Scene2.月下の邂逅

Scene.2月下の邂逅

夜の闇に異形の唸りが響く。
麻帆良女子校エリアの一角に、黒い獣達が殺到する。その数15体、その獣達は三人の少女を取り囲んでいた。
「ふむ、先ほどの倍はいるようでござるな」
その中の一人、長身の細目の少女、長瀬楓は自分達の周囲に転がっている、先ほどまで獣だった、黒い残骸を見やる。
長瀬楓、龍宮真名、桜咲刹那の三名の仕事は比較的速くケリが着いていた。そして帰路に着こうとしたその時、三人は強大な何かを感じた。
話し合いの末、その異常を近場に住んでいるエヴァンジェリンに知らせようとしていた矢先に、五体の獣と遭遇した。
正直な所、その獣自体の能力はそんなに厄介な物では無かった。只二つの事を除けば。
一つ目は仲間を呼び、数の暴力で押し寄せるという点。
獣の断末魔の呼応するかのように、周囲から甲高い唸りが上がる。気づけば回りには、真っ赤な双眸を爛々と輝かせた獣達が、彼女達を包囲していた。
「数は15、なら一人あたりのノルマは5体だな。しかし急所を狙い撃ちしても死なないとは、やりにくい相手だ」
ショットガンを構え、龍宮真名は闇の中に光る赤い点を睨みつける。
この獣のもう一つの厄介な点。それは急所が存在しないということだ。先ほどの戦いで、真名は心臓や眉間に的確に弾丸を撃ち込んだ。だが獣は、本来ならば致命傷であるそれを物ともせずに襲い掛かって来たのである。
だが不死身という事ではなく、桜崎刹那の愛刀『夕凪』や、楓の忍者刀が首を撥ねたり、袈裟に切り捨てた時などは、もがいた挙句に生命活動を停止した。
つまり肉体がちぎれたり、切断などのダメージを負った場合、この獣達は生命活動を停止するのであった。
「だが私達もこんなところでやられるつもりは毛頭ない」
「無論だ」
「その通りでござる」
刹那の言葉に二人が頷く。
「…来るぞ!」
「―、―!!」
真名の言葉に二人が身構えるのと、獣達が甲高い声を上げて飛び掛ったのはほぼ同時だった。
ショットガンが火を吹き、二本の刀が閃く、獣達は数が多かった。多少腕に覚えのあるくらいの人物が相手ならばこのくらいで十分だったであろう。
だが、彼女等を殺すには、圧倒的に数が不足していた。
数分後、そこには三人の女性と無数の黒い残骸があるだけだった。
「ふむ、あと10体くらいいたら危なかったかも知れぬでござるな」
「ああ、まったくだ」
「まだ気を抜くな」
獣を一掃し、一息をつこうとした二人を真名が諫める。
「どうしたでござる?そんな怖い顔をして」
「……」
楓の問いかけにも答えず、真名はある一点を睨んでいた。
「出てこい、気配は遮断できても私の魔眼はごまかせないぞ」
真名の言葉に答えるかのように、それは姿を現した。
「「!!」」
楓と刹那は戦慄する。彼女達は職業柄、気配を読むという事に関してはそれなりの物である。だが、二人はその人物が今まで潜んでいた事に、全く気がつかなかったのである。
「完璧に気配は遮断していたが、よもや魔眼使いがいたとはな」
「貴様、何者だ?目的は何だ」
真名のショットガンの銃口が目の前の人物、真アサシンに向けられる。
「我が名はアサシン、目的は、貴様等のような厄介な人物の抹殺だ」
そう言うと、真名が引き金を引くより速く、真アサシンは後方へ跳躍した。
「逃がさんでござる!」
楓は分身を作り出し、真アサシンを追撃させる。
「誰も逃げたりはせんよ」
その声とともに短剣が放たれ、楓の分身を一人一人、的確に貫いていく。
「お主達に恨みはないがこれも仕事なのでな、一人一人、確実に始末させて貰おう」
そう言うと、真アサシンは、自らの異常な程に巨大化した腕を振り上げる。
「「「!!」」」
その右腕に何か禍々しい物を感じた三人は急いで追撃にかかる。だが追撃はあと少しというところで間に合わなかった。
「妄想心音(ザバーニーヤ)」
妄想心音(ザバーニーヤ)。真アサシンの右腕は、シャイターンという悪性の精霊の腕であり、人を呪う事に特化した中東魔術の呪いの手である。
エーテル塊を用いた鏡から、対象者に影響を及ぼす二重存在を作成し、殺害対象と共鳴する二重存在の心臓を潰し、対象に指一本も触れずに殺す呪いの技。
真アサシンの腕は、鏡に浮かんだ対象、龍宮真名の心臓を抉り、握りつぶし、対象である真名の心臓も同様に抉り、握り潰される…―はずだった。
「あがっ!!な、に…!?」
真名の心臓を抉るはずだった真アサシンの右腕は、綺麗に切断されていた。右腕から血の噴水が上がる。
突然の出来事に三人の動きが止まる
「がああああああっ!!」
「どうした?その程度で取り乱しては真のアサシンの名が泣くぞ?」
真アサシンの横側に、真アサシンの腕を切断した男が彼へと刀の切っ先を向ける。
「ば、馬鹿な!何故貴様がそんな真似を!そんな事をすればお前達は…」
「生憎、あの女狐の宝具はあの程度の契約ならば問題なく破棄できるのでな、我等は晴れて自由の身。そして私は何かと厄介になりそうなそなたの始末に来た。という訳だ」
その言葉に真アサシンは狼狽し、後ずさる。
「覚悟はできたか?」
「う、うおおおおおおおおお!」
真アサシンは持っていた短剣を投げつける。だが、それは全て、最小限の動作でかわされ、刀で弾かれていく。
「あ、ああ…」
「―秘剣、燕返し」
三つの斬撃が真アサシンの体を切り裂き、血の花が舞う。
「が、はぁ」
その言葉を最後に真アサシンは地に倒れ伏し、光の粒となって消えていった。
「さて、そなたらには2,3尋ね事があるのだが」
刀を鞘へと納め、男は三人へと顔を向けた。得体のしれない男に三人は臨戦態勢を崩さない。
「そう、身構えるな。そなたらと刃を交える気はない。何なら今代の作法に合わせてホールドアップとやらもしよう」
飄々とした笑みを浮かべ、男は両手を上へ挙げた。
「貴様、何者だ」
警戒を解かずに、刹那は男を睨みつける。男はやれやれ、と肩をすくめ、苦笑を浮かべる。
「アサシン、佐々木小次郎」
紅い月が佐々木小次郎と名乗った侍の姿を完全に映し出した。

Scene2―END

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最終更新:2006年12月28日 00:39
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