Scene.1開幕の夜


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Scene.1開幕の夜
―ここはどこだろう?
どこかはわからない、ただ闇の中にぽつんとスポットライトが中ったかのように明るい場所で彼女は目を覚ました。
「私は―…」
「目覚めたか、キャスター」
あまり抑揚の無い、とても聞き覚えのある声が、彼女、キャスターと呼ばれた女へ向けられた。
「―、宗一郎様?」
その名を口にした時、彼女の記憶は溢れ出る泉の様に甦った。
第五次聖杯戦争。自分のマスターを殺し、自らも消えようとしていた自分。葛木宗一郎との出会い。共に暮らす内に芽生えた恋心。敵のサーヴァントの襲撃。宗一郎の死。そして自分の死。
繰り返される四日間で甦った自分達。無限に続くかと思われた幸せな時間。そしてそれを失う事を承知で戦い、再度消滅した自分達。
「大丈夫か?」
ぶっきらぼうに宗一郎が尋ねる。だがキャスターはこの男なりに自分を心配しているのだということを判っていた。
「はい、心配していただいて、感謝の言葉もございません」
「…妻の身を心配しない夫はいない」
その言葉に頬を染め、涙目で嬉しさに悶えるキャスター。
「やれやれ、こんな所でもおのろけか」
どこからか聞こえるもう一つの聞き覚えのある声に、キャスターの先ほどまでの態度は一転し、苦々しい表情を浮かべた。
「あら、あなたもいたの。アサシン」
「そう殺気を込めるなキャスター、私とて生き返りたくて生き返ったのではないのでな」
これでもかと敵意と殺気を込めたキャスターの言をさらりと受け流し、飄々とした態度でアサシンと呼ばれた男が答える。
「なら、今この場で消して差し上げましょうか?」
殺気のこもった笑顔をアサシンがいるであろう場所へと向ける。
「それは御免被ろう。甦った矢先に死ぬとはあまりにも間抜け過ぎる」
「私としてもそれはご遠慮願いたい」
また別の方向から聞こえる、聞き覚えの無い声。その声に三人は咄嗟に身構えた。
「そう身構えなくてもいい。私はただ、君達に協力を頼みたいだけなのでね」
「その言動、その魔力からして貴方が私達を甦らせたのかしら?」
一瞬たりとも警戒を解かずに、キャスターが尋ねる。魔術に長けた彼女は、その声の主の発する強大な魔力にいち早く感づいていた。
「ご名答、さすがはギリシャの魔女。説明が早くて助かる」
「―!?貴方、私の真名を知っているの?」
真名、英霊の本名であり、相手に知られた場合、一番の弱点である物。
故に聖杯から呼び出されたサーヴァントは七つのクラスで呼ばれ、自分のマスター以外には滅多な事では明かされない物である。
その真名を、この声の主は知っているのだ。
「聖杯とやらの欠片とそれと共にあった魔力の渦を取り込んだ際に、君達の戦い、第五次聖杯戦争と繰り返される四日間だったかな?その情報が全て流れこんできたのでね」
「馬鹿な事を言わないでちょうだい、聖杯の欠片に、魔力の渦?そんな物、今世の魔術師や人外の奴らが取り込めるわけないでしょう?」
キャスターは、その声が言った事を真っ向から否定した。聖杯に溜まっていた魔力は強大にして膨大。おまけに負の力で作られた危険極まりない代物である。
そんな物を取り込んでしまえば。人や並大抵のサーヴァントではすぐに壊れてしまう。そう、そんなことができるはずがないのだ。
「ふむ、その意見はもっともだ。あれ程の物は、こうなる前の私ならば耐え切れず、精神を破壊されてしまっていただろう」
『こうなる前の私』。その言葉にキャスターは首をかしげる。
「生憎とこの身は事象と化し、実体は既にない。壊れるという概念は存在しないのだよ。“事象が壊れる”などという事は有り得ぬだろう?」
哂っている。姿形は無くとも、今、この声の主は哂っている。キャスター達にはそう感じられた。
「さて、では話を戻そう、君達を死地から呼び出したのは、他でもない。私という存在は一定の周期を置いて現世に受肉する吸血鬼だ。
本来ならば次に受肉するのは20年後のオーストラリアだったのだが、あれを取り込んだ結果か、数日後のここ、麻帆良という場所に受肉する事になった。
