問題

by 938 さん


  問題は山積している。

  彼は著名な大学教授で、彼女は自称手品師。
  彼は巨根で彼女は貧乳。
  彼と彼女の歳の差は一回りは優にある。
  どこをどう考えても共通点なんか無い。

  だがそれでも彼らの間には布団があり、
  彼と彼女は相対して正座し、顔をうつむけている。

  だがやがて、諦めたように彼が言う。

  「布団一組しかないぞyou。持ってきて貰え」
  「なんで私が」
  打てば響くように彼女が応える。
  「お前頼め、上田」
  「俺は部屋代払うんだぞ。そういう雑用はだな、youだ」
  「なんでですか」
  むっとした彼女は首を横に振る。
  「私は頼みません」
  「俺もだ」
  彼が同じくむっとした顔で彼女を見る。
  「じゃあどうするんだ。廊下で寝るのか上田」
  「なんでだよ。youに決まってるだろ」
  「女の子に、そういう事させますか普通」
  「なにが女の子だ。女の子ってガラか」

  眉間に皺をよせた彼女を見、言い過ぎに気付いた彼は咳払いする。
  「…よし。じゃあこうしようぜ」
  「お断りします」
  「何も言ってないじゃないか」
  「どうせ枕をやるからそっちの畳で寝ろとか言うんでしょう」
  「なぜわかる」
  「私も言おうと思ってたんです」
  「そうか、じゃあ話は早いな」

  二人は目にもとまらぬ早業でただ一枚の毛布を掴んだ。

  「その手を放せ、この貧乳が!」
  「お前こそ放せこの巨根め。毛布は私のだ」
  「俺がこれで寝るんだよ。youはその髪巻いてれば充分だろう!」
  「リスじゃないんだ。お前こそ、あの、表面積縮めれば大丈夫だろ」
  「確かにそうすれば余分な放熱を防ぐことができ、風邪をひく確率を減らすことはできるが…って嫁入り前の娘の台詞じゃねえだろyou!」
  「うるさいっ。そんな、私、嫁なんかいかないから関係ありませんよ」
  「え?」
  彼は毛布を引っ張る手をとめた。
  「嫁に…来ないのか?」
  「はい?」
  「いや、何でもない」

  「……」
  「……」

  一瞬流れた沈黙はすぐに破られた。
  「とにかくだ、毛布をよこせ。よこさんか」
  「黙れ。私のだって言ってるだろ、このバカ上田!」

  いつまでこんな漫才を続けていれば気が済むのか。
  いい加減先に進む気はないのか。
  だが仕方ない。

  彼はボケで彼女はツッコミだった。
  そして彼女もボケで彼はツッコミでもあった。

  この不毛な共通点が打開されない限り、問題は今日も解決する気配もない。

  おわり
最終更新:2007年11月21日 23:26