アマテラスとの再会~楓の死


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「まだ昼間なのに薄暗い……」
「明日菜、気を付けろよ、視界がいいとは言えない。奇襲の可能性もある」
エヴァンジェリンの予想は的中した、それもそう言った直後に。
瓦礫だらけの学園都市、その瓦礫の影から1匹2匹と妖怪たちが姿を現す。
気が付いた時には十数匹の妖怪達に完全に包囲されており逃げ道はない。

「囲まれたか……戦闘準備!リク・ラク・ラ・ラック・ライラック、氷神の鉄槌!!」
「はい!!ラス・テル・マ・スキル・マギステル、魔法の射手!風の13矢!!」
「アデアット!行くわよ!!」
まずはエヴァの魔法が妖怪数匹を襲い氷付けにする。
ネギの魔法の矢も数匹の妖怪に向かって飛び、その身体を貫いた。
明日菜も巨大な剣と化したハマノツルギを構えこれまた数匹の妖怪の群れに突っ込んでいく。
ハマノツルギを操る明日菜の剣筋は、多少粗いものの鋭く妖怪を捕らえていく。
明らかにネギ達の方が優勢かに見えたが……

「しまったこんなに隠れていたのか!?糞罠か?」
エヴァンジェリンが見たのは自分達を囲む数十匹の妖怪の群れであった。
彼等の殺気立った視線は明らかにネギ達に向けられていた。
そして妖怪は一斉にネギ達に襲い掛かる。

エヴァンジェリンの目には妖怪達の動きがスローモーションの様に映っていた。
何故油断したのか?何故敵の気配を察知できなかったのか?
全てではないにしろ力を取り戻した事に浮かれていたのか?
自分の傲慢が自らだけでなく仲間まで危険に晒してしまったのか?
エヴァンジェリンが尋問自答を繰り返す中、一匹の妖怪が眼前に迫っていた。

目の前、お互いの身体と身体が触れ合ってもおかしくない距離に妖怪は居た。
猿の様な妖怪は鋭い爪をエヴァンジェリンに向けて振り上げる。
さすがのエヴァンジェリンもこの距離では避ける事はできない。

「ここまでか……」
ぼそっとエヴァンジェリンは呟き微笑した。
死の覚悟を決めたエヴァンジェリンであった。
だが目の前で妖怪の体は色取り取りの花びらに転じていた。
妖怪が花びらに転じるという事は死を意味する。
いや厳密には邪気によって妖魔と化した自然の力を元のあるべき形に戻すと言った方が正確である。

「な……」
「何でと言いたそうだな」
「お前は!?何で……」
驚愕するエヴァンジェリンの目の前に居たのは……。

「ネギ!!あの人!!」
「まさか…貴方は……ジャック・スパロウさん?」
「久しぶりだなネギ」

「い、生きていたんですか!!」
「ああにしてもどうしたこの化物どもの数は……ネギ何かしたのか?」
「今人間と妖怪は戦争をしているんです……麻帆良市は今や戦場です」
「大変みたいだな、にしても凄い数だなこりゃ」
「おい、お前は普通の人間だろう。こんな所に居ても死ぬだけだぞ」
「心配するな、その手のプロもちゃんとここに居るからな」
そう言ってジャックが指を鳴らすと突如空から雷が降り注いできた。
激しく妖怪達の身体を雷は打ち付ける、次々と花に転じる妖怪達。

「この技は……もしかして!?」
「気付くのが遅いぜェネギ坊主!!」
4人の前に姿を現したのは体中に赤い隈取を施した白狼とその頭の上で跳ねる小さな妖精。
ネギは白狼を目にした瞬間、涙を浮かべ嬉しいそうに声を上げる。

「……アマテラスさん!!」
「ワン!」
「久しぶりだなァネギ坊主!元気にしてたかィ!!」
「ええでもどうやって?」
「あのフードの男がくれた時を駆ける玉。あれで爆発の時から1日後に飛んだのさ」
「ジャックさんがアマテラスさんを助けてくれたんですか!ありがとうございます」
「ネギそういう時は言葉じゃなくて物で示せ、お分かり?」
「おいお話はそこまでだ坊や、連中まとまって来るぞ!!」
エヴァンジェリンの言う通り、妖怪達は一つに固まりネギ達目掛け突っ込んで来ていた。

