補給基地にて~龍宮の負傷


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兵士と言えど人間だ、休息は必要不可欠である。
そんな兵士が来るのは補給基地である。
武器弾薬の補給、簡単な治療、簡素な食事や仮眠などを執り行っている施設である。
前線からはかなり遠く比較的安全に休息できる、言わば砂漠の中のオアシスのような存在である。

そしてそこには休憩所で椅子に座りながら休んでいるネギとジョンも居た。
ネギは軽い傷の手当を済ませすっかり意気消沈していた。
『裏切られて可哀想だな』
バウアーの言葉が耳から離れない、あの哀れむような馬鹿にしたような物言いが離れない。
『これは戦争だ、甘ったれるな!!』
だがバウアーの言っている事は正論だ、戦争……曲げる事の出来ない真実。

突如始まった戦争、これは誰の選択した事なのか?誰が選んだのか?
誰かが望んだが為に、こんな不毛でくだらない殺し合いになっている。
戦争と言う名の大儀の元に利益を得る人間が居るからこそ戦争は起きる。
そういった人間の頭に有るのは、金を手に入れる事と人間の死を娯楽として楽しむ狂った感覚である。
兵士をチェスの駒の様に操り陣地の取り合いをする。
戦争は彼等にとっては合理的なビジネスであり、快楽と欲望を叶える手段なのだ。

………………………だが、それが彼等の正義でもある。
正義の価値観は人それぞれ違う、自分の正義、自分の信念。
そしてそれらに忠実に生きる事が自分に忠を尽くす事になるのだ。
例え他の人間には絶対悪だとしても当人にとっては正義なのだ。

「暗い顔をしているな」
すべてを信じる事をやめたかのような顔をするネギの前に長い金髪の少女が姿を現した。
「マスター……」

「何を落ち込んでいるんだ?お前らしくも無い」
そうネギに語りかけるのは彼の師匠エヴァンジェリン。
吸血鬼の真祖にして最強の魔法使い『だった』少女。
現在はネギの父親ナギによって施された登校地獄と言う呪いのせいで魔力を押さえ込まれている。

「マスターその格好は?」
「ん?ああ、これか深い意味は無い」
彼女はこの場には不釣合いな麻帆良学園の制服に身を包んでいた。
エヴァは懐かしいものを見る様な目で自身の制服を眺めている。

「なんとなくな……少し前はこの制服を着るのが嫌でしょうがなかったが、急に着たくなってな」
「そう……ですか」
「さて坊や手当てが済んだのなら行くぞ。さっさといつのも生活に戻ろう」
「いつもの生活?……みんなと一緒に……」
「そうだ、みんなでバカやってた頃に戻れるさ」
「でもマスターは魔法が使えないじゃないですか?どうやって戦うんですか?」
「アホかお前は?今この状態で麻帆良学園どころか市内全体の送電がストップ、学園も半壊状態、呪いの力も相当薄れている」

ネギの表情は先程とは打って変わって輝きだした。
「マスターじゃあ!?」
「ああ、全力とまでは行かないかも知れんがかなりの魔力を使う事ができる」
「よかった!!行きましょうマスター!戦争を終わらせに」
「ああそうだな、お前も来るかジョン?」
「俺は足手纏いにしかならないのが良く分かった、ここで待たせてもらう」
ジョンは一応笑って見せるが明らかに、へたくそな作り笑いにエヴァは腹を抑えた。

「ッ……笑い方の練習を私が帰ってくるまでにしておけ」
元々気難しいジョンは挑発的なエヴァの態度に気分を悪くしていた。
「お前も思った事が表情に出ないよう練習しておけ」

明日菜、古菲、龍宮はたったの三人で妖怪達に戦いを挑んでいる。
最初三人は偵察の任を帯びて、陸軍2個小隊と行動を共にしていた。
ただの偵察任務のはずが妖怪達の奇襲を受け、一気に戦闘になってしまったのだ。
妖怪達の奇襲で隊列は乱れ2個小隊は全滅、残った少女三人が妖怪達と戦う事となった。

