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―――――――――――――――――――――――――――――― GS美神 極楽大作戦×魔法先生ネギま! 第1話「日常からの転落」 ―――――――――――――――――――――――――――――― 「どりゃあっ!」 夜の街に声が響く。 すこし目を凝らしてこの声の主が中学生程の少女だとわかれば、品が無いと叱る人もいるかもしれない。 しかし更によく見ると――腰を抜かすか、悲鳴を上げてその場から逃げ出してしまうだろう。 何故なら彼女の周りには大量の化物が群れとなり、今にも襲い掛からんと唸りを上げているのだ。 ――グゥルルルルアァアアァァァッッ!―― 「ええい、鬱陶しい!」 右手から襲い掛かってくる犬の様な――実際には四足歩行であるという事以外に余り共通点も無い――獣を、手に持った得物で薙ぐ。 映画に出てくるライトセイバーの様なそれが一体どれ程の力を持つのか、胴の真ん中をなぎ払われた獣はまるで風船を針で突いたように四散した。 それを見て、他の化物たちが一歩退く。化物たちが、年端もいかない少女に気圧されているのだ。 それを好機と見たか、少女が化物たちへ向けて一気に駆け出した。 ――ガァァアァァァァア!―― 巨大な百足を袈裟切りにし、返す刀で別の一体を切り裂く。 ――ギィィィィィィルィ!―― 獣型の一体の突進を半歩下がって回避すると、カウンターで突きを叩き込んだ。 次々に化物が数を減らす中このままでは不味いと理解したのだろう、タコの様な化物が触手を伸ばす。 ――ルルイルィィイィッ!―― 「チッ!」 少女は咄嗟に飛びずさるが一歩遅く、武器を絡め取られてしまった。 無手となった少女に化物がニィ、と笑う。 しかしまた少女もニヤリ、と笑った。 ――?―― 首をかしげた化物に構うことなく、少女が突進した。 一瞬で間合いを詰めると、右足の踏み込みに合わせ拳を放つ。 全身の力を余す事無く衝撃に転化されたその突きは、数mはあろうかという化物を軽々と吹き飛ばした。 消えていったタコ型の化物から得物を取り返した彼女が不敵に笑む。 その表情に恐怖をかられたのか、それまで遠巻きにみているだけだった化物たちが一斉に襲い掛かるが、それでも結果は変わらない。 彼女が得物をふるい、拳や蹴りを放つ度に化物がまるで玩具の様にその数を減じていく。 光る剣――刃は無いから棍か杖が近いだろうか――を振るい化物を次々に倒す少女の姿は、まるで映画のようだった。 そして数分の後、 「これで――ラスト!」 ――ジャグギィァアァァァァアァァ………―― 最後の化物が少女の持つ得物に貫かれ、悲鳴と共に消えていく。 それを見届けてから、少女はふーっと息を吐き、緊張を解いた。 つい先ほどまで明らかな非日常の場所だったそこは、もう日常の姿を取り戻している。 化物の死骸も体液も全てが消えうせ、まるで先ほどの光景は夢だったといわんばかりだ。 そんな場所の中心にいた少女だが、おもむろにジーンズのポケットから携帯電話を引き抜きどこかへと電話をかける。 『ん、終わったか? 長谷川』 「ああ、もう認識阻害魔法は消しても大丈夫だ。報酬はいつもの講座に振り込んどいてもらっといてくれ」 『わかった。帰るのか?』 「そうさせてもら――いや、すまんがさっきの言葉を訂正させてくれ。認識阻害はもう少しかけといて欲しい」 『残りがいたのか?』 「違う。だが私は一番の大物を片付けなきゃいかん」 『一番の……? 成程、是非頑張ってくれ。なんなら手伝うぞ?』 「必要ねーよ」 『わかった。では結界はあと3時間持続させるように言っておこう』 「悪いな。頼む」 『任せておけ。アレがいなくなるのならこの程度の手間は安いものだ。では切るぞ?』 