15年戦争資料 @wiki

世界も注視する福島原発 「最悪」の場合、日本はどうなるのか

最終更新:

pipopipo555jp

- view
管理者のみ編集可

危機的な事態が続いている 世界も注視する福島原発 「最悪」の場合、日本はどうなるのか

『AERA』2011.3.28号 8~11頁

 「福島の原子力発電所から放射線が放出されています。つきましては、各研究室においてご注意ください。特に換気扇やエアコンを停止し、窓を開けないよう宜しくお願します」

放射能の危険を煽るチェーンメールが一部で飛び交っているが、このメールの出どころは、はっきりしていた。 東京大学のある研究室が、ほかの研究室に出したものだ。

 約250キロ離れた福島原発から、風に乗って運ばれた放射能は、すでに都内のあちこちで検出されている。通常の約20倍の放射線量を検出した場所もある。首都圏に降り注いでいた放射線の影響に、日本の「権威」も脅えているのだ。



「臨界」情報に驚愕


 東大では「環境放射線対策プロジェクト」という緊急組織を発足させ、キャンパスがある東京・本郷と駒場、千葉・柏での1時間ごとの放射線量の測定を実施している。メールを読んだ職員は、不安を募らせる。

 「テレビで解説している先生は『大丈夫だ、大丈夫だ』と言っているが、首都に放射能が漏れているのに『まだ大丈夫だ』と言うのは、どんな神経か」

長崎大学の山下俊一教授は電話先で驚きの声を上げた。
 「なにー」
 「臨界」が福島原発で起きている可能性もゼロではないと東京電力の担当者が認めたとの一報を伝えたときだ。原発は核燃料が核分裂を起こすことでエネルギーを得ている。核分裂の連鎖反応が持続している状況を臨界という。だが、それは制御されたもとでは安全だが、想定外の偶発事が起きれば制御が不能となる場合もある。原子力事故で最も恐れられている現象だ。

 山下教授は被曝医療の専門家。ほんの1時間前の取材では、

 「チェルノブイリ原発の事故のように、核分裂が起きているわけではない。仮に炉内で爆発が起きて放射性物質が放出されても、どんなに高く見積もってもチェルノブイリの1000分の1とか、10000分の1のレベルの量だ」
として、落ち着くようにと記者を諭した。

 「ヒロシマ、ナガサキで、がんを発症し、原爆症認定訴訟を闘った被爆者の被曝線量は10~100ミリシーベルト。この経験からしても、避難住民が神経質になる必要はない。チェルノブイリで大勢の住民被害が問題になったのは、放射性物質が降り注いだ食べ物を口にした『食物連鎖』だ。いまの日本で、それは起きない」
 そう断言した。「ミリシーベルト」は福島原発の正門付近で観測されている値だ。

「起きないはず」が起き


 山下教授自身、被爆2世で、旧ソ連で起きた1986年のチェルノブイリ原発事故のときには、国際医療チームの一員として現地に入った。「死の灰」を浴びたウクライナと、半径300キロ以内のベラルーシ、ロシア共和国で、子どもたちの甲状腺がんが通常の3000倍にあたる約3000人に1人の高率で発症していることを突きとめた。2004年から2年間、世界保健機関(WHO)で、放射線分野のトップである専門科学官を務めた世界有数の専門家だ。

 山下教授は「最悪」の事態が仮に起きても、「作業員はともかく、一般住民への健康被害はない」と言い切っていた。
 この「最悪」は、格納容器が爆発し、炉内の放射性物質が大量に飛び散る場合だ。

 大地震を受け、6基ある東京電力福島第一原子力発電所の原子炉は次々に損壊。「起こるはずがない」とされていた「炉心溶融」が起きている可能性が指摘され、格納容器の爆発も懸念されている。

 ただ、東京大大学院工学系研究科の野村貴美特任准教授(放射線管理学)は、こう話す。
 「格納容器の圧力は極めて高い。核燃料棒が溶けて水素爆発が炉内で起きたとしても、配管が損傷を受けるだろうが、格納容器自体が吹き飛ぶことは考えにくい」
だが、本当の最悪である臨界事故は起きないのか。