戦場で最も戦いの激しい場所、最前線。
もはやここで戦う者は敵がどうと言うよりも自分が生き残る事だけを考えて行動する。
次々に人が死に次々に新しい兵が投入される。
死体はうず高く積まれ、地面は真っ赤に染まり、辺りは酷い臭気によって支配されている。
まさしく死体製造所とでも形容すべき状況である。

「28匹目!」
人と妖魔の断末魔をかき消すように叫ぶ声は少女の物であった。
その手に持つのは巨大な剣、身の丈ほどもある幅広の剣。
長い髪をツインテールで鈴の付いた髪留めで止めている。
服装は制服、麻帆良学園の制服である。
何より目を引くのはそのオッドアイ、左右の眼の色が違うのである。
緑と青、美しい眼に花となり散る妖魔の姿が映る。
彼女は神楽坂明日菜、ネギの生徒の中でも最もネギとの付き合いの深い生徒である。
手に持つはネギの契約の証ハマノツルギ、魔力を断ち切るアーティファクトである。

「はぁぁぁ!!これで30アル!」
「34、35、36、37、38、39!」
明日菜の近くで二人の少女が妖魔相手に奮戦する。
小柄でカンフー映画に、出てくるような服を着た少女は素手で妖魔を打ちのめす。
鋭い拳は妖魔の体にめり込み致命傷を与える。
もう一人、大柄で迷彩服を着込んだ少女は両手に大型拳銃を持ち、踊る様に連射している。
放たれた弾は全て、妖魔の急所目掛けて正確に、寸分の狂いも無く飛んでゆく。
二人の名前は古菲と龍宮真名、体術が古菲、射撃が龍宮である。
この二人と長瀬楓、桜咲刹那は麻帆良学園武道四天王と呼ばれておりその実力は凄まじい物である。
だが刹那は妖怪勢力に行ってしまった為、事実上一人欠いた状態となっている。
そして武道四天王の一人長瀬楓は……。


「全く面倒な仕事でござるな~よっと!」
背の高い、まるでモデルのような体型をした少女が廃墟と化したビルの中を進む。
少女は忍装束に身を包み、軽快な動きで廃墟の中を駆けて行く。
長瀬楓、武道四天王の一人である。

楓が進む30階建てのビル……いや『ビルだった物』と言った方が正しい。
天井は最上階から1階まで所々吹き抜けになっており、日の光が埃まみれの床に降り注いでいる。
もはや建物とは呼べぬ廃墟を楓は一人進んでゆく。

「にしてもぼろいでござるな、本当に妖怪が居るのか?」
彼女はある命令を受けてこの廃虚ビルを探索に来た。
この廃墟ビルには妖怪達の出入りが頻繁に、確認されており調査してほしいとの命令が軍から出た。
楓の実力は恐らく熟練した工作員も目を剥くほどの物である。
戦闘力も陸軍一個小隊以上と言っても言い過ぎではない。
それ程の戦力この緊迫した状況で軍が見逃すはずも無く、莫大な報酬で彼女を雇った。
無論彼女も自分の住む街が、戦場となっているのを黙って見過ごせるわけも無く、軍に入る事を即決した。
それは古菲や龍宮、明日菜も同等の理由でこの戦場に居る。
それに加え、古菲は格闘能力の高さを見込まれて、龍宮は莫大な報酬で、明日菜はその得意な能力で。
それぞれがそれぞれの理由を持ち、信念を持ち戦場に居る。

「(これと言った気配は無いでござるな)」
彼女が15階の偵察を終え上の階に行こうとした時。
「!!誰で『ゴッ!』」
突然の襲撃にさすがの楓も動く事ができずに何者かの攻撃をモロに食らってしまった。
彼女は襲撃者に後頭部を強く叩かれその場に倒れ込んでしまった。
薄れ行く意識の中、彼女は誰かに抱き抱えられるような感覚を最後に覚えた。