「ああ、また明日学校で」 『ああ』 電話を切ると、少女は目を閉じて精神を集中させ始めた。 細く細く収束していった自らの腕が、足が、武器が全てを穿つイメージ。 全身の細胞が活性化し、気を放出する。 戦闘状態に彼女の全身が移行しつつある中――いかにも場違いな声が“降ってきた”。 「千雨ちゃーん。お疲れー」 声の主は17~8歳ほどの少年。 Gジャン、ジーンズにバンダナというかなり古いセンスのいでたちをした彼だが、彼を見た人間がまず目を向けるのはそこではないだろう。 まず、浮いている。 文字通り彼の体は地面から1mほど離れたところに浮かんでいるのだ。先ほどの声が上から聞こえたのもそのせいである。 次に、透けている。 これもまた文字通り、どこか間の抜けた顔で笑っている彼の後ろの景色も見て取ることができる。 最後に、人魂。 これもそのままである。彼の周りには幾つかの人魂がふよふよと浮かんでいるのだ。 これでもかと言うほど完膚なきまでに幽霊である。これで足が無ければさらに完璧だったのだろうが、残念ながら足は普通にあるようだ。 「…………」 「あれ、千雨ちゃーん? 聞こえてるー?」 無言のままの少女に近づいてくる幽霊。 しかし彼女が全く反応を返さない事に不審に思ったのか、さらに近づくと彼女の顔を覗き込んだ。 「千雨ちゃーん?」 (――今だ!) 瞬間、少女の腕が跳ね上がり彼の顔面を抉ろうと迫る。 そのスピード、初動の小ささはまさに達人というに相応しいものだ。少なくとも普通の人間にかわせる代物ではない。 しかし、 「のわーっ!?」 当たれば確実に重傷になるだろうそれを、彼はあり得ない程思い切り上体をそらして回避した。凄まじい反射神経だ。 「い、いきなり何するんじゃ!? 殺す気か!」 「当たり前だ! 私が日常の世界に帰るためにも、今日こそテメーをあの世へ送り返してやる!」 叫ぶ幽霊に対し更に声を張り上げる少女。その気迫はさっきの化物に対するものを軽く超えている。 「せ、戦略的撤退ー!」 「待ちやがれこの腐れ守護霊! 大人しくぶった切られろー!」 慌てて反転し逃げ出す幽霊。それを追い、人間離れした速度で駆け出す少女。 そしてそれから3時間の間、先ほどの光景が子供だましに思えるほどの、命がけの鬼ごっこが始まるのであった。 ◇◆◇      「1985年、日米貿易摩擦を解消する為にアメリカのプラザホテルで――」 「えー、それマジ?」 「マジマジ。街の方ですごい大きな音がしてたらしいよ。それで目が醒めた人もいたみたいだし」 「うわ……それでその音の正体とかわかったの?」 「いや、それが誰も見てないんだよねー。しかも街に一切被害がないんだよ。まるで魔法でも使ったみたいに」 「こっわーい。で、それで――」 「こらそこ! 授業中の私語は止めなさい!」 「わ!す、すいません……」 「眠ぃ……」 翌日、彼女は机に座って欠伸を噛み殺していた。 結局昨日も退治する事はできず、時間一杯まで粘った代償は睡眠時間。 体調を理由に休もうかとも思ったが、それはこのバカクラスの事。下手に風邪とかを理由にすると見舞いと称して部屋に押しかけてきかねない。 平凡な日常を過ごしていたい彼女にとっては、あまりこのクラスの非常識な面々とは関わりたくないというのが本音であった。 「――えー、であるからして――リカと日――」 しかし眠気もかなりの域に達してきており、黒板にチョークを滑らせている教師の声が途切れ途切れに、さらに遠くなってくる。 (あ、やべ……起きないと……) そう思うも逆らえないのが睡魔。手の甲をつねったりと無駄な抵抗を続けていた彼女を嘲笑うかの様に、あっさりと眠りの中へと連れ去られたのであった。 ◇◆◇      ――……あの非常識の塊が自分の前に現れたのは、いつの頃だっただか。 思えば私は、小さい頃からどこか冷めていたと思う。 