最初の悪夢 1

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一瞬の沈黙を破ったのは、「せっちゃん」と、木乃香が呼びかける声でなくて、「お嬢様」と、刹那が呼びかける声でもない、鋭い摺り足の音だった。 そして、宙から舞い落ちるしずくの色も、また二つだけ、 赤い鮮血の色と涙の色。 「せっちゃん……何で………泣いてるん?」 血があふれ始めた肩口を押さえながら、木乃香は刹那に問いかける。 月明りで照らされた、刹那の顔は大量の涙で濡れていた。 しかし、返ってきた返答は、質問とは全く関係ないもの。 「夕凪の刃の餌食となるがいい。さもなくば、逃げろ、私を楽しませるために」 刀を木乃香の顔に突き出し、あふれる涙のある、無表情の顔向けた。 ――周囲の視界が突然真っ白になったとき、 「せっちゃん……」 残忍な刹那の言葉と行動に、木乃香は吐き気と恐怖にかられ、後ろの地面を踏もうとあとずさる。 ―――左足が踏んだ、グニャッとした感覚。 そのまま、長い黒髪を散らせながら、今度も月の光を直接仰ぐ。 後ろに倒れた木乃香は、泥水のような液体に、音をたてて仰向けに落ちる。 「……!!!」 肩口の切り傷が、尋常でない染みた痛みを訴え、声にならない叫びをあげた。 気付けば、仰向けの木乃香に、刹那が白い翼を広げ、沈まないように馬乗りになっている。 肩より高く刀を星空に向ける刹那。 その後の動きが、身体が沈み込み始めた木乃香にはコマ送りのように見えた。 肩から刀が降りてくる。 肩より下に落ちるとき、肘下だけが曲がって落ちてくる。 手首が胸より下がって落ちてくる。そして、腹よりも。 ―――――さらに、両断された手首が、木乃香の腹の上の水面に落ち、波紋を作り出して、消えた……… いつの間にか、刹那の頭のてっぺんを見ている。 いつの間にか、誰かが刹那を大声で呼んでいる。 だんだん刹那から上へ上へと遠ざかりながら、木乃香は自分自身が叫んでいることに気がつく。 そして、誰かが抱き上げながら、自分を空に持ち上げつつあることにも。 「お嬢ちゃん、そんなに叫ばなくても大丈夫だ。助けに来てやったんだから」 上の方で、小生意気な、少し気取った少年の声が聞こえた。 「…………え?」 ショックの残る木乃香を覗き込んでいる顔がある。肉声の通り、まだ産毛の残る少年の顔だ。間違いなく子供だ。 目鼻立ちはぱっちりしていて、尖った顎。赤味が強い髪はショート・ボブで長い。肩まで垂れて届く赤いハチマキを巻いているのが見える。 「とりあえず、シップ着陸させる前にどっかに降りるからさ、ちょっとの間空中散歩な」 と、音にかき消されないよう大声で言い、親指で真上を指す。 さっきから聞こえるこの音って、これ? とてつもなく巨大なプロペラが木乃香の頭の上で回っている。その風が、濡れていたはずの髪をなぶっている。乾いているのだろうか。 どうやら、長いロープをどこかに引っ掛け、吊られているようだ。しかも、しっかり飛んでおらず危なっかしく、フラフラ揺れながら進んでいる。 これってウチの夢?いったいどうして… 「ああ、そうだよ嬢ちゃん、あんさんの夢やがな、ってな感じかな」 ニヤッと、折れ曲がった金釘のように整った唇を曲げて笑う。 「なんで、ウチの考えてることが分かるん?っていうか、マネせんといてよ」 さすがにつられて笑いそうになってくるけど、それどころではない。 目の端に涙が残っていたが、緊張した顔を向け返した。 「あんたの夢の中にいる間は分かるんだけど、別に変に思わないでくれよ。自動操縦なんだけど、操縦桿が傾いちまって、フラついてるけど気に―――」 またも、唐突に視界が真っ白になる。 「せっちゃん!!!」 あの刹那が、切れた右手首をそのままに、二人をたたき落とそうと目の前まで加速をかけて飛んできた。 「せっちゃん、大丈夫!?なんで―――」 だが。 刹那を見下ろす木乃香の視界を縦に割る、一筋の目に写る閃光。 それは真っ直ぐに刹那の背中から入り、羽を散らせながら、刹那は真っ逆さまにドロドロの溜まり場に落ちていく…… 「!、せっちゃああ----ん!!!!」 