幕間 1


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ジジイの耳の穴の中は、一体どうなってるんだ?

別に耳垢が特別乾燥して硬いわけじゃないだろうし、穴の中がエラく強靱だからではないだろうが、朝頃のシップ点検を言い渡されて、
「操縦桿を直しとけ。シップのドアも開けづらくなっちょる」

昨日、軽々開けてたじゃねェか!オレの方が大変だったってのに。
で、操縦桿を工具使って直して、ドアの修理に取り掛かってみれば、粉々になったジジイの耳掻きが、隙間に入り込んでやがった。
詰まる所、踏みつけて割れでもした耳掻きが邪魔になったんで、蹴ってほっといたんだろう。迷惑なクソジジイ。
ついでに、いやなオバハンにも鉢合わせした。

ロンダという、弟のヴィンと組んで姉弟でシップに乗り込んでいるD・Bで、歳は四十くらいだ。
――実はこの姉弟、もしD・B登録の戸籍が個人申告でなければ、“兄弟”らしい。
人工的にあんな身体を造るには法外な金が必要だからこの稼業になった。と、もっぱらの噂だ。
ヴィンの人柄も尊敬に値する。
兄ちゃんが、姉ちゃんに変わるのを旗で見ながら、進んで協力してんだから。
そのたぶん彼女によると、「坊やと同じ場所に探査ミッションに飛ぶ」らしい。
つまり、オレらが昨日ジャックインした嬢ちゃんの居る地域と同じ場所、マホラに飛ぶらしい。
あのオバハンの場合、何を探査に行くのか分かったもんじゃない。ナンパつっても間違いないな。それでも、探査・哨戒に関してはエキスパートだ。あの身体でバレンシップに乗って、まだ捕獲をしたことが無いとは考えられない。
でも、今のミーム・マシーンは別地域対応のはずだ。まぁ、探査だから問題ないだろう。

ミクバ港の第十二番駐機桟橋で、いろいろ気分を害したことは有ったものの、今こうして“抜け穴”を覆うドーム近くの発着場に居る。
二重の稼働ゲートに仕切られた中のシップ内で、シートに腰をかけ、来たる“抜け穴”の通過を目前に、ゴーグルを装着して。

抜け穴”の中には大災厄が起きたその日から、異光が満ちている。
それは全体を覆い隠すドームの所々の隙間からも、輝きの片鱗を見せ続けている。見続けていると目がやられそうな光が白や黄色に変わり、時折雷のような筋が走るさまは、誰もが見たことがない不思議な光景であることには間違いない。
実際、肉眼で“抜け穴”の中を覗いた人間はいないのだから。
発着場に展開している磁場シールドの中で、既にシップ内蔵の コンピュータ・プログラムでのシップの解析データ収集が終わっている。装備備品は構成される元素の段階まで細分化されてデータに変換される。
その前には彼らの発する電気信号の採取・一時記憶が終わっている。
そして、強力な電磁波に乗り、“抜け穴”を通って、データだけが“場”で再構成され、そこで機能できる実体となる。もちろん、身体もシップも置き去りのままで。


この前のジャックインした時は町並みの全景は見れなかったが、今回はシップで飛びながら落ち着いて見ることができる。
特に“場”に大きな変化は無く、また夜の帳が降りていた。
町並みといったら、ものすごい。
建物のこの並びはトウキョウやオオサカの比ではない。深夜の街で明かりは少ないとしても、夜景はきれいだ。似た雰囲気の建物を探査先のD・Fで見たことがある。
市長はさぞかし苦労しただろう。
ただ、ジャックイン・ポイントにかなりの変化があった。ここまで変化したのは初めてなのだ。悪い状況に向かう兆候であって欲しくない。
夢の中で夢見てるような嬢ちゃんを見つけるために旋回を繰り返していると、これもまた、凝った感じの広い広場のど真ん中で両手を振り、腰まである髪を揺らしながら居場所を伝えていた。
なるべく広い空き地にシップを着陸させ、俺が苦労して掃除したドアを開けてマエストロと共に外に出た。
こんばんは、お嬢さん。お変わりないですかな」
歩きながらマエストロが優しく声をかける。
「うん、こんばんはマエストロさん」
ゆっくりと返事が帰ってきたので、俺も口を開き欠けるものの、不審な動きは見逃さなかった。
確か小さい子供のD・Pの“場”に有った、滑り台という遊具の街灯によって出来た影に、何かが一瞬引っ込んだ。明らかに罠が潜んでいる。
無言のまま、ホルスターにある光弾銃の銀の銃把に手をかけて、気配を探る。
隣りのマエストロは会話を続けて、木乃香嬢ちゃんも受け答えしている。
俺の方はどうかというと、目線を滑り台から離さずに、じっくりと近付いていく。
とりあえず、罠であれば駆逐しておいた方がいい。

じっくり、じっくり……
あと八歩…

足のバネを使って、一気に滑り台の前に跳躍。光弾銃を突き付ける。

と、特に何も無い。
なんだ見間違いかと、二人の方に目をやった。

刹那、まるで地面から沸いて出てきたかのように、眼前に――



今日は太陽の方が早起きしている。
夏の朝の清々しい大気が、衣服を通して私の全身のセンサーを心地よくくすぐった。
「今日もいい天気です」
そう呟いて、室内に入ろうと、後ろ手に掌で冷たいドアノブに触れる。
と思ったところ、ドアノブを右掌で掴み損ねた。
すでにドアは開けられていた。
「いい朝だ。おはよう、茶々丸」
「!マスター!そんな身体でベットから出てはひどくなってしまいます。早く戻って下さい!」


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