ファナティック by ◆QKZh6v4e9w さん

6-10





舌を這わせ、肉と襞に差し込んで苦みを探す。
複雑な造形を探り、尖った肉の芽をみつけだす。
苦い。
苦くて甘い。
彫り込むように舌をいれ、何度も何度も吸うと奈緒子は声もたてずに躯を震わせた。
そのまま舌を滑らせ、深い裂け目に吸い付く。
生温い蜜が躯の奥から湧き出して上田の舌に溢れる。
啜りとったそれを呑み込み、さらに奥に尖らせた舌をねじ入れる。
「ん……はぁ」
太腿が、上田の頬をしめつける。
「はぁっ、あんっ…」
逃れようと躯をひねると、堅く持ち上がったものが腹を叩いた。
上田は口を腕で拭い、舐め残した場所がない事を確認した。
彼自身も限界だった。
───あとは彼女の躯を鎮めるだけ。

上田は奈緒子に覆い被さり、ベルトを緩めた。
指をひねり、ボタンを弾く。ジッパーとブリーフを引き下ろし、布の圧力から猛った躯を解放する。
慌ただしく奈緒子の躯を探る。
しごきを解いて、くびれた胴から抜いた。
ほとんど服としての意味をなしていない残骸の中から、柔らかすぎる白い躯を抱き上げる。
もっと狂うために。
奈緒子をめちゃくちゃにするために。
とても正気ではいられない。
しなしなと細い腕が、上田の首にしがみつく。
迷いなく腿が開いて彼の腰を挟み上げ、奈緒子は喉の奥で誘うように呻いた。
突き入れた。
こんな事のために来たはずではなかったのに。

ずぶずぶと入る。
やわらかいバターのようなぬるつきが上田の肉を迎え入れ、確かに狭いものの抵抗などほとんどなく。
その快感と衝撃で上田は大きな吐息をつく。
まさか、間に合わなかったのか。
あの男のものを、奈緒子はもう。
怒りに呻きながら腰を叩き付けようとすると小さな苦痛の声がした。
同時に柔らかく強靭な抵抗の気配が上田の肉をとどめ、彼は目をまたたいた。
頭にかかっていた霧が失せる。
急にクリアになった視界で、彼は腕の中の女を見た。
「ん…っ………は…」
頬に髪をうねらせた奈緒子が潤んだ瞳をあげ、上田を見上げている。
ひそめた眉は苦痛を刷き、目元は上気し、唇の端はおもいっきり下がっていた。

「……バカ…上、田…なに……して……」

その瞬間に理解した。
凶暴なまでの強い感情が上田の背をかけあがり、それを喜びだと認識する間も持たずに彼は残りの距離を一気に詰めた。
あっけなくはかなげな抵抗が失せ、小さく弾けた彼女の躯の中でキツい鞘に包まれた。
「ぁあっ!!……」
奈緒子の眉が示す前に収まった場所の辛そうなわななきで、彼女の味わったその瞬間を彼は察した。

「気が付いたか」







確認したかっただけかもしれない。その唇から。
くっきりとした半月型の線が歪んだ。奈緒子は細く呻いた。
潤んだ瞳に留まりきれず、一筋頬に涙が伝わった。
上田は鼻から太い息を吐いた。
「やっ…!」
奈緒子が腰を動かそうとして悲鳴をあげた。
「な、なにっ…!!上田さん?そんな格好で、なにしてるんですかっ」
「抱いてる」
上田は目を輝かせ、唇の端を吊り上げた。
この生意気な口調は奈緒子だ。彼の知っている、奈緒子だ。
自分が泣いている事に気付いて、奈緒子は綺麗な目をきょろきょろと動かした。
左右に首をふり、悩まし気な絹の感触に指を滑らせている。
「え。なに、なに、ここ。私……?」
「今、君の処女を貰ったところだ」
奈緒子はまた悲鳴をあげた。
「なっ!?嘘……って、ああっ、ほんとだ……痛い!」
「バカだな。バカめ。ハハ、you、良かったな、you!」
上田は柔らかな背中を思いきり抱き締め、奈緒子をまたもや呻かせた。

