっきより赤くなってきたし、こりゃ部屋に戻って休んだ方がいいな」<br>  啓太はせんだんの額から手を離すと、せんだんに背を向けて屈んだ。<br> 「あ、あの、何を?」<br> 「ほれ。部屋までおぶってやるよ」<br> 「は? け、啓太様、わ、私は何とも」<br> 「遠慮すんなって。ほら」<br> 「い、いえ、ですが」<br> 「しゃあね~な~」<br>  啓太は立ち上がり、せんだんの横へと回ると、<br> 「え?」<br>  背中と膝の裏へと腕を回して、所謂お姫様抱っこの要領でせんだんを抱き上げた。<br> 「あ、ああ、あの、け、啓太様?」<br> 「んじゃ、ちと揺れるけど我慢してくれな。すぐ部屋まで連れてってやるからさ」<br>  強引に話を進められて、何も言えないせんだんを尻目に、啓太はせんだんの自室へと向かった。<br>  その間、啓太が、<br> 『おんぶだったら、またおっぱいの感触が味わえたのにな~』<br>  などと考えていたとは露知らず、せんだんは終始無言で照れていた。<br> <br></dd> <dd><br>  せんだんの自室。<br> 「よし。そんじゃ、ごきょうやにでも言って薬貰ってくるから、大人しく寝てろよ」<br>  せんだんをベッドの淵に座らせると、啓太は部屋を後にしようと足を踏み出した。だが、<br> 「お、お待ち下さい、啓太様!」<br>  せんだんは啓太を引き止めた。<br> 「ん? 他に何か欲しいもんでもあるか?」<br> 「い、いえ、そうではなくて、あの」<br>  何やら煮え切らない様子のせんだん。<br> 「お前らしくないな。ダルいのは分かるが、はっきりしてくれた方が助かるな」<br>  啓太は落ち着かせようと、優しい口調でそう言った。それを受けてせんだんは、<br> 「そうですね」<br>  すー。はー。と、一回深呼吸をして、<br> 「単刀直入に申し上げますが、私は何ともございません。啓太様の勘違いですわ」<br>  はっきりとそう言った。<br> 「いや、でも、熱が」<br>  納得の出来ない啓太はそう言うが、<br> 「それは……啓太様のせいですわ」<br> 「お、俺の?」<br>  啓太の問いに、せんだんはこくりと頷き、<br> 「あ、貴方が……私の側に、居るから」<br>  真剣な眼差しで啓太を見据えた。<br>  せんだんが何を言いたいのか察しはついた。<br>  しかし、啓太はにわかには信じられず、<br> 「そ、それって、どういう」<br>  そう呟いた。そして、それに答えるかのように、<br> 「いけないことなのは分かっています。ですが、私は……貴方のことが」<br>  せんだんがそこまで言うと、啓太は我慢が出来なくなり、<br> 「ああ! け、啓太様!」<br>  肩を掴んでせんだんを押し倒した。ベッドの上に髪が広がった。<br> 「啓太様……」<br>  せんだんは一切抵抗せず、真っ直ぐに啓太の眼を見つめている。<br> 「……せんだん」<br>  啓太はせんだんが自分を受け入れたとみなし、顔を近付けた。だが、せんだんは顔を逸らし、<br> 「いけませんわ。啓太様」<br> 「何で?」<br>  啓太が疑問を口にすると、せんだんは瞳を潤ませながら、まるで自らに言い聞かせるかのように、<br> 「私は……薫様の」<br>  犬神です。<br>  と、続けようとしたのだろうが、啓太はそれを遮り、<br> 「関係ね~よ。んなこと」<br>  啓太はそう言ってせんだんの顎を掴み、強引に唇を押し付けた。<br> 「んん!」<br>  突然のことに驚くせんだん。だが、止めさせようとはしない。<br>  初めてなのだろう。緊張からか唇を固く閉じ、少し震わせている。<br>  そんなせんだんを見ていて、啓太は自分がいつのまにかせんだんに惚れてしまっていたことを確信した。<br>  啓太は一旦、唇を離し、せんだんの眼を見つめながら、<br> 「せんだん」<br>  自分の気持ちを再認識するように、<br> 「好きだ」<br>  想いを告げた。<br> 「啓太様……」<br></dd> <dd>  せんだんは涙を流した。喜びとも悲しみともつかない表情で。<br> 「せ、せんだん?」