anko2093 飼いゆっくり飼われゆっくり

『飼いゆっくり飼われゆっくり』
     D.O



私は、飼い始めて一か月の幼い赤ありすと一緒に暮らしている。
先月ゆっくりショップで買ってきた、可愛いペットだ。
元気いっぱいで素直、ゆっくりにしてはなかなか賢く、良いパートナーが得られたと思う。

「みゅほぉ!おにぇーしゃん、しゅっきりしちぇっちぇにぇ!」
「うん、すっきりしていってね。ありす。」
「ゆわ~い!しゅっきり!しゅっきり!!」

・・・ショップ買いということで、最低限の調教は済んでいるおりこうさんなのだが、
まだまだ赤ゆっくり、躾けは大事である。
最近はゆっくり向けの情操教育用玩具も山ほど販売されているので、関連サイト巡りも一苦労だった。
変な商品を掴まされて、ウチのありすが不良ゆっくりになっては目も当てられないのだから。

「おーい、ありすー。アレ、注文してきたよ。明後日には届くって。」
「ゆわーい!おねーしゃん、ありがとー!」
「あははは。ありすに玩具買ってあげるの、久しぶりだったもんねー。」
「ゆっわーい!とっきゃいっは、とっきゃいっは!ゆっくち!」
「・・・聞いてないっか。ま、嬉しそうだしいいかー。」

そしてかなり探し回った末、ようやくお目当ての商品を購入することが出来たのである。



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注文から2日後、我が家に巨大なダンボールが数箱届いた。

中身はというと・・・
広さ3m四方、高さは50cmほどの、折りたたみ式の透明な箱。
それと、ゆっくりでも押せそうな大きさのボタンがついた、電気配線が延びるスイッチボックス。
さらにその配線の先につながっているのは、
犬小屋風の『おうち』、
餌タンクがカートリッジ式になっている給餌機、
ハムスター用のものを大きくしたような給水器など。

あと細かい道具がいくつか入っているものの、これでほぼすべてと言ってよいだろう。

組み立てて見れば、室内向けのゆっくり飼育セットといった感じである。

「じゃあありす、出すわよ~。」
「わーくわーく!じらすなんて、ときゃいはじゃにゃいわ!」
「うふふ、そーれ!」

ぼててててんっ。

私は、うずうずしているありすの前で、部屋で最後に残された大きなダンボールの封を開け、
部屋の半分を占めている透明な箱の中で、ダンボールをひっくり返した。

「ゆびぃ!?ど、どこなのここぉおおお!?」×4

・・・箱から落ちてきたのは、野良ゆっくりの一家である。



野良ゆっくり一家の家族構成は、成体のれいむとまりさが一匹づつ、
その子供である子れいむと子まりさが一匹づつの計4匹。
ちなみにこの一家は、私が近所の公園から拾ってきた連中である。

もちろん、変な病気を持ってこられても困るので、
近所のゆっクリニックで洗浄と予防接種は済ませてあった。

「おねーさん!?どうぢでれいむたちをつかまえるのぉお!?おかしいでしょぉおお!?」
「はこさんのなかは、せまくてゆっくりできなかったのぜ!!」
「ゆっくちしちぇにゃいにんげんしゃんは、しゃっしゃとどっかいくのぢぇ!」
「あみゃあみゃしゃん、ちょーらいにぇ!」

多少箱が狭かったらしく、不満をわめき散らす野良一家。
だがありすは、そんな言葉は涼しい顔で聞き流し、
やがて一家が怒鳴り疲れて静かになったのを見計らってから口を開いた。

「みんにゃ!ありしゅはありしゅよ!!ゆっくちしちぇっちぇにぇ!!」
「ゆぜぇ、ぜぇ・・・ゆ、ゆっくりしていってね。」

「ありしゅは、これからはみんにゃの『かいぬししゃん』よ!ゆっくち、かわれていっちぇにぇ!!」
「ゆぅ・・・ゆ?」
「みんにゃは、ありしゅの『かいゆっくり』よ!ゆっくちしちぇにぇ!!」
「・・・・・・ゆ?」



