秘密



何か言おうと思うのだが、何も言葉が出てこない。
いままで女性経験などないに等しい(もしくは途中で弊害が発生する)上田には
たとえ普通のキスといえど、かなり久しぶりなのだ。
しかもその相手が奈緒子。確かに愛の告白めいたことはしたが
結局、明確な返事は言葉では返ってきていないし、
今まで男女の仲に発展するようなことは何一つなかった。
それが、いきなり、しかも向こうからキスしてくるとは。
頬に添えた手が離せない。
白い肌。よくよく見てみれば綺麗な顔。
奈緒子は真っ直ぐ上田の顔を見つめている。
背をかがめる。顔を近づけると奈緒子は目をつぶる。
そっと、触れるようにキスをした。



一気に事に及びたい気持ちを押さえて、
上田は奈緒子の肩に手を置いた。
「・・・you、俺はな、理性的な人間だ。
 だからいきなり君を押し倒してどうのこうのというつもりは
 ない・・・つもりだ。だがな、俺とて男だからな、その、あれだ・・・」
「いいですよ」
「は?」
「だから押し倒していいって言ってるんですよ」
ふざけているのかと思ったが、奈緒子の顔はいたって真面目だ。
「・・・you、お前何かあったのか?変だぞ、ここに来てから」
「・・・変なんかじゃないですよ」
「嘘付け。茶にも菓子にも手をつけなかったじゃないか。
 君ともあろう、食欲大魔神が」
「佐々木・・・そんなことはどうでもいいんですよ」
上田のでかい身体を奈緒子は抱きしめる。



気付いてしまった。
私は本当の霊能力を持っている。
長谷千賀子が死んだのが私のせいかはわからない。
でも、私は遠くない未来、上田さんを殺そうとする。
今日が、きっと上田さんと過ごせる最後のまともな日だ。
ビックマザーの予言はあたることになる。
私は霊能力者に殺される。
きっとそいつは――。
上田さんにはそんなこと口が裂けたっていえないけど。



「・・・私上田さんの事好きですよ」
上田の心臓の早い鼓動が聞こえる。
分かりやすいやつ。
笑みがこぼれる。
「今日はそのつもりで来たんですから」
さっきより力をこめて抱きしめる。
いきなり上田が奈緒子を身体から引き剥がした。
びっくりした顔の奈緒子に深く口付ける。
驚いて目を見開いていた奈緒子も、目をつぶった。



奈緒子を抱き上げてベッドへと連れて行く。
横たわらせて服を脱がそうとし、その手を一度止めた。
奈緒子が不思議そうに上田を見上げる。
めずらしい、上田の真面目な顔。
「きちんと、言ってなかったからな。
 ・・・俺も君が好きだ」
一瞬きょとんとして、奈緒子が吹き出した。
「人が真面目に言ってるのになんだその態度は!」
「ごめんなさい。だってこの期に及んで・・・っく」
いつまでも笑っている奈緒子に、ふっと一瞬笑って
上田は又真面目な顔になった。
それに気づいて、奈緒子も笑うのをやめる。


最終更新:2006年09月12日 20:21