第十四話

「はぁ…はぁ……すずさん!!」
宿場に到着した二人はっすずの店に飛び込んだ。
「すずさん!?…堂島さん!すずさんがいません!!」
「くそっ!どこだ!……ん?」

堂島が何かに気付いた。その視線の先には政府軍がいた。
「まったく『玉川』殿も人が悪いよな。」
「ああ。あんな可愛い娘俺たちにも楽しませて欲しいよな?」
「今の話…もしかして…って堂島さん!?」

堂島はゆっくりと政府軍に歩み寄っていった。その表情は怒りに満ち溢れている。
「…おまえら、すずをどこへやった?」
「ん?誰だ貴様?」
「何だ、まだ残っていたのか?」

「すずをどこへやったのかと聞いている!!」
堂島は声を張り上げると同時に腰から金鎚を抜く。
「貴様!政府に楯突くつもりか!?」
それを見て政府軍も刀を抜く。更に騒ぎを聞きつけて大量の政府軍がきた。

「刹那!この政府の糞共を倒してすずを助けるぞ!」
「はい!!」
「かかれーー!!」
掛け声と共に一斉に向ってくる政府軍。しかし堂島は臆する事無くむしろ自身も政府軍に向っていった。

まさに戦場だった。次々と倒れていく政府軍。激しい音と共に叫び声や悲鳴が聞こえてくる。
その中心に居るのは堂島。掴んでは投げ飛ばし、金鎚を容赦なく振り回しなぎ倒していく。
それを見て刹那は理解した。堂島が『鬼軍二』と呼ばれる所以を。
(でも…私は鬼にはなれない……。)

政府軍の一人が刹那に斬りかかってきた。これを難なくかわし、首筋に手刀を入れる。
次々と敵を戦闘不能にさせていき、ようやく半分くらいになってきた。
「後もう少しだ!行くぞっ!」
「はい!」

二人の猛攻は止らずついに残り六人となった。その内四人が堂島、二人が刹那に掛かって行った。
堂島はあっさりと四人を退けた。刹那も一人は気絶させ、もう一人はうつ伏せで腕を取る形で尋問していた。
「私の質問に答えてください。すずさんをどこに連れて行きましたか?」
「さ、さあ…?どこでしょう?…って痛てててててて!!!」

刹那は腕を思いっきり捻った。そして先程よりも強い口調で質問する。
「もう一度言います。すずさんをどこに連れて行ったんですか?」
「わ、わかった言うから!屋敷だ!黒生屋敷だ!」
それを聞き刹那は手を離した。

……刹那は気付かない。背後の建物の屋根にいる存在を。
「だそうです。屋敷に向いましょう!」
敵はゆっくりと刀を逆手に持ち替える。そして刹那の心臓目掛けて…!
「よし行く……!!刹那後ろだ!」

「え!?」

―――ドスッ!

政府軍の放った攻撃、当たったのは…
「ど、堂島さん!!!」
堂島の右肩には刀が貫通していた。堂島は刹那を庇ったのだ。
「しくじったか!」

政府軍は刀を引き抜きトドメをさそうと振り被った。
「死ねーーー!!!」
(これまでか……)
堂島は最早武器を持つことができず、諦めて目を瞑った。



(……攻撃が来ない?)
ゆっくりと目を開ける。見ると敵は振り被ったままピクリとも動かない。更に視線を落とすと心臓に刀が刺さっていた。
刀は堂島の背後から伸びていた。ゆっくり振り向くと…
「刹那…か……。」

刀を引き抜くと敵はその場に崩れ落ちた。
「大丈夫…ですか?」
「ああ。心配ない。」
「…堂島さん。私…人を……。」

刹那の刀を持つ手が、足が震えている。
「無我夢中で…気がついたら……刀を……。」
「おまえは悪くない。むしろよくやった。おかげで助かった。」
「でも…私は…殺した……。この手で…。お嬢様に会わせる顔が……。」

明らかに気が動転していた。このあまりにもリアルな世界に。仮想空間という事も忘れて。
「お前の言うお嬢様はそんな薄っぺらい人間なのか?」
「…え?」
堂島からの意外な発言に思考がついて行けない。

「そのお嬢様はお前がちょっと間違った事しただけで見捨てる様なクズなのか?」
木乃香の事をクズ呼ばわりされ流石の刹那も黙っていない。
「ッ…!お嬢様はそんな人じゃ…!!」
「だったらいいじゃねえか。」
「え?」
「そのお嬢様は優しいんだろ?他人を思いやれるほど。」
「はい…」

少しは納得したがどこかまだ踏ん切りがつかない様子。それをみて堂島は更に言葉を続ける。
「じゃあもし人を助ける事ができずお前も死んだら?その方がお嬢様は悲しむんじゃないか?」
堂島の問いに俯き気味に考える。暫くすると刹那は顔を上げた。その表情は何か決意染みた物があった。
「……………わかりました。私はすずさんを…みんなを守るため心を鬼にします。」

それを聞いて堂島は満足そうに頷く。
「では行きましょう。」
「その事何だが…刹那。先に行け。俺は怪我を治療してから行く。」
先程刹那を庇った際に出来た右肩の怪我。血が止め処なく流れている。

「すいません。私のせいで…。」
「気にするな。おまえのせいじゃない。さあ、早く行け!すずが危ない!」
「はい!では…!」
刹那は走る。走りながら先程のやり取りを思い出す。そしてここにいない木乃香に謝った。

(すいませんお嬢様。皆さんを守るため、私は鬼になります…)

―ウチはいつでもせっちゃんの味方や。だから迷わずがんばってな。

声が聞こえた気がした。愛しいお嬢様の。その声に後押しされ刹那は走る。皆を守るため。すずを助けるため…。


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最終更新:2006年09月16日 23:46
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