「だから、叫ばなくても大丈夫だって。しかも泣いてるし」 そう言っておきながら、少年はさらに続けた。 「あれはあんたの刹那っていう知り合いじゃないぜ。 嬢ちゃんを乗っ取ろうと、クライカンが仕掛けたトラップだからな、心配いらない。 オレらは“D・B”だよ、嬢ちゃん。そいつを捕まえるために、あんたのDFにジャックインしたんだ」 「とりあえず、込み入った話は落ち着いた場所でだ。大声出したり、暴れたりしないでくれ。な?」 確かに、文字通り地に足が着かず、恐怖に駆られている。 なだめられて落ち着いたので、なんとか周りが飲み込めてきた。 まだ真下に川があり、かなり高く宙に浮いている。 どうやら、右手で腰を抱かれて、左は何か握ってるから添えられているだけだ。 問いただしたいことはたくさんあったが、落とされては大変だ。なので、開きかけた口を閉じたいのだが、さすがに半開きになる。 「そうそう、黙っててくれればいいから」 さらに続けて、 「マエストロ、オレらだけでも降りれる場所は確認出来るか?」 よく見れば、口元に細い棒のようなもの。それに話かけている。耳にイヤホンのようにはまるところまで伸びている。どこかSF風のマイク、無線機のようだった。 深みのある低い声が何か言ったのが漏れてくる。 「了解、広い場所にシップ止めて、そこで落ち合おう」 クライカンって何?シップ?DF?マエストロって、師匠って意味のはずや。それに“ドリームバスター”って何や? 困惑した木乃香と少年を吊りながら、上の何かはフラつくのを止め、上昇しつつ真っ直ぐ飛んでいく。 「さて、嬢ちゃん。名前はなんて言うんや?」 シェンは怯えた顔を、上がった息を戻させるためにそう言って、覗き込んだ。 「近衛、近衛木乃香や」 気丈な性格のようだが、びびって震えてやがる。かなり難しいサルベージミッションになりそうだ。面倒くせぇな。 でも、その苦い感情を顔に出さないのは、四年間の実績の功だ 「そうか、オレはシェンだ。シェン。言えるか?よろしくな」 「よ、…よろしゅう」 ---- [[最初の悪夢2]]へ
一瞬の沈黙を破ったのは、「せっちゃん」と、木乃香が呼びかける声でなくて、「お嬢様」と、刹那が呼びかける声でもない、鋭い摺り足の音だった。 そして、宙から舞い落ちるしずくの色も、また二つだけ、 赤い鮮血の色と涙の色。 「せっちゃん……何で………泣いてるん?」 血があふれ始めた肩口を押さえながら、木乃香は刹那に問いかける。 月明りで照らされた、刹那の顔は大量の涙で濡れていた。 しかし、返ってきた返答は、質問とは全く関係ないもの。 「夕凪の刃の餌食となるがいい。さもなくば、逃げろ、私を楽しませるために」 刀を木乃香の顔に突き出し、あふれる涙のある、無表情の顔向けた。 ――周囲の視界が突然真っ白になったとき、 「せっちゃん……」 残忍な刹那の言葉と行動に、木乃香は吐き気と恐怖にかられ、後ろの地面を踏もうとあとずさる。 ―――左足が踏んだ、グニャッとした感覚。 そのまま、長い黒髪を散らせながら、今度も月の光を直接仰ぐ。 後ろに倒れた木乃香は、泥水のような液体に、音をたてて仰向けに落ちる。 「……!!!」 肩口の切り傷が、尋常でない染みた痛みを訴え、声にならない叫びをあげた。 気付けば、仰向けの木乃香に、刹那が白い翼を広げ、沈まないように馬乗りになっている。 肩より高く刀を星空に向ける刹那。 その後の動きが、身体が沈み込み始めた木乃香にはコマ送りのように見えた。 肩から刀が降りてくる。 肩より下に落ちるとき、肘下だけが曲がって落ちてくる。 手首が胸より下がって落ちてくる。そして、腹よりも。 ―――――さらに、両断された手首が、木乃香の腹の上の水面に落ち、波紋を作り出して、消えた……… いつの間にか、刹那の頭のてっぺんを見ている。 いつの間にか、誰かが刹那を大声で呼んでいる。 だんだん刹那から上へ上へと遠ざかりながら、木乃香は自分自身が叫んでいることに気がつく。 そして、誰かが抱き上げながら、自分を空に持ち上げつつあることにも。 「お嬢ちゃん、そんなに叫ばなくても大丈夫だ。助けに来てやったんだから」 上の方で、小生意気な、少し気取った少年の声が聞こえた。 