同い年の子供達がヒーローごっこに夢中になり、将来の夢に『変身ヒーローになって世界を守る!』なんて書いている中、 私はあれが虚構の話だと理解し、あくまでお話として楽しむだけだった。 サンタクロースは父親だと知っていたし、幽霊なんてものはトリックか見間違い。 そんな風に常識的な、悪く言えばつまらない子供だったが、それでも私は良かったのだ。 しかし、そんな愛すべき平凡な毎日はある日を境に一変してしまうことになる。 「………えーっと、ここはどこでせう?」 ある日私の前に、こいつが現れたせいだ。 当然最初は警察に突き出そうとしたのだが、こいつは体が透けてて、空に浮いてて、おまけに人魂までついていた。 私は悲鳴を上げて失神。今でもあのときの事は思い出したくない。 「ふーん、長谷川千雨ちゃんって言うのか。俺は横島忠夫っていうんだ」 「聞いてない。とっとと成仏しろ化物」 「ばけ……初対面なのにひどいな、千雨ちゃん」 「ちゃん付けで呼ぶな、キモいウザい早く消えろ白昼夢」 「酷っ!?」 最初は徹底的に無視していたのだが、余りにも話しかけてくるので次第に相手をするようになってしまった。 そしてわかったのは最悪の事。 「うーん、成仏してやりたいのは山々なんだけど――俺、今千雨ちゃんの守護霊なんだわ」 守護霊。つまりこいつが私を守ってくれてるわけだ。 当然のことながら信じる筈も無い。 毎日の様に近所で覗きを働き、幽霊にも関わらず昼間からナンパをかますこいつが自分の守護霊などと信じるほうがどうかしている。 しかし――それがまぎれもない事実だと知ってしまったのは、半年ほどたったある日の事。 「そりゃあっ!」 ――グゥルィィィイィィィ!?―― 塾からの帰り道、私は化物に襲われたのだ。 必死に逃げるも小学3年生程度の足で逃げ切れる筈も無く、私はじりじりニヤケ面で近づいてくる化物相手に泣き喚くしかなかった。 そして思わず助けを求めてしまった時にこいつは現れて、あっさりと化物を退治してしまったのだ。 小さい頃から虚構だとわかっていた筈の魔法と悪、そしてヒーローの世界。 私が日常という舗装された道路から転落してしまったのが確定的になったのは、きっとその時だ そんなの認められるわけがない。私はいたって平凡な日常を生きていたいのだ。 そして私はいつか日常に帰るべく、こいつ――横島を払うのを目指して修行を続けている……。 ◇◆◇      「――谷川! 長谷川!」 「んー……なんだよ、うっせーなあ……」 彼女――千雨は、自分を呼ぶ声におざなりに返事を返す。 「ほう、五月蝿いかね……?」 「ああ。わかってんだろ……今私は……ハッ!?」 次第に覚醒していく意識の中、今が授業中だと気付いたが時既に遅し。 愛想笑いを浮かべながら見ると、額に青筋を立てている教師の姿があった。 「え、えーっと、先生……?」 「授業中に居眠り、しかも私に気付かないほどの爆睡とは、いい度胸だな長谷川?  それじゃあ優秀な長谷川君に今日の授業のまとめを述べて貰おうか?」 「……すいません。わかりません」 「わからないならば居眠りなどするな、この馬鹿者! 廊下に立っていなさい!」 教師の怒声とクラスメイトのクスクス笑いに押し出されるかのように、千雨は教室から廊下へと出されてしまったのだった ◇◆◇      「フフッ、災難だったな長谷川」 「うっせー、笑うな龍宮。昨日は寝不足だったんだよ」 昼休み。学食のテーブルに向かい合って座っていたのは千雨と、褐色の肌の女性――クラスメイトの龍宮真名だ。 千雨のクラスメイトなので「少女」と言ったほうが適切かもしれないが、180cmを超える長身に加え大学生も顔負けなスタイルの良さを持つ彼女を少女と呼ぶのは少々はばかられる。 