「な、なにいっでるのぉおおおお!?」×4



『ゆっくり飼いゆっくりキット』。

それが、商品の正式名称である。
この商品は、飼いゆっくりに『野良ゆっくり』という、
死にやすく、ワガママで、扱いづらい生物の飼育体験をしてもらうことを、目的として作られた教育キットだ。

人間の場合、情操教育として『生き物を飼う』と言うのは大変効果的であると言われており、
それはゆっくりでも同様であると、研究結果からも明らかにされている。
そこで、『野良ゆっくり』の飼育を通じて、飼いゆっくりの情操教育を行う事を狙いとして、
この商品は開発されたらしい。
そのため給餌機などは飼いゆっくりでも扱えるようなスイッチ式だし、
キットの付属品である清掃用具等は全てゆっくり用サイズで作られている。

キット自体かなり大きいので、購入層は限られるが、なかなかの人気商品とのことであった。

私も少々無理をしてしまったが、これでありすが都会派な淑女に育ってくれるなら、悪い買い物ではないと思う。

・・・ありす、都会派に育ってね!



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「ごはんのじかんよ!ゆっくちたべちぇにぇ!」

ピッ!ピッ!ピッ!ザラザラザラ・・・

「ゆぅ、ゆっくりたべるのぜ。むーしゃむーしゃ・・・それなりー。」
「「「むーしゃむーしゃ、それなりー。」」」

ありすが『かいゆっくり』を飼育し始めて3日。

ありすは、今日も忘れず自分の『かいゆっくり』達に、餌を与えている。
と言っても、透明な箱の外側に設置されたスイッチボックスの、餌ボタンをキッチリ3回押すだけである。
すると、透明な箱の内壁に取り付けられた、自販機を小さくしたようなデザインの給餌機から、
餌皿に家族一食分の餌が出てくるようになっているのだ。

基本的に、キットは飼いゆっくりが容易に、かつ安全に野良ゆっくりを飼育できるように設計されている。
飼いゆっくりが、野良ゆっくりのいる、透明な箱の内側に入って餌をやるというのは、
人間が猛獣の檻に入るようなもので、大変危険なのだ。
当然、全く透明な箱の中に入らずに野良を飼育する事はできないが、
その際は、少々手間をかける必要がある。
例えば以下の通り・・・



食べれば出すのが生き物である。

「「うんうんしゅるよ!しゅっきりー!!」」
「ゆわぁ!?まっちぇー!おといれしゃんでしちぇー!」

ありすは、おトイレでの排泄を促す。
なにせこの一家はありすの『かいゆっくり』。
躾ける義務があるのは、ありすなのだから。

「そんなのしったこっちゃないのぜ!すっきりー!」
「れいむのすてきなうんうんをみせてあげるね!すっきりー!」

だが、そんな事を簡単に聞いてもらえれば、生き物を飼う苦労はない。

「ゆぁ。ときゃいはじゃにゃいわ・・・おそうじしにゃいと・・・。」



「(ゆっへっへ。こっちにありすがはいってきたら、つかまえて、おねーさんをおどしてやるのぜ)」
「(そうだね。このおねーさんのおうち、れいむたちがいただきだね)」
「(あみゃあみゃしゃんも、いっぱいいただきだにぇ)」

それに、この一家は元野良である以上、単に行儀が悪いだけでは無い。
悪だくみの内容は、いかにも野良ゆっくりの考えそうなことではあった。



「じゃあ、みんなおうちのなかにはいっちぇにぇ!」
「ゆ!?」×4

だが、そんな一家に対して、ありすは一本の細長い棒を向ける。

「ゆぅ?なんな・・・」

ビリリッ!!

「ゆびゃぁぁあああ!!」
「れ、れいむぅぅううう!どうぢだ『ビリッ!』ゆびぃぃいい!?」

これは、キット付属品『ゆ追い棒』。
見た目は釣竿のように軽くしなった棒で、先端付近に触れると電気ショックを与える構造になっている。
『かいゆっくり』を『おうち』の中に追い込む時に使用する道具だ。

「さあ、はやくおうちにはいっちぇにぇ。」
「やべでぇぇぇぇええ!!」×4

『ピッ!』ガシャンッ!!