「アマ公に任せておけェ!!アマ公『爆炎』で妖怪たちを吹き飛ばせェ!!」
イッスンにそう言われたアマテラスは妖怪達の群れの中心に∞の印を描いた。
すると凄まじい勢いの炎が現れ妖怪の群れを包み込んでいく。
炎の中で悶える妖怪達は次々に花となり、炎が消えた時に残っていたのは、この場には不釣合いな美しい花畑であった。

明るい真っ白な部屋に忍び装束を着た一人の少女が天井からぶら下っている手錠で手を繋がれている。
足にも足枷をはめられており全く身動きの取れない状況である。
少女は気絶しているのか身動き一つ見せない。

数人の迷彩服を着込んだ男達が少女を囲んでいる。
その内の一人がもうもうと湯気の立ち上るバケツを持って少女に近付く。
男はバケツに入った熱湯を少女の頭から一気にかける。
少女は悲鳴を上げて身体を揺すった、服に染みた熱湯が彼女の身体を熱する。

「うわぁぁっ……貴様等何者でござるか……」
「長瀬楓だな、我々は自由解放軍の者だ」
「自由……解放軍?」
「我々は妖怪達と協力して世界をあるべき姿に戻す者だ」
「何を言っているでござるか……」
「我々は祖国ロシアに捨てられた傭兵部隊だった、その我々をキュウビ様が拾ってくださったのだ」
「貴様等!!人間なのに妖怪達の味方をするのでござるか!!」
「妖怪達は新しい世界を作ろうとしている、世界は変わるべきなのだよ」
「貴様等の戯言に付き合うつもりは毛頭ないでござる、この下衆野朗!!」
「うるさい小娘だ。長瀬楓お前は軍の重要なポジションに付いていたな」
「だったらなんでござるか、それに拙者は民間人でござるよ」
「おまえが特株部隊の中でもかなり高い階級である事は調査済みだ」
「だったらどうするのでござるか?拙者は何も話さないでござるよ」
「いやあと5分で気が変わるさ……まずはどうしてやろうか」
そう言って男達は不気味な笑みを浮かべ楓の身体を舐める様に見た。

補給基地には数人のスタッフと共にジャック・バウアーが居た。
バウアーは何かの資料に目を通しながら厳しい表情を見せていた。
「つまりはこういう事か?元ロシア軍の特殊隊員が妖怪達の側に?」
眉間にしわを寄せたバウアーはスタッフの男に詰め寄る。
スタッフの男は咳払いをしてからバウアーの質問に答えた。

「ええ妖怪たちには、戦術なんて概念は無いようですから、戦略のプロが必要だったようで。
 ロシアの連中は皆退役軍人ですが、総合的戦術や戦闘術のエキスパート達ばかり。
 ベテラン揃いのようですね、彼等との戦闘も考慮して戦略を立てないと」
「何故人間の彼等が得体の知れない連中と?」
「さぁ詳しい動機は分かりませんが、彼等は軍の中でも相当な危険思想の持ち主だった様で。
 軍部は彼等がクーデターを起す計画を察知、寸での所で阻止したとかって噂があります」
「なるほど、彼等は敵の手駒か」
「でもかなり厄介な手駒ですね……彼等の経験値はバウアー捜査官、貴方に匹敵しますよ」
「そうだな、こちらの兵が拉致されれば、そいつは間違いなく口を割るだろう……」
「……ジャック……長瀬楓の帰りが遅いそうです」
「どういう事だ?」バウアーの顔はいつにも増して険しい物になった。
「分かりませんが……拉致の可能性も……」
「あと30分して帰ってこなければ捜索隊を組んで出動させよう」
「了解しました」
「どこに居るんだ……長瀬楓」

楓は以前天井から吊るされており、殆ど身動きできなかった。
「何をする気でござるか?そう簡単には口は割らないでござるよ」
縛られているとはいえ楓は非常に強気な態度で出た。
だが元ロシア兵士達は彼女の言葉を無い物かのように聞き流していた。
楓は何度か縄抜けを試した、分身の術も使おうともしたがびくともしない。
そのほか脱出に使えそうな術はすべて発動する事が出来なかった。
なぜかは理由は分からない、だが楓は一つの推測を出していた。
「……気が練れないのでござるか?……」 

「魔法使いや他の一部の……お前のような軍人達は特殊な力があるそうだな」
数人の男たちの中リーダー格と思われる男が楓に近付いて来た。
「気や魔力の存在を信じているのでござるか?」
楓の質問に男は笑みを浮かべて答えた。
「我々が信じる信じないではない、信じていなくても存在する物は有る、それだけだ」
「割と詩的でござるな……もっとも貴方達には似合わないでござるがね」