「数が多すぎ!きりが無いわよ!!」
明日菜のぼやきも無理は無い。
実際問題、彼女達が相手にしているのは数百匹の妖怪達。
普通の人間ならば数秒で肉を食い尽くされている所である。
事実彼女達と同行して来た2個小隊の兵は、既に全員が肉を食われ骨だけになっている。

それでも彼女達は戦い続けた、いや戦わねばならぬ状況であった。
妖怪達は彼女達の逃げ道を塞ぐように迫り、次々に襲い掛かってきた。
明日菜達の戦闘力は常人とはレベルが違う、だが妖怪達もまた強者。
戦闘は妖怪達の数の多さもあり、既に1時間近くの長きに渡っていた。

「ふぅふぅ……凄い数アル、いっつ!!」
長時間の戦闘で疲れきった古菲は一瞬の隙を見せてしまい、一匹の妖怪に右の肩口を噛まれてしまった。
常人ならば気付かないほどの小さな隙、その隙を突いて妖怪は彼女に噛み付いたのだった。
ナイフのような牙が古菲の肩の肉に食い込んでいく。
筋肉の繊維一本一本が千切れていく感触、牙が骨に当たる感覚。
その痛みは15歳の少女が耐えられるレベルの物ではなかった。

「うぁっ!……うぅ、っ!離せこの糞妖怪!」
古菲は妖怪の首を捕まえ、力任せに投げ飛ばす。
肩口に食い込んでいた牙は彼女の肩の肉を切り裂きながらも何とかはずれた。
だが力任せに引き剥がした為か肩口からはかなりの流血が見られる。

「痛ったいアルな、これはお返ししなきゃアルね」
古菲は赤い肩口を押さえつつも笑顔で構えた。

「古菲!!大丈……『ドン!!』!?」
一瞬ほんの一瞬、古菲に気を取られた龍宮。
だがその一瞬のうちに彼女は脇腹に衝撃と強い違和感を覚えた。
彼女は恐る恐る違和感の元に目をやる。
そこで目にしたのは自身の脇腹が何かに貫かれている様子であった(これは……『手』?)
彼女の腹からは気色の悪い手が飛び出ている、目の前の異様な光景を冷静に分析する龍宮。
彼女は悟ったかの様にあくまで冷静に、認めたくは無い、だが認めねばならない結論を出した。

「妖怪?……ゴフッ!……ふふ短い人生だったな」
龍宮の口元からは糸の様に細く、血液が流れ出ていた。
ゆっくりと『手』は龍宮の腹から引き抜かれていく。
止めど無く流れ出る鮮血、傷口を中心に銃弾の様に素早く駆け抜ける激痛。
徐々にぼやける目の前の光景と共に感じるのは薄れ行く痛みと意識。

「龍宮さん!?」
「真名!!!!やめるアル……やめろ!!」
二人が見た時には手を赤く染めた妖怪が龍宮の身体目掛けて鋭い爪を振り下ろしていた。
龍宮の背中に妖怪の爪が食い込む……寸前、妖怪は花となり傷付いた龍宮の身体を包み込んだ。

「大丈夫ですか!?……一人やられたのか」
そう言って一人の男が花びらの上に横たわる龍宮に駆け寄る。
彼に続くように次々に戦闘服に身を包んだ男達が明日菜と古菲の前に姿を現わした。
二人は一瞬状況が飲み込めなかったが、彼等が自分達の援軍である事を理解するのにそう時間は掛からなかった。
援軍の数は数百人以上にのぼり、各人が次々に妖怪の群れに突っ込んでいく。
兵士達による突撃銃や拳銃、さらには無反動砲などの攻撃で、次々に花びらに姿を変え瓦礫の地面を彩る妖怪達。

「もしかして助かったの?私たち」
「そうみたいアル……でも龍宮は……」
怪我をした肩口を強く握り締める古菲。
血が溢れる事も気にせずに、彼女は怒りに任せて自分の肩を強く握り締めていた。

