The Cancer Diet? 「がん予防に効く食品は?」

By Robert Langreth  

                    

食品やミネラルの多くはネズミの腫瘍を抑えている。ところが、人間への効果を証明するとなるとまた別問題である。
 
 ①オハイオ州立大学のがん研究者、ゲイリー・ストーナーはがん予防の突破口となり得るフリーズドライのクロミキイチゴを見出したかも知れない。彼は過去10年間でネズミに大量のクロミキイチゴを与え、効力のある発がん性物質を投与してきた。すると、クロミキイチゴを食したネズミはそれを食さないネズミより80%少なく結腸腫瘍が形成された。
 クロミキイチゴが前がん性病変の進行を抑えられるかどうかについては小規模な臨床試験が行われている。成功すれば、その効力を確認するための大規模な臨床試験が必要となり、5年かそれ以上要することになる。
 従って、がんと食事に関する暗中模索が続いている。毎年、様々な食事に含まれる化学物質とがん予防との関連を示す臨床研究が賑やかに提唱される。たとえば、ブロッコリー、大豆、ケチャップ、小麦外皮、セレニウム。その後、そうした研究は大失敗に終わる。「ある週は緑茶が万能薬といわれたかと思うと、次の週にはデータが不十分とみなされる」と、ニューヨーク大学がんセンターに務める栄養学者、リンダ・キオは語る。「誰もが『どれを食べてどれを止めればがんから免れるのか教えてほしい』と尋ねるが、まだそこまで分かっていない」。彼女が伝えるのは、果物と野菜を豊富に摂り、赤肉(牛肉・羊肉など)を控え、スリムな体型を保ち、細かいことに気を煩わさないといったことだ。
 ②がん化するには何年か、もしくは何10年間かかかるので、信頼性のある試験を行うのは容易ではない。メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターで栄養学長を務める胃腸科専門医、モシェ・シャイクは誰もが耳にしたくないことを言う。「がんを間違いなく予防できる栄養療法は分かっていない」ハーバード大学公衆衛生学部の疫学者、ウォルター・ウィレットはさらに「一般的にどの特定食品ががん予防に効くかは正確な数値を出しにくい」と付け加える。
 ③食事ががんに影響を及ぼすと考える一つの理由は、食事が国によって異なるように、発生するがんも異なっていることだ。たとえば、日本人はアメリカ人に比べ、前立腺がんや乳がんの発生率が低いが、大豆や低脂肪食品を多く摂取するという事実に起因する。また、塩分の多い食品がみられる多くのアジア諸国では胃がんの発生率が高い。そこで、一部の見積もりでは、がんにかかる危険性の30%は食事に起因するという。
 しかしながら、ウィレットいわく、食事による危険性のほとんどは特定の食品によるものではなく、アメリカ人の肥満や膨らんだお腹に関係することが明らかになりつつある。それは喫煙に次いで2番目に挙げられる予防可能ながんの要因だと彼は言う。2003年における90万人を対象にしたある研究によれば、肥満はがんにかかる危険性を男性において52%、女性において62%も高めている。アルコールも多くのがんの危険因子として明らかである。こうしたことにより、特定の食品によるがんにかかる危険性はかなり控えめな6から7%に値するとウィレットは推定している。復員軍人援護局の研究者であるH・ギルバート・ウェルチは、心骨を注いで食事による解決策を見出そうとすることを「手間仕事」と呼び、新しい治療に投資したほうが賢明だと主張する。』
 最も話題になっているがんの危険因子と予防できる食品やサプリメント(栄養補助食品)に関する概要報告は以下のとおりである。
 
果物と野菜
果物と野菜は有効と考えられているが、証拠は「10年前に比べ益々乏しくなっている」と、ハーバード大のウィレットは語る。アメリカ医学会誌で報告された二大研究ではたとえば、乳がんの危険性と果物や野菜の摂取には何の関連も見出されていない。ところが、希望は永遠に湧き出るものである。最近委員会を開催した非営利によるアメリカがん研究所(AICR)は、果物や野菜を摂取することで、胃、食道、口腔のがんの危険性が恐らく低まると結論づけている。
 
赤肉
 多くの疫学的研究が示すとおり、赤肉を多く摂取すると、大腸がんの危険性を高めることになる。その理由は解明されていないが、焼いている最中に発生する発がん性物質も理由の1つだと考えられている。2005年、14万9000人の大人対象にアメリカがん協会が行った研究によれば、最も赤肉を食した人の大腸がんの危険性は40%高かった。AICR委員会は、赤肉と大腸がんの関係を「確実」と見なしている。
 
