カリボネレ○プ3




「 おお、おおぅ。――YOU中々、良~い身体だ…。ふぅ、暑い…。俺も脱ぐか…」

上田は私のワンピースの上を中途半端に脱がして置いたまま、眼鏡を外して汗だくの顔を拭う。そして、
いつも着崩しているシャツの前を全て外して前を開け、恐らく自宅マンションの筋トレマシーンで鍛えられた肉体を披露する。

「 見ろ。…これが肉体美というヤツだ。」

上田は少々露出狂の気があるのではないのか。しかし不思議に、只その裸体は恥ずかしいだけでなく、割れた腹筋とか、盛り上がった胸筋とか、
男性的な部分にどうしても眼が行ってしまう。――なんだろう、凄く魅力的に、感じてしまってる。

「 み、見たくありません――うん?…こ、この甘い匂い…上田さん、から…?」
爽やかな匂いだが、次には息の詰るような――甘い毒の様な香りが上田の肌から匂い立つ。私は厭な予感がして、なるべく呼吸を穏やかに保つ。

「 ああ。女性だけに効く匂いらしくてね…俺には全く分らないんだが。西洋薄荷――つまりペパーミントと、ローズマリー。それに、
カリボネをほんのちょっと調合してねェ…そうかそうか、そんなに効果が…ふふふ 」

――姑息な上田の笑顔。こういう時は自慢話じゃなきゃウソを吐いている。

「 どうせ…しっかり、調べてんだろうが…お前っ 」
「 はっ、まあ良いじゃないか…ところでどうした~山田奈緒子。語調に覇気が無いぞ?」
「 うるさい…ほどけ、ネクタイ。――私は…帰るんだぁあ! 」

――ぎしっと椅子が軋みを上げて、上田の体重を乗せる。

「 やだね!――現に君は無抵抗に俺に捕まってるじゃないか。あっさり縛られたり…本当はこういうのが趣味だという明白な証拠だ!いい加減素直に認めないと、
本来なら余り気が進まないが君の後生のため少々乱暴な行動も止むを得ない。まったく君は何度も言うように論理的に物を考えたまえよ。今無駄な抵抗をしたところで
君に助けが入らない限り君は俺の思うが侭だ。俺の言うことを素直に聞いて、大人しくしていた方が身の為だと俺は思うがねうっ――…」


私の力を振り絞った見事な蹴りが、いきり立った上田の巨根に見事にヒット。やりぃ!――少し可哀想な気もするが、仕方ない。
「 これぞ、奈緒子キック。 」
上田は悶絶している。チャンス、奈緒子。動け!立ち上がれ!!


『 技名先に言えや! 』
『 あ、兄ィ。突入前にバレますけぇの…』
『 せやかて、普通ヒーローとかヒロインっちゅうもんは、先に技の名前言ってから繰り出せへんか?』
『 ゲームとかや、ないですけぇのぉ 』

こ、この声は、矢部石原コンビじゃないか!呼ぶまでも無く。あいつ等は一体何をしてるんだこんなとこで!そう言えばいつから聞かれてるんだろう…
助け――否、今となってはこんな格好だし、助けを呼びたくないナンバー1と2だ…!!
足が動いた。地面に靴の爪先がついた、後はふんばって起き上がるだけだ…!!がんばれ奈緒子!ファイトだ奈緒子!

「 ――貴っ様…もう、許さん。」
上田が臨戦態勢に戻った。目がヤバイ。…こ、これは間違いなく犯られる。体面など構ってられない!
「 う、うわああああっ…!助けろ!矢部!石原!」

『 あ、バレた。兄ィ、今じゃ!突撃じゃ!先生ーー!!開けてくれんかいのぉーーー!』
『 せやかてお前…ここ、これ以上開けられへんで?ちょ、先生ぇ~、開けてください~。それ以上は犯罪ですよ~。
思いとどまってください~。現行犯逮捕ですよ~。』

扉はぎしぎしと鳴り、矢部コンビの侵入を許さない。

「 上田さん…一体、何を…?」
「 あいつ等なら入ってこられないさ。…この天才物理学者の俺が、扉に錠を掛けずに君を此処へ呼び寄せたと思うか?前もって
ここに少々特殊な鍵を取り付けておいたのさ。内からも外からも、俺の持つたった一本の鍵以外では明けられないようにな。」
「 なぬ!? 」
「 愛し合う男女の邪魔は、誰にも許さないと、こういう訳だな。ふふふ。」
「 愛し合ってないって…!」

致命的だ。完璧に気付かなかった。上田を睨むと、眼鏡を取りさった双眸は、鋭く、まるで肉食動物のようだ。
「 さーて…YOU。よくもやってくれたな。――君には拷問を与えよう。」
「 ごう、もん?水戸黄門… 」
上田は馬鹿にしたように笑うと、ズボンのポケットから歯磨き粉のような白いチューブを取り出して、キャップを外し始めた。

「 これはね、卵胞ホルモンの『エチニルエストラジオール』を配合したジェルでな…ま、簡単に言えばね、膣内の圧縮性を高める、という効果を生み出すんだ。
これがどういうことか分るか?山田。」
「 ――…只でさえ巨根のお前に突かれて苦しいのを、さらに、苦しめって事か。――うう、くっ…こんなの、いやっ――」
「 大丈夫。もうYOUの膣内は開発済みの上、媚薬の効果で圧迫による痛みなど麻痺した筈。無くなったも同然…ほら、足をもっと開いて。 」

