第十話

無事屋敷の脱出を成功した刹那とドナドナ。今は店に帰るため全力疾走中である。
「はぁはぁ…、これで…、これですずさんもここを離れられるでござる。刹那殿、もう一息でござるよ!」
「はい、後はこの一本松を越えれば……。」

―――ぞくっ

「「!!!」」

突然の寒気に二人は足を止める。いや、正確には動けなかった。今までの敵とは明らかに格が違う“殺気”によって。
毛穴から嫌な汗が吹き出てくる。息が苦しい。いままで仕事をしてきたがこんな経験初めてだった。
「この殺気は…あの一本松から…。」
「…だ、誰でござるか!?」

ドナドナの呼びかけに反応し一本松からゆっくりと影が出てきた。月明かりに照らされその正体が露わになる。

(黒生鉄心……!!)
「ん?お主は…まあいい。たった二人で屋敷に忍び込むとは敵ながら見事。」
「それは…どうも…。」
何とか平静を装って答える刹那だが、どうしても顔が引き攣ってしまう。汗がポタポタと足元に落ちていく。
「その度胸に免じて……」

溢れんばかりの殺気に鳥や動物達は本能的に逃げ出した。刹那も咄嗟に刀に手を置く。

「ワシに勝ったらこの場を見逃してやろう!」

周りの空気が一気に変る。刀を抜くと共に放たれた鬼迫によって。

「うわあぁぁぁぁ!」
先に切りかかったのは刹那。いつもの流れるような攻撃でなく、恐怖を打ち消そうと冷静さを欠いた攻撃。
それでもやはり剣の腕は達人レベル。上下左右斜めの激しい攻撃の嵐。並の者なら防ぐのも敵わないだろう。並の者なら…。
「中々の冴え。しかしまだ荒いな。」

すべて攻撃を鉄心は表情一つ変えることなく防いでいる。さら攻撃のスピードを上げる。
常人なら何が起きてるのか理解出来ないほどの激しい攻防。鉄心は嵐の様な猛攻の中、刹那の腕を掴むと一気に投げ飛ばした。
刹那は攻撃の勢いと相まって背中から激しく叩き付けられた。

「がはっ!!」
「刹那殿!…おのれぇ!!」

ドナドナが真っ直ぐ向って行くと思いきや、刀と刀が触れる数㎝手前で突然左右にステップをとる。
そのフットワークを使い刀を掻いくぐるように懐に潜り込むと喉もと目掛け突き上げた。

「そいやあ!」
「…ふん、甘いわ!」

半歩横に動く。たったそれだけでドナドナの突きをかわしのだ。そのまま鉄心は刀の柄でドナドナの側頭部を殴り飛ばした。
「…ッ!!何のこれし…」
立ち上がろうとするドナドナだがすぐに尻餅をついてしまった。三半器官を揺さぶられ平衡感覚が一時的に麻痺しているのだ。
「ドナドナさん!!」
「余所見をしてる暇などないぞ、刹那!」
「!!!!」

見ると鉄心が刀を振り上げ高く跳躍している。その姿は天にも昇る龍を彷彿させる。その龍の如き一撃が刹那を襲う。
「ぬぅぅん!」

―――ガキィィン

「ぐぅっ…!!」
何とか防御するも勢いは止らずそのまま刹那の左肩に刀がめり込んだ。
(強い、強すぎる…!このままでは……)
更に腕を切り落とさんと力を入れようとする鉄心に何かが高速でぶつかった。その隙を見てすぐさま距離を取る。
(クッ、致命傷ではないが上手く動かせない…。それにしても一体何が…?)

―――ピューーー!

ドナドナの指笛と共に次々と飛んでくる“何か”。それらはすべて鉄心に向って飛んで行く。
「ぬえぇぇい!小癪なッ!」
(あれは…鷹?)

鷹の攻撃で時間を稼ぎようやくまともに動けるようになったドナドナはまた鉄心に向っていった。
今度はブレイクダンスの要領で連続で回転切りを放った。
「ほほう。お主、型にはまらずおもしろい攻撃をするな。…だが!」
鉄心は回転を見極めドナドナの腕を踏んで回転を止める。そのまま腹に蹴りを加えた。

「ぐほっ!!」
「まだまだ修行不足!ワシの相手ではないわ。」
「げほっ、ごほっ!まだまだぁぁ!」
蹴り飛ばされて尚も攻めるドナドナ。避けられては殴られ、避けられては投げられる。それでも攻めるのをやめようとしない。

(何故…戦うんですか?実力の差は歴然なのに…、何故…?)
必死で戦うドナドナを見て刹那は彼のある一言を思い出した。

『すずさんのためなら命を張ってでも守るでござるよ!』

(……私は馬鹿だ!知床さんにあんなに偉そうに言っときながらなんだこの様は!? いつからこんな弱くなったんだ!
 敵の強さに恐怖して逃げる臆病者に!?何のために剣を振ってきてんだ、桜咲刹那!!)
刹那の中で何かが変わった。

(お嬢様やみんなを守るためじゃないか!!)

「お主のその気迫、見事なり!お主のことは一生わすれんぞ!」
既にボロボロのドナドナに最期の攻撃を加える。しかしそれは当たることはなかった。何故ならドナドナが消えたからだ。
「何!?」
見ると刹那がドナドナを抱えていた。ゆっくりドナドナを降ろすと耳元で囁いた。

「ありがとうございます。おかげで目が覚めました。」
そう伝えると刀を鉄心に向けキッと睨みつけた。
「みんなを守るため、お嬢様を守るため。私はあなたに勝ちます!」
(…?急に雰囲気が変わりおった。迷いも恐怖もない…。)

刹那の変わり具合に少々驚く鉄心だがそれ以上にこの勝負に対しての期待感がより一層強まった。
「ぬははは!!面白い!ワシも本気で行くぞ!!」
満月の下、対峙する二人。一人はここを治める最強の侍、一人は皆を守る神鳴流の女剣士。
激闘の第2ラウンドが今始まる…!


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最終更新:2006年09月16日 16:27
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