「まぁいいさ我々は所詮駒だ。ただ命令に従い、死ぬか生きるかどちらかだけだ」
「まるで虚無の様な存在……でござるな」
「君こそ中々詩的じゃないか……さてお嬢さんおとなしく情報を吐いてくれるのならば痛い目にはあわせない」
「吐かなければ?」
「指を一本ずつ切り落とす。左手の小指から一分に一本ずつだ」
「くっ……随分と短いリミットでござるな。せめて一本10分は欲しいでござるよ」
男は楓の言葉を鼻で笑い、腰から引き抜いたナイフをチラつかせた。

「仲間が来る事何ざ期待しない事だな。ここは数千を超える妖怪達の巣窟、下手な援軍じゃぁ10秒であの世行きよ」
「そうか……しかし拙者は何も情報なんて持っていないでござる、拷問するだけ時間の無駄でござる」
「その価値を決めるのはこちらだ……さてお前達の次の攻撃は?いつどこに仕掛ける?」
「知らないでござる……拙者は何も知らないでござる」
「あと45秒じっくり考えるんだな」男はナイフをチラつかせる。
「……知らないでござる」
楓は首を横に振る、額には脂汗が滲んでいる。
「あと30秒……」男の口元は1秒1秒が過ぎるたびに緩んでいった。

「残り25……20さぁ言え」
「知らないでござる!本当に何も知らないでござる!!」
「いやお前は絶対知っている、だからここに居るのだ」
「本当に何も知らない!!信じて……」
楓は目に涙を浮かべて必死に身体を動かした、鎖を千切ろうとしてもびくともしない。

「無駄だ、そいつは気や魔力をシャットダウンする封呪の鎖だそうだ、それと嘘泣きはやめろ」
「……ばれていたでござるか」楓は口元をわずかに吊り上げる。
「あと……おやおやあと3秒だ……時間だ、話せ」
「何も知らない……知っていても決して離さない……拙者は忍だ」
「そうか、じゃあ小指はいらないな」
男は狂った笑みを浮かべて、楓の小指にナイフをあてがい躊躇無く楓の指を切り落とした。

「!!!!っつ!!……くっ…あぁ…!!」
楓は焼けるような痛みに耐えていた、普通ならば大の大人でも悲鳴を上げて、気絶してもおかしくは無い。
そんな痛みに楓は耐えていた、小指から出た血が腕を伝って脇から垂れる。

「別れのキスでもするか、お嬢ちゃん?」
男は楓の小指をチラつかせて先程よりもさらに狂った笑みを浮かべていた。
それを見た楓も微笑して、その後大きく笑い始めた。
「そうだな、だが『それ』に未練は無い」

その言葉を聞いた途端、男は急に真顔になって楓の目を見据える、そしてそっと口を開いた。
「その覚悟……見事!!こちらも敬意を払ってお前を拷問しよう長瀬楓」
「……余計な事をしてしまった様でござるな」
楓は苦笑いをしてそのまま俯いた。

妖怪たちと一戦交えたネギ達は補給基地に引き返していた。
とりあえずの所はアマテラスとジャック・スパロウを休ませようと言う事になったのだ。
アマテラスとジャックが基地に帰ると彼等を知る者は温かく迎えてくれた。
もっとも彼等を知るのは古菲とジョンぐらいのものであったが。

話は変わるがアマテラスは強い、恐らくこのメンバーの中では最強であろう。
特にアマテラスが起す数々の奇跡『筆しらべ』その威力は絶大である。
ダイヤモンドでさえ切り裂き、時を操り、天変地異さえも引き起こす。
少なくとも人間やそこらの雑魚妖怪が敵う相手ではない。
しかしそれでさえアマテラスにとっては力の一部に過ぎない。
本気になれば数日で星を滅ぼす力を持った相手に対等に戦えるほどである。
もっとも今は本気の力を出す事はできないのだが……。
それには深い理由がある、そしてそれはアマテラス個人の問題ではない。

