第一話 始まり


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 麻帆良学園理事長、近衛近右衛門は頭を悩ませていた。
 突然やって来た、桂木弥子と名乗る探偵と、その助手だと言うネウロという男がその原因であった。
「この学園で起こっている事件を調査したいのじゃな」
「ええ。先生のところに先日メールが届きまして。是非とも協力を、と」
 勿論、ネウロの言うメールが来たというのはこの学園に入る為の嘘だ。しかし、いかにもそれらしい印刷物を、丁寧な言葉と共に彼は
突きつけている。近右衛門は顔を強張らせてじっとそれを見続ける。ちなみにネウロのいう先生、というのは弥子の事で、普段は彼が魔
人である事、弥子がただの傀儡である事をばれないようにする為のカモフラージュだ。
 そして、ネウロの隣で二人のやり取りを眺めていた弥子は、理事長室に入る直前に彼が言った言葉を思い出す。この学園には当初の目
的であった謎以外にも別の謎がある、という言葉を。
 おぼろげながらも、それが事実だと弥子は気づく。
 目の前の老人の驚きぶりと、慌てぶりは、いきなりの来訪者に向けてされるべきものでは到底思えない。何かを必死に隠そうとして、
門前払いをしたいという意図がはっきりと伝わってくる。
「先生の推測するに、この学園で起こっている事はとても警察には解決できない。しかし警察が来ると問題になる、という非常に深刻な
ものですね」
「むぅ……」
「先生の手にかかれば、そんな煩わしい事態になる前に解決できるのです。どうです、悪くない話でしょう」
 意地悪そうな笑みで、ネウロは更に近右衛門へ詰め寄っていく。
「ちなみに、先生には警察のお知り合いも居ますので、なんでしたらお呼びしましょうか」
「……まあ、ワシらも猫の手も借りたいと思っていたところじゃしの。解決できるのなら」
「そうですか。ではまず簡単に事情を説明していただけますか」
「ああ、それなら彼に聞いたほうが早いぞ」
 彼とは、とネウロが尋ねようと口を開いたのと同時に、後ろのドアからノックする音が聞こえた。程なくして扉が開き、何かの資料を
抱えた一人の少年が入ってきた。赤みのかかった髪、日本人らしくない顔立ちから、西洋人であるとすぐにわかる。

 この学校の生徒か、と弥子は想像したがどうも様子が違う。この学園には小学校から大学まで揃っているのは聞いていたが、少年が
着ている服はそのどれにも該当しない。スーツに身を纏った姿はまさに先生であった。まさか、と思い、弥子は言葉を発する。
「あの、もしかして……」
「彼はネギ・スプリングフィールド。この学園の中等部3‐Aの担任をしている先生じゃ」
「ほう、その若さで先生を」
 思わず二人は絶句する。
 一方、注目の的となってしまったネギは、まるで事態を飲み込めないといった様子で目を丸くさせていた。
「あの、学園長。こちらの方達は誰なんですか」
「探偵だそうじゃ。麻帆良学園で今起きてる騒動の調査をしてくれるらしい。良かったらキミから今回の事を教えてもらえはしないじ
ゃろうか」
 暫くして、ネギは警戒しながらも弥子達に会釈をして学園長のもとに歩み寄る。そして抱えていた資料を手渡すと、学園長からこん
な事を告げられて二、三度頷く。
 そのやり取りは、まだ弥子達に対する警戒心解ききっていない事を暗に示していた。場の雰囲気が気まずくなる。弥子は一先ず自己
紹介をするべきだと考え一歩前に踏み出した。
「初めまして、私はか――――」
「いやぁ子供なのに先生をやっておられるとは凄いですね。しかも多感で進路の事も色々考えてあげなくてはならない中等部の生徒の
担任なのですか」 
 だが、突然ネウロが彼女の後頭部を鷲?みにして後ろに放り投げてしまった。物凄い勢いで床に叩きつけられて、軽い体が災いし更
に二回バウンドする。しかし、当のネウロはこれを皆目気にもせずネギに近づき一気にホメ殺し始めた。ネギの顔に、多少の困惑は見
られるものの変化が生じる。
「いえ、一応大学卒業程度の学力はありますので……」
「それでも素晴らしい! 是非とも私の先生にも勉強を教えていただきたいところですよ」
「は、はぁ」
「何せ先生は推理力こそあるのですが、学校の勉強はからっきしでして。おっと、今はそんな事を話している場合ではないですね。ほら
先生。早く話を聞きましょう」