彼女自身はそのせいで映画館などに中学生料金で入れないと嘆いていたりもするが、彼女のプロポーションが手に入るのならば映画に毎回300円余計に払う者が多いであろう事も想像に難くない。 そんな彼女と千雨の関係は、いわゆる同業者というやつだ。 「その様子だと、昨日も失敗したみたいだな?」 「思い出させんな畜生。一体あいつは何でできてるんだ? 人体ができる限界を超えてるぞあの動きは」 「だから手伝おうかと言ったのに」 「金とるんだろうが」 「まあね、私も慈善業者じゃないんだ。弾薬にも金はかかるしな」 「手伝ってもらっても仕留め切れるかどうかわかんねーんだ。無駄な金を使う趣味は無い」 「そうか。まあ気が変わったら遠慮なく言ってくれ。アレを潰すなら格安にしておくぞ?」 「考えとくよ」 真名は先に述べた通りの素晴らしいプロポーションの持ち主である。その上精神的にも老成しており、とても中学生には見えない。 スタイルの良い女性、特に年上を好む傾向にあった横島がそんな彼女に声をかけないはずが無く、彼女は何度も覗きにあっている被害者筆頭の一人だ。 ならば横島撲滅に金を取る必要は無いのではないかと思うが、そこは彼女のプロ意識が関係しているものと思われる。 そんな話題の横島だが、彼は今ここにはいない。 千雨のクラスには真名に匹敵するプロポーションの人間が何名かおり、そんなところに横島を入れるという事は羊の群れに狼を解き放つようなものであるからだ。 守護霊が離れるというのは霊的に危険な状態ではあるのだが千雨はそれなりの腕の退魔師――本人は認めていないが――であるし、 そもそも魔法というものが秘匿を旨としているこの世界で、あんなのが授業中にいきなり出てきたら言い訳の仕様が無い。 記憶消去の魔法という手もあるが千雨は使えないし、魔法符を買うにしても一々金がかかる。それならば横島を連れてこないほうが手っ取り早い。 今頃横島は魔法先生に雑用としてこき使われていることだろう。それが彼に与えられた仕事でもある。 「そういえば長谷川、知っているか? 高畑先生が今学期で担任をやめるそうだぞ」 「なんだそれ? 初耳だぞ」 「なんでも、広域指導員としての仕事と担任との両立が難しいらしくてな。3学期からは新任の先生に担任を任せ、自分の仕事に専念するそうだ」 高畑というのは千雨たちのクラスの担任であり、広域指導員として麻帆良の不良たちからはデスメガネと恐れられる麻帆良最強の魔法先生である。 広域指導員というのも建前上の職であり、実際には学園長エージェントというところなのだが、それが「忙しい」と言われると何かあるのかと勘繰ってしまう。 「――なんかやばい事でも起こってんのか?」 「さてね。それだけじゃない。長谷川にもすぐ来ると思うが、  魔法先生や生徒達に新しく来る先生に対して魔法バレは極力避けるように、と通達がされてる」 「今更か? バラさないってのは当たり前の事じゃねーか」 「そう、当たり前の事だ。新しい先生が魔法使いじゃなければね」 「なんだって?」 魔法使いである筈の新しい担任に対して魔法を隠す。新手の虐めかとも思うが、そんな事を学園長がやる筈が無い。 学園長はふざけた悪戯を仕掛けることで魔法関係者の中では有名だが、陰湿なことはしないのだ。 「一体何が起ころうとしてるんだ?」 「わからないね。ただ、何かあることだけは確かなんだろう。用心はしておくんだな長谷川。  横島さんを抱えるお前は一番オコジョに近い位置にいるぞ?」 「う……」 千雨に対して嫌な台詞を残すと、真名は食器を片付けて出て行った。 一人残された千雨は思う。 (――頼むから、私の平穏を乱さないでくれよ……!) そんな事が叶う筈が無いと諦めるまで、あと数ヶ月。 遠いイギリスの地からネギ・スプリングフィールドが魔法使いとしての修行の為にやってくるところから、物語は動き出す。