<br>  突然の涙に啓太は狼狽えた。<br> 「私は……どうすれば」<br>  せんだんのその言葉で啓太は理解した。<br>  せんだんはまだ迷っている。<br>  啓太と薫の間で気持ちが彷徨っている。<br>  せんだんが薫に対し、主として以外の感情を抱いているかは分からない。<br>  だが、せんだんにとって啓太を受け入れることは薫を裏切ることと同義。啓太にもそれは分かっていた。<br>  何も焦る必要はない。<br>  せんだんが自分を想っていることに相違ないのだから、せんだんが自らの気持ちに決着をつけるまで待てばいい。<br>  せんだんのことだから、きっと薫を選ぶだろう。でも、可能性はゼロじゃない。そうなったら、そん時はそん時だ。<br>  啓太はそう考え、せんだんから身体を離し、隣へと腰掛けた。<br> 「啓太様?」<br>  予期していなかったのだろう。せんだんはきょとんとなった。啓太はぽりぽりと頭を掻きながら、<br> 「まあ、どうすればいいかはゆっくりと考えればいいさ。でも、これだけは忘れないでくれ」<br>  振り返り、<br> 「俺のお前への気持ちは変わんね~ってことをさ」<br>  にっと笑った。<br>  それを見て、聞いて、せんだんは身体を起こし、<br> 「お、おい、せんだん?」<br>  啓太の頭を抱きしめた。啓太の顔がせんだんの胸の谷間に埋まり、挟まれた。<br> 「私はもう迷いません。貴方を苦しめるくらいなら、私は」<br>  せんだんの決意表明。それは薫との決別を意味していた。<br>  嬉しかった。<br>  でも、それ以上に自分こそがせんだんを苦しめていることに腹が立った。<br>  せんだんはどんな決断をしようと苦しむことになるだろう。<br>  いくら格好をつけたところで、せんだんを苦しみから解放してやることは出来ないのだ。<br>  ならば、せめて今だけでも苦しみを和らげてあげたい。<br>  啓太はせんだんの腰へと腕を回し、<br> 「ああ! け、啓太様。何を」<br>  ぐりぐりとせんだんの胸に顔を押し付けるようにして、首を動かした。<br>  驚いて腕を解くせんだん。<br> 「お前の胸に苦しめられるんだったら、俺は本望だぜ」<br>  そう言って啓太はせんだんの顔を見上げた。せんだんは母性を感じる優しい笑顔で見下ろしている。<br> 「啓太様こそ宜しいのですか?」<br>  せんだんの問い。何のことは分かっている。<br> 「ああ、確かにあいつは俺の犬神だ。でも、それだけだ」<br>  そう言って啓太は立ち上がり、ベッドへ膝立ちになった。せんだんの肩へ手を置き、互いに見詰め合う。<br> 「啓太様」<br>  せんだんが瞳を閉じ、啓太はそっと口付けた。<br>  先程と違って、せんだんに震えはなかった。<br></dd> <dd>  啓太は唇を重ねたまませんだんの腰と肩へ腕を回し、ゆっくりと寝かせた。<br>  それから腰に回していた腕を下へとずらし、掌をせんだんのお尻の下へと潜り込ませた。<br> 「んん! け、啓太様!」<br>  せんだんが唇を離した。驚きと羞恥の入り混じった表情。<br> 「ど~した?」<br>  それを見て啓太がにやにやとしながら尋ねた。せんだんはもじもじとまごつきながら、<br> 「い、いえ、その」<br> 「ん~? またはっきりしなくなったな」<br>  啓太はわざとらしくそう言って指をぐにぐにと、掌をすりすりと、せんだんのお尻をまさぐった。<br> 「ああ、い、いけませんわ」<br>  そう言いながらもせんだんは何だか気持ち良さげ。<br> 『これはもしかして!』<br>  と、啓太の導火線に火が点いた。<br> 「なあ、せんだん」<br> 「は、はい、なんでしょうか?」<br> 「その……俺のこと、好きか?」<br> 「え。あ、そ、そうですわね。その……はい。好き、です」<br>  扇子を持っていないので、せんだんはそっぽを向いて照れを隠そうとした。<br>  その嬉しい答えに「うんうん」と頷き、啓太は真剣な顔つきで、<br> 「じゃあ、今からお前にえっちなことするけど、いいな?」