最初の悪夢 2

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シェンは彼女を下ろしたあと、左手の刀を背の鞘に戻し、はずしたロープを腰に吊り下げた工具の脇に巻いておいた。 そして、その彼女はコンクリの橋の上、音を立てて離れていくバレンシップを見上げていた。 いつかのオバハンD・Pの言葉を借りるなら、「ものすごくでっかいブリキのバケツが、逆さまになって」、「バケツの底の部分に、ちょうどヘリコプターみたいなプロペラがついている」。 そんなシップだ。で、見上げながら自分の今現在この状況に困っている。宙に浮いてたときからずっと。 親切なことにまだまだダンマリだ。こりゃしばらく元に戻れねぇな。 だから、橋の柵に乗りかかって、暗い水面の川を覗き込みながら待ちぼうけになっている。 汚水が垂れ流しになっていて、別段きれいな川とは言いがたい、こっちのやつよりはマシではあるけれども。 ――テーラの大災厄の被害の傷跡が、これだけではっきり再確認できる。 「あの・・・・これってホントにウチの夢・・?」 後ろから、やっと口を開いて声をかけられた。っても、口は最初から開きっぱなし。 立ち直りは早い方のようだ。 「川の上で言ったとおり。譲ちゃんの夢で、俺らはD・Bで、あんたの夢に巣食ってるクライカンってやつを捕まえるためにここにいる」 「クラ――」 「クライカンが何かって聞くなら、十数人の人間を海に沈めて殺した殺人犯だ」 けっこう面食らっている。 「『何』とか『それ』じゃないぞ。そいつが譲ちゃんを乗っ取ろうとしている」 不安で何も言えないらしい。何が疑問なのかそこは汲み取って、 「・・・」 「あんたの知り合いが」 にしては変な姿だった。見聞きした、あの天使のようだった。 「襲ってきたのはクライカンが仕掛けた罠で、脅したりして譲ちゃんを精神的に参らせて乗っ取るつもりなんだ」 やっぱり空想的が好きな学生、といったところなのだろう。だが“場”はいたって現実的なのだからおかしい。 「罠?幻みたいな、『影分身』みたいな・・・」 カゲブンシン?―――おもったとおりだ。 詳しい話はめんどくさい、ジジイが着いてからにしよう。 「オレの方の知り合いが来るまで待っててくれ」 聞きたいことは一晩の夢では語り尽くせないかもしれないが。 いわゆる不思議チャンは黙って首肯した。
シェンは彼女を下ろしたあと、左手の刀を背の鞘に戻し、はずしたロープを腰に吊り下げた工具の脇に巻いておいた。 そして、その彼女はコンクリの橋の上、音を立てて離れていくバレンシップを見上げていた。 いつかのオバハンD・Pの言葉を借りるなら、「ものすごくでっかいブリキのバケツが、逆さまになって」、「バケツの底の部分に、ちょうどヘリコプターみたいなプロペラがついている」。 そんなシップだ。で、見上げながら自分の今現在この状況に困っている。宙に浮いてたときからずっと。 親切なことにまだまだダンマリだ。こりゃしばらく元に戻れねぇな。 だから、橋の柵に乗りかかって、暗い水面の川を覗き込みながら待ちぼうけになっている。 汚水が垂れ流しになっていて、別段きれいな川とは言いがたい、こっちのやつよりはマシではあるけれども。 ――テーラの大災厄の被害の傷跡が、これだけではっきり再確認できる。 「あの・・・・これってホントにウチの夢・・?」 後ろから、やっと口を開いて声をかけられた。っても、口は最初から開きっぱなし。 立ち直りは早い方のようだ。 「川の上で言ったとおり。