上京物語 外伝 「キシダさん」



276 名前:1 ◆trB/oNqUGM :2012/03/08(木) 21:40:33.16 ID:WOx/c89e0
上京物語 外伝「キシダさん」

277 名前:1 ◆trB/oNqUGM :2012/03/08(木) 21:41:07.45 ID:WOx/c89e0
ぼくがまだ16歳の頃。
上京してしばらく経ち、毎日寝る間も惜しんで働く日々だった。
いくつも仕事を掛け持ちしていたけど、どれも楽しくて、辛いと感じたことはほとんどなかった。

特に夕方からの飲食店での仕事は、元々接客や料理が好きだった事もあり、
毎日楽しく充実していた。

ある日、アルバイトの面接に来ていた男性が目に付いた。
隅のテーブルで大将(店長)が向かい合って話をしている。

2人にお茶を持っていったホールの小向さんが、しかめっ面で戻ってきた。

ぼく「どしたんですか?」

小向「臭かった・・・。」

ぼく「あの人が?」

小向「多分・・・。」

その男性、キシダさんは採用となり、早速明日からホールとして入ることになった。
が、それを聞いた他の従業員はあまりいい顔をしなかった。

278 名前:1 ◆trB/oNqUGM :2012/03/08(木) 21:42:25.80 ID:WOx/c89e0
その後お客さんがぞろぞろとやってきて、
ようやく一段落した時、ぼくと大将は少し話をした。

大将「さっきの子な。」

ぼく「面接来た人ですか?」

大将「おう。今カプセルホテルで泊まってるんだって。」

ぼく「上京して住むとこないって事ですか?結構歳いってそうだったけど・・。」

大将「31歳。 明日ちゃんと風呂入ってから来いって言ったら 

    今日カプセルホテル泊まる金がないっつって・・・・・ww」

ぼく「よく採用しましたねww」

大将「金持ってバッくれるかなww」

ぼく「金渡したんや・・・ww人がええなあ。」

次の日、店に電話がかかってきて、大将が怒った様な、でも半笑いで出かけていった。
キシダさんがカプセルホテルの代金を払えず、うちの店に連絡してきたらしい。
後で話を聞くと、寝過ごして延長料金がうんたら。と言っていた。

279 名前:1 ◆trB/oNqUGM :2012/03/08(木) 21:43:57.69 ID:WOx/c89e0
大将が呆れたような顔でキシダさんを連れて店に帰ってきた。
「服洗いなよ」とか言われながら、店の制服を渡されていた。

ぼくは厨房と接客の両方を担当していた。その日はホールに出ていて、
他の人が若干嫌がっていたので、ぼくが仕事を教えることになった。
嫌な匂いはほとんどしなくなっていた。風呂にはちゃんと入ったんだろう。

大将「キシダさん。(紹介)」

ぼく「Kです。よろしくお願いします。」

キシダ「あ、はい・・・よろしく・・・はい・・。」

大将「お客さんにはもっとはっきり喋れる?」

キシダ「あ、頑張ります・・・。」

その日はとりあえず空いた席の片付けなんかをやってもらう事にした。

ぼく「いらっしゃいませー!」

キシダ「・・・・・。」

ぼく「キシダさん。 声出す練習しましょう。」

キシダ「あ、はい。 いらっしゃいませ・・・。」

その日は客入りが落ち着いていたこともあって、少しだけ仲良くなった。
でも接客向きの性格ではないかな。と思いぼくは大将に「厨房に入れてはどうか」と提案した。
大将は「衛生面が怖い」と却下した。

「じゃあ雇うなよ」と思ったけど、
大将は気は荒いが情に厚い人だった。
住む所も行く所もないという事を気の毒にでも思ったんだろう。
他の従業員からの非難も、受ける覚悟は出来ていたようだった。