 未だ床で悶絶する弥子を、ネウロは再び頭を鷲掴みにして持ち上げて数回揺さぶった。すると、弥子は気を取り戻し、目をぱちくりさ
せてからネウロを睨み付けた。それから視線をネギの方に向けてようやく自己紹介をする。
「改めて初めまして。桂木弥子です。それで、こっちにいるのがネウロ」
「先生の助手です」
「あ、はい。よろしくお願いします」
 宙に頭からぶら下げられているにも拘らず、平然としている弥子に驚きを覚えたのかネギは目を丸くした。そして、訝しそうに目を細
くさせるが、無意味な行動だと直ぐに悟ると話を切り替える。
「えっと、ここでは色々と邪魔になりそうですし、場所を移しましょうか」
「出来れば歩きながらでも話していただければ。先生はせっかちですので」
 廊下へと繋がるドアが開かれる。そして、ネギは弥子達に学園を案内する途中、彼女達に話し始めた。この学園内で起こっている、不
審な事態についてを。
 まず、被害者は五人。皆中等部3‐Aの生徒、即ちネギ受け持つクラスで最初の事件は今から十日前、学校からの帰り道と思われる生徒
が路上で気を失って倒れているのが発見された。その生徒は毎日バイトをしている事もあって、それから来る疲労ではないかとこの時は
片付けられる。そして第二の事件はそれから二日後、部活帰りの生徒が今度は女子寮へと繋がる並木道でやはり気絶していた。そして、
それから二日おきで場所こそ違えど、気を失ったままの生徒達が発見され続ける。この五人目の被害者が出た段階で、ようやく最初の出
来事も含めて、一連の出来事には何かの関連性があるのではないかと学園は考え始めるようになった。幸い、被害にあった生徒に目立っ
た外傷は無いものの、前後の記憶が全く無く犯人の手がかりはおろか何故気を失って倒れていたかもわからない状態という訳だ。
 それでも、弥子には分からない。何故これがネウロの言う警察に連絡するのはまずいのだろうかと。ちらりと横目でネウロの様子を伺
う。何かを考え込んでいるのか、口元をきゅっと締めている。ネギの説明から、手がかりを得ようとしているのか、それとも違う別の事
を考えているのだろうか。

 この弥子の類推は、結局のところ後者であった。ネウロはやがて口元を大きく歪ませて頭だけをネギの方に向けると、唐突に話を切り替える。
「それはそうとして小僧よ。貴様魔法使いだな」
「……はぁ?」
 ため息とは違う、半ば呆れ気味な声が彼女の口から漏れる。事件の概要を説明していたネギですらも、その脈略の無い質問に言葉を呑む。
「我輩に隠す必要などない。普段は抑えているようだが、溢れんばかりの魔力ではないか。こんな所で先生をしているのも、恐らく魔法使いの修
行の為だろう」
「ちょ、ネウロ。いきなり何を言ってるのよ」
 当然弥子は戸惑う。確かにこんな小学生みたいな子供が中学校の先生をしているというのは驚きであったが、いきなりそこから魔法使いという
のは余りにも突飛過ぎる。だが、ネウロの目は本気であった。何時も弥子を苛める時の目でも、誰かに何かを頼む時のような目でもない。今まさ
に、謎を解かんとする時の目と同じだ。
「貴方は、一体何者なんですか」
 ネギが足を止めてネウロと向き合った。身長差から自然とネギは見上げる形となったが、それでも彼は怖気づく事無くネウロの目を確かに捉える。
「我輩は脳噛ネウロ。謎を食って生きている魔界の住人だ」
 そんなネギの感情を皆目意識する様子も無く、初めて弥子と会った時にしたのと似たような言葉をネウロは並べた。
 途端に二人の間で何かが生まれる。余りにも異質すぎる二人の気によって空気が徐々に淀んでいくのを弥子は感じ取り、溜まらず割って入った。
「でも安心してネギ君。アタシ達はただ協力するだけだから、ね」
 少し身をかがめて、ネギの両肩を掴んで弥子はこう諭す。
「そうだ安心しろ小僧。我輩にとって謎は食料だ。それ以外には興味が無い。……もっとも、貴様にもそれなりの謎がありそうだがな」
「だから!」

 だが、ネウロは彼女の気遣いをまるで嘲るかのように言葉を続けた。弥子はとうとうネウロの方を向いて、語気を荒げる。
 ネウロは確かに謎を食う、つまる物事を解明する能力に長けている。その一方で魔人故にか、どうも人に対する思いやりに欠けていた。
事件を解決していくうちにその性格は少しずつ是正されているかに見えたが、まだ時間がかかるようだ。
 だからこそ、弥子はその穴埋めに躍起する訳で今もこうして冷や汗を額に浮かべている。何せ片や魔人、片や魔法使いだ。ネウロの能力
を良く知る弥子にとってこんな学校の廊下で彼がそれを使ってしまったら、ネギも、そして間にいる自分ですら危うい。が、意外にもネギ
はその場で気を鎮めて弥子を見据える。彼の表情はとても子供とは思えない。
「ごめんなさい。こんな事をしている場合ではないですよね。早く事件を解決しなくちゃ」
「……ネギ君」
 ネギが頭を下げる。弥子はどうして良いかわからず、ゆっくりと彼の両肩を掴んでいた手を離した。
 そして、弥子ははっとなる。冷静になって考えてみれば、確かにその通りだと。自分のクラスの生徒が奇怪な事件に巻き込まれているか
もしれないというのに、口喧嘩などどうかしている。ネギは直ぐにそれを思い出したのだろう。それだけ彼は自分がクラス担任であるとい
う事を自覚している。弥子の背筋に冷たいものが走った。
「我輩としては早いうちに協力できるものを集めておきたかった。小僧の正体も確かめておきたかったのだ」
 まるで付け足すようなネウロの発言。弥子は、出来るのならそれを一番最初にやって欲しかったと心の中で悪態をついた。
「では、まず女子寮に行きましょう。そこに僕のクラスの生徒が居ますから」
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