<br> 「えっちなこと……ですか? すでにされているではありませんか」<br>  せんだんは啓太の真意を汲めていない様子だ。その見事なまでの箱入り娘っぷりに啓太は「たはは」と苦笑いした。<br> 「要するに……あれだ。お前とせっくすしたい」<br>  ぶっ飛ばされるのを覚悟の上で啓太ははっきりと言った。<br> 「せっくす?」<br>  せんだんは呟き、言葉の意味を咀嚼する。そして、理解したのか、せんだんは湯気が立ち上らんばかりに真っ赤になって、<br> 「そ、それって」<br>  喉にものが詰まったかのように、<br> 「あ、あの、その」<br>  口をぱくぱくとさせて、<br> 「だ、男女が、その」<br>  ついには言葉を止めて硬直してしまった。<br> 「あ~。せんだん?」<br>  予想はしていたが、ここまでとは。<br> 『こりゃ~、やっぱ無理だったかな』<br>  と、啓太が諦めようかと考えた直後、<br> 「け、啓太様は……わ、私と子供をお作りになりたいのですか?」<br>  せんだんが意を決したように言った。<br> 「へ? こ、子供?」<br>  啓太の脳裏にいつぞやの子犬祭りがリフレーンされた。<br> 「あ、いや、それは」<br>  えっちなことはしたいし夫婦になるのも構わない。だが、<br> 『子犬だけはああ!』<br>  妄想に顔を青ざめさせている啓太をよそに、せんだんはぽっと艶やかな表情になって、<br> 「貴方がお望みになられるのでしたら」<br>  そう言って微笑んだ。<br></dd> <dd>「ぐは」<br>  最早、引き下がれない。いや、引き下がる必要なんてない。<br> 『もう子犬だろうが何だろうが関係あるかってんだ』<br>  寧ろ、出来てしまった方が気持ちに決着つけ易いはずだ。<br>  啓太は腹を括り、きりっと男前な表情を作りながら、<br> 「本当にいいんだな? せんだん」<br>  最後の確認を取った。<br> 「はい」<br>  せんだんがこくりと頷き、これが合図となって、啓太の消えかかっていた導火線の火が再び燃え上がった。<br> 「よっしゃ。そんじゃあ、始めるぞ」<br> 「あ、あの、私はどうすれば」<br>  不安げなせんだん。<br> 「だいじょ~ぶ。俺がリードするから」<br>  そう言って軽くキスをした。<br>  まず手始めにと、啓太はせんだんのお尻の下から手を抜き、そのまま乳房へと持っていった。<br>  滑らかな生地の下にある指を弾くしなやかな丸み。それを掬い上げるようにして優しく揉み解す。<br> 「あ、あふ……啓太様」<br> 「柔らかいよ。せんだんのおっぱい。いつまででも揉んでいたいくらいだ」<br>  啓太はせんだんの耳元でそう囁いた。<br> 「あ、ああ、そんな」<br>  気持ちいいのか、恥ずかしいのか。どちらとも取れる曖昧な声色。実際どっちでもあるのだろう。<br>  そんなせんだんを愛おしく感じ、啓太は三度目のキスをした。<br> 「あむ……ん」<br>  せんだんは慣れてきたのか、啓太の下唇を銜えるようにして迎え入れた。<br>  それならば。と、啓太は舌をせんだんの口内へと突き入れ、そのまませんだんの上顎で這わせた。<br> 「ん! んん!」<br>  突然、口内へと侵入した異物と、味わったことのない快感に驚いた様子のせんだん。<br>  次いで、啓太は一旦せんだんの乳房から手を放し、今度は鷲掴みにした。<br>  手にすっぽりと収まったその半球体の弾力を楽しむように指を埋める。<br> 「ん、ん、んん!」<br>  せんだんは口を塞がれているため、声を出そうにも出せない。<br>  張りと柔らかさが同居する不思議な塊の魔力に味を占め、啓太はより乱暴に、軽く引っ張るようにして揉みしだく。<br> 「んん! ん、ん、んは! け、啓太様。も、もっと優しく」<br>  痛かったらしい。せんだんは強引にキスを中断し、訴えた。<br> 「すまん。あんまり気持ち良かったんで、つい」<br> 「そ、そうですか」<br>  今度は嬉しかったのか、せんだんは視線を逸らしながら、そう言った。<br> 「そんじゃ、お次はこっちを」<br>  そう言って啓太は乳房から手を放し、せんだんの太腿に触れた。