「アマ公…今のままじゃあ、あいつには勝てねぇぞォ……」
「くぅーん……」
「全く信仰心が薄いと実力も落ちる、神様も大変だなァ」
信仰心それが神にとって一番の力になる。
神を信じる心、神を敬う気持ち、神への感謝の心、これが一番の力になるのである。
しかし現在では神の存在を信じる人間などは極少数である。
当然人々からの信仰心が無いアマテラスの力は大きく劣れている。
そんな状態で勝てるほど敵妖怪のトップ集団は甘くない。

アマテラスの頭痛の種はまさにそこにある。
敵は強さを遥かに増している。
アマテラスもある程度の力を取り戻しているから殆どの妖怪相手に遅れを取る事は無い。
だが闇の君主は妖怪達の中でも別格の存在である。
かつて月文明を滅ぼしたヤマタノオロチ、その妖力を遥かに越える力を持つのが闇の君主である。
現在のアマテラスでは歯の立つ相手ではない。
闇の君主『常闇ノ皇』の力は絶大である、人間の力でどうにかなる相手ではない。
そんな事を考えながら補給基地で寝たり食べたりを数回繰り返したアマテラスとイッスン。

「とにかく信仰心を取り戻して力を付けないとだなァ……今のままじゃあやられるだけだァ」
「信仰心って何ですか?さっきも言っていましたよね」
「いいかネギ坊主!!神様にとっての力の源は自然とか人の幸せとか感謝の心なんだァ!」
「そうなんですか!知らなかった……」
「人の思いが強いほどアマ公も強くなる、だけどなァ逆もあるんだよォ」
「逆と……言いますと?」
「人の思いが弱いとアマ公は弱くなるんだァ」
「それって物凄く困りませんか?」
「まぁずーっと前にも殆どの人に忘れられていたけど何とか戦えたんだがなァ……」
「今は……駄目なんですか?」
「ネギ坊主達がアマ公を信じてくれているからまだマシかもしれねぇなァ」
「やっぱり僕達だけじゃ駄目なんですか?」
「そういう事だァ、やっぱり国の人全員にアマ公の存在を信じてもらわねぇと話にならねぇや」
「……何とかしてアマテラスさんの存在を知らせる事ができたらな……」

ネギとアマテラス、イッスンが何とか信仰心を取り戻そうと会議していると。
「おい坊や」とエヴァンジェリンが話しかけてきた。
「マスターなにか用ですか?」
ネギの言葉に何故かエヴァンジェリンはムッとした表情を見せ背中を向けてしまった。

「用が無いと話しかけちゃいかんのか!?」
「別にそんなことは無いですが……なんで怒っているんです?」
「怒ってなどいない、この馬鹿が!!」
「ごめんなさい……(やっぱり怒ってる……)」
「あぁ~!!とにかく私はしばらく単独行動する、アマテラスが居るならお前は大丈夫だろう」
「えっ!?どこに行くんですか!!」
「うるさい!!黙って私の指示に従え!!」
「……はい……」
「……じゃぁな……アマテラス坊やを頼んだぞ」
エヴァンジェリンはそう言い残しマントを翻して麻帆良の空に消えていった。

「ネギ坊主心配すんなィ!あの姉ちゃんはそう簡単にはやられねぇよォ!!」
「そうですよね……マスターは強い人ですから、きっと平気ですよね」
「さてとりあえずは戦場に居る兵士の援護だァ!おいら達で手分けすれば何とかならァ!!」
「分かりました!!ほかの皆の補給を待って行きましょう」


……ここは何所だろう?
身体が重いでござる…指の感覚が無い……
よく見えない……身体が冷たい
彼等に何をされたのかよくは覚えていない
指を全て無くしたのまでは覚えている、その後鉄の棒で殴られたのも
赤々と燃えるナイフで肌を焼かれたのも……塩水に指の無い手を浸けられたのも
なんだ思い出せるじゃないか!全部覚えているじゃないか
最後は殴られ蹴られて、薬を打たれて、変な機械にかけられて、罵倒されて、また殴られての繰り返し
それがどのくらいの時間だったは覚えていない……
とにかく立たなきゃ……帰らないと……みんなの所へ帰りたい
みんなと楽しくワイワイやってた頃が懐かしい……
歩かなきゃ…とにかく歩かなきゃ……

どれぐらい歩いたのかな?そんなには歩いていない気がする……
明かりが見える……?あれは……
味方の陣地か?……誰か拙者に気付いた?
……………明日菜……古菲……?
みんな迎えに来てくれたのでござるか?
……!?……どうしたのでござるか?身体の力が抜けていく……
感覚が……奪われていく……何でだ?どうして……

