湯あたり by 267さん



人間、じっと見られるとなかなかそいつと
目線を外せないと思う。
だー、上田め、なんてじっと見るんだよ。
気のせいか、顔が熱い。
「・・・どうせまた冗談」
「本気だ」
茶化すのを許さない、すかさずのツッコミ。
くそ、なにか言うことは・・・。
と、考えていたら不意に上田を見上げる形になった。
ソファーに倒れこんだようなものだ。
自分でも知らず知らずに体が後ろに傾いていたらしい。
上田が私の頭の両隣に手をついてじっと私を見下ろす。
「返事」
声が明らかに笑っている。
腹が立つのに口が動くだけで言葉にならない。



こういう体制で山田を見るのは初めての気がする。
白状すると、この辺りから下心が出てきた。
組み敷いた(という表現がここで正しいか判断しかねるが)
山田が妙におかしいというか、かわいい・・・?というか。
「・・・退いてくださいよ」
「返事したら退いてやる」
普段の山田なら俺を蹴っ飛ばして起き上がるのだろうが、
どうやら頭の中で軽くパニックを起こしていたらしい。
あたふたとして、顔が真っ赤だった。
込みあがってくる笑いを何とか押しとどめる。
もう一押しで落ちそうだ。
「・・・返事しないんならこっちからしようか」
「な、何を」
脅かすようにずいと顔を近づける。
驚いた山田の顔を見てから、一旦間をおいて、
口付けた。



え。今・・・。
上田の顔がすごく近い。
唇に何か触れて・・・。
 ・・・・・・これは、世にいう、キス、というやつか?
 ・・・・・・私の記憶が確かなら、今までキスしたことは無い。
 ・・・・・・。
えええええ、ファーストキスが上田ぁ!?
頭の中は爆発したみたいにいろいろ考えがめぐっているのに
体がぴくりとも動かせない。
っていうか何で返事しなきゃキスするんだとか
言いたいことは山ほどあるのに、
上田が妙なことを言うから、息をまともにできてなかったせいかもしれない。
指先まで麻痺したみたいにしびれてしまっている。

最終更新:2006年09月08日 09:18