そして、犬小屋風の『おうち』の中に一家4匹が入ったところで、
ありすはスイッチボックスの、おうち閉鎖ボタンを押す。
おうちの入り口を鉄格子の扉が塞ぎ、一家は完全に中に閉じ込められた。

「ときゃいは!・・・よ~し、おそうじ、がんばりゅわ!」

こうして『かいゆっくり』を隔離して、ようやく透明な箱内のお掃除ができるのである。
それも、ゆっくり用の小さなスコップ、ちりとり、モップなどを使って、自分でやってあげなければならない。
手間がかかるし、いかに自分のペットのモノでも、排泄物の掃除は嫌なものだ。

「ごーしごーし、ごーしごーし。ちゃんとしつけにゃいと・・・ありしゅ、まけにゃいわ!」

おトイレで排泄させれば、こんな大変な作業はせずに済むのに。
『かいゆっくり』達に言う事をきかせるのが、こんなに大変なんて。

・・・このような事を体験するうち、
飼いゆっくり達は、他者が自分の思うようには動いてくれない事、
躾けの大切さ、働く事の大変さなどを学んでいくのだ。



それに、

「ゆっへっへ、まりさたちのうんうんをおそうじしてるのぜ。」
「ありしゅは、れいみゅたちのどれいなんだにぇ!」
「おそうじしたら、まりしゃにあみゃあみゃもってくるのじぇ!」

飼われ始めの『かいゆっくり』達は、大抵の場合このような勘違いをする。
なので、

「うんうんをおもらしするなんちぇ、とかいはじゃにゃいわ!ゆっくちはんせいしちぇにぇ!」

ビリビリビリッ!

「ゆびゃぁぁああああ!!」×4

ありすはゆ追い棒を『おうち』の鉄格子から中に差し込み、
中に閉じ込められている一家に、しっかりとお仕置きをした。

このように、野良ゆっくりに上下関係を教える方法も、
飼育経験の中から自然に学んでいくのである。



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ぬっちょぬっちょぬっちょ・・・

「「すっきりぃぃいいい!!」」



「ゆ、ゆっぴゃぁぁあああん!?どうしてすっきりしちぇるのぉおお!?」

ありすが『かいゆっくり』を飼育し始めて数週間、ありすもそろそろテニスボールサイズとなり、
子ゆっくりと呼んでいいくらいに成長した頃、ちょっとした事件が起きた。

「れいむはもっとおちびちゃんがほしいんだよ!すっきりするのはとうぜんでしょ!ばかなの?しぬの?」
「ゆふぅ~ん。きもちよかったのぜぇ。」

ある意味予想通りの展開なのだが、父まりさと母れいむが、
ありすの言いつけを守らず、勝手にすっきりーしておちびちゃんを作ってしまったのである。
母れいむの頭上には早くも、6匹の可愛らしいおちびちゃんが実り始めている。
このまま放っておけば、数日後には家族の数も倍以上になる事だろう。

「まりしゃのいもうと、はやくうまれるのじぇ!」
「ゆぁーい!れいみゅ、おにぇーしゃんだー!」

すでに子ゆっくりサイズに成長している子れいむ・子まりさ達はのん気なものだが、
飼い主であるありすはそうはいかない。

「(おちびちゃんがふえちゃったら、ごはんがたりなくなっちゃうわ・・・とかいはじゃにゃいわ・・・。)」

実際は、私が購入する餌の量を増やせばどうとでもなるのだが、
以前ありすとは、あえてこのような話しをしていた。

「ありす。『かいゆっくり』達は、すっきりーさせちゃだめだよ。増えちゃうから。」
「しょ、しょうにゃの?どうしちぇ?」
「うん。あの子たちのご飯って、私が狩ってきてあげてるでしょ。
でも、今よりたくさん狩ってくるのは、ちょっと大変なのよ。
だから、これ以上増えたら、ご飯が足りなくなっちゃうの。」
「ゆ、ゆっくちりかいしちゃわ!ごはんがないのは、とかいはじゃにゃいわ!!」