<br> 「直接触っていいか?」<br> 「は、はい」<br>  せんだんの承諾を受け、啓太はスカートの裾に手を掛け、ぐっと上へと捲くった。<br> </dd> <dd>「おお」<br>  せんだんの白くて美しい生脚が露わになり、啓太は思わず感嘆を声を上げた。<br> 「あ、あんまり見ないで下さいまし」<br> 「何言ってんだよ。これからもっと恥ずかしいところを見られるんだぜ?」<br>  うっひっひ。と、啓太はいやらしく笑い、せんだんの太腿の素肌をすりすりと撫でながら、<br> 「それにさ。せんだんの脚、すげ~綺麗だよ。触り心地もすべすべで気持ちいい」<br> 「あ、ありがとうございます」<br> 「でも、本命はこっちなんだよな~」<br>  そう言って啓太はせんだんの秘所、魅惑の三角地帯へと指を伸ばした。<br>  触れた瞬間、指にしっとりとした温もりが伝わってきた。<br> 「せんだんのここ、もうこんなに暖かいよ」<br>  股座へ、より熱を帯びているその部分へと指を滑り込ませる。<br> 「ああ、啓太様。そこは」<br>  せんだんはきゅっと股を閉じ、侵入者を拒んだ。<br> 「閉じられたら続けられないな~」<br> 「で、ですが……そのようなところ」<br> 「だいじょ~ぶ。すぐに気持ち良くさせてやるから」<br>  そう言って軽くキス。<br>  そして、少し緩んだせんだんの股の隙間へと指を侵入させた。<br>  せんだんらしい紫色の派手なシルクの下着。その上質な生地は指の通りまで滑らかにしてくれる。<br>  下着の向こう側に感じるせんだんの秘肉の裂け目。そこに沿って、啓太は指を上下に擦った。<br> 「ああ! んっ」<br>  もじもじと太ももを捩り、啓太の手を挟み込むせんだん。<br>  啓太はお構い無しに擦り続け、親指を突起に触れる位置へと移動させた。<br> 「ひあああ! け、けいた、さまっ、そ、そこは」<br>  せんだんは声を上擦らせ、身体をびくびくと震わせた。<br> 「ほ~う。ここがいいのか?」<br>  啓太はにやつきながらそう言って刺激を与える対象を切り替えた。<br>  親指の先で小さな突起物をちろちろと転がすように弄ぶ。<br> 「あ、はあ! お、おやめ、くださ、い。そこは、それいじょうはあ!」<br> 「ん~? どうなんのかな~?」<br> 「あ、あ! ひあ、か、からだが、からだがヘンにい!」<br>  せんだんは啓太の服を掴み、目をきゅっと閉じた。<br> 「だ、だめです! けいたさま! わ、わたくしいっ!」<br>  せんだんの腰が浮かび上がる。歯をぐっと食いしばり、そして、<br> 「!!!!」<br>  声にならない悲鳴を上げて、ばたりと腰を落とした。<br>  はあはあと息を荒げ、絶頂の余韻に浸り、朦朧としている。<br> 「思ってた以上に敏感だったんだな。せんだんって」<br>  そう言って啓太はせんだんの腰へと手を回して抱き寄せ、キスをした。<br> </dd> <dd> 「でも、まだ終わりじゃないからな。本番はこれからだぜ」<br>  啓太はせんだんの肩と腰へ回していた腕を引き抜きくと、せんだんの足元へと移動し、せんだんの膝へ手を掛け、ぐっと押し上げた。<br>  ふくよかなお尻の肉の狭間、ぷっくりと盛り上がったせんだんの秘肉。<br>  そこを覆う下着の中央には淫猥な染みが出来ており、下着の色が変色していた。<br>  それを見た啓太は何だか我慢が出来なくなり、せんだんの股を少し開くと、そこへ顔面から突っ込んだ。<br> 「ああ! け、啓太様! お止め下さい! そのようなところへ顔をつけるなんて」<br> 「むは~。せんだんのここ、すげ~いい匂い。これだけで飯何杯もいけそうだ」<br> 「な、何を」<br> 「はあ~。たまらん!」<br>  啓太はぐりぐりと鼻を擦りつけ、せんだんの甘く淫らな雌の香りを吸い込み、鼻腔へと焼き付けた。<br>  その香りは啓太の雄の本能を刺激し、血液が下半身の一点へと凝縮されていく。<br> 「駄目だ。もう我慢ならん」<br>  啓太はがばっと顔を離して起き上がると、せんだんの下着へと手を掛けた。<br>  まだ直接見られることには抵抗があるのだろう。