シングルベッド
2
上田の手が、心臓の鼓動を速くさせる。
男特有のゴツゴツした、それでいて見事に長い指が私の体温を高めて行く。
もうやめてくれ――発熱しそうだ。
「 て、て、手慣れ!!」
「 れ、レ、レイプ?」
「 ええい!――し、しりとりじゃ、ない!!」
惚けた声の調子は変わらないが、指先は厭くまで的確で残酷だ。脱がせないのは上田の趣味なのか、
サイドから中指で下着の薄い布地を捲り上げて、中指の先で執拗に刺激してくる。
時折、最も敏感な中央を、わざと突付いてくる。
「 YOU、レースの黒とは!ブラックとは!!中々卑猥な下着を履いているな。まさか、こうなる事を計算済みか?」
「 う、上田さんの、か、勝手な思い込みです!!」
「 その割には、オレの一言で随分濡らしてくれるな。」
ヌルヌルと体液で濡れそぼった指を目の前へ突きつけられて、思わず顔に血が上った。
「 タコ。まるでタコだ 」
「 オレの手にやけに絡み付いてくる”この部分”も、独立した生き物に思えるな 」
「 なぁ、何か応えたまえ、山田。」
「 ――ンッ…ううう…」
応じられる訳が無い。
ずるっ、と湿った音を立てて、膣内に太い指がいきなり侵入してきたのだ。
「 オイオイ。…お前は、…」
「 あ、うう… 」
「 どこまで無意識に、…誘うんだ 」
指が、ゆっくりと往復し始める。体温はヒートアップする。
鏡台に映し出された自分の姿を、初めて確認すると、上田が意図的にこの位置へ自分を持って来たと認識した。
鏡の中の上田が、ゆるりと笑った。
「 山田、今、締まったぞ。」
ぬぷり、と、太い指が抜かれる。
局部が何時になくじりじりと痺れている。熱の冷め遣らぬ其処へ、もう一つの異質な熱が押し当てられる。
脈打つのが手に取るように分かる、怖い、こんなに怖いのは初めてだ。
荒い息遣いが頭の後ろで聞こえる。
「 狭そうだな、ここは 」
鏡面世界に、間抜けな上田に良く似た悪魔が映る。
悪魔は私の中へぬるぬると這入って来る。
私の薄っぺらな膜は、脆く儚く鮮血を伴ってぶつぶつと音を立てて崩れた。
痛い、痛い、痛い、痛い。
上田の体温が介入してくる。熱い。何て熱いんだろう。
引き裂かれるような痛みと、自分のうめき声と、上田のうめき声で
悪夢でも見ているような感覚に陥る。
上田が私の髪をくしゃくしゃに掴む。汗が顔に滴り落ちてきて、鬱陶しい。
気が遠くなるぐらい、痛い、でも、その倍以上に、気持ちいい――――
「 空だ、とも書くように、体内は、狭そうに思えても、案外、入れる、物だな 」
苦しそうに上田が何か言っている。テノールの心地良い響きが、ずくずくと深奥に響く。
「 しかしながら、YOUの中はキツ過ぎる…。そんなに、オレのモノが好きか?食い千切られんばかりだ… 」
「 君は狡い。いつも何かの形でオレを虐める。だから今夜はオレが虐めてやろう」
「 虐めるという目的下において、YOUが処女で良かった。山田 」
獰猛な光を、眼鏡越しの瞳が湛える。私は腰をしっかりと固定されて、背面座位の体勢で貫かれ続ける。
湿った音がやけに響く室内で反響して、私の耳に鮮明に届くのを上田は知っている。
知っていて、こんなにも加虐的な微笑を浮べているのだ。普段は直ぐ気絶するくせに、こんな時は、見た目通りだ…。
「 うあっ、あうっ、うっ、うっ、」
ずっ、ずっ、と力強く突かれる度に、勝手に声が漏れてしまう。上田は恍惚とした表情で、尚も私をえぐる。
私の中にある みだらななにか が引きずり出されてしまいそうだ。それ以上、水音を立てるな。
「 感じているのなら素直にそう、言え、山田、奈緒子。 」
「 な、まえ、よぶ、なぁっ… 」
「 ああ、明白だったな。――ココはふしだら過ぎる。」
上田の声の刹那後、ずぶっ、と、自分でも分からない部分に先端が食い込んだ時、頭が真っ白になった。
「 ひ――んん、んああッ…!! 」
何時だったか、ブランコから放り出されたあの落下感に酷く似た感覚だった。
最終更新:2006年09月09日 00:52