まあ、このキットは躾のなってない野良ゆっくりを飼う前提なので、
こういう時の対処用セットは同梱されている。
ありすがそれを忘れてなければ、適切に対処してくれるだろう。

ダメなら、私が自分で処分するだけだし。



「すーやすーや・・・」「ゆぴぴぴ・・・ゆぅ・・・」

ありすはあの後、『かいゆっくり』達の餌に睡眠薬のラムネを混ぜて食事させ、一家全員眠らせた。
当然ラムネも、この後使う道具も全部、キットに同梱されていたものだ。

「ゆぅ・・・こんにゃの、とかいはじゃないけど、ごめんにぇ。」

透明な箱の内側に入ったありすが今、口に咥えているのは、
ゆっくり用座薬が4つとゆっくり用ペンチ。

まずありすは、座薬を一匹に一つづつ、あにゃるにそっと挿入する。

ぐぬ。ぬぬぬぬぬ・・・。

「ゆぅ・・・ゆぅ・・・ゆふぅー、ゆふぅー。」

間もなく4匹は、顔を紅潮させ、荒い息使いになる。
そしてその熱はまもなく、4匹の体の一部分、ぺにぺにに集中し始め、
すっきりーをする時の倍以上にまでぺにぺにを怒張させた。

言うまでもなく、あの座薬はゆっくり用の興奮剤である。

「ゆっく・・・ごめんにぇ。いたくしないからにぇ・・・」

十分に4匹のぺにぺにが怒張した事を確認すると、ありすは口にペンチを咥え、
そっと父まりさのぺにぺにの根元にあてがう。

ぐちっ・・・みち、みちみちっ・・・ぷちり。

父まりさのぺにぺには、ペンチによって潰し千切られた。
傷口は完全に押しずぶされて閉じられているので、餡子一滴漏れる事は無い。
これで、父まりさは永久にすっきりーすることはなくなった。

そう、これらは、『かいゆっくり』用去勢セットだ。

ぐちりっ。ぷち。みち。

残りの3匹も、何の抵抗もなく、あっさりと去勢は終わった。
これで、今後この一家が余分なおちびちゃんを作る機会は、永遠に失われたのだ。



「ゆぅ、おわったわ。あとは、こっちだけにぇ。」

あとの問題は、現在母れいむの頭上に実っている6匹のおちびちゃん達。
その表情は未来を夢見る、不安も緊張も欠片もない、本当にゆっくりしたものである。
・・・だが、ありすは飼い主としての責任に賭けて、このおちびちゃん達を産みおとさせるわけにはいかないのだ。

「ごめんにぇ。でも、ありすはおちびちゃんたちを、そだててあげられにゃいの。」

そう言うとありすは、足元から先に黄色い液体が付いた絵筆を口に咥え、
母れいむの頭上で眠るおちびちゃん達の顔面に、ぺしゃりと液体を一塗りした。

「ゆぅ・・・ぎっ!?ぴぃっ・・・ぎょっ・・・ぺ!?げびゅっ・・・」

その黄色い液体は、ゆっくりにとっての猛毒、練りカラシ。
薄めすらされていないカラシを顔面に塗りつけられたおちびちゃん達は、
絶望的な苦痛の表情を浮かべ、声にならない悲鳴を一瞬絞り出して、そのまま息を引き取った。



ありすが踏ん切りつかなかったら、
もっと実ゆっくりが苦しまずに処分できる方法を教えてあげようと思っていたが、
どうやら失礼な考えだったらしい。

ありすはすでに、命を育てる者の責任、果たさなければならない義務の重さというものを、
はっきりと理解していたのだ。



「どうぢで、どうぢでおぢびぢゃん、ぢんでるのぉぉおおお!?」
「ゆぅぅ、しょうがないよ、れいむぅ。またすっき・・・まりさのぺにぺに、どこいっちゃったのぉおお!?」
「「ゆぴゃぁぁん、ぺにぺにしゃん、どこいっちゃのぉおお!?」」



