星が降る by ◆QKZh6v4e9wさん

21-24




やばい。
全てを忘れそうだ──。

彼女はようやく呼吸を整え、俺を見上げた。
「you」
俺は唇を歪めている山田を見下ろした。
何か喋って理性を繋げないと、今にも獣のように腰を振りそうだった。
「入ってる」
「……わかり…ま、す」
「…痛いか?」
俺の声は心配げで、厭味なほど優しかった。

当たり前だと言えばいいのに山田はふるふると首を振った。
彼女は、本当の事を言ったって俺を困らせるだけだと知っている。
俺は非情にも念を押した。逃げ道を全部断つつもりだった。
「大丈夫か」
「…」
山田は小さく首を縦に振った。俺を受け入れている躯は辛そうにひくついている。
「そうか」
けなげな彼女につけ込む俺の声はひどく深くて甘かった。
彼女は辛うじて微笑に見えるものを唇の端に刻むことに成功した。
泣きそうな瞳が、今までに見た事の無いくらい綺麗だった。

愛おしい。
壊したい。

「じゃあ……」
舌で唇を湿し、俺は言った。
「動いても?」
「……」
山田はかすかに肩で息をした。
ぎりぎりまで密着して脈打っている俺のモノが動いたらどうなるのか、想像するのも怖いんだろう。
「上田さん」
彼女は唇を歪めた。掌をのばし、俺はその頬を撫でた。
優しい男を演じながら、早く確証が欲しくて、俺は発狂しそうだった。
「……好きです」
俺はすぐさま受け入れた。ひどい男だ。
「わかってるよ」
「好きです…」
俺は山田を抱き寄せた。山田も俺を抱きしめた。
短い吐息を漏らし、動き始めた。

 *

始まってみると、それはとてもわかりやすい行為に変化した。
引き抜き、突き入れる。肉を合わせ、叩き付ける。
そのたびに、山田の躯をのけぞらせる。
互いの喘ぎが耳元に繰り返され、吐息の熱さが肌を灼いた。
彼女の名を呼ぶ。
抱きしめ、キスをし、ただひたすらに抉り続ける。
二人とも眉をよせ、額やこめかみに汗を浮かべて、目を半ば閉じたような傲慢で真剣な顔で。



早く壊してしまいたい。
彼女を突き上げる動きが加速していく。
悲鳴のように喘いでいる彼女が可哀相だ。だけど興奮する。最低だ。そして最高だ。
もっと、もっと。もっと壊してしまいたい。
痛いと一言も言わないまま、山田は俺の熱に巻かれている。
「好き…」
突き上げるたびに彼女の喉から喘ぎが漏れる。
「好き…っ…」
初めてのセックスはとても不公平な行為だ。

嬉しくて、突き上げるたびに俺はもっと山田を喘がせたくなる。
嬉しくて嬉しくて、彼女の躯に腕が、脚が絡んでいく。
ギチリギチリと、彼女の背中の下でスプリングが悲鳴をあげている。

一度、腰を退いてヘッドボードに近づき過ぎていた彼女の躯を引き摺り戻した。
弾みで彼女は身をくねらせ、白い太腿にとろりと細く、水が赤く色を引いた。
体勢を整えて、待ちかねたように再び挿入する。
山田が呻き、喘ぎながら背中を仰け反らせる。
彼女の血が俺の躯を汚した。
それを何度もまた俺は山田の躯に押し付けた。

──ほら、もう、何も考えられない。

「上田さん。好き」
「山田」
愛しさが滲んでいる。彼女か俺かはわからない。
「大丈夫か」
心のこもっていない俺の言葉に、山田は涙を流しながらかすかに頷く。
俺に揺さぶられるたびに半分開いた唇がわなないている。
半分意識が飛んでいるような、紅潮した哀れで綺麗な泣き顔。
見交わした視線が、唇が近づく。舌を絡め、喘ぎあう。
躯を打ち付けあい、またキスをする。
抉り、貫くごとに柔らかな躯が反応して彼女は啜り泣く。たまらない。
「山田」
動けないよう、抱きすくめた。
彼女は抵抗一つせず、一段と早く繰り返されはじめた動きを受け入れた。
唸りが抑えられない。
残酷な俺の躯は、山田の負担を気にもとめない。
動きと彼女の喘ぎが忠実に互いを煽る。
蕩けた脳がただひたすらに、快楽を貪っているのがわかった。
呼吸は荒々しく、夢中を示して淫らだった。
「上田、さん…っ…」
引き摺られる。
掌で、指で、躯で、生贄みたいに白くて小さな躯を押さえつけながら、俺は本能に引き摺られ、一心不乱に突っ走った。
限界まで膨らんでいた。
もう我慢できなかった。

