Scene.4サーヴァント八人八色

Scene.4サーヴァント八人八色
アーチャーの場合
「さて、まずは現状を把握しなくてはな」
鬱蒼と茂る木々の中で一際高い木のてっぺんに立ちながら、赤い外衣に身を包んだ男、アーチャーが呟く。
数分前、彼がここに飛ばされる前の状況を回想する。皆が寝静まった頃、彼は何時もの様に屋根で月を見ていた。
今日という日が終わり、日付が明日へと変わる刹那、突如として彼を魔力の奔流が襲った。何が起こったのか理解する間もなく、アーチャーはこの場所へと飛ばされていた。
「この区域に張られている結界のせいか隷呪も発動しないようだな。さて、どうしたものか」
月を見上げ、アーチャーは思案する。ふと、数キロ先をも見渡せる弓兵の目が一人の少年の姿を捉えた。
「あれは…?」
アーチャーの目線がその少年の背中に背負っている杖へと移る。
「魔術師か?なら話は早そうだな」
そう呟くと、アーチャーはその少年、ネギ・スプリングフィールドを追い、木々の間を飛び移っていった。

セイバーの場合
「ここは一体…?」
女子高エリアのグラウンド、そこでセイバーは目を覚ました。昼間は喧騒で包まれる学校も、この時間では闇と静寂が支配する空間である。
「今は事態の把握が先決。一帯に結界の一種が張られている事からみても魔術師がいると思われるが」
今後の行動を思案しているセイバーの耳に、ぐ~と自らの腹の音が聞こえ、思考が中断された。
「しまった。今日は夜食を大河にとられていた。このままでは朝まで持つかどうか…」
セイバーの脳裏に先程の、藤村大河との夜食を廻る熱い戦いと、苦い敗北が浮かぶ。
「とりあえず、あちらの建物のほうまで向かいましょう。何か食べ物があるかもしれない」
優先事項を人の発見・接触から、食料の補給に変え、腹ペコ騎士王は市街地エリアへと足を向けた。

ライダーの場合
「これは…すごい量の蔵書です。こんな所があったとは」
図書館島の深部、そこに自分の身長の数倍もある本棚に囲まれ、ライダーは感嘆する。桜と別れ、部屋で読書をしていた頃、彼女はアーチャー達と同じように転移され、気がついた時にはこの図書館島にいた。
「…と、いけない。一刻も早くここから出なければ」
ここを抜け出し、マスターである桜の元へ戻るという当初の目的を思い出し、ライダーは本棚の迷路を突き進む。
「しかし、一日ぐらい貸切でお邪魔したい物です」
大量の本に囲まれうっとりとした表情で溜息をつくライダー。彼女がここを抜けられるのはまだまだ先のようである。

バーサーカーの場合
「…」
鬱蒼と茂る森の中、バーサーカーはそこにいた。イリヤの命令でアインツベルン城へと続く森で番をしていたバーサーカーにとってアインツベルン城に戻るのは当然の事である。だが、彼はここを動かない。いや、動けないのである。
天然の落とし穴にはまり顔だけを地面に出したバーサーカーは身動きが取れずただ空を見上げている。
普段のバーサーカーならこの程度の脱出は軽い物である。だが、今この場にはマスターがいない。サーヴァントはマスターが近くにいない場合、能力は低下する。そのせいでバーサーカーは落とし穴の中身動きがとれなくなっていた。
「……」
無言のまま狂戦士は空にかかる月を見上げた

ランサーの場合
「やれやれ、釣りの最中に飛ばされた場所が港ってのは何て冗談だ?」
愛槍の代わりに、釣竿を片手に、ランサーは苦笑を浮かべる。
「強制転移、そして飛ばされた先には変な結界が張ってある。きな臭いもんを感じるが…」
そういうと、ランサーは防波堤に座り込んだ。
「マスターもいない状況で戦うのもあれだしな。釣りでもして朝になるのを待つか」
あくびを一つし、ランサーは釣り糸をたらす。赤々と光る月光の元、釣り針にかかった魚が、ぱしゃんと水面を跳ねた

