セオリー

by 323 さん



皆様メリークリスマス。
今からウエヤマ連続投下します。
対してエロなし、一応半年ぐらい同棲してるという設定で。


 あーあ、せっかくの料理なのに
 あーあ、せっかくの最高級レストランなのに
 あーあ、せっかくのイブなのに

 ため息をついた。舌の上をよくわからない野菜が通っていく
 目の前ののっぽのヘタレな上田は黙々と料理を食べ続ける

 息苦しくなって目線を逸らしたら、隣のテーブルのカップルが見つめ合っていて
 男の方が指輪を相手の女に渡していた

 あーあ、 

 「出かけてくる」

 夕方、さっきまでぼーっと一緒にテレビを見たりしていた上田が急にいなくなったと思ったら
 数分後スーツを着て出てきた。

 「どこに」
 「食事だ」
 「そういう事なら先言ってくださいよ。えっと用意しなきゃ」
 「君は留守番だ」
 「なんで」
 「今日はいつもと違ってかしこまった所に行くんだよ、君みたいなワラジム・・・下等動物が安易に行っていい場所じゃないんだ」
 「お前それどっかの魔人探偵入ってないか」
 「腹が減ったなら冷蔵庫の中の物適当に食べろ」
 「いつ帰ってくるんだ」
 「明日の昼だ」
 「お前本当に何しに行くんだ」
 「食事と宿泊だ。場所はなんとあのミシュランガイドに掲載された最高級ホテルで」
 「東京Vシュラン?」
 「見てるのか」
 「で?そこにいって食事してホテルに泊まるんですか?誰と」
 「君は知らなくていい事だ」
 「お前私に見栄はろうと一人でそれするつもりじゃないだろうな?」
 「・・・・」
 「・・・え、本当ですか?」
 「ちなみに聞いて驚けホテルは最上級スイーツ(笑)の部屋をとった」
 「オイ、聞けよ!スイーツってなんだよオイ!」



 あれから、私はあまりにも哀れな上田の事を思ってホテルに同席することにした。
 ・・・いや別にこいつと来たい訳ではなかったんだ。カップルばっかり居る場所で孤独に一人料理食べたり一人寝たりするのは
 不憫すぎる上田を思って仕方なしにきてやっただけだ。本当、私優しすぎるだろう。感謝しろ上田!
 別に最高級料理とか最上級スイートとかセレブ気分を味わってみたかったとかそういう事じゃないんだ。
 ・・とかさっきはそう思ってたのに、今はどうだろう。あんまり楽しくない上田のせいだ。
 こいつ最初は口数が多くて「君は俺に感謝すべきだ」とか「なんで君なんだ」とぶつぶつ失礼な事を言ってたのに
 ホテルに着いてからだんだん無口になって今じゃ無心に料理を食べている。
 ・・・なんなんだ嫌なのか?私がいるからか?・・・上田の分際で失礼な!

 「上田」
 「なんだ」
 む。苛々してるなこいつ。
 「別に、なんでもないですっ」
 「そうか」

 あーあ。
 さっきのカップルがいたテーブルはもう違うカップルが座っていて手を取り合って見つめ合っていた。


 ・・・あーあ。


 パタン 後ろ手でドアをしめた。

 最上級スイートの部屋。広いな。廊下のスペースだけで生活できるような気がする。
 もう、私もこいつも子供っていうかまぁそういう初々しい関係じゃないからこの後どうなるかぐらいは分かる。
 勿論初めて同士っていう訳でももうないし、重ねてまだ一桁とかという訳でもないから抵抗はない・・・けど
 「・・・」
 だからさっきからこいつはなんなんだ。

 「上田?」
 「・・・」
 コートをハンガーにかけて振り返ると上田は椅子の横に立ってコートも着たまま考えごとをしていた。
 ・・・なんだよ。やっぱり一人の方が良かったのか?
 「上田。」
 「・・・ああ」
 「なにがああですか」
 「別に、なんでもない」
 「嘘付くな馬鹿上田」
 「ああ」
 聞けよ。

  ・・・さっきのカップルはきっと今頃ベットの上で抱きしめ合ってるんだろうな、ちらっとそう思った。


 「上田、風呂沸いたぞ」
 「ああ」
 上田が立ち上がる。

 「・・・一緒に入るか?」

 誘ってやった。(滅多にない事だ。やっぱり感謝しろよ上田!)
 上田はびっくりした顔で私の顔を見て・・・あろう事か目を逸らしたのでその背中を浴室へと蹴っ飛ばした。





 「よいしょ」
 着慣れたチャイナを脱ぐ。今思えばホテルにチャイナはなかったかな。浮いてたし。
 特に注意されなかったから着てたけど。
 ・・・今回こいつが不機嫌なのはそれか?
 いやいや、でもこれぐらいしかこういう所に合う服はないし。私は悪くない、うん

 最上級ホテルはやっぱり最上級なことはあると思う。
 とりあえずバスが広い。上田の家のはともかく、長野の風呂よりも広いんじゃないだろうか。
 それに泡にジャグジーに、セレブって感じだ。ねるとん姉妹(※ヒルトン姉妹)なんて目じゃないな。
  しかし、この沈黙は・・・・
  本当この馬鹿上田は・・・普段ならそろそろこの辺でセクハラ三昧の筈なんだが・・・