アマテラスは依然補給基地で食べては寝てを繰り返していた。
その姿はさながら中年オヤジの休日である。
アマテラスが補給基地に到着したのが昼間の3時、現在の時刻は夜の8時。
およそ5時間、食ちゃ寝、食ちゃ寝を繰り返していた。
そんなアマテラスと一緒に夕食を取っていた明日菜と古菲。
だが龍宮が傷つき、いまだ妖怪達の勢力が衰えない状況に食の進まない明日菜であった。

「明日菜食べなきゃ駄目ネ、体力出ないアルよ」
「そうは言ってもね……食べる気しないんだ、そう言う古菲だってあんまり食べて無いじゃん」
「私もなんか……ちょっとネ」
そんな会話をしていた二人がふと眺めた先にはかすかに人の姿が見えた。
最初は小さかったそれは徐々にその輪郭をハッキリとさせてくる。

「……楓!?」
「本当アル!!楓アル!!どうして……様子が変アル!」
二人は急いで楓と思しき人影に走り寄ろうとしたその時。
人影の背後にもう一つの影が現れた、その瞬間動きを止める楓と思しき影。
急いで駆け寄る明日菜と古菲、二人が近付くと背後の影は突如消えてしまった。
その刹那残った人影が地面にうつ伏せに倒れこむ。
急ぐ明日菜と古菲、やがて見えたのはやはり自分達のクラスメートの長瀬楓であった。
そして二人は楓の変わり果てた姿に絶句する。

「かえ……!?」
「楓……嘘アル……嘘だぁぁぁぁ!!!!!!!!」
楓は鳩尾の部分を何かで貫かれており既に虫の息であった。

「楓!楓しっかりして!!」
明日菜は必死に楓の身体を揺する、わずかに反応する楓の体。
「楓……誰がこんな酷い事を!!」
古菲は楓の体を見て怒りに打ち震えていた。
指はすべて切り落とされ、体中に切傷や火傷、打撲傷、注射針の跡に激しい出血。
凄まじい拷問を物語る凄惨な傷……わざと長時間苦しめるためにつけられた傷。
明日菜と古菲は怒りに震えた、二人は楓にこんな事をした相手を許さないと思っていた。

「明日…菜……古菲…最後に会えて……よかったでござる」
「馬鹿!!最後なんて言うなアル!!まだまだ大丈夫アル!!」
「そうよ馬鹿なんだから!!大丈夫に決まってんじゃん……平気に決まってんじゃん!!!!」
「二人に…馬鹿……と…呼ばれるとは心外で…ござるな」
「それだけ言えれば平気よ、さぁ早く医務室に」

「明日菜、古菲」楓は優しい目で二人を見つめる。
「なんネ?」「何?」二人も優しく微笑み返す。
「みんなと……会えてよかった……」
「そんな辛気臭い事言わないでよ!」
「ネギ坊主やみんなに……ありがとうと伝えて欲しいでござる…本当に…ありがとうって」
楓はそう言って動かなくなってしまった、明日菜の手に伝わる徐々に楓が冷たくなっていく感覚。
「嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」明日菜は楓を呼び戻すように大きくそして虚しく叫んだ。

「楓!!起きてぇぇぇ!!!!」必死に楓を抱きしめる明日菜。
「楓……」その場に座り込む古菲、目からは大粒の涙がこぼれる。
楓の顔はその傷とは裏腹にとても安らかでまるで眠っている様だった。
そんな楓を抱きしめ泣き付く明日菜にそっと触れる者が居た。

「アマテラス……」
顔を明日菜の肩に擦りせるアマテラスはとても悲しそうな目で楓を見る。
古菲はアマテラスの姿を見た途端、すがる様にその純白の身体に抱き付いた。
「筆しらべで……筆しらべで楓を生き返らせてアル!!神様ならそれぐらいできるはずアル!!」
アマテラスはそっと首を横に振る、森羅万象を司る筆しらべでも失われた人の命を蘇らせる事はできない。

「何で出来ないアルか!!神様なのに……何の為に神様が居るネ!!何の役にも立たないアル!!」
その言葉を聞いた明日菜は古菲を睨みつける。
「古菲そんな言い方無いじゃない!!アマテラスだって辛いんだよ!!何とかしたんだよ!!」
「なら何とかして!アマテラス…何とかしてアル……」
古菲は地面にうな垂れながらそう言った。
アマテラスは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ再び首を横に振る。

