眠れないからネタを振ってみた

by 145さん

  「く…、ぅっ」
  荒い息が、聞こえた。
  聞こえてしまった。

  池田荘が消えて、家賃の催促をされない代わりに雨露が凌げなくなってしまった私は、結局上田のマンションに転がり込んだ。
  上田の寝室だった部屋を占拠してやったから、あの大男は今やリビングで寝る毎日だ。
  顔を合わせれば「早く職を見つけて部屋を返せ」とぶーたれている。
  別に返してやるつもりもないが、いつまでも世話になるわけにはいかないと、今日は久々にアルバイトに出ていた。
  いつものように『明日から来なくていい』と…いや、『あなた様のような方には毎日足をお運びいただくなんて恐れ多い』と丁重におとこわりされて。
  帰ってみたら、何をしてるんだ馬鹿上田っ!そこは私の部屋だぞ!
  追い出そうとドアノブに手をかけた、その時だった。

  「奈緒子…っ」

  どうしてだかわからない。だけど私は、凍り付いたように動けなくなってしまった。
  上田の声は、まだ、聞こえてくる。

  私は…どうしよう!?



  1:突入する。
  2:耳をすます。
  3:逃げる。


  2:耳をすます。



  2:

  何故だか怖くなって、私はそのまま息を潜めた。
  上田は、私がドアの向こうにいることに気づいていないようだった。
  はあはあという獣のような呼吸と、くちゃくちゅと粘着質な音が微かに聞こえる。
  その音が何を意味しているのか、さすがの私も知っている。
  あ、いや、ベッドの下に落とした遠山の金さんのビデオを探してたら
  間違って上田のえっちなビデオを…ってそんなことどうでもいい!
  何にしろ、上田の調子は最初からクライマックスの様だった。
  「…ふっ、く、奈緒子…っ」
  だから、どうして私の名前を呼ぶのか。
  そんなに低くかすれた声で、私を呼ばないでほしい。
  体が、震えてしまうから。
  私は自分の腕で、自分の体を抱きしめた。
  震えが止まらない。
  体がゾクゾクする。
  誰かに温めてほしい、寒いわけじゃないのに!
  「奈緒子、奈緒子…っ」馬鹿上田っ!
  「ぁ…」
  私の口から息が漏れる。
  胸の頂が張り詰めているのを自覚してしまったのだ。
  自分を抱いていた手が、ゆっくりとその尖りを目指す。
  こんなこと、馬鹿げてる!上田の声を聞きながら、こんなコト…
  服の上から触れた膨らみは、自分でも悲しくなるくらいに小さい。
  その中心を、指がなぞる。痺れにも似た感覚が走り、私の体は一際強く震えた。



  「奈緒子…」
  まだ、上田の声がする。恍惚とした響きで私を呼ぶ声。ヘンタイ。
  罵倒を口に出す代わりに、自分の胸を揉みしだいた。
  ち、違うぞ!マッサージしたら大きくなるんだ、上田みたいな変態的行為じゃないからな!
  胸の先を指で挟んでくにくにと転がすと、ちりちりした気持ち良さを感じる。
  えっちなビデオだと…男が、ここにしゃぶりついていた。
  上田が…私の胸に。
  その様子を想像して、思わず廊下にへたり込んでしまった。
  きっとあんまりな想像に、立ってる気力が萎えたんだ。
  胸から手が離れないのは、指が想像の上田の舌と同じ動きをしてるのは、ただの偶然なんだ。
  私はそうして必死に理由を考えていた。だからだろうか。
  もう片方の手が無意識のうちに足の付け根に触れていたことに、すぐに気づかなかった。
  「~~っ!」
  中指に生暖かい弾力を感じた、と思った瞬間、下腹部から電気のような衝撃が走った。
  声が出たかと思わず息を飲んで耳をすませる。
  部屋の中では相変わらず、熱に浮かされたような声が私を呼んでいた。
  この声のせいだ。
  私がおかしいのは、こんな声で私を呼ぶからだ。
  だから、私がこんな気持ちになったのは、全部、上田のせい。私は悪くない。
  心の中で責任の所在を明らかにしてから、声が零れないようにスカートの端を口にくわえた。



  下着はとうに湿っていて、指でつつくとぷるりとした弾力が妙に生々しい。
  私はゆっくり、鼻で深呼吸した。
  口の中、スカートと一緒に噛んでしまった髪の毛がうっとうしい。
  でも、それよりも一刻も早く自分の中に籠もった熱を吐き出したくて。
  意を決し、横にずらした下着の隙間から中指をそっと差し入れた。
  ナカは随分と熱を持っていて、まるで自分の体ではないような感じがする。
  えっちなビデオだと…指を出し入れしていたっけ。真似て動かしてみる。
  ぐぷ、ちゃく。じゅぷ。
  水音が激しく聞こえる…私の体はこんないやらしい音が出せたのかと、自分でも少し驚いた。
  「ん、ふ…ぅ」
  出し入れを繰り返し、少しキツいナカを何度も擦るうちになんとなくコツが掴めてきた。
  ふ、天才マジシャンにはどんなことでも器用にこなせてしまうものなのさ。すごいぞ、私。
  奥に進んで、少し指先、を、曲げ…っ、あっ。
  「ふ、ぅっ…」
  自分の胎内を蠢く気持ち悪さと、もっと触れたくなる中毒性。
  その両方を感じる場所を見つけて、私は目を閉じる。
  指でつつくだけじゃなく、押し込んでみたり、爪先で弾いてみたり。
  指の動きに集中するうち、他のコトが考えられなくなり始めた。
  もっと触れたら、私はどうなってしまうんだろう。
  自分で触るだけでこんなに何も考えられなくなるだなんて。
  これが他人の指だったら、どうなってしまうんだろう。
  ましてや、馬鹿上田のあの馬鹿デカいのなんか、考えたくもない。
  馬鹿上田、上田の馬鹿、上田、上田っ!
  ナカに、ナカ、もっと。指じゃ足りない、届かない。