ギルガメッシュの場合
「参ったなぁ…」
舗装された道路を金髪の少年、若返りの薬を飲んだギルガメッシュが歩いている。
「何の説明も無しに見ず知らずの土地に飛ばされてもなぁ」
ギルガメッシュは溜息をつく。
「とりあえず、どこか人がいる場所を探そうかな。こんな所をブラブラ歩いて補導なんてされたらたまらないや」
そしてギルガメッシュは行く当ても無く学生寮の方向へと足を向けた。

アサシンの場合
麻帆良学園の屋上で、アサシンは一人、月を見ていた。
「そなたは皆の所へいかなくてよいのか?」
アサシンが後ろの人影、桜咲刹那に尋ねる
「まだ全員は集まっていないので、少しお話ができれば、と。そういう貴方は?」
「なに、キャスターに闖入者が来ぬように見張っていろと命ぜられてな。退屈な仕事ではあるがマスターの命には逆らえん。だが、そなたのような可憐な小鳥と話せるのであればその退屈な時間も紛れよう」
「私が可憐な小鳥?そのような冗談は好きではありません」
楽しそうな笑みを浮かべ、会って間もない自分の事を、可憐な小鳥と言ってのけたアサシンに、仏頂面で刹那が返す
「冗談とは心外だな。私はあるがまま、見たままを口にしたに過ぎぬがな」
「冗談でなくても、あまりその手の軟派な言は好きではありませんので」
「それは残念」
変わらず仏頂面を浮かべる刹那に対し、アサシンは、やれやれ、と、苦笑し、おどける様に肩をすくめた。
「して、話とは?」
アサシンの言葉に刹那の目の色が変わる。
「先ほどの、貴方と同じアサシンと名乗った敵を倒した貴方の技に興味が湧いた」
刹那の言に、アサシンの眉がぴくり、と反応した。
刹那の脳裏に真アサシンを屠ったアサシンの剣撃が浮かぶ。うろたえる真アサシン目掛け襲い掛かり、切り裂いた三つの斬撃
「私の目がおかしくなければ、あの三つの斬撃はほぼ同時に放たれていた。どのようにすればあのような三連撃ができるのか。参考までに聞かせていただきたい」
自分を見据える刹那に対し、薄い笑みを浮かべアサシンが答える。
「まぁ、減るものでもなし。しかもそなたような小鳥の願いとあらば、喜んで答えさせていただこう。
だが、正確に言わせてもらうならば、あれは『ほぼ同時』ではない。『全ての斬撃はまったく同時』に放たれているのだ。三方向から同時に繰り出す斬撃。それが我が奥義、燕返しだ」
「全て同時に?しかしそんな事は物理的に不可能では…」
まったく同時に放たれる三つの斬撃。現実的に不可能なその攻撃について、更に刹那が追求しようとしたその時。屋上のドアが開いた
「刹那殿、皆集まったでござる。拙者達も参るでござるよ」
楓が刹那を呼びにきたのであった。
「やれやれ、どうやら語らいはここまでらしい。この話はまた後日。茶でも飲みながら話すとしよう」
そう言うと、アサシンは視線を校舎の外に戻し、自分の仕事に戻る。
そんなアサシンを、名残惜しそうに一瞥し刹那は楓の後を追った。
「しかし、完璧とは言えずとも燕返しの太刀筋を見るとはな。あの少女、小鳥かと思ったが大鷲かも知れぬな」
月を見上げ、アサシンは楽しそうにそう呟いた。