ビタミンA,C,Eとベータカロチン
 多くの人はがんその他の病気予防として期待されるこうしたベータカロチンや抗酸化サプリメントを摂取する。一部の抗酸化研究では中国で実施した1件の試験を含め、がんの危険性が減少した。ところが、数件行われた大規模な研究では効力は認められなかった。英国人2万人の心臓病患者を対象にした研究では、5年間にわたりビタミンと偽薬を比較したところ、がんの発生率や心臓病の危険性に違いはみられなかった。にも拘わらず、血中濃度のビタミンは増えている。2004年、デンマークは14件の予備試験を分析しているが、胃腸腫瘍の予防として、抗酸化ビタミンとベータカロチンは効き目がないことが分かった。
 今年、デンマークはより大規模な分析をアメリカ医学学会誌(JAMA)に発表した。ビタミンA、Eもしくはベータカロチン(ビタミンCははっきりせず)を過剰に摂取した人のほうが死亡の危険性が5%高いことを明らかにした。コペンハーゲン大学病院の上級著者、クリスチャン・グルードはサプリメントを使わないよう忠告している。
 業界団体の有用栄養物審査会いわく、がん研究は病人対象に行われ、健康人にもたらす抗酸化作用の解明に役立っていない。同会(および一部の医師)はJAMA研究が肯定的な結果を除外したことでゆがんでいると主張した。
 
大豆
 日本人男性はアメリカ人に比べ前立腺がんにかかりにくい。これには大豆を多く摂取していることが関係するのであろうか。大豆には腫瘍増殖を促すホルモンを抑制するエストロゲン化合物が含まれる。最近のある研究では、日本人男性4万3509人の食事を調査しているが、大豆を多く摂った人の限局性前立腺がんの危険性が半分であった。しかしながら、進行性前立腺がんの発生率は低くなかった。従って、五分五分である。
 
セレニウム
 この成分(ナッツ、肉や魚に含まれる)に対する関心が巻き起こったのは1996年のことで、アリゾナ大学の研究者らが、皮膚がん予防としてセレニウム・サプリメントを研究したところ、患者1312人の試験で予想外に前立腺がんの発生率を60%削減したことに気づいた。ところが、こうした結果は確実なものではなく、同研究ではセレニウムを摂取した人からある種の皮膚がんや糖尿病が高い割合で見つかっている。ある米国政府主催の研究では、3万5000人の健康な男性を対象にセレニウムとビタミンE両方またはいずれか一方と偽薬を比較しているが、問題の解決につながるであろう。5年間は結果がでないものとみられる。いずれにせよ、過度のセレニウムは有毒である。
 
トマト
 1995年、ハーバード大の研究者らは男性医療従事者4万8000人を対象に調査したところ、トマト商品をより多く摂った人のほうがその後6年にわたって前立腺がんと診断されにくい傾向があった。研究者らは、これは果物のトマトに含まれる抗酸化物質リコピンに起因すると考えた。ところが、食品医薬品局は最近、健康促進効能表示を求める会社に対応してがん、リコピン、トマトに関するすべてのデータを分析した。その結論は、リコピンがいかなる腫瘍をも予防できる「確かな証拠はない」ということであり、トマトが前立腺がんを食い止める「証拠は非常に限定されている」というものである。
低脂肪食
 研究者らは長きにわたり米国における乳がんの高い発生率が、高脂肪食に起因するものかどうか疑問に思ってきた。だが、大規模な臨床試験ではほとんど関係がみられなかった。一方、2006年の政府による調査では、4万9000人の閉経後の女性のうち低脂肪食を与えられた人は、その後8年にわたって乳がんの危険性が9%軽減されていることが分かった。とはいえ、その相違は統計的に有意な影響を及ぼさなかった(卵巣がんにおいては有意であった)。
 その一方で、2件の臨床実験において、低脂肪食が乳がんの再発を抑えられるかどうか調査した。1件は適度の効果がみられたが、もう1件は効力がなかった。
 
食物繊維
 別の説によれば、食物に含まれる繊維が腸から発がん性物質を取り除き大腸がんを防げるという。2003年、欧州人52万人(対照臨床試験ではなく)を追跡した調査では、食物繊維を最も多く摂った人の大腸がんの危険性が40%低かった。ところが、2005年の72万5000人を対象にしたハーバード大の調査では繊維性の食事が大腸がんの発生率に及ぼす影響は少なかった。一方、数件の対照臨床試験においては、高繊維質の食事やぬかのサプリメントがハイリスク患者にみられる前がん状態の大腸ポリープを予防できるかどうか調査したが、有意性はみられなかった。
 
 
     クロミキイチゴについて
Black raspberriesは下記サイトによれば、キイチゴ属の植物で、果実の色で赤ラズベリー、黒ラズベリー、紫ラズベリーに大別されます。黒ラズベリーをキイチゴ属のもうひとつの重要な群であるブラックベリーと混同しないようにと記してあります。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%BA%E3%83%99%E3%83%AA%E3%83%BC
     Branについては下記サイトにあるように、wheat branやrice branがありますが、ここではwheat branのことを挙げているので、小麦外皮と訳すのが妥当かと思います。「もみがら」の対訳も指摘されましたが、辞書によると「米を包んでいる外皮」となっておりますので、米に限定されがちではないでしょうか。
     red meatは赤身の肉ではなく、赤肉(牛肉・羊肉など)のことだそうです。一方、鶏肉やウサギ肉は白肉に分類されます。http://en.wikipedia.org/wiki/Red_meatをご参照ください。
     “tinkering”の対訳は「いじくり回し」「ムダな手間仕事」「時間の無駄」などありました。
     Human trialの対訳は「臨床実験」と同意の「治験」が医学翻訳で使われているようです。
最終更新:2008年05月05日 21:38