譲ちゃんの夢で、俺らはD・Bで、あんたの夢に巣食ってるクライカンってやつを捕まえるためにここにいる」 「クラ――」 「クライカンが何かって聞くなら、十数人の人間を海に沈めて殺した殺人犯だ」 けっこう面食らっている。 「『何』とか『それ』じゃないぞ。そいつが譲ちゃんを乗っ取ろうとしている」 不安で何も言えないらしい。何が疑問なのかそこは汲み取って、 「・・・」 「あんたの知り合いが」 にしては変な姿だった。見聞きした、あの天使のようだった。 「襲ってきたのはクライカンが仕掛けた罠で、脅したりして譲ちゃんを精神的に参らせて乗っ取るつもりなんだ」 やっぱり空想的が好きな学生、といったところなのだろう。だが“場”はいたって現実的なのだからおかしい。 「罠?幻みたいな、『影分身』みたいな・・・」 カゲブンシン?―――おもったとおりだ。 詳しい話はめんどくさい、ジジイが着いてからにしよう。 「オレの方の知り合いが来るまで待っててくれ」 聞きたいことは一晩の夢では語り尽くせないかもしれないが。 いわゆる不思議チャンは黙って首肯した。 この夢はいったいなんなんやろう。 喩えるなら、バケツみたいな飛ぶ乗り物に吊られた高校生ぐらいの男の子に抱えられながら、空を飛んで。ほんとに夢なんやろうか…もしかしたら、寝てる間に誰かに連れてこられたんとちゃうんやろか。 だったら、あの乗り物は魔法で浮いてて… 男の子は斜に構えてて、慰めてはくれたけど、あんまりいい人には見えへんしな…… でも、あの…このちゃんは――幻? 制服も乾いてるし、肩も傷が無い。あのドロドロは跡形も無いし、それも違うんかな… そんなことを黙考ていたら、程なく『男の子の方の知り合い』が来た。 『のっしのっし来た』でも間違いは無いかも。 「ほほう、これはまた可愛らしい学生のお嬢さん、よろしくお願いしますじゃ」 小柄な方であるが、木乃香より頭一つと少し上くらいの少年が、その大男の横に並ぶと小学生くらいに見える。木乃香は簡単に筋骨隆々の大きな彼の姿にそっくり収まってしまう。 筋肉の塊みたいだ。腕っ節も強そうで、コワモテ顔も髭が覆っている。 それでも、その顔の心の広い人以外には持ち得ない笑いじわの印象は変えられていない。頼れそうな人や。シェンとか言う男の子とは違って。 それに…それに、街灯に照らされて、 「言い忘れてたけど、この月みたく、見事に曇り無くツルツルのピッカピカのヤカン頭だろ?」 ――ボカリ。 少年の頭にでっかい拳が叩き付けられた。結構、鈍い音が強かった。 「このバカからどれ位事情を聞きましたかな?お嬢さん」表情もそのまま、バリトンの深い声色を変えずに問いかけてくる。 右隣りでは痛そうに………「大丈夫?」 頭押さえて「馴れてる。これ位問題ない」痩せ我慢してるんとちゃうか? 「何でも口を挟むからそうなるんじゃ」 二人の出で立ちも、街中で見れるものとは程遠い。 シェンと名乗った少年は袖捲りしたヨレヨレの作業着のような服に擦れた革の上着。 それに見合ったような、またヨレヨレのジーパンに、磨り減った革編みのブーツで、腰にはさっきのロープと、なぜか大量の工具を巻き付けている。 さらに、細い反り身の刀を、背中の革を巻き付けただけのような粗野な鞘に収めて。 ハチマキだけ見ればマラソン選手のようであって、ロープと革ブーツせいで、いかにもな西部劇に出てきそうな感じもする。 優しそうな大柄の人は、筋肉の上半身に、作業着のつなぎのようなサラペントを直に着ていて、サスペンダーが食い込んでいる。腕はむき出しだ。胸の一つのポケットには、また幾つかの工具が詰められている。腰のベルトにも。 「つまり、なぜわしらがお嬢さんの夢の中にいて、なぜ逃亡犯が乗っとりを考えているのか。