キャスターの場合
「つまり、お前達は聖杯を取り込んだ死徒の手によってこの世に受肉した。そういうことか」
学園長室、学校中の魔法先生がいる中、エヴァンジェリンの声が響く。
「ええ。本来ならばあれを裏切った時点で私達は消されるはずだけど、そこは私の宝具であれからの生殺与奪の権利を無効化して、こちらについた。という訳」
エヴァンジェリンの問いにキャスターが答える。そしてエヴァンジェリンは、次にアルクェイドへと顔を向ける。
「で、件の死徒は二十七祖の一人、ワラキアの夜、と」
「ええ、確かにあの感じはワラキアよ。夏にあいつは私達が倒したんだから、間違いない」
アルクェイド返答に、エヴァンジェリンは苦い顔を浮かべる。
「聖杯を取り込んだ二十七祖がこの麻帆良に潜んでいる、しかも奴は現世に具現化する間にも一方的にこちらへの攻撃ができる。何とも厄介極まりないな」
重い沈黙が部屋を支配する。
「アルクェイド殿とキャスター殿に一つ質問があるのじゃが」
学園長が沈黙を破った。
「お主等の知り合いに遠野と遠坂という御人はおるかの」
学園長の発言に二人の表情が変わる。
「遠野は私の知り合い。そう、やっぱり志貴達は来るみたいね」
「遠坂の方は私の知り合いよ。聖杯戦争の参加者の一人。たぶん坊や達も来るのでしょうけど」
キャスターとセイバーは、自分の知っているその人物がこの件に介入してくる事を予想していたのだろう。その両名の名を出されても大した動揺は無かった。
「混血にして三咲町の名家の遠野に、冬木の魔術師を統括している遠坂か。そういえば明日は橙子の使いも来ると聞いていたが」
エヴァンジェリンの発言を聞いたアルクェイドの目が見開かれる
「トウコ…ってミス・ブルーの姉の?」
アルクェイドの質問にエヴァンジェリンが頷く。
「そうだ。蒼崎青子の姉、人形師の蒼崎橙子だ。幸い奴には少なからず貸しがある。ここらで返してもらおうじゃないか」
エヴァンジェリンの顔に悪い魔法使い時の状態の笑みが浮かぶ。
「それと、埋葬機関も動いとるらしくての、明日あたりシスター・シャークティの元に現地に留まっている埋葬機関の者が来るようじゃ」
「…やっぱりシエルも来るか」
それも予想していたのだろう。げんなりした顔でアルクェイドは溜息をついた。
「とりあえず、じゃ。ワラキアの夜が具現化せぬ事にはワシらに打つ手はない。ワラキアが具現化するまで、戒厳令を引き、魔法先生及び、アルクェイド殿やキャスター殿達は、ちょっとした異変も見逃さぬよう頼むぞい」
学園長の発言に場の全員が頷く。会議も終わりをむかえかけたその時、扉の向こうからアサシンの声が聞こえた。
「取り込み中の所すまぬが客人をお連れした。入るぞ」
その声と共に扉が開く。そこにはアサシンともう一人、赤い衣装に身を包んだ男、アーチャーが立っていた。
「そこの少年を追跡していたら、見覚えのある侍と出くわしてな。大体の事情はアサシンに聞いた」
予期せぬ闖入者にキャスターは表情は一瞬凍りつく。
「なんで貴方がここに?マスターと一緒じゃないの?」
「私もよくわからん。気づけばここに飛ばされていた。もっとも…」
「貴方一人が飛ばされたとは考えられない。成る程、それが坊や達の来る理由という訳ね」
アーチャーの言葉を続け、キャスターはこめかみを押さえながら、溜息を一つついた。
「幸い、貴方達のマスターは明日には来るから問題はないでしょうけど、一応捜索はしておきましょうか。学園長様、そういうわけですので申し訳ありませんが…」
「うむ、だが今日はもう遅い。ここにいるものは皆明日も授業があるでの。とりあえず早朝から捜索を開始する。ということで宜しいかの?」
学園長の提案にキャスターとアーチャーは無言で頷く。
「よし。では会議はしまいじゃ。皆、明日以降も宜しく頼む」
その言葉に場の全員頷き、各自解散した。
「できれば、誰一人として犠牲が出ねばいいがの」
全員が部屋から出た後、窓から見える月を見て、学園長は一言呟いた。

Scene.4-END

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最終更新:2006年12月28日 00:38
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