280 名前:1 ◆trB/oNqUGM :2012/03/08(木) 21:45:28.77 ID:WOx/c89e0
大将の店には常連客がたくさんいた。

ぼく「いらっしゃいませ。」

常連A「お疲れKちゃん。 あの人新しい人?」

ぼく「昨日入ったばっかです。キシダさん。」

常連A「あの人顔おかしくない?ダウン症?」

キシダさんは、顎と額が妙に出っ張っていた。
背もやたら低くて、初日から影で他の従業員に容姿の悪口を言われている。

当時ぼくは、大将の店で共に働いていた同い年の子と付き合っていた。
パローレと言う名前の、ちょっと変な子だった。

パローレ「いい人そう?」

ぼく「分からん。」

パローレ「まだ挨拶してない・・・。」

ぼく「行くか。」

パローレ「いい いいww 一人で行ってくる。」

戻ってきたパローレは「目を合わしてくれない」と言っていた。

281 名前:1 ◆trB/oNqUGM :2012/03/08(木) 21:46:08.04 ID:WOx/c89e0
ぼく「住むとこないんやって。」

パローレ「キシダさん?」

ぼく「うん。一応給料前借りって形で大将がちょびっとづつ金渡すらしいけど。」

パローレ「ホテル暮らし?」

ぼく「カプセルホテル。でもそんなんじゃいつまで経っても部屋借りれんよな。」

パローレ「ちょっと~・・・。」

ぼく「あ、分かった?ww」

パローレ「分かるよ~・・・。」


お客さんが一段落した後、キシダさんと話した。

ぼく「僕一人暮らしなんですよ。」

キシダ「あっ・・ああ~。偉いね若いのに・・16だったっけ。」

ぼく「部屋見つかるまでうち来ます?」

キシダ「え? どういう・・」

ぼく「んと 寝泊りぐらいならうち使いますかって。」

キシダ「いや いいよ悪いよ・・。」

ぼく「そうですか。」

キシダ「えっ うん・・・。」

いじわるした。


282 名前:1 ◆trB/oNqUGM :2012/03/08(木) 21:46:51.94 ID:WOx/c89e0
キシダさんは多くの従業員からあからさまに避けられていた。
手が触れ合ったり、近くを通る時まで過剰に嫌がる素振りを見せる。
例外はパローレと大将、あとはベテランの紫蘇さん(女)くらいだった。

紫蘇さんとパローレは、僕が厨房に入っている間キシダさんに色々教えていた。
「結構喋る人だよ。」と言っていた。

従業員間では歓迎会や送別会など、
なんかしら理由をつけて飲み会を開くのが多かったが、キシベさんの歓迎会はなかった。
他と比べて歳が離れているという理由も大きかったと思う。


283 名前:1 ◆trB/oNqUGM :2012/03/08(木) 21:47:43.03 ID:WOx/c89e0

なので歓迎会と言えるほどでもないが晩ご飯を食べに行く事にした。

土曜日は大将の店が終わると深夜の仕事が休みなので、
週に1度その日だけはパローレと帰ったりご飯を食べに行ったりしていた。

ぼく「今日はキシダさんとメシ食いに行ってもいいですか。」

パローレ「うん いいけど 3人で?」

ぼく「あ いや、すいません。 俺だけで。」

パローレ「あ、二人で行くの?」

ぼく「そんなもん16の子らに囲まれてじゃ居心地悪いやろ。」

パローレは意外にもあっさり了承してくれた。

店をあがった後、30分先にあがりだったキシダさんは待っていてくれた。、
そしてそこらの適当な居酒屋に入った。

284 名前:1 ◆trB/oNqUGM :2012/03/08(木) 21:48:30.13 ID:WOx/c89e0
キシダさんは人見知りではあるが気を許すと(?)よく喋る人だった。