媚薬でも埋められないほどの破瓜の苦痛を与えられる巨根で良かった。
上田は生まれて初めて自分のコンプレックスの源に感謝した。

大きく吐息をつき、奈緒子の髪に頬をつける。
「……あとで説明してやるよ」
「や、やだ。離れろ!…あっ。上田さん、見ないで」
自分が全裸だという事に奈緒子は気付いたらしかった。
ばっと胸を腕で隠し、泣き出しそうな顔になった。
「それどころじゃないんだ、you」
上田は意識せずにまた唇を舐めた。
彼女の温かくてキツい肉の中でじっとしているのが苦しい。
動きたくて動きたくて、今にも気が触れそうだ。
「俺もさっき、君を救うためにはからずも媚薬を舐めてしまったんだよ。かなりの量をな」
「……………ふ、ぁん」
乳首を舐めあげられた奈緒子は動転したような声をあげた。
「う…上田…さん!?」
ゆっくりと、彼女の躯を抱き締めていた腕をほどいて掌を探る。
探り当てた両の掌を、はりつけるようにひんやりした絹布におさえつけた。
「君もまだまだ効いてるんだろう。どっちも納まりがつかないじゃないか…まずは落ち着くためにだな」
上田は呟いた。
「……急いで、最後までやるぞ」
「待って。ちょっと待ってください!こんな巨根と最後までなんて、無理だっ」
「ちゃんと入ってるじゃないか」
「動くのは別です!」
「安心しろよ。youはこんなに濡れてるし、相手はこのジェントル上田だ」
「いやだ!…って、あっ!こらっ、上田…!!」

 *

ずるりと腰を退き、奈緒子を眺めながら再び押し上げた。
「!」
背をのけぞらせた奈緒子の顔が淡い色に染まる。
病的だった白い色に血が通い、彼女は彼の見知った奈緒子にどんどん近づいていく。
もう一度、腰を退け、ぐいと持ち上げる。
「おう…」
滑らかな摩擦と強い締め付け。
彼女の肉から与えられる快感で躯が溶ける。
獰猛な衝動が蠢いている。もう数秒で、たぶんおさえられなくなるだろう。
そんな予感を腹に飼いながら視界の中に奈緒子を閉じ込める。






目の下の彼女の耳朶に、首筋に、血が通っていく。
ほのぼのと、冴え冴えと。
キツすぎるほどキツいが、潤った蜜のせいか、それとも媚薬の影響だろうか、動きは楽そうだった。
しかめた眉とは別に、色っぽく開いた唇がちいさな吐息をつく。
「んっ…あ…重い、バカっ…」
途切れ途切れに唇から溢れる罵りとは別に、上田を見上げる瞳には嫌悪はなかった。
視線は柔らかみを抱いて美しい。
あの薬はホレ薬でもあったよな、と上田は遠く思った。
うろうろ動いた彼女の視線が、ふと上田の鼻の上で止まった。
こんな場合だというのに、奈緒子の目に笑いが浮かんだ。
「上田さんっ…!?…め、眼鏡」
外す暇がなかったのだ。
「you」
もう知らない女じゃない。
腿に手を這わせ、抱え込むと奈緒子が慌てたように彼の背に腕を廻した。

細身の柔らかい躯に乗りかかる。
重みをわざと伝えるように、華奢な骨をきしませる。
彼女の躯がずりあがらないように腿をおさえながら、できるだけ奥まで押し込んだ。
「ふ…ぁ…」
潤んだ瞳と細い背に、快感が流れるのがわかった。
気持ちいいらしい。大丈夫だ。
身を退きながら繋がっている場所に目を落とすと、うっすらとめくれあがった彼女の肉が絡み付いて引き止めている。
てらてら光って、薄く淫猥なピンク色にまだらに染まって、随分それは大きく見えた。
上田はぞくりと身を震わせ、大きく頬をゆるめてひげごと唇を吊り上げた。
凄く気持ちいい。大丈夫だ──もう、いいだろう。
すべき事も、彼女がして欲しがっている事もわかっている。
安らかな気持ちで、再び彼女の中を抉りながら重なった。
ぎりぎりまでひきとめ、拒みながら滑らかに彼のものを迎え入れ、無駄な空隙を許さずまとわりつく彼女の肉。
単純なその反復が、上田の脳を快楽で埋め尽くす。
ああ、最高だ。
感嘆の呻きが漏れる。彼女はもっと喘いでいて、ほとんど閉じたような目の奥もすっかり蕩けている。
動きのたびに奈緒子の喘ぎが耳元で響き、自分の喘ぎが彼女の耳朶を打つ。
何も考えられない。上田を動かしているのは男としての本能だけだ。
躯が、気持ちいい。肉も肌も頭の中も。
もっと楽しもうと、貪欲な躯の速度がだんだん早くなる。
飼っていたものがいつの間にやら上田を乗っ取り、主人面して命令している。
嫌悪はない。もっと支配してほしいくらいだ。
気が触れそうなほど気持ちいい。

