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アルカディア翻訳会(2008年9月) 
                         
① 十九分あれば、前庭の芝生を刈れるし、髪を染めることも、ホッケーの試合を三分の一観ることもできる。十九分あれば、スコーンを焼けるし、歯医者で歯を一本詰めてもらえる。五人家族の洗濯物もたためる。
 十九分は、テネシー・タイタンズのプレイオフのチケットが売り切れるまでの時間。コマーシャルを除いたコメディードラマの長さ。バーモント州の州境からニューハンプシャー州のスターリングの町まで車で行ける時間だ。
 十九分あれば、ピザを注文して届けてもらえる。子どもにお話をひとつ読み聞かせられるし、オイル交換もできる。一キロ半歩ける。服のすそも縫える。
 十九分間で、地球を止めたり、地球から飛び降りたりできる。十九分間で、復讐を果たすことができる。
 
② いつものように、アレックス・コルミエは時間に遅れていた。スターリングの自宅からニューハンプシャー州グラフトン郡の上級裁判所まで、車で三十二分かかる。それもオーフォードを猛スピードで走り抜けなければならない。彼女はハイヒールと週末家に持ち帰ったファイルを抱え、ストッキングをはいた足で階段を駆け下りた。ふさふさした赤茶色の髪を丸めて首の付け根にピンで留め、家を出る前になるべき姿に変身した。
 
③ アレックスが上級裁判所の裁判官になってから三十四日がたっていた。この五年間、地方裁判所の裁判官として気概を示してきたので、今回の職はこれまでよりは楽そうだった。だが、四十歳の彼女はまだ、州の裁判官の中で一番の若手だ。公正な裁判官として確たる地位を築くために、まだまだ奮闘しなければならない。法廷では国選弁護人としての経歴が先行していたし、検察官からは被告側につくにちがいないと思われている。数年前に裁判官の職に志願したとき、この法制度の下にある人は有罪と証明されるまで確実に無罪であるようにしたいと心から願っていた。裁判官としての自分に「疑わしきは罰せず」の原則が適用されないことなど、想像だにしていなかった。
 
④ 入れたてのコーヒーの香りに誘われて、アレックスはキッチンに入った。娘のジョシーがキッチンテーブルについて、湯気の立つマグカップの上にかがみこみ、夢中で教科書を読んでいた。見るからに疲れ切っている。青い目は充血し、栗色の髪はくしゃくしゃのポニーテール。「徹夜なんかしてないって言って」アレックスは言った。ジョシーはちらりとも目を上げずに、「徹夜なんかしてないわ」と鸚鵡返しに言った。アレックスは自分でカップにコーヒーを注ぐと、娘の向かい側の椅子にそっと腰を下ろした。
 「本当に?」
 「ママがそう言えって言ったんでしょ」ジョシーが言った。「本当のことを言えとは言わなかった」
 アレックスは顔をしかめた。「コーヒーはよくないわ」
 「じゃあ、ママもタバコを吸うのはよくない」
 アレックスは顔が熱くなるのを感じた。「吸ってなんか・・・」
 「ママ」ジョシーがため息混じりに言った。「バスルームの窓を開けたって、タオルに匂いがついてるのよ」 ちらりと見上げた目つきは、ママはほかにも悪いことをしているんじゃないのと言うように挑戦的だ。
 
⑤ アレックス自身はタバコ以外に悪いことはしていなかった。悪いことをする“時間”がなかった。ジョシーも悪いことは何もしていないとわかっていると断言したかったが、彼女について世間の人たちと同じように推測することしかできなかった。かわいくて人気があって、成績はオールA、まっとうな道を踏み外したらどんな結果になるか、十分わきまえている生徒。立派な行いをするよう運命づけられた女の子。こんなふうに育ってほしいとアレックスが願っていたとおりの少女。
 
以前、ジョシーは裁判官の母親をとても自慢にしていた。銀行の窓口係や食料品店のレジ係、機内のフライトアテンダントにまで母親の職業を言いふらしていた。彼女の裁判や判決について聞きたがった。三年前、ジョシーが高校に入学するとそれが一変し、ふたりの間のコミュニケーションのトンネルは少しずつふさがれていった。アレックスは必ずしも、ジョシーはほかのティーンエージャーより隠し事が多いとは思っていなかったが、それは別問題だった。普通の親は子どもの友達を隠喩を使って批評するだろうが、アレックスは法律に照らして批評した。
 
・In nineteen minutes, you can stop the world, or you can just jump off it.
jump off の意味が問題になりました。奥村さんから"Stop the World- I Want to Get Off"というミュージカルのタイトルをもじったのではないかとご指摘がありました。これは「地球を止めてくれ! 降りたいんだ!」などと訳されています。そうかもしれませんね。「飛び降りる」とそのまま訳せばいいかなと思います。
 
・her history as a public defender preceded her into her courtroom.
precede ・・・into という使い方について、奥村さんが見つけてくださった例文とコメントです。私もそう思います。
 
Angela let Jillson precede her into the office. She'd never been in here before, and she glanced around avidly.
She gestures for me to precede her into the room, where there is a comfortable sitting area.
課題では主語が history だからひねった言い方になるわけですね。
裁判官という前に弁護士という先入観があったということでしょう。
 
・Alex had submitted her name years ago for the bench・・・
三者三様の訳になりました。submit one's name に「名乗り出る」の意味があります。以下のような例文を見つけました。「裁判官を志願する」という意味ではないかと思います。
 
Branden Ore will return for his senior at Virginia Tech. Ore had submitted his name for the 2008 NFL draft but withdrew his name yesterday.  
Once the position opened up, he submitted his name for nomination and was elected shortly after by his national teammates.
 
・She just never anticipated that, as a judge, she might not be given the same benefit of the doubt.
give the benefit of the doubt は「疑わしきは罰せずとする」「好意的に解釈する」という意味です。be givenと受身になっていたのを私は見逃してしまいました。「判事として、疑わしきは罰せずという原則が自分には適用されないなんて予想だにしたことはなかった」(奥村さん)が正解ですね。
 
・Tell me you haven't been up all night.
普通なら「徹夜なんかしてないでしょうね」と訳すところですが、あとの娘のセリフに "You asked me to tell you something"とあります。「ママが徹夜してないって言えっていったからそう言ったんでしょ」という感じですね。それに合わせるために、「徹夜なんかしてないって言って」のように訳したほうがつながるのでよいと思います。
 
・dareing Alex to challenge her other vices.
challenge「・・・の事実を問題にする」の意味にとり、「お母さんは他にもいけない点があるんだからねとでも言いたげに、挑むように眼を上げた」(金田さん)が正解だと思います。
 
・"She would have liked to say・・・but she would・・・" 仮定法過去の形なのを見落としました。「娘が悪いことをしていないとわかってるのか?ともし聞かれたとしたら」という仮定が言外に隠れているのでしょうか。
 
・a normal parent might ・・・
最後の一文ですが、意味がよくわかりませんでした。