「──っ!!!」

脈と一緒にガンガンしている俺の耳に、自分と山田の荒い吐息だけが響いている。
執拗に彼女の深い場所でモノを動かし、最後の最後まで快感を追いながら、俺はようやく目をあげた。
涙と汗でぐしゃぐしゃになった山田が、彼女が、幸せそうに微笑した。
実際には笑っていなかったかもしれない。笑ったと思っただけかもしれない。
だが確かにそれは微笑に見えた。




 *


「すごく眠い」

山田がぼそっと呟いた。
俺は天井に向けていた目を動かして、撫でている長い髪を視界に捉えた。
艶々と流れているそれは裸の胸に触れるとくすぐったい。
「戻るの、面倒くさい…」
「ここで寝ちゃってもいいぞ」
「いいんですか?」
「俺も眠い」
俺は天井にまた視線を戻した。
「…充実してたって事だな」
「充実しすぎだって」
小さな耳を指先で弄ると山田がかすかに顔をあげた気配がした。
「上田。その巨根、今からでもどうにかならないのか」
「なるわけないじゃないか。君が馴れるしかない」
「…なんで私が」
山田は罵りながら小さな欠伸をした。
疲れ切っているようだ。無理もないが。
俺は衝動的に首を曲げ、山田の躯を抱えこんだ。
「待てっ」
山田は慌てて俺の胸をおした。
「今はもう…あの…」
「違うよ」
俺は言った。
「キスしたいんだ」

おとなしくなった山田から唇を離して囁いた。
「とても気持ちよかった。ありがとう」
「私は……私も……」
山田が葛藤しているのがわかる。
親切な俺はにやっと笑った。
「死ぬほど痛かったんだよな。入れる度に泣いちゃって、可哀相になあ」
「……」
「痛くても懸命に耐えてる顔がまたそそったぞ」
「お前、サドだろ」
「やっと気付いたのか」
「サドで巨根って最低じゃん」
彼女は頬を染めて俺を睨みつけた。
「そういうのを好きになったyouはどうなんだ。隠れマゾなんじゃないのか」
「好……!?そ、そんな事一言も」
「さっき好きだ好きだと泣いてのはどこの誰だ」
俺は毛布を引っ張り上げて山田の顔を隠してやった。
消える瞬間にのぞいた耳は本当にまっかだった。きっとそれこそ死にそうな気分だろう。
毛布の上から腕を廻して抱きしめた。
放っとくとゲストルームに逃亡するに決まってる。

「youが馴れるまでじっくりとつき合うよ。な」
「それって」
山田のもごもごした声が毛布越しに響いた。
「サドだからか」
「そうだ」
「死ね、バカ上田」
俺は笑った。
毛布の内側の細い腕が、俺の躯に巻き付いている。




「上田」
「何だ」
「…息、苦しい」
「がんばれ」
「…出せっ!ここから」
「その苦しさを乗り越えるんだ。かつて俺はシチリアの素潜り世界選手権でだな」
「お前のホラ話に興味はない。早く」
「知ってるか。砂漠で道に迷った時の対処法」
「上田!」
「落ちてきた間抜けな星を捕まえるんだ。逃げられないように」

毛布を剥ぐと上気した山田が顔を出した。
唇と当座の文句を塞ぎ、俺は目を閉じた。
ロンリーでスライムな生活に未練はあるが、こいつが加わっても悪くない。
こうも長時間他人とくっついているのは初めての経験だ。

なのに、不思議なことに、とてもよく眠れそうだ──。

 *

道しるべと慰めを旅人に与えながら砂漠の中を星が降る。
雨の代わりに潤すように。







おわり
最終更新:2006年11月17日 22:29