―――――――――――――――――――――――――――――― GS美神 極楽大作戦×魔法先生ネギま! 第1話「日常からの転落」 ―――――――――――――――――――――――――――――― 「どりゃあっ!」 夜の街に声が響く。 すこし目を凝らしてこの声の主が中学生程の少女だとわかれば、品が無いと叱る人もいるかもしれない。 しかし更によく見ると――腰を抜かすか、悲鳴を上げてその場から逃げ出してしまうだろう。 何故なら彼女の周りには大量の化物が群れとなり、今にも襲い掛からんと唸りを上げているのだ。 ――グゥルルルルアァアアァァァッッ!―― 「ええい、鬱陶しい!」 右手から襲い掛かってくる犬の様な――実際には四足歩行であるという事以外に余り共通点も無い――獣を、手に持った得物で薙ぐ。 映画に出てくるライトセイバーの様なそれが一体どれ程の力を持つのか、胴の真ん中をなぎ払われた獣はまるで風船を針で突いたように四散した。 それを見て、他の化物たちが一歩退く。化物たちが、年端もいかない少女に気圧されているのだ。 それを好機と見たか、少女が化物たちへ向けて一気に駆け出した。 ――ガァァアァァァァア!―― 巨大な百足を袈裟切りにし、返す刀で別の一体を切り裂く。 ――ギィィィィィィルィ!―― 獣型の一体の突進を半歩下がって回避すると、カウンターで突きを叩き込んだ。 次々に化物が数を減らす中このままでは不味いと理解したのだろう、タコの様な化物が触手を伸ばす。 ――ルルイルィィイィッ!―― 「チッ!」 少女は咄嗟に飛びずさるが一歩遅く、武器を絡め取られてしまった。 無手となった少女に化物がニィ、と笑う。 しかしまた少女もニヤリ、と笑った。 ――?―― 首をかしげた化物に構うことなく、少女が突進した。 一瞬で間合いを詰めると、右足の踏み込みに合わせ拳を放つ。 全身の力を余す事無く衝撃に転化されたその突きは、数mはあろうかという化物を軽々と吹き飛ばした。 消えていったタコ型の化物から得物を取り返した彼女が不敵に笑む。 その表情に恐怖をかられたのか、それまで遠巻きにみているだけだった化物たちが一斉に襲い掛かるが、それでも結果は変わらない。 彼女が得物をふるい、拳や蹴りを放つ度に化物がまるで玩具の様にその数を減じていく。 光る剣――刃は無いから棍か杖が近いだろうか――を振るい化物を次々に倒す少女の姿は、まるで映画のようだった。 そして数分の後、 「これで――ラスト!」 ――ジャグギィァアァァァァアァァ………―― 最後の化物が少女の持つ得物に貫かれ、悲鳴と共に消えていく。 それを見届けてから、少女はふーっと息を吐き、緊張を解いた。 つい先ほどまで明らかな非日常の場所だったそこは、もう日常の姿を取り戻している。 化物の死骸も体液も全てが消えうせ、まるで先ほどの光景は夢だったといわんばかりだ。 そんな場所の中心にいた少女だが、おもむろにジーンズのポケットから携帯電話を引き抜きどこかへと電話をかける。 『ん、終わったか? 長谷川』 「ああ、もう認識阻害魔法は消しても大丈夫だ。報酬はいつもの講座に振り込んどいてもらっといてくれ」 『わかった。帰るのか?』 「そうさせてもら――いや、すまんがさっきの言葉を訂正させてくれ。認識阻害はもう少しかけといて欲しい」 『残りがいたのか?』 「違う。だが私は一番の大物を片付けなきゃいかん」 『一番の……? 成程、是非頑張ってくれ。なんなら手伝うぞ?』 「必要ねーよ」 『わかった。では結界はあと3時間持続させるように言っておこう』 「悪いな。頼む」 『任せておけ。アレがいなくなるのならこの程度の手間は安いものだ。では切るぞ?』 「ああ、また明日学校で」 『ああ』 電話を切ると、少女は目を閉じて精神を集中させ始めた。 細く細く収束していった自らの腕が、足が、武器が全てを穿つイメージ。 