せんだんは啓太の手を掴みながら、<br> 「け、啓太様。その、私、まだ」<br> 「だ~め」<br> 「あ」<br>  抵抗する暇もなく、啓太に下着を脱がされてしまった。<br>  曝け出されたせんだんの秘部。先程の行為の名残で濡れており、ぬらりといやらしく照り輝いている。<br> 「あ、ああ」<br>  羞恥心から両手で顔を覆い、泣きそうな声を出すせんだん。<br> 「綺麗だよ。せんだん。それに凄くえっちだ」<br>  そう言って啓太はそこへと手を伸ばした。<br>  くちゅっと音が鳴り、啓太の指先が濡れる。啓太は水溜りではしゃぐ子供のようにぴちゃぴちゃと音を立てて楽しみながら、<br> 「こんなに濡れて、音を出すなんて、せんだんはえっちな子だな」<br> 「そ、そんな私は」<br> 「へ~。言い訳するんだ~」<br>  啓太は指先をぬるぬるとした穴へと少しずつ押し入れていく。<br>  穴は狭いが蜜の量が凄いのだろう。すんなりと指がめり込んで行く。<br> 「あ! んん、な、なにか、入って」<br> 「う~ん。これならもう入れても大丈夫そうだな」<br> 「え? あ、あの、もう入って」<br> 「いや、今度は指じゃなくてさ。前戯がこんだけでいいなんて、ほんとせんだんはえっちだな」<br>  啓太がそう言うと、せんだんは涙目になりながら、<br> 「そ、そんなことを言わないで下さいまし」<br> 「へへへ~。泣きそうなせんだん、可愛いよ」<br> 「バカ」<br>  少し頬を膨らませてそっぽを向いた。<br> 「うし。ほんじゃ、真打登場といきますか」<br>  そう言って啓太はせんだんから指を引き抜き、神速の速さでズボンとパンツをずり下ろした。<br> </dd> <dd>「そ、それが殿方の」<br>  剥き出しになった啓太の巨砲を目の当たりにして、せんだんは愕然とした。<br> 「せんだんがえっち過ぎて、もうこんなんなっちまったよ。たっぷり責任取って貰うからな」<br> 「は、はあ」<br>  せんだんは上の空。啓太はせんだんの秘部へと先端を宛がい、<br> 「じゃあ、入れるぞ」<br> 「お、お待ち下さい! そ、それをお入れになるのですか?」<br>  我に返ったせんだんは慌てて待ったをかけた。<br> 「ん? そうだよ」<br> 「あ、あの、流石にその様に大きなものが入るとは思えないのですが」<br> 「だいじょぶだって。まあ、最初だしちょっとは痛いかもしれないけどな」<br> 「い、痛いのですか?」<br>  不安げなせんだん。啓太はせんだんの不安と緊張を和らげるため、にっこりと微笑みながら、<br> 「ちゃんと痛くないようにするから安心していいよ。俺を信じて」<br>  上体を倒し、せんだんにキスをした。<br> 「はい。貴方にお任せします」<br>  せんだんのその言葉が合図となって、啓太は再度せんだんの秘唇の奥にある肉の穴へと、自らの分身を宛がった。<br> 「行くぞ」<br> 「は、はい」<br>  せんだんが頷き、啓太はぐぐっぐぐっと少しずつ、少しずつせんだんの中へと突き入れていく。<br> 「ああ! んく、大きい……」<br>  先程の指とは比べ物にならないほどの大きさを持つ肉の塊に、せんだんは苦しそうに呻いた。<br>  その声に啓太は心配そうな表情で、<br> 「痛いか?」<br> 「い、いえ、さほど痛くは、ありません。ただ、少し、ヘンな感じが」<br>  せんだんは少し荒めの息遣いで答えた。<br> 「そっか。もっと入れるぞ」<br>  啓太は腰をゆっくりと前へ落としていった。着実にせんだんの中へと埋まっていく。<br>  やがて、とつんと壁に遮られる様にして止まった。せんだんの純潔の証によって、進入が阻まれたのだ。<br> 「せんだん。痛いと思うけど、我慢してくれよ」<br> 「え?」<br>  せんだんの答えを待たず、啓太は再び腰を落とし始めた。<br> 「んぐ!」<br>  せんだんが苦痛に呻く。それでも啓太はめりめりとせんだんを貫いていく。<br> 「あ、はあ! 啓太様っ!」<br>  啓太の腕を掴み、涙声でせんだんが訴える。だが、それでも止めない。