 「おいムッツリ上田」
 「誰がムッツリだ」
 「さっきからなんですか、ずーっと不機嫌で」
 「不機嫌じゃない」
 片手で泡をすくい上げてぐしゃ、とその左頬にぶつけてやった。
 「なにすんじゃい!」
 「お前が悪いんだろ馬鹿上田。なんですか。本当にホテルついてからずぅうと
  お前そんなに私が付いて来たのが不満か。上田の分際で生意気な!」
 「一人で話を解決するな。別に・・そうじゃない」
 「・・・。」
 背中をその胸に預けた。
 ちゅぷ、肌と肌の間に泡が入り込んで少し気持ち悪い。

 「・・・考えてたんだ」
 「何を」
 「今日はイブだ」
 「そうですね」
 「いわばカップルの為にある日だ」
 「まぁ。そうですね」
 「大概のカップルが今日は必ずデートして、今日色んな所でことに及ぶ」
 「まぁ・・・そうですね。」
 「去年まではずっと一人でホテルに泊まって食事をとってたんだ」
 「ホテル側にしたら嫌な客だな。ていうか変な客だな」
 「しかし今年は君がいる」
 「ええ」
 「・・・こんなに今年はセオリー通りでいいのかと思ったんだ」


 ・・・。
 ・・・。
 ・・・。
 ・・・・うわ。くだんねぇ。

 「・・・その、セオリー通りじゃダメなのか」
 「あまりにも想像通りに事が運んでな、不気味だった」
 「不気味って」
 「あまつさえ今日の君は変だ」
 「殴っていいか」
 「そもそもイブにデートしたいなんて言うはずがないし」
 「デートしたいなんて言った覚えはない」
 「何も言ってないのに上品な格好や化粧したり、あまつさえ行儀よく食事をとるし」
 「お前私をなんだと思ってるんですか」
 「い、一緒に風呂に誘うし」
 「お前のせいだろ」
 「そうなのか?」
 「だって上田が変だから、あと髪洗うのめんどくさかったから・・!」
 「待てどんな理由だ」
 「で、なんだ結局お前が変なのはそういうくだらない理由からなんですか」
 「くだらないとは失礼な。・・まぁその、こうも普通な事していたら
  何か後で起こりそうで、やっぱり不気味だったんだよ。去年まではこういう関係でもなかったしな」
 「お前、不気味不気味って」
 「だってそうだろ、君と俺だ。」
 耳たぶを噛まれた。つい声が漏れそうになった。急にスイッチを入れるな馬鹿。
 「・・私とお前じゃ・・何か不都合でもある・・んですか」
 「今までが今までだからもっとアブノーマルな事をしなければいけないような気がしてね」
 「ふざけんな馬鹿、アブノーマルってなんですか。今までさんざん・・しといて」
 「それもそうだ」
 「・・・なんですか今度はあっさりと」
 「まぁよく考えてみたらやっぱりyouと俺じゃ破局などはあり得ないな。
  しかし、積極的な君は見ていておもしろかった」
 「・・ちょ、待て上田」
 「なんだ」
 「もしかして今日の態度は確信犯かおま、んっ」
 呟いた言葉は唇によって消された。



 さんざん風呂場で茹だった身体は冷たいシーツの上に落とされた。
 覆い被さってくる。最悪だ。さっきまでの・・一応不安だった私を返せ。
 「顔が赤いぞyou、惚れ直したか」
 さっきまでの不機嫌な態度はどうした。豹変してるじゃないか。ふざけんな。
 ムダに大きくて長い指が身体のラインをなぞる。
 身体がびくん、となった。
 「・・そういえばさっき、物欲しそうに隣のテーブルを見ていたな」
 「・・・・・・」
 左手が絡み合う。
 「・・・隣?」
 「指輪、ほしいのか」
 「・・・別に」
 「ツンデレ。」
 「うっさい、黙れ」
 ぐ、と手を握られる。
 「・・・奈緒子」
 上田が下の名前を呼んだ、もう完璧にその気みたいだ。
 窓の外をちらりと見た、映画やドラマであるみたいに雪は降っていなかった。
 ・・別にいいけど。


 「いつか、買ってやる」
 熱に浮かされる寸前、最後に聞いたのはその言葉だった。


 ちゃぷん、 いろんな液でどろどろしていた身体をさっぱり洗い流してまた泡風呂の中にいる。
 もう、とうに24日は終わって今日はクリスマスだ。
 今頃セオリー通りに世の中のカップルは眠りについたりごろごろしたり、まだ・・・してるとこもあるかもしれない。
 頭の上に乗せられているアゴの先が痛い。ひげでチクチクするし。

 「―・・・てか、もう終わったんだから胸を揉むな胸を。」
 「なかなか大きくならないな」
 「黙れ、なかなか小さくならない癖に」
 「小さくなってたまるか」
 「ああ、もう・・・」
 「嫌じゃないだろう」
 「嫌に決まってます」
 「自分から風呂に誘った癖に」
 「うっさい、もう忘れろ!」
 「暴れるな、水がはねる。さっきまでは大人しかったのにな、イブ仕様ということか」
 「・・・そーですよ」
 「また来年もホテル予約してやるよ」
 「別にいらない」

 ・・・でも泡風呂と料理はよかったし、指輪くれるみたいだから別に来年もセオリー通りに動いてやっても別にいい、かな。
 来年まで絶対言ってやらないけど。本当感謝しろよ馬鹿上田!

 あーあ、もう今年からは私も上田も普通の恋人同士か。・・あーあ。
最終更新:2008年01月03日 22:44