全身の細胞が活性化し、気を放出する。 戦闘状態に彼女の全身が移行しつつある中――いかにも場違いな声が“降ってきた”。 「千雨ちゃーん。お疲れー」 声の主は17~8歳ほどの少年。 Gジャン、ジーンズにバンダナというかなり古いセンスのいでたちをした彼だが、彼を見た人間がまず目を向けるのはそこではないだろう。 まず、浮いている。 文字通り彼の体は地面から1mほど離れたところに浮かんでいるのだ。先ほどの声が上から聞こえたのもそのせいである。 次に、透けている。 これもまた文字通り、どこか間の抜けた顔で笑っている彼の後ろの景色も見て取ることができる。 最後に、人魂。 これもそのままである。彼の周りには幾つかの人魂がふよふよと浮かんでいるのだ。 これでもかと言うほど完膚なきまでに幽霊である。これで足が無ければさらに完璧だったのだろうが、残念ながら足は普通にあるようだ。 「…………」 「あれ、千雨ちゃーん? 聞こえてるー?」 無言のままの少女に近づいてくる幽霊。 しかし彼女が全く反応を返さない事に不審に思ったのか、さらに近づくと彼女の顔を覗き込んだ。 「千雨ちゃーん?」 (――今だ!) 瞬間、少女の腕が跳ね上がり彼の顔面を抉ろうと迫る。 そのスピード、初動の小ささはまさに達人というに相応しいものだ。少なくとも普通の人間にかわせる代物ではない。 しかし、 「のわーっ!?」 当たれば確実に重傷になるだろうそれを、彼はあり得ない程思い切り上体をそらして回避した。凄まじい反射神経だ。 「い、いきなり何するんじゃ!? 殺す気か!」 「当たり前だ! 私が日常の世界に帰るためにも、今日こそテメーをあの世へ送り返してやる!」 叫ぶ幽霊に対し更に声を張り上げる少女。その気迫はさっきの化物に対するものを軽く超えている。 「せ、戦略的撤退ー!」 「待ちやがれこの腐れ守護霊! 大人しくぶった切られろー!」 慌てて反転し逃げ出す幽霊。それを追い、人間離れした速度で駆け出す少女。 そしてそれから3時間の間、先ほどの光景が子供だましに思えるほどの、命がけの鬼ごっこが始まるのであった。 ◇◆◇      「1985年、日米貿易摩擦を解消する為にアメリカのプラザホテルで――」 「えー、それマジ?」 「マジマジ。街の方ですごい大きな音がしてたらしいよ。それで目が醒めた人もいたみたいだし」 「うわ……それでその音の正体とかわかったの?」 「いや、それが誰も見てないんだよねー。しかも街に一切被害がないんだよ。まるで魔法でも使ったみたいに」 「こっわーい。で、それで――」 「こらそこ! 授業中の私語は止めなさい!」 「わ!す、すいません……」 「眠ぃ……」 翌日、彼女は机に座って欠伸を噛み殺していた。 結局昨日も退治する事はできず、時間一杯まで粘った代償は睡眠時間。 体調を理由に休もうかとも思ったが、それはこのバカクラスの事。下手に風邪とかを理由にすると見舞いと称して部屋に押しかけてきかねない。 平凡な日常を過ごしていたい彼女にとっては、あまりこのクラスの非常識な面々とは関わりたくないというのが本音であった。 「――えー、であるからして――リカと日――」 しかし眠気もかなりの域に達してきており、黒板にチョークを滑らせている教師の声が途切れ途切れに、さらに遠くなってくる。 (あ、やべ……起きないと……) そう思うも逆らえないのが睡魔。手の甲をつねったりと無駄な抵抗を続けていた彼女を嘲笑うかの様に、あっさりと眠りの中へと連れ去られたのであった。 ◇◆◇      ――……あの非常識の塊が自分の前に現れたのは、いつの頃だっただか。 思えば私は、小さい頃からどこか冷めていたと思う。 同い年の子供達がヒーローごっこに夢中になり、将来の夢に『変身ヒーローになって世界を守る!』