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「ゆぁ~ん。ありす、れいむのおうちにおとまりしたいのよ~!おね~さぁん。」
「そんな事言ってもねぇ。私も明日はいないのよ。あなたの『かいゆっくり』はどうするのよ。」
「ごはんさんは、たくさんおいていけばだいじょうぶよ~。いちにちだけ。いいでしょぉお!?」

ありすが『かいゆっくり』を飼育し始めて3カ月が経った。
ありすもそろそろバレーボールサイズとなり、体だけならそろそろおとなと言ってよいだろう。
餌の違いのおかげで『かいゆっくり』達は大してサイズが変わってないので、
なおさらすくすくと育った印象を受ける。

で、何を言い争っているのかと言うと、
ありすが明日、お友達のれいむ(無論『かいゆっくり』の方では無く、別の家の飼いれいむのこと)の家で、
お泊り会をしたいと言いだしたのが原因だ。

飼いれいむの飼い主は、私もよく知る人で、一晩預かってもらうのはむしろありがたいくらいなのだが、
問題はそんなことではない。

『かいゆっくり』の世話に、どうやらありすが飽きてしまったようなのである。

一日三食の餌を、しばしばやり忘れたり、おトイレや透明な箱内の掃除を怠ったり。
『かいゆっくり』達を去勢した頃にはあった責任感が、ここにきて低下してしまうあたり、
やはりゆっくりはゆっくりか、と言ったところだが、人間だってこういうことはたまにある。

これは、失敗が起こる事を承知で、好きにやらせるしかないだろう。
そこから得られる反省と言うものもある。



「しょうがないわね。でも、なにかあったら、ありすの責任よ。わかった?」



「ありすがいなくても、みんな、ゆっくりおるすばんしててね!」
「ゆっくりりかいしたよ!!」×4

翌日、ありすは『かいゆっくり』一家に、普段の一日分、餌ボタン9回押し分の餌を餌皿に出し、
大はしゃぎでお泊まり会に行ってしまった。
私も仕事に出てしまったので、『かいゆっくり』達は丸一日、初めての留守番を任される事になった。

そして、当然ながら、悲劇は起こったのである。



「むーしゃむーしゃ、しあわせー。」
「むーちゃむーちゃ!むーちゃむーちゃ・・・ゆぅん、れいみゅ、もっとたべちゃいよぉ。」
「ゆゆっ!?そうだね!こんなにたくさんあるもんね!」
「ゆわーい!やったのじぇー!」

むーしゃむーしゃ、しあわせー・・・
もっとむーしゃむーしゃしようよ・・・
むーしゃむーしゃは、ゆっくちできりゅねー・・・

数十分後。

「ゆわぁぁあん!!ごはんさんがもうないよぉおお!!」
「どうしてしょんなこというのぉおお!?」

まだ朝だと言うのに、この日一日分のご飯を、きれいさっぱり食べつくしてしまったのだ。

「ゆぅ。しょ、しょうがないね。あしたにはありすもかえってくるっていってたし、ゆっくりまとうね。」
「「ゆっくちりかいしちゃよ。」」
「『のら』だったときは、こんなのいつもだったもんね!ゆっくりまとうね!!」

だが、同じでは無かったのである。

この日の夕方。

「ゆぅ、ゆぅぅ・・・どうぢで、こんなにおなかすくのぉ・・・」
「ゆっくち・・・む、ちゃむーちゃ、しちゃいよぉ・・・」

一家は、息も絶え絶えで餓死寸前にまで陥っていた。
それは、『ゆっくり飼いゆっくりキット』専用の餌が大きな理由である。

そもそもこのキットは、きちんと餌やりや世話を行わなければ、
『かいゆっくり』達が簡単に命を落とすように設計されている。
理由は簡単で、『かいゆっくり』達を不注意や手抜きの結果死なせてしまうことを、
飼い主であるゆっくり達に体験させる事が、このキットの大きな目的の一つだからだ。
そうした失敗の反省から、責任感や継続性といった能力を身につけてもらうのだ。