 政府や東電、そして原子力の多くの専門家たちは、「炉心溶融が起きたとしても、さすがに臨界だけは起きない」 とみている。山下教授も、そう考える一人だ。

 しかし、その「臨界」の可能性までも現実のものとなった。

急性死者540人想定


 避難指示や屋内退避の指示を出されている原発周辺の住民に加え、放射能汚染への不安は首都圏など原発周辺以外の人たちにも広がる。

 被害はどこまで予想されるか。日本では、原発の重大事故を想定した人的な被害の公的なシミュレーションがない、と言っていい。

 放射能が外部へ大量に放出される事故は、日本では「起きない」と政府も関係機関も電力会社も言い張ってきたからだ。

 唯一の例外とされるのは日本で最初の本格的な原発「東海1号炉」が1966年に運転を開始するのに先立ち、当時の日本原子力産業会議が科学技術庁から委託された研究報告だ。東海1号炉は福島原発よりずっと小規模な16万キロワットだったが、条件によって急性死者540人、急性障害2900人、立ち退き人数3万人になるとされた。

 一番の心配は、原発から放出されている放射性物質がどこまで飛ぶのか、という点だ。

 東海地震の予想震源域にある静岡県の浜岡原発に反対する市民グループは、浜岡原発2号機が炉心溶融を起こしたと仮定し、放射能が拡散する様子をシミュレーションしている。

危ない北東からの風


 シミュレーションでは、浜岡原発がある静岡県御前崎市から首都圏方向へと、南西風が吹いていると仮定した。計算に協力したのは、気象業務支援センターの鈴木基雄さんだ。放出される放射能のデータについては、京都大学原子炉実験所の小出裕重さんが作成した。

 この結果、放射能汚染は地元の静岡県だけでなく、首都圏まで広範囲に及び、東京都や神奈川県の大半が100ミリシーベルトを超す放射線量になった。

 では、この想定を福島原発で考えるとどうなるだろうか。

 この場合、首都圏に向かう風向きは反対の北東風だ。

 鈴木さんは言う。
 「関東地方に吹く南西風と北東風では性質が異なる。北東風の場合、上空の気温の状態の違いなどにより南西風に比べて粒子が拡散されにくい特徴がある」

こうした違いによって福島原発から放出された放射能は、より高い濃度を保ったまま遠方まで到達する可能性があるという。

 このような計算は、もちろん、天候などの条件でも大きく異なってくる。ただ、放射能が原子炉の爆発によって上空まで吹き上げられてから風に流される場合は、さらに到達範囲が広がるという。

チエルノブイリ原発事故は、設計ミスに運転員の規則違反が重なって運転中に暴走し、爆発が起きた臨界事故である。半径30キロ圏内の住民12万人が強制避難し、事故後の消火作業で被曝した約50人が死亡した。

 事故による汚染地域は、原発の周辺だけに限られない。200~300キロも離れた場所に、まるで飛び地のように、放射能による高濃度の汚染地域が大きく広がった。これはちょうど、福島原発から首都圏までに相当する距離だ。

 事故と被害状況について、調査を続けてきた京都大学原子炉実験所の今中哲二さんによると、チェルノブイリの汚染面積は14.5万平方キロに及んだ。日本でいえば本州の面積の6割に相当する。住民全員が移住させられた面積は1万300平方キロ。日本の東京、神奈川、千葉の3都県を合わせた面積になる。

チェルノブイリでは


 事故から20年を機にまとめられた報告書によると、放射線被曝にともなう死者の数は、将来がんで亡くなる人も含めて4000人にのぼる。

 この人数は、現地のベラルーシ政府からも「過小すぎる」と抗議を受け、WHOは死者数を9000人としたほか、国際がん研究機関(IARC)は 16000人とするなど、より大きな数値が相次いで発表されている。