なんて書いている中、 私はあれが虚構の話だと理解し、あくまでお話として楽しむだけだった。 サンタクロースは父親だと知っていたし、幽霊なんてものはトリックか見間違い。 そんな風に常識的な、悪く言えばつまらない子供だったが、それでも私は良かったのだ。 しかし、そんな愛すべき平凡な毎日はある日を境に一変してしまうことになる。 「………えーっと、ここはどこでせう?」 ある日私の前に、こいつが現れたせいだ。 当然最初は警察に突き出そうとしたのだが、こいつは体が透けてて、空に浮いてて、おまけに人魂までついていた。 私は悲鳴を上げて失神。今でもあのときの事は思い出したくない。 「ふーん、長谷川千雨ちゃんって言うのか。俺は横島忠夫っていうんだ」 「聞いてない。とっとと成仏しろ化物」 「ばけ……初対面なのにひどいな、千雨ちゃん」 「ちゃん付けで呼ぶな、キモいウザい早く消えろ白昼夢」 「酷っ!?」 最初は徹底的に無視していたのだが、余りにも話しかけてくるので次第に相手をするようになってしまった。 そしてわかったのは最悪の事。 「うーん、成仏してやりたいのは山々なんだけど――俺、今千雨ちゃんの守護霊なんだわ」 守護霊。つまりこいつが私を守ってくれてるわけだ。 当然のことながら信じる筈も無い。 毎日の様に近所で覗きを働き、幽霊にも関わらず昼間からナンパをかますこいつが自分の守護霊などと信じるほうがどうかしている。 しかし――それがまぎれもない事実だと知ってしまったのは、半年ほどたったある日の事。 「そりゃあっ!」 ――グゥルィィィイィィィ!?―― 塾からの帰り道、私は化物に襲われたのだ。 必死に逃げるも小学3年生程度の足で逃げ切れる筈も無く、私はじりじりニヤケ面で近づいてくる化物相手に泣き喚くしかなかった。 そして思わず助けを求めてしまった時にこいつは現れて、あっさりと化物を退治してしまったのだ。 小さい頃から虚構だとわかっていた筈の魔法と悪、そしてヒーローの世界。 私が日常という舗装された道路から転落してしまったのが確定的になったのは、きっとその時だ そんなの認められるわけがない。私はいたって平凡な日常を生きていたいのだ。 そして私はいつか日常に帰るべく、こいつ――横島を払うのを目指して修行を続けている……。 ◇◆◇      「――谷川! 長谷川!」 「んー……なんだよ、うっせーなあ……」 彼女――千雨は、自分を呼ぶ声におざなりに返事を返す。 「ほう、五月蝿いかね……?」 「ああ。わかってんだろ……今私は……ハッ!?」 次第に覚醒していく意識の中、今が授業中だと気付いたが時既に遅し。 愛想笑いを浮かべながら見ると、額に青筋を立てている教師の姿があった。 「え、えーっと、先生……?」 「授業中に居眠り、しかも私に気付かないほどの爆睡とは、いい度胸だな長谷川?  それじゃあ優秀な長谷川君に今日の授業のまとめを述べて貰おうか?」 「……すいません。わかりません」 「わからないならば居眠りなどするな、この馬鹿者! 廊下に立っていなさい!」 教師の怒声とクラスメイトのクスクス笑いに押し出されるかのように、千雨は教室から廊下へと出されてしまったのだった ◇◆◇      「フフッ、災難だったな長谷川」 「うっせー、笑うな龍宮。昨日は寝不足だったんだよ」 昼休み。学食のテーブルに向かい合って座っていたのは千雨と、褐色の肌の女性――クラスメイトの龍宮真名だ。 千雨のクラスメイトなので「少女」と言ったほうが適切かもしれないが、180cmを超える長身に加え大学生も顔負けなスタイルの良さを持つ彼女を少女と呼ぶのは少々はばかられる。 彼女自身はそのせいで映画館などに中学生料金で入れないと嘆いていたりもするが、彼女のプロポーションが手に入るのならば映画に毎回300円余計に払う者が多いであろう事も想像に難くない。 