<br>  そして、<br>  とつんと、<br>  再び壁へとぶつかった。<br> 「全部……入ったみたいだな」<br>  啓太はほっとしながらせんだんの顔を見た。<br> 「……」<br>  せんだんは目尻に涙をなみなみと溜め、啓太を睨んでいた。<br> 「な、なに?」<br>  啓太は恐る恐る尋ねた。せんだんは拗ねたような口調で、<br> 「痛くしない。って、仰りましたのに」<br> 「ああ、いや、今のはしょ~がなかったんだよ。誰でも通る道っつ~か」<br>  啓太はばつが悪そうにそう言うと、続けて、<br> 「でも、ごめん。痛くしちゃってさ」<br>  せんだんにキスをした。最早、何度目かは分からない。<br> </dd> <dd>「啓太様。これで……私と、啓太様は」<br> 「おう、一つになったんだ」<br> 「ああ。まさか私が母親になる時が来ようとは」<br>  感無量の様子のせんだん。啓太は何だか違和感を覚え、<br> 「言っとくけど……まだ、子供が出来るとは限らないぞ」<br> 「え? そうなのですか?」<br> 「うん。つ~か、まだ終わってもないし」<br> 「あ、あの、こ、これで終わりではないのですか?」<br>  やっぱり。<br>  啓太は心の中でそう呟いた。<br> 「これからもっと気持ち良くなれるんだ。こんなところで止めたら勿体ね~よ」<br>  啓太はむふっと笑い、<br> 「えっちなせんだんのことだから、きっと病み付きになるぜ?」<br> 「そ、そんなことありません!」<br> 「へっへ~、どうかな~」<br>  そう言って啓太は一旦、腰を引き、ゆっくりと突き入れ律動する。<br> 「あ、あふ、な、中で、啓太様のが」<br> 「ど~だ。気持ちいいだろ?」<br> 「そ、そんな、こと」<br> 「くは~。こりゃあ、すぐにでも、終わっちまいそうだ。俺は、すげ~気持ち良いよ。せんだん」<br> 「あ、ありが、とう、ござい……ますう。わ、わた、く、しも!」<br>  啓太の言葉が嬉しかったのか、素直になったせんだん。<br>  初めてであるにも拘らず、せんだんはすでに快感を覚えつつあるようだ。<br>  啓太が徐々に動きを速めるのに従い、せんだんの言葉もそれに合わせて途切れ途切れになった。<br>  濡れやすい体質なのだろうか。湯水の如く蜜が溢れ、啓太が突き入れる度にぐちゅぐちゅと淫靡な音を響かせている。<br> 「せんだんの、ここ、さっきよりも、もっと、もっといやらしい音を出してるよ!」<br> 「んっ、んっ! い、いわないで! ください、けいた、さ、まあ!」<br> 「なあ、せんだん! 気持ち、いいかあ?」<br> 「は、はいい! すごく、すごく! いいですう!」<br>  せんだんのその言葉は啓太の興奮を更に掻き立て、啓太は腰を縦に回転させるようにして突き入れた。<br> 「あ、あふう! け、けいたさまの、が、わ、わたくしの、おなかを!」<br>  腹側の肉を抉るような啓太の突き上げに、せんだんは声を荒らげた。<br> 「あ、ああ! けいたさま! わたくし、な、なんだか、またあ!」<br> 「ま、また、いきそう、なのか!」<br>  そう言う啓太もまた、限界が近づきつつあった。<br>  共に絶頂へと辿り着くために、啓太は腰の動きを速め、せんだんへと打ち付ける。<br> 「あああああ! けいたさま! けいたさま! こ、こわれて、わたくし! こわれてしまいますわあ!」<br>  肌と肌がぶつかり合う破裂音に似た音が響く中、せんだんが叫び、<br> 「お、俺も! もう!」<br>  背筋にぞくりとする感覚を覚え、啓太も叫んだ。<br>  啓太は息を止め、ラストスパートを仕掛ける。<br>  そして。<br> 「あ、あ、ああ! けいたさまああああああああああ!!!!」<br>  身体を震わせながら、嬌声を上げるせんだん。その際、きゅっと内部の肉襞が絡み付き、<br> 「くっ! これじゃあ……くああ!!!!!」<br>  啓太はせんだんの中で果て、白濁した液体をぶちまけた。<br> 「ん! あ! お、奥に、何かが……凄く、熱い」<br>  せんだんは恍惚とした表情で呟いた。<br></dd> <dd><br> <br> 「啓太様。