こういうことなのです。 なぜ逃亡犯と言うかは追々分かりますのでな」 どこかすまなそうな顔をしている気がした。 「まぁ、信じてくれるだろうけどな。現実感無さそうな、『て』から始まって『け』で終わるような顔つきしてるし」 「そんなことないんやけど」 身に覚えのないことで馬鹿にされて、少しむかっ腹が立ってきた。 悪人面に言われとうないな。 隣りの頭を押さえ付けながら、 「事の発端は、こちら側の“テーラ”で起こったのです」神妙に話し始めたが、しっかりと耳を傾けて聴こうかどうしようか… どうせ、夢の中の事。無意識に作られたもん。“テーラ”なんて言うんもどうせ想像の中のもん いろんなことあったんやし… 「そんなに疑う事なく、聴いて頂きたい」 「そ、それが嬢ちゃんの身のためにも、オレらのためにも、嬢ちゃんの協力が要る」 そして、木乃香は“テーラ”のこと、、旧連邦の“プロジェクト・ナイトメア”の失敗、こちらに繋がる“抜け穴”ができたこと、被験者だった五十人の凶悪犯が意識だけの存在となってこちらに来たこと。 そして、その内の十七人が今だ逃亡中であること。 その中の一人、“クライカン”が木乃香の乗っ取りを謀っていることを詳しく聞かされることとなった。 逃亡犯は嬢ちゃんの夢から侵入してる。だから、土地鑑みたいなやつが無い所には行かない」 質疑応答を繰り返しながら、大体のことは伝えられた。 的を射ていない言動は無かったから、俺の思い違いかもしれない。 「土地鑑とは、お嬢さんとクライカンの共通点などですじゃ。主に精神的、身体的な隙に入り込んでくる。悩みや病気、さまざまな隙がありますな。だから、足掛かりにしている共通点を見つけるためには、お嬢さんの協力が要ります」 また嬢ちゃんは口を開いた。 「その足掛かりにしてるものが見つかれば、クライカンって人は捕まえられるんよね」 マエストロは厚い皮の手を叩いて賞賛する。「そうですじゃ、お嬢さん。飲み込みが早いです」 「で、あの羽生やした刹那って嬢ちゃんはいったいどんなやつなんだ?」 まぁ、「せっちゃん」で呼んでるんだから、仲がいいのだろう。 「うちのクラスメイトなんや。京都に住んでたときからの幼馴染み」 独特の訛りもそのせいか。西日本と区別される地域の辺りの方言のだ。何度かそんな感じに訛った口調のD・Pに面会したことはある。 あいつと違って田舎娘ではないようだ。 「あの羽は?」 この質問は、かなり戸惑っている。 どちらかと言うと、分からないというか、言うべきか否かで考え込んでいるようだ。何か知っているに違いない。 「言いたくなければ今はよいですじゃ。そろそろ霧も降りてきた」 星屑を散りばめた夜空は、既に厚い霧に覆われ始めている。月の光も届かないところまで来ている。 この霧が降りてきたってことは、 「夢から嬢ちゃんが覚めようとしてるぜ。そろそろズラからねェと」 泥棒みたいな言い方、と思われた。 「目が覚める兆候で、お嬢さんの“場”に白い霧が降りてきます。明日もお嬢さんの夢の中に、シップに乗って来るはずじゃから、事情を理解して待っていてくだされ」 わしの名前はマエストロですじゃ、そしてこのバカは、聞かされたと思いますが、シェンじゃ。 お初にお目にかかります。 霧がかかった空を見上げれば、あの乗り物の影がだんだんと小さくなっていく。 毎晩毎晩来るだろう、って言ってたなぁ。どうしよう… ほんとにドリームバスターなんて人たちが居るのかどうか、夢の中の人かもしれへん。やっぱり誰かに…聞いてみよか。

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