自分がこんな貧乳女に何を考えているんだとうろたえながらも、視線は奈緒子から離せない。意識する程、奈緒子の薄く透けて見える下着が際立って見える。
その部分を見ないようにしても、今度はスカートが張り付いてあらわになった太股が目に入る。

体の、上田自身のコンプレックスでもあるその部分に血が上るのを感じた。

「おぅっ」

───このままではいけない。

そうだ。
山田がこんな所でこんな格好してるのが悪いのだ。そこに運悪く俺が入って来てしまっただけだ。俺は悪くないぞ。俺は悪くない俺は…

そう、自分に言い聞かせながら上田は冷静になろうと深呼吸した。奈緒子をとにかくユニットバスから運び出す為、奈緒子を抱き起こそうと体を近付ける。

「おい、遅いぞ上田」






本気でビクッとなる。


目を閉じたまま、奈緒子が喋った。
「…貴様、気絶したフリか。汚いぞ」
上田は平静を装い言い換えした。内心はバクバクしていた。奈緒子が目を開けたら、全裸の自分は完璧に変質者か犯罪者である。

…しかし、奈緒子の言葉は後が続かなかった。

───こいつ、寝言か?

未だ無言の奈緒子。上田の推測どおり、やはり寝言のようだ。先程より、少し顔色が良くなっている。声を出して呼吸したせいだろう。
しかし、間一髪と言うべきか奈緒子がまだ気がついていないおかげで上田血祭りは免れたようだ。

しかし、無性に腹立たしい。
俺が今、どんな思いでお前と対峙しているか分かっているのか?しかも全裸で。
対決で疲れて風呂に入ろうと思ったのになんて仕打ちだ。この貧乳女め。

「うるさいぞ」
「おぅっ!?」

…また目を閉じている。

「貴様、俺を馬鹿にしてるな……」



奈緒子の寝言など日常茶飯事だか、状況が状況だけにこの一言に上田はキレてしまった。
考えてみれば、いつも俺はこいつに馬鹿にされていた。ちょっと手品が出来るからっていつも偉そうにして。かわいげがないやつだ。そもそも憎らしさと悔しさと、いろんなものが疲労困憊の体に込み上げてきた。
狭いユニットバスの中、二人だけ。
この密室とも呼べる空間に男女が二人。
無防備に横たわる、びしょ濡れの奈緒子。

ふぅーっと息を吐き、奈緒子を見下ろす。

「山田。もし寝てるフリなら、今のうちに起きて謝れば許してやる」

───無言。


「フフフ、俺がその気になられば、お前なんかどうにでもできるんだぞ…」
不敵な笑みを浮かべ上田が呟く。

奈緒子の、徐々に温かくなって来た頬に触れた。あどけなさの残る頬の輪郭を大きな手がなぞって行く。

「山田~、起きないと」

むぎゅっ。

頬を軽くつねってみた。口角が引っ張られて、まるで笑っているような顔。
それでも奈緒子はまだ目を閉じている。完全に気付いていない。

最終更新:2006年09月06日 16:37