お紅茶が入りましたわ」<br> 「お。さんきゅ~」<br>  情事の後、二人は服を着替え直し、椅子に腰掛けて、せんだんの淹れてきた紅茶を飲んで一服していた。<br> 「ごめんな。折角買って貰った服、汚しちゃってさ。お前の服なんてもっと汚しちゃったし」<br> 「いえ、気にしないで下さいまし。洗えば済むことですから」<br> 「そっか。まあ、汚れたっていっても全部せんだんの出したのだから、汚くなんかないんだけどな」<br> 「け、啓太様!」<br>  顔を赤くして怒る。だが、はあと溜息を吐いて、せんだんは真剣な顔つきで、<br> 「あの、それで、啓太様」<br>  やや不安げに、<br> 「私を、その」<br>  上目遣いになって、<br> 「貴方様の犬神に」<br>  そこまで言うと、啓太が立ち上がり、<br> 「犬神どころじゃない」<br>  驚くせんだんを抱きしめ、<br> 「俺の生涯の伴侶になって貰う」<br>  そう告げた。<br> 「啓太……様」<br>  せんだんは啓太の背中へ腕を回し、ただ涙した。<br> <br> <br></dd> <dd>  数時間後。啓太は河川敷のマイホームへと帰ってきていた。<br>  テントの前。恐らくようこは帰ってきているだろう。そして、既に怒っているだろう。<br>  結局、二人で話し合った結果、せんだんとのことは暫くは黙っていることにした。<br>  リーダーであるせんだんが簡単に抜ける訳にもいかないし、先に薫やはけ、そして、ようこを説得せねばならないからだ。<br>  大袈裟かもしれないが殺されてもおかしくない話の内容的だし、軽々しく話す訳にはいかないのだ。<br>  とりあえず、今はこの後どうやってようこの怒りを治めるか。それが問題だ。<br>  と言っても啓太には奥の手があった。<br> 「たっだいま~」<br>  なるべく陽気に。そう心掛けて、啓太はテントの中へと入った。<br> 「ケイタ! ちょっとどこ行ってたのよ!」<br>  入るや否や、ようこが怒鳴りながら近づき、啓太の前に立ち塞がった。<br> 「あ、いや、書置きしてあったろ?」<br>  ちらりと、床に破り捨てられている数時間前まで書置きであっただろう紙屑を見遣りながら、啓太は言った。<br> 「そんなのど~でもいいの! わたしはケイタがわたし以外とでーとしてたことに怒ってるの!」<br> 「デートつったって、ともはねも一緒だったんだぞ?」<br> 「う~。それでもダメなの!」<br> 「わ、分かったよ。俺が悪かったって。だから、な? 機嫌直せよ」<br>  そう言って啓太は後ろ手に隠し持っていた箱をようこの前に差し出した。<br>  余計なことを言って更に刺激してしまう前に、啓太は早くも奥の手に逃げた。<br> 「な~に? それ」<br> 「ほれ、嗅いでみ」<br> 「え? くんくん」<br>  箱に鼻を近づけて匂いを嗅ぐようこ。<br> 「あ! ちょこれーとけーき!」<br>  ようこの表情がぱあっと明るくなった。<br> 「四つ買ってきたから、全部食っていいぞ」<br>  しめしめと、したり顔になりそうなのを堪える。<br> 「ふ~ん」<br>  目を細めて疑いの眼差しを投げかけるようこ。<br> 「な、なんだよ? 太らそうとか、そんなんじゃないぞ?」<br>  思わず後退りする啓太。一転、ようこはにこりと微笑み、<br> 「しゅくち♪」<br>  そして、<br>  テントの向こうで、<br> 『ざっぱあ~~~ん!!!!』<br>  と、水の弾ける音が聞こえたのでした。<br> <br> <br>  後日。<br>  啓太は川平本家へと来ていた。<br> 「それで啓太様。お話とはなんです?」<br>  涼しげな笑みを携えながら、はけが尋ねた。<br> 「実は――」<br> <br> <br> <br>  おしまい<br></dd> </dl> <hr size="2" width="100%"> <blockquote>[06/09/13-余所者-2-153~167]<br></blockquote>

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