補給基地。
ネギはエヴァンジェリンと戦場へ行く事が決まった直後、簡単な食事をしていた。
黙々とレーションを食べ続ける多国籍の兵士たちに混じっての食事。
ネギは決して美味いとは言えないレーションを少しだけ無理をして腹に詰め込む。
いざ戦場へと赴こうとした矢先、一台のジープがネギの目の前に止まった。
中からは数人の軍の医療班と思しき集団が慌てながら担架を下ろしている。

「脈拍低下!出血が酷いし、内蔵もやられている……糞!!」
そう口走りながら軍の医療班数人が慌ただしく担架を走らせる。
目の前にいるネギなど、お構い無しに担架を走らせる。
ネギは一旦その場から飛び退くが、尋常ではない様子に思わず担架に載っている人物に目をやると……

「龍宮さん!?」
「ネギ!あんたこんな所に居たの?」
「ネギ坊主!真名が……真名が……っ!」
そう言って二人の少女がジープから降りてきた。
二人はネギが良く知る人物、同居人の神楽坂明日菜と武術の師匠古菲。
少女達は沈んだ様子でネギに近づいてくる。
普段の二人の性格を考えれば、有り得ない落ち込み様である。
しかしネギには二人が何故落ち込んでいるかすぐに分かった、分かったが認めたくは無かった。
事実を認めてしまえば大切な人が遠くへ行ってしまうかもしれない、そう思ったからだ。
ネギは頭の中を白紙にする、決して何も考えないようにした。
何も無い事にすればひょっとしたら、それにまだ駄目と決まったわけではない。
そう考えねば、そうでなければ考えてしまう大切な人の……。

「ありゃ死んだな、助からねぇや」
ネギの近くで食事を取っていた兵士の言葉、彼としては何気のない言葉だったのであろう。
だが必死に死と言う単語を切り離していたネギに届く残酷な言葉。
絶対聞きたくはなかった、考えたくもなかった言葉。
見ず知らずの兵士の一言がネギの頭を混沌として渦巻いていた。

「ネギ、龍宮さんなら大丈夫だよ……絶対死なない」
「ええ僕も信じています。龍宮さんは強いですから」
「私のせいアル……私がやられたから気を取られて…私が死ねばよかった……」
「やめてください!!……そんな事言わないでください…」
ネギは古菲の胸倉に掴みかかった、必死に涙をこらえて古菲に訴えかける。

「ネギ坊主……」
「誰なら死んでいいとか、いけないとかそういう事じゃないんですよ!?」
「…………すまないアル……傷の…手当てをしてくるアル」
古菲は肩口を押さえトボトボと医療用テントに向かった。

「ネギ……あんた」
「すいません……つい大声を出してしまいました」
「……どこか行くの?」
「ええエヴァンジェリンさんと一緒に戦いに行くんです、もっとも正規の任務ではないですが」
「ネギ私も行くよ」
「明日菜さん……でも」
「連れて行ってやれ、明日菜は役に立つだろう」
そうネギに声を掛けたのは彼の師匠エヴァンジェリンであった。

「!?マスター……でも!!」
「本人は行く気だ。どうせ言っても聞かないだろう、それに妖怪共にはマジックキャンセルが有効だ」
「でも!明日菜さんを危ない目に合わせる事は」
「いい加減にしないかこの甘ちゃんが!!使える戦力は使うそれが戦争だ、覚えておけ!!」
「……分かりました……」
「ネギごめんね……私も戦いたいの」

ネギ、明日菜、エヴァンジェリンは戦場へと赴いた。
本来ならば違法行為であるが魔法部隊の中でも高い地位にあるエヴァンジェリンが上層部に半ば強引に許可させていた。
もっとも実際に取り付けたのはエヴァンジェリンの単独行動の許可であったが……。
とにかく一応正規の手順を踏んだ正式な作戦行動である、失敗は許されない。
上層部……と言うよりはエヴァンジェリンが決めた事ではあるが任務は二つ。
一つは妖怪軍本拠地の探索、もう一つは妖怪の掃討である。
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