上田は私の足を割って、スカートを捲り上げ、下着の中へ強引にチューブを突っ込ませる。

「 うっ、冷た… 」
「 直ぐに熱くなるさ――…ほら、そろそろ。」
「 ひ、…イヤッ…やだ、やだ、上田さ… 」
チューブの先を直接孔の周りに塗りつけてくる――最初は冷たいのが、段々、段々、じわじわと温かみを帯びてきて、
やがてぴりぴりと粘膜を責めて来る。
「 弄って欲しくなってきたんだろ。分ってるんだぜ?YOU。」
「 何がですか――別に、な、んとも… 」

――もう、もう、駄目だ。色んな感覚が交錯して、もう、何が何だか分らない。
――上田の声がゾクゾクする、もう何をされても構わない。




「 YOUはな、嘘を吐く時、俺の顔から眼を逸らすんだ…瞳孔が揺れるのを見せないためだろう。それは特に、恥ずかしかったり、好意を覚えたときには
凄く分り易いんだ。今も、そうだ。感じていないなんて、嘘を、吐くな――」
「 本当です!こんなの、嘘!媚薬で与えられた快感なんてにせものです!最低!馬鹿巨根!脳味噌の所在地は股間!! 」

上田が、冷たく笑う。

「 本当に馬鹿だなYOUは――そもそも性的快感こそが、脳味噌の作り出した偽りの感覚なんだよ…
文化を手に入れた我々は、生殖本能というよりも寧ろ快楽目的でセックスを行うようになった…――いいかい?視床下部自律神経系副交感神経が出す
恐怖をつかさどる物質、アドレナリン。怒りをつかさどる物質、ノルアドレナリン――恋愛感情も大抵これらの微妙な量の違いで起こるんだ。
シナプス次第だよ!いいかい、脳内麻薬の作用なんだ。我々の興奮や怒りや悲しみなんかはな――
つまりYOUのこの感覚だって本物――気にせずこの感覚を、本物だと、思えば良い…」

腰をくねらせて抵抗しても、上田の強靭な腕が、私を安々と押さえつける。下着が、ビリビリと裂かれて、恐怖の余りに叫ぼうと開けた口へ、
下着の布がぐいぐいと押し込まれる。

「 ふえらはん!ひゃめへ!!―――!!!」
――お願い…入ってこないで…!

「 そこまでじゃああコルァ!! 」
「 よっしゃあコラァお前!いくらせんせでも今回ばかりは黙っちゃおれんぞぉ!!」
バキッ!と、扉の破れる音とともに、刑事二人が割り込んでくる。
「 …あ。…それ、それは、反則でしょうお二人… 」



――ん?確かあの媚薬。上田さんのほうがより多く飲んだはずじゃ。男にも、反応する筈が…ああ、矢部相変わらず
髪型がおかしいな。石原、時代遅れの仁侠映画みたい…――

「 センセ、お縄です。いくらなんでもちょおコレは。我々も、ケーサツですし。」
「 ま、まっふぇくらはい! 」
「 うおっ!ねー、ねーちゃん、胸出てる!! 」

私は、口に詰め込まれていたパンツをぷっと吐き出して、上田を見る。

「 お前、飲んでなかったのか!!だ、だましたな! 」
「 ふ…それどころかYOUのジュースにも、一滴たりとも媚薬など入ってはいない。つまり、お前と俺とは同意の上のセックス。
ああ、矢部刑事。疑うならこの女の血液を抜いて調べてもらってもいいですが?」
「 そ、其処までおっしゃるなら疑いませんが… 」

――何?じゃあ私のこの高揚感は何だ?しかも、上田だけに。

「 …え、じゃあ、乳がこう、ちょっと大きゅうなったんは、どういう事なんじゃけぇのぉ?」
石原が胸の前でボイン、の動作をやってみせると、矢部の鉄拳が再び飛んだ。

「 じゃ、せんせ、しっつれいしますわ~」
本日三回目にノびた石原の足を掴んで、矢部はとっとと退散していった。本当に何の用だったんだろう。


二人の刑事が帰った後、私は何故かそのままの格好で縛られたまま、椅子に横たわっていた。

「 山田、YOUが反応したのは俺のコロンだよ。――あと、YOUの其処に塗ったのは本物だ。だから、血液検査じゃ出ない。」
勝利の二文字を顔に浮かべて、上田がにんまりと笑む。あ、悪党め…!!

「 ぶわぁーかぁ!へへへ、ざまあみろ。其処でずーっともじもじしているが良い。気が向いたら、シてやってもいい。」
「 煩い煩い!!犯罪者!!マッドサイエンスティスト!!」
「 俺は天才物理学教授。――英語力の無いやつめ。それを言うならジーニアスファイジシストだ。」

「 ――くっそぉ…この、ボサボサ頭の臆病で泣き虫なマザコンの巨根の…んっ… 」
「 …見守ってやろうじゃねェか。お前が堕ちるまで? 」


この上なく助平な顔のはずが、やがて暮れて行く夕暮れの中で、この男が妙に―――
どうやら私の舵は完全に、この男に握られてしまったようだ。


---------- 終 -----------


後日談

「 いやー、兄ィ…わし、いかん。このまま帰られへん。」
「 お前もかー?いやー、俺もやねん。…このままじゃぁよう帰れん。」
「 ほんなら、あの店、どうじゃろうのぉ!ほら、駅前に出来たあの店! 」
『”大奥、蜜の乱”』

如何わしい店に向かう二人の刑事は、どこか前かがみに駐車場へ向かうのであった…
最終更新:2006年09月04日 02:32