三角関係 by 9さん


  夏休みも終わり、9月。
  未来と会わなくなって久しい今も、矢部は店に顔を出していた。
  秋葉と二人で捜査に励む。
  今までと同じ。でも何か足りない日常。

  「いらっしゃ…あ、矢部さん。お客さんがお待ちですよ」
  「ワシに客?」

  ―――あいつか?
  矢部は駄菓子を見繕いながら店の奥を覗き込む。
  見飽きた貧乳の女がぱっと顔を綻ばせた。

  「よう矢部。元気か」
  「…なんやお前かぁ」
  「何ですか、あからさまにガッカリして」
  「別に」

  抱えた駄菓子を奈緒子から死守しながら、矢部はそこらに置かれた本のページをめくる。
  未来の忘れ物だろうか、上田が胡散臭い笑顔を振り撒いていた。
  奈緒子も退屈そうに本を覗き込む。

  「…あの小さい店主に聞いたんですけど…」
  「ん?」
  「あの女の子と仲いいんだって?上田の本なんか読んでる…頭良さそうな」

  店主が「未来ちゃんのことですよー」と口を挟む。

  「ああ。ワシの優秀な頭脳を尊敬しとる助手みたいなもんや」
  「ふーん…」
  「聞きたいか、わしの伝説を」
  「いい」
  「…で、お前何しに来たんや」

  本を閉じ、駄菓子に手を伸ばす。
  奈緒子は俯いたまま動かない。

  「……よし、わかった!嫉妬やな」
  「はっ?」
  「ワシの捜査に首突っ込めるのは自分だけやと!
  うわあアホやなあー、小学生相手に!嫉妬!うわー」
  「違う!!勘違いするな!」
  「…先生に会うたで。今日」
  「え」
  「今抱えとる重大な事件についてな、ちょっと調査を依頼したんや」
  「…ふうん」

  矢部はそわそわする奈緒子を眺めてため息をついた。
  上田から電話がかかってくるかもしれない、もう家に来ているかもしれない、という期待が見え隠れしている。

  「あーもう帰れ。送ったるから」
  「…うん」

  何気なく鞄に駄菓子を詰め込もうとする奈緒子の頭を叩く。
  ――こいつは小学生の数倍手のかかる女や。

  「秋葉ー、山田のアパートわかるやろ。行くで」
  「あっ立ち聞きバレてましたか…」



  矢部謙三は、上田と奈緒子を巻き込みながら今回もあっさり事件を解決。
  温泉を満喫して東京に帰還した。

  「いらっしゃい…あっ矢部さん、いいところに!」
  「まーたあいつが来とんのか」

  ニヤつく店主を押し退ける。
  見慣れた小さな人影。

  「あ、矢部くん!」
  「…おー、お前か」
  「久しぶり。この本、忘れてたから取りに来たの。じゃあね」

  呆気ない再会。
  駆けていく背中を見送っていると、未来がふと立ち止まって振り返る。

  「…矢部くん、貧乳のお姉さんとは仲良くしてる?」
  「は?」
  「ここで二人でお話してたって。小さい店主さんが言ってたから」

  矢部はヘラヘラしている店主を睨むと、未来に近づく。
  未来は膨れた顔で矢部を見上げた。

  「あ。お前、嫉妬してんのか」
  「矢部くん。からかわないで」
  「はいはい、ワシの大事なスパイはお前だけやで」
  「…ごまかした」
  「…あのなあ。あの女は上田先生のもんやぞ。読んだことあるやろ」

  未来の手にした本を奪い、上田の連載のページを突き付けた。
  貧乳の助手のことが長々と書いてある回。

  「えっ。これがあのお姉さん?…アハハハハ!アハハハハハハハ」
  「笑いすぎや」
  「ねえ。私は矢部くんのものだよね!」
  「はぁ?」
  「矢部くんが言ったんだよ、私は矢部くんのスパイだって」
  「あーはいはい」

  矢部は呆れ顔で未来の頭を軽く撫でた。
  未来が満足げに笑う。

  「じゃあ、またね」
  「気ぃつけて帰れよ」
  「ありがとう。秋葉くーん、うちまで乗せてってー!」
  「ま、またバレてた…」

最終更新:2014年03月05日 22:16