私の本命

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指先を挿入してみると、卑猥な音と共に飲み込まれていった。
俯せのままだと深く入らないことに気付き、膝をついてお尻を高く上げる。
指を二本に増やし、できる限り奥まで突いた。
「ふっ…んん、はっ…あ」
「おおう!?どうした、サービス精神旺盛だな…ハハ」
上田さんの声が遠い。ベッドが沈む。
秘部に触れていた手を取られ、何かが宛われた。
熱くて、硬くて、大きい、上田さんの…
「ぇ、あ…えっ?」
「ゴムは装着済みだ。力を抜いて、大丈夫だから」
腰を掴まれ、ぎゅうっと押し込まれる。
逃げようとする体を押し止めて、上田さんに全てを託した。
「…っ!やぁ、痛…ぁっ」
「落ち着いて…大丈夫だ」


大丈夫じゃない。枕に涙が落ちる。
痛みを紛らわそうと胸に手を伸ばした瞬間、あの人の顔が頭に浮かんで消えた。
しまった、駄目だ…!思考が切り替わる。
私は矢部さんに抱かれてるんだと、頭が勝手に想像してしまう。
「…っ、や…っ、矢部…さんっ」
「どうした、何か言ったか?」
「…っんん…あ…」
入ってくるのが矢部さんのものだと考えると、少し力が抜けて楽になった。
きっと凄く濡れているだろう。こんなの良くない。現実逃避だ。
「…上田…さ…上田さん、ごめ…なさぃ」
「…山田?」
「ごめん…なさ…っ上田、さんっ…」
何かを察したように、上田さんは動くのを止めた。
お互いの荒い息が落ち着いた頃、上田さんが口を開く。
「…もう君の気持ちは知らない。どうだっていい。
好きにしていいって言ったろ」
私を仰向けにしなかったのは、私への気遣いだったのだろうか。
上田さんの顔を見なくてすむように、矢部さんのことを考えていられるように。
…なんだか寂しくなった。上田さんの顔が見たくなる。
「…これでいいんだよな、山田」
私の返事を待たずに、上田さんは再び腰を動かし始めた。



入口を小さく突いた後、強く押し入ってくる。
「上田、さ…あぁっ!っやぁ…!」
尋常じゃない、体が壊れそうな痛み。
全部入ったのだろうか、膝ががくがく震えて力が入らない。
「…っ、キツイな…いいぞ、気持ちいいよ」
「んっ…上田、ぁ…上田さんっ」
上田さんが気持ちいいなら、私が苦しくったって構わない。
私は上田さんが大切だって、わかってくれますか…?
「山田…イッていいか?早くて悪いな…気持ちよくさせられなくてごめん」
「…ん、っ…だいじょ…ぶ、です」
動きが一層激しくなる。痛むのは体だけじゃない。
涙が溢れて止まらなかった。
「っあ、出る…っあぁ!」
「…上田さん…っ」
私はベッドに崩れ落ちた。開放された体が重い。
やがて上田さんが私の体をそっと起こした。
涙と汗で汚れた顔を、心配そうに覗き込んでくる。
「上田さん…上田さん、だぁ…」
やっと上田さんと顔を合わせられた。
なんだか悲しくて嬉しくて、必死に上田さんに手を伸ばす。
ぼろぼろ泣きながら、上田さんの首に抱きついた。



「…ん…どうした?大丈夫か?ごめんな…」
「…上田さん…」
「辛かっただろ、寝てなさい」
「や…一緒にいたいです…」
上田さんは悲しげに息をついて笑った。
体が重くて抵抗できず、されるがままにベッドに寝かされる。
「…眠れるまでここにいるよ」
「…やくそく」
「ん?」
「私からキスしたら、ずっと一緒にいてくれるって言った…」
「……」
上田さんは何も言わずに私の体に布団をかけた。
きっと私の言葉は残酷で、上田さんを傷つけているだろう。
「…上田さん、…だいすき…」
自分の意思とは裏腹に、自然と瞼が閉じていく。
薄れゆく意識の中、ドアの閉まる音を聞いた気がした。

最終更新:2006年09月06日 04:02