「…………え?」 ショックの残る木乃香を覗き込んでいる顔がある。肉声の通り、まだ産毛の残る少年の顔だ。間違いなく子供だ。 目鼻立ちはぱっちりしていて、尖った顎。赤味が強い髪はショート・ボブで長い。肩まで垂れて届く赤いハチマキを巻いているのが見える。 「とりあえず、シップ着陸させる前にどっかに降りるからさ、ちょっとの間空中散歩な」 と、音にかき消されないよう大声で言い、親指で真上を指す。 さっきから聞こえるこの音って、これ? とてつもなく巨大なプロペラが木乃香の頭の上で回っている。その風が、濡れていたはずの髪をなぶっている。乾いているのだろうか。 どうやら、長いロープをどこかに引っ掛け、吊られているようだ。しかも、しっかり飛んでおらず危なっかしく、フラフラ揺れながら進んでいる。 これってウチの夢?いったいどうして… 「ああ、そうだよ嬢ちゃん、あんさんの夢やがな、ってな感じかな」 ニヤッと、折れ曲がった金釘のように整った唇を曲げて笑う。 「なんで、ウチの考えてることが分かるん?っていうか、マネせんといてよ」 さすがにつられて笑いそうになってくるけど、それどころではない。 目の端に涙が残っていたが、緊張した顔を向け返した。 「あんたの夢の中にいる間は分かるんだけど、別に変に思わないでくれよ。自動操縦なんだけど、操縦桿が傾いちまって、フラついてるけど気に―――」 またも、唐突に視界が真っ白になる。 「せっちゃん!!!」 あの刹那が、切れた右手首をそのままに、二人をたたき落とそうと目の前まで加速をかけて飛んできた。 「せっちゃん、大丈夫!?なんで―――」 だが。 刹那を見下ろす木乃香の視界を縦に割る、一筋の目に写る閃光。 それは真っ直ぐに刹那の背中から入り、羽を散らせながら、刹那は真っ逆さまにドロドロの溜まり場に落ちていく…… 「!、せっちゃああ----ん!!!!」 「だから、叫ばなくても大丈夫だって。しかも泣いてるし」 そう言っておきながら、少年はさらに続けた。 「あれはあんたの刹那っていう知り合いじゃないぜ。 嬢ちゃんを乗っ取ろうと、クライカンが仕掛けたトラップだからな、心配いらない。 オレらは“D・B”だよ、嬢ちゃん。そいつを捕まえるために、あんたのDFにジャックインしたんだ」 「とりあえず、込み入った話は落ち着いた場所でだ。大声出したり、暴れたりしないでくれ。な?」 確かに、文字通り地に足が着かず、恐怖に駆られている。 なだめられて落ち着いたので、なんとか周りが飲み込めてきた。 まだ真下に川があり、かなり高く宙に浮いている。 どうやら、右手で腰を抱かれて、左は何か握ってるから添えられているだけだ。 問いただしたいことはたくさんあったが、落とされては大変だ。なので、開きかけた口を閉じたいのだが、さすがに半開きになる。 「そうそう、黙っててくれればいいから」 さらに続けて、 「マエストロ、オレらだけでも降りれる場所は確認出来るか?」 よく見れば、口元に細い棒のようなもの。それに話かけている。耳にイヤホンのようにはまるところまで伸びている。どこかSF風のマイク、無線機のようだった。 深みのある低い声が何か言ったのが漏れてくる。 「了解、広い場所にシップ止めて、そこで落ち合おう」 クライカンって何?シップ?DF?マエストロって、師匠って意味のはずや。それに“ドリームバスター”って何や? 困惑した木乃香と少年を吊りながら、上の何かはフラつくのを止め、上昇しつつ真っ直ぐ飛んでいく。 「さて、嬢ちゃん。名前はなんて言うんや?」 シェンは怯えた顔を、上がった息を戻させるためにそう言って、覗き込んだ。 「近衛、近衛木乃香や」 気丈な性格のようだが、びびって震えてやがる。かなり難しいサルベージミッションになりそうだ。面倒くせぇな。 でも、その苦い感情を顔に出さないのは、四年間の実績の功だ 「そうか、オレはシェンだ。シェン。言えるか?よろしくな」 「よ、…よろしゅう」 ---- [[最初の悪夢 2]]へ

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