 「チェルノブイリによるがんの死亡者数の見積もりは、全世界で2万~6万人とするのが妥当なところ」
 今中さんは、そう考えている。「福島」がチェルノブイリ級の事故になると現時点で予想する専門家は少ないが、人口密度が高い日本で同じ規模の事故が起きれば、大きな被害につながりかねない。事故炉は、鉛や粘土を上空から投下して放射性物質の放出を止め、コンクリートで囲い込んでいまに至っている。

 放射線が、なぜ人体に影響を及ぼすかというと、高いエネルギーを持つ放射線が細胞にぶつかって壊すからだ。線量が少ないと、正常な細胞がすぐに再生してくるが、量が多いと、回復力が追いつかずに障害が現れる。

心配なのはヨウ素


 山下教授は健康被害について、どう考えているのか。

 「毒性のあるプルトニウムが体内に取り込まれるとがんになる、と心配されているが、これは放射能の問題というより、金属中毒という化学毒素の意味でだ。原発から放出されたとしても金属片として飛び散るので、重たいから何キロも飛ぶことはなく、周辺で落ちてしまう。浮遊物に付着して微量のものが飛んできたとしても、たばこを吸ってがんになる可能性を実証するレベルと変わらない。問題は、ヨウ素だ」
ヨウ素は体内に入ると、甲状腺に集まる性質があり、甲状腺がんの原因になる物質だ。

 「ヨウ素は揮発ガスとなって飛びやすいが、原子の個数が半分になるまでの半減期が8日と短い。臨界がとまった状況だったので、炉内の量はすでにそんなに多くはなく心配の必要はないが、仮に臨界が起きたとすると事態は変わる。炉内で大量に作られ始めることになる」

そして、こう続けた。

 「がんになるには、ある程度の量が甲状腺に集まらなければならないが、甲状腺が小さくて、新陳代謝の激しい乳幼児だと集まりやすい。いまは考えにくいが、臨界事故になったとすれば、行政の指示のもと、避難所でヨウ素を体内に取り込みにくくするヨウ素剤を飲ませる事態になるかもしれない」

原発事故が起きたときの被害想定を記した、国の「原子力災害の防災指針」がある。原子力施設を周辺に持つ自治体は、これに基づいて防災対策を立てている。

 チェルノブイリ事故については、こう書かれている。
 「この事故は日本の原子炉と安全設計の思想が異なり、固有の安全性が十分ではなかった原子炉施設で発生した事故である。我が国で同様の事態になることは極めて考えがたい」

指針をつくっている原子力安全委員会の元委員長の一人に、「いまも、そう考えているのか」と尋ねてみた。

 「チェルノブイリは運転中に起きた事故だったから、燃料からなにからすべてを吹き飛ばした。それと比べれば、いまの福島は最悪の事態でもなんでもない。ここまでの事故を想定していたかというと、想定なんてできるわけないでしょう。マグニチュード9の地震なんて日本で初めて。千年に一度の地震が起きることを、だれが想像していたか、教えてくださいよ。こんなことが起きるのは、私も不思議だ。想定外のことなんだから、思いがけないことが起きるのも当然でしょう」

「責任放棄」のような言葉が返ってきた。

(以上 転載)


引用者コメント


このAERAの発行日は3月21日ごろでしょうか? だとすれば、山下俊一談は19日頃?

山下俊一が、
仮に炉内で爆発が起きて放射性物質が放出されても、どんなに高く見積もってもチェルノブイリの1000分の1とか、10000分の1のレベルの量だ」として、落ち着くようにと記者を諭した。

これは、水素爆発が起きて福島市の線量が高くなっても、安定化ヨウ素投与を止めさせた、山下自身の根拠なのでしょう。

「チェルノブイリの1000分の1とか、10000分の1のレベルの量だ」
……科学者にあるまじく、根拠なくそう思い込んでいた、という。

原子力安全委員会委員長班目春樹による一ヶ月遅れの「レベル7」発表は、山下に取っては、大きな裏切りであったに違いない。山下による2桁~3桁という大きな見込み違いを、容赦なく曝いてしまったのだから。

(以上)


目安箱バナー