「……アマテラス……せめて楓を弔ってやって…」
明日菜は優しい笑みを浮かべてしかし目には大粒の涙を溜めてアマテラスに言った。
「くぅーん……」アマテラスは楓を見やってから古菲の方を見つめた。
古菲はそっと微笑んで「お願いするアル、アマテラス」と言った。
その言葉を聞いたアマテラスは天に向かって悲しい弔いの遠吠えをした。
「ワォォォォォォー…………………………」
アマテラスの遠吠えは悲しくも気高く天に響いた。

楓の死はすぐに戦場に居る魔法使いや軍本部まで伝わった。
それはネギにもすぐに知らせが届いた。
ネギは信じたくは無かった、決して信じたくは無かったが遺体安置所で変わり果てた楓と対面した。
遺体収容所には泣き崩れる古菲、必死に涙をこらえる明日菜。
知らせを聞いて駆けつけた医療班の木乃香、楓の弔いをしたアマテラスとイッスン
それに麻帆良学園の教師代表としてタカミチと学園長が来ていた。

「楓さん……ひどいっ!誰がこんな事を……」
無残な楓の遺体を見て怒りに震えるネギ。
この場にいる皆が怒りに震えた、一体誰がこんな事を?
悲しみに包まれた遺体安置所に一人の男が現れた、ジャック・バウアーである。
彼は酷く申し訳なさそうな表情でその場に居る全員を見回した。

「本当にすまないが……ネギくん、君に出撃要請が出た」
「こんな時に何で!?何でネギが行かなきゃいけないのよ!!」
泣きじゃくりながら明日菜がバウアーに問う、嗚咽と共に激しい怒りを交えて問う。
だがバウアーは鋭い眼光を一瞬だけ明日菜に向けた、だが我に返ったようにすぐに優しい目をして語りかける。

「申し訳ないとは思う……だが」
「だが何よ!!」明日菜の剣幕は変わらない。
「それが戦争だ、これは君たちが選んだ道だ、誰に強制されたわけでもない」
そんなバウアーの言葉を聞いて一番に口を開いたのはネギであった。
「……初めて会った時の貴方の言葉……ようやく理解できました」
「あの時は……言い過ぎたな、すまない」ジャックは軽く頭を下げる。
しかしネギは頭を振り真剣な顔つきでバウアーを見た。
「僕が甘かったんです!僕はもう……妖怪達に容赦はしません!!刹那さんも……敵です!」
「……ネギ君」
確固たる意思を持ったネギの表情を見て複雑な顔をする木乃香であった。

遺体安置所を出てすぐにタカミチと学園長は作戦本部に帰っていた。
ネギ達も補給基地に引き返しそこで待っていたジャック・スパロウとジョン・コンスタンティンと合流した。
そしてメンバーが揃ってすぐに作戦の概要がジャック・バウアーから語られた。

「作戦は単純だ、作戦拠点に使用できるポイントを占拠している妖怪の掃討。
 このポイントは妖怪達と戦うのに何としても抑えたいポイントだ。
 だが今の軍ではこのポイントを手に入れるために必要な数の兵をそろえる事が出来ない。
 そこで個人で常人離れした戦闘力を持つ君たちの出番だ、連合軍一個小隊と一緒に敵を叩く。
 ポイントは二つ、このメンバーを二班に分けたい。
 ネギとジョン明日菜ジャックで一つ目のポイントに当たってくれ。
 俺と古菲アマテラスでもう一つのポイントを叩く、質問は?」

「……」一同は黙ったまま。
恐らく質問は無いのだろうとバウアーは判断して少しの間を置いてから。
「作戦開始は明朝9時、本当は今にでも行きたいんだが連合軍小隊の方が揃わない。
 よし、もう遅いみんな寝てくれ」そう言った。
バウアーの言葉を聴いてトボトボと仮眠室に歩いて行く一同。
だがネギだけは仮眠室とは、逆方向に向かって歩いている。
バウアーは声を掛けようともしたがネギの顔を見てやめようと思った。
彼の顔は深く悲しみに支配されて、涙こそ流していないもののとても悲しげな顔であった。
まるでこの世の全てに絶望したかのような表情、彼の顔から出る悲しみは無の様にも思えた。
虚無の悲しみに支配されたネギは天を仰いで、声を押し殺して静かにそっと涙を流した。
ツールボックス

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