  いつの間にか、私は床にうずくまるようにしてその行為に没頭していた。
  浅くなった呼吸が思考の邪魔をする。
  もっと空気が欲しい。
  それよりもっと良くなりたい。
  自分の髪の毛が床を這うのも構わないで、見えない指先を意識する。
  キモチイイ所にうまく指が当たるように、少しでも奥まで届く方法を模索する。
  すっかりナカはぐちゃぐちゃで、そのくせ指を飲み込もうとするみたいに窮屈で。
  なのにイイ所は膨らみ続ける風船を内側から触るみたいに遠ざかる。
  あまりの焦れったさに悲鳴が出そうになった時だった。

  「腰を浮かせてみろ」

  低い声が真上から聞こえた。血の気が引いて、体が強張る。
  「う…上田」
  「ほら」
  奴は言うが早いか私の腰に手を回し、私は尻を突き出すような格好にされてしまった。
  「いつ、から」
  思わず口走る。息も絶え絶えで、私、カッコ悪い。
  「あれだけ呼ばれりゃ、誰だって気が付く」
  いつの間にか私のスカートは床に広がっていた。
  私が上田を呼んでいたというのか。
  きっと、コイツが私を呼んでたような、上擦った声で。
  惨めだった。泣きそうな顔を見られないことだけが救いだと思った。
  上田のデカい手が、私の、足の間へと伸びた腕を掴む。そのまま、指の方へとゆっくり近づいてくる。
  イヤ。
  ヤメテ。
  こんなの違う。
  いろんなことが頭を駆け巡る。なのに、私の口は動かない。
  そこ。
  お願い。
  もっと触って。
  そんな言葉ばかりが喉に用意されているのだ。
  やがて上田の指が、私の中指を辿って潜り込んできた。



  「あ…っ!」
  自分の指では感じなかった異物感が、痛い。
  逃げようと体をよじっても、腰を上田に抱え込まれてしまっては無理な話だ。
  「力抜け。…ここか?」
  耳のあたりから声がする。どうも上からのし掛かるような体勢を取られているらしかった。
  ナカはもう、私では届かない場所まで上田の指が埋め尽くそうとしていた。
  窮屈さに痛みを感じて指を抜こうとして、上田の手が邪魔なことに気が付く。
  「あの…指、抜いてください」
  「嫌だ」
  聞き分けがない男だとあきらめて、私は自分の指を力任せに引き抜く。
  「ぁんっ」
  抜け出す感覚と、勢いに任せて擦り上げてしまった膨れた豆の感覚に、思わず声を上げる。
  腰から力が抜け、その隙を狙っていたのか上田の指が更に奥を蹂躙する。
  「ん、あぁ…っ!」
  上田の指、指が!
  「奥…っ、おく、だめぇっ!」
  変な声出た!
  思わず口を押さえた私の手を、上田の自由な方の手が捕まえて引き剥がす。
  「YOU…声、抑えなくていいぞ」
  そう囁くと、上田は指の動きを強めた。
  「あぅうっ、ぅあ、ああっ!」
  引き剥がすだけでは飽き足らなかったのか口の中まで指を這わされては、
  声を抑えるどころか、よだれを止めることもできない。
  せめてもの仕返しに指に噛み付こうとしても、喘ぎが止められないせいかあごに力が入らない。
  耳を咬まれ、うなじに吸い付かれ、そのたびに私の喉からは獣のような声が漏れる。
  そうしているうち、ナカから背筋を貫き、脳髄を真っ白にするような刺激に堪えきれなくなって。

  「ああ、あは、はっ、あ、あああーッ!」

  私は、ひどい悲鳴をあげながら、上田の腕の中で全身を弓なりに逸らした。



  廊下に横たわって、ぐったりしてしまった私を見て、上田は小さく笑った。
  「髪の毛」
  言いながら口元を払われる。いつの間にか食べてしまっていたらしかった。
  何だか自分が子供みたいでみっともないと感じてしまって、まともに顔を上げられない。
  このままだと泣き出してしまいそうで、俯いたままの私を上田は軽々と抱え上げた。

  私は反射的に、落ちないようその首筋にしがみつく。
  そうして初めて、上田が上半身裸で、見える限りスラックスしか身に付けていないことを知った。
  上田の臭いがする。
  「汗臭い」
  「悪かったな!」
  噛み付く勢いで怒鳴られ、うりゃっと勢いつけてベッドに放り投げられた。
  「びっくりした!
  てか部屋、イカくさっ!」
  「お前もだろ!」
  言われて今更ギクリとする。
  「あの…上田、さん」
  「…なんだ、YOU」
  上田も、多分、自分がしていたことを知られたとわかっているのだ。
  部屋にギクシャクした空気が流れる。
  ベッドの横に突っ立ったまま明後日の方を見ている上田。
  その横顔を見ながら、私は何だか笑えてきた。
  「ばーか」
  「何を」
  こっちを向いたのを捕まえて、噛み付くようにキスしてやった。
最終更新:2014年03月04日 22:32