腹も膨れてしばらく駄弁っていると、こんな事を言い出した。

キシダ「パローレさんっていい子だね。親切に教えてくれるし。」

ぼく「いい子ですね。」

キシダ「でも高校生だからなぁ~・・・・。」

ぼく「どしたんですかww」

キシダ「いや電話番号渡されてさあ・・・。」

付き合ってるとは言っていないが、なんですぐバレる嘘をつくんだろうと思った。

ぼく「家の番号ですか?」

キシダ「いや携帯の番号ね・・・。」

当時パローレはまだ携帯を持っていなくて、
PHSを購入したのがこの少し後ぐらいだった。

ぼく「どーするんですか?」

キシダ「いやまあ彼女いるからさあ・・・。」

ぼく「へー。 東京の人ですか?」

キシダ「うん まあね。この子。」

財布の中から写真を出して見せてくれた。女性が二人写っていた。

キシダ「右の子ね。」

285 名前:1 ◆trB/oNqUGM :2012/03/08(木) 21:49:25.56 ID:WOx/c89e0
機嫌良く喋るキシダさんだったが、とりあえず忠告する事にした。

ぼく「キシダさん。パローレなんですけど。」

キシダ「うん。」

ぼく「一応 僕の彼女なんですよ。」

キシダ「あ~・・・・。」

ぼく「んで あの子まだ携帯とか持ってないし。」

キシダ「・・・・・・・・・。」

ぼく「年上の方に説教するのもアレですけど、変な嘘は身を滅ぼすって言うか、

    やめた方がいいと思いますよ。」

キシダ「・・・・・・・・・・。」

しばらく沈黙が続いて、「出ますか。」と行って店を出た。

ぼく「ホテル代も馬鹿にならんし、うち泊まりましょか。」

キシダ「いや、もう予約してあるんで・・・・。」

と言うのでそこで別れた。

月曜日、キシダさんは出勤してこなかった。

その次の日も来なかった。

286 名前:1 ◆trB/oNqUGM :2012/03/08(木) 21:49:56.41 ID:WOx/c89e0

大将「多分トんだなあ・・・。」

ぼく「連絡先とかは・・・。」

大将「ねえよそんなもん。」

ぼく「でしょうね。」

~~~~~~~

ぼく「多分やめたっぽい。」

パローレ「そうなんだ・・。良かったぁ~・・・・。」

ぼく「なんでよ。」

パローレ「だって・・・言わなかったけど倉庫の在庫教えてる時抱きつかれた。」


ぼくは久し振りに腹の底から爆笑した。

287 名前:1 ◆trB/oNqUGM :2012/03/08(木) 21:50:24.38 ID:WOx/c89e0
上京物語外伝 「キシダさん」 劇終

288 名前:1 ◆trB/oNqUGM :2012/03/08(木) 21:51:32.59 ID:WOx/c89e0
忘れたままメモ帳に残ってたから貼った

キシダさん今なにしてはんねやろか

289 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(西日本) E-mail:sage :2012/03/08(木) 22:01:57.79 ID:ipOS8xlTo
後ろにいるよ

290 名前:1 ◆trB/oNqUGM :2012/03/08(木) 22:07:30.12 ID:WOx/c89e0
ほんまや

びっくりしたけど元気そうで何より

291 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(愛知県) E-mail:sage :2012/03/08(木) 22:48:39.75 ID:iD+0I/jdo
 >>286
爆笑したんかいww
パローレから殴られたやろ?

293 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(愛知県) E-mail:sage :2012/03/09(金) 00:05:28.41 ID:M7vm2rfqo
そいや、今のパローレは幸せなんかい?

296 名前:1 ◆trB/oNqUGM :2012/03/09(金) 13:47:42.59 ID:XXPPxZ470
多分結婚してんちゃうの
調べりゃすぐ分かるやろけど なんかなあww

 >>291
ふーんって言われた と思う

301 名前:以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします(愛知県) E-mail:sage :2012/03/10(土) 01:09:31.34 ID:FvEcxRZ7o
 >>294
岸部四郎に似てたのかもわからんね

Kちゃんが今は30だから当時31だったキシダさんは45くらいか?

302 名前:1 ◆trB/oNqUGM :2012/03/10(土) 03:30:23.18 ID:y5LQxGvn0
 >>301
そうね 45くらいか。生きてるかなww






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最終更新:2012年04月11日 02:13