それでこの専用餌なのだが、実は微量の下剤と、消化阻害剤が混入されている。
だからガツガツ食っても大して栄養にならず、しかもあっという間にうんうんとして排泄されてしまう。
餓死を避けるためには、一日3食程度に分け、腹に常に何か入ってる状態を維持するしかないのだ。

「ゆぴぃ・・・う、うんうんしゅるよぉ・・・」
「おぢびぢゃ、やべでね。これいじょううんうんしちゃったら、しんじゃうよ・・・」
「しゅ・・・しゅっき『もりゅん』・・・・・・」

「おち・・・おちびちゃぁぁぁああん!!」

「ま、まりしゃ・・・うんうんでちゃうのぢぇぇ・・・」
「まっでぇ!おぢびぢゃん!うんうんしちゃだ」
「じゅっぎり『もりゅん!』・・・もっぢょ、ゆっぐぢ・・・した、かっちゃのじぇ・・・」

「お、お、おぢびぢゃぁぁあああああん!!ゆっぐぢ、ゆっぐぢぢでぇぇええええ!!」



翌日。
ありすが透明な箱内で見たものは、
考えられないほど大量のうんうんと、
そのうんうんの山の中で餓死した2匹の子ゆっくり、
そして、餓死寸前でなお、おちびちゃん達にすーりすーりしながら放心している父まりさと母れいむの姿だった。

「ゆ、ゆ、ゆぴゃぁぁあああああ!!ごめんなさい!ありす、ありすはいなかものだったわぁぁあああ!!」
「む・・・しゃ、むーしゃ・・・」
「ゆっぐぢぢで、ゆっぐぢたべてぇぇえええ!!」
「おぢびぢゃ・・・ゆっぐぢぢでぇ・・・」
「ごめんなざい!ごべんだざいぃぃいいい!!おねえざん!れいむたちをだずげであげでぇぇ!!」

予定された悲劇だった。

だが、この経験は、ありすを本当の都会派へと成長させてくれるだろう。
自分の義務はおろそかにしない、そして他者に思いやりのある、
あと、食べ物の大切さをしっかりと理解した、本当の都会派へと。



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ありすが『かいゆっくり』の飼育を始めた頃から、半年がたった。
ありすもすでに、成体ゆっくりまで成長し、野生であればそろそろつがいを作って家族を持つ頃である。

そこで私は今日、ありすにプレゼントを買ってあげた。

「ありす、ゆっくりしていってね!」
「ま、まりさ、ゆっくりしていってね!!」

ありすの旦那さん、とてもゆっくりした成体まりさである。

「ありす、あなたのお婿さんよ。気に入った?」
「あ、ありがとう、おねえさん!ありす、しあわせーになるわ!!」
「まりさもありすを、せいいっぱいしあわせーにしてあげるのぜ!!」

すーりすーり、すーりすーり・・・

どうやらとても気に入ってくれたらしい。
飼い主の私が言うのも何だが、ありすは本当にゆっくりしたゆっくりに成長してくれた。
優しさ、責任感、良識、忍耐、どれを見ても、そこらの飼いゆっくりとは比較にならないだろう。
これも、あの『かいゆっくり』達を飼育した数か月のおかげだと思う。
どれだけ感謝してもしきれない。



ちなみに、あのれいむとまりさの夫婦は、おちびちゃんを全て失い、
そして新たなおちびちゃんを得る事も、ぺにぺにを失っていて不可能だと理解した頃から、
少しずつ、しかし確実に衰弱していった。

あの2匹が息を引き取ったのは今から一か月ほど前の事だった。
数年の寿命をきっちり全うできる飼いゆっくり達はともかく、
死にやすく、繁殖行動が極めて重要な野良ゆっくり達にとって
『おちびちゃん』という存在はそれほど大きいものだったのだろう。

2匹の死に顔は、絶望に曇った悲しげなものであったが、
ありすが見ると悲しむだろうから、糸で笑顔に固定して、血色良く化粧してあげた。

ありすには、『最後はありすにとても感謝して息を引き取ったよ』と吹きこんでおいた。
最終更新:2010年10月06日 19:52
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