そんな彼女と千雨の関係は、いわゆる同業者というやつだ。 「その様子だと、昨日も失敗したみたいだな?」 「思い出させんな畜生。一体あいつは何でできてるんだ? 人体ができる限界を超えてるぞあの動きは」 「だから手伝おうかと言ったのに」 「金とるんだろうが」 「まあね、私も慈善業者じゃないんだ。弾薬にも金はかかるしな」 「手伝ってもらっても仕留め切れるかどうかわかんねーんだ。無駄な金を使う趣味は無い」 「そうか。まあ気が変わったら遠慮なく言ってくれ。アレを潰すなら格安にしておくぞ?」 「考えとくよ」 真名は先に述べた通りの素晴らしいプロポーションの持ち主である。その上精神的にも老成しており、とても中学生には見えない。 スタイルの良い女性、特に年上を好む傾向にあった横島がそんな彼女に声をかけないはずが無く、彼女は何度も覗きにあっている被害者筆頭の一人だ。 ならば横島撲滅に金を取る必要は無いのではないかと思うが、そこは彼女のプロ意識が関係しているものと思われる。 そんな話題の横島だが、彼は今ここにはいない。 千雨のクラスには真名に匹敵するプロポーションの人間が何名かおり、そんなところに横島を入れるという事は羊の群れに狼を解き放つようなものであるからだ。 守護霊が離れるというのは霊的に危険な状態ではあるのだが千雨はそれなりの腕の退魔師――本人は認めていないが――であるし、 そもそも魔法というものが秘匿を旨としているこの世界で、あんなのが授業中にいきなり出てきたら言い訳の仕様が無い。 記憶消去の魔法という手もあるが千雨は使えないし、魔法符を買うにしても一々金がかかる。それならば横島を連れてこないほうが手っ取り早い。 今頃横島は魔法先生に雑用としてこき使われていることだろう。それが彼に与えられた仕事でもある。 「そういえば長谷川、知っているか? 高畑先生が今学期で担任をやめるそうだぞ」 「なんだそれ? 初耳だぞ」 「なんでも、広域指導員としての仕事と担任との両立が難しいらしくてな。3学期からは新任の先生に担任を任せ、自分の仕事に専念するそうだ」 高畑というのは千雨たちのクラスの担任であり、広域指導員として麻帆良の不良たちからはデスメガネと恐れられる麻帆良最強の魔法先生である。 広域指導員というのも建前上の職であり、実際には学園長エージェントというところなのだが、それが「忙しい」と言われると何かあるのかと勘繰ってしまう。 「――なんかやばい事でも起こってんのか?」 「さてね。それだけじゃない。長谷川にもすぐ来ると思うが、  魔法先生や生徒達に新しく来る先生に対して魔法バレは極力避けるように、と通達がされてる」 「今更か? バラさないってのは当たり前の事じゃねーか」 「そう、当たり前の事だ。新しい先生が魔法使いじゃなければね」 「なんだって?」 魔法使いである筈の新しい担任に対して魔法を隠す。新手の虐めかとも思うが、そんな事を学園長がやる筈が無い。 学園長はふざけた悪戯を仕掛けることで魔法関係者の中では有名だが、陰湿なことはしないのだ。 「一体何が起ころうとしてるんだ?」 「わからないね。ただ、何かあることだけは確かなんだろう。用心はしておくんだな長谷川。  横島さんを抱えるお前は一番オコジョに近い位置にいるぞ?」 「う……」 千雨に対して嫌な台詞を残すと、真名は食器を片付けて出て行った。 一人残された千雨は思う。 (――頼むから、私の平穏を乱さないでくれよ……!) そんな事が叶う筈が無いと諦めるまで、あと数ヶ月。 遠いイギリスの地からネギ・スプリングフィールドが魔法使いとしての修行の為にやってくるところから、物語は動き出す。

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