ここは魔術師が多いことで有名で、リスクは高いが魔術師の血液が大量摂取できるというリターンがある。そこで君達には障害と成り得る強力な魔術師をなるべく排除して頂きたい。」
「もし、断ったら?」
こちらになんのメリットもなく、かつ聖杯戦争でもないのに好き好んでそんな真似をしたくはない。キャスターは暗にそう言っていた。
「残念だが、その時には君達には消えて貰う。君達の命は私の手に握られているような物だ。君達も甦ってそうそう消えたくはないだろう?」
その返答にキャスターは溜息をつく。
「つまり拒否権は無いってことじゃないの。協力が聞いて呆れるわね」
自分達にメリットの無い提案。それを聞いた時点でキャスターはこの展開を予想していた。
「そういう事だ。さて、どうするね?」
その問いに、キャスターは宗一郎を見た。
「キャスター、お前に任せる。お前の決定に従おう」
宗一郎はただそれだけを告げた。いつもと変わらぬやりとり。もう、することは無いと思っていた愛する人とのやりとり。キャスターの考えは決まった。
「わかったわ。貴方に従いましょう」
「賢明な判断に感謝する」
キャスターのとった答えに満足そうに答えながら声の主は続ける。
「そうそう、君達の他にも手駒が何個かあってね。それを紹介しておこう」
その声と共にキャスター達のいる場に、獣のような人のような黒い生命体と全身黒色の人にあるまじき長い腕の仮面をつけた人間が現れた。
「そちら獣人もどきは君達もよく知っているだろうから説明は省かせてもらうとして、もう片方の人物は、そちらの侍と同じアサシンと言う。本来ならば彼がそちらの戦争で呼ばれるはずだったそうだ。仮に真アサシンとでもしておいてもらおうか」
「……」
「……」
アサシンと真アサシン、二人のアサシンが睨みあう。
「今の私の魔力では一度に出せる獣人もどきは50かそこらだが十分な戦力にはなるだろう。では行きたまえ」
「―!!―!」
その言葉を最後に気配は消え、それと共に耳障りな甲高い声を上げ黒い獣人は闇に消えていった。
「共闘、という形式をとったが、儂は一人で動かせていただく。ついてくるならば好きにするがいい」
その言葉を残し、真アサシンも闇へと消えた。
「よもやそなたがあのような提案を受けるとはな、他人に利用されるのは気に入らない気性だと思ったが」
「条件が条件よ。あの得体の知れない物のいいように扱われるのは癪ではあるけど、だからといってむざむざ消されるのはそれ以上に癪だもの」
そう答えたキャスターの顔には怒りの色が見え隠れしている。
「だが、このまま奴のいいようにされる気ではあるまい?」
その言葉にキャスターは不適な笑みを浮かべた。
「当然です。あれには嫌という程、後悔させないとこちらの気がすまないもの」
「ギリシャの裏切りの魔女は未だ健在か」
「それ以上ふざけた事を言ったら貴方を消すのでそのつもりで」
笑顔のまま告げるキャスターを見てアサシンはやれやれと肩を竦める。
「やれやれ、随分と心強い妻を持ったな宗一郎」
「…うむ、だからこそ安心して背中をあずけられる」
「宗一郎様…」
「…やれやれ」
皮肉が通じず、かつその皮肉がのろけの発端となってしまったアサシンは、いささか面白くなさそうに肩を竦めた。

「…厄介な物が入ってきたようだな」
夜の闇をエヴァンジェリンが睨んでいる。
数分前、エヴァンジェリンが床につこうとしたその矢先、それは起こった。
強大な魔力が麻帆良を覆うのが感じられた。
家の電話が鳴る、学園長からだった。麻帆良にいる魔法使いのほとんどはこの魔力に気が付いたらしく、魔法先生を三人一組で哨戒にあたらせているらしい。
だがここで一つ問題が生じた。2-Aの龍宮真名、長瀬楓、桜咲刹那の三名は仕事の為に外出していたそうなのだ。何かあっては困るとエヴァンジェリンに、至急救援に行って欲しいとの事だった。
「やれやれ、子供のお守りは疲れるな。行くぞ茶々丸」
「はい、マスター」
時折甲高い遠吠えが聞こえる中、二人は外へと飛び出した。空には血の如く赤い月が、煌々と光っていた。

Scene1―END
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