ただ抉るだけでは耐えられなくなり、彼は何度も腰を叩き付けはじめた。
彼女の躯が鍛え上げた肉で、彼女の何もかもを突き崩すように。
そのたびに声があがる。
悲鳴ではない、彼の狂気をそそのかすように艶かしい。
嬌声だ。彼女は我を忘れ、恥じらいすら忘れて上田の下で啼いている。
自分が誰と何をしているのか、今ではそれを知っているはずなのに。

もっと。もっと。もっと、もっと。

彼女と上田の躯から淫らな音が溢れ、蝋燭の炎を揺らす。
肉を擦り合わせ、躯を絡み合わせ、荒々しく吐息を混ぜて声を奏でる。
汗にまみれ、快楽にまみれ、ただただ視界に映すのはこの情動の源だけ。
「you」
「上田さん」
もうだめだ。

二人は全身を震わせ、声をあわせ、互いを抱いて蕩け落ちた。






 *

どの夜よりも深い闇に一番近づいていたのかもしれない。

浮上は唐突だった。
上田はぽっかりと目を開いた。
反射的に頭を起こし、奥の祭壇で揺れている蝋燭の長さを確認する。
それほど時間がたったわけではないようだ。
呻く声が聞こえて首を巡らすと、柱に縛り付けられたままの男の瞼がぴくぴくと動いていた。

「you……、you」
胸に抱いたままでいた彼女の肩を揺さぶり、開いた瞳に囁きかける。
「大丈夫か」
「………」
彼女は顔をかすかにあげ、不思議そうな目で彼を見た。
上田の視線をうけとめると、みるみるうちに赤くなる。
「…上田さん……」
「行こう」
素早く起きて、上田は周囲の気配を窺った。
服装を整え、奈緒子を促す。
「とりあえずこの場を離れるんだ。いい場所がある。ちょっとした洞窟になってるんだがな」
「上田さん」
奈緒子が着物を細い肩にかけ、襟をあわせて呼びかけてきた。
「あ、あの」
正気の声が、痛々しいほどの羞恥に塗れている。
「ごめんなさい……」

「………あのな、you」
上田は眼鏡をはずし、目をすがめてレンズの曇りを点検するふりをした。
「とりあえず今は忘れないか」
「でも、あんな事を、上田さんに」
「処女が男に躯をねだる………よくある話じゃないか」
「う、嘘つけ!」
「ほんの微量の化学物質にも左右されるのが人体というものだ。大丈夫だ。君も俺もまともじゃなかったんだよ」
「………」
奈緒子は吐息をつき、ほんの少しだけ赤くなった。
「そう……ですよね……あの薬の…せいですよね」
なんとなく複雑な表情で彼を盗み見たのが可愛くて、上田は笑いをかみ殺した。
「おう」
「忘れてもいいんですよね」
「勿論だ」
上田は柱に近づき、用心しながら縄をほどいた。もうすぐこの男も気付くだろう。
花嫁が奪われた事に。







「………………………バカ上田」
顔をそむけてしっかりと着物のしごきを結びつつ、奈緒子がぶつぶつ呟いた。
「だがな」
上田は小さな声で言った。
「俺のほうは、ちょっとだけ覚えてやっててもいい。気持ちよかったから」
うつむいている奈緒子が真っ赤になった。

その傍に膝をつき、上田は広い背中を向けた。
「ほれ」
「いいですよ。おんぶなんて」
奈緒子の声に微妙な弾みがあるような気がする。気のせいかもしれないが。
「ろくに走れるわけないだろう。俺のをまともに入れたんだぞ」
「………」
彼女が背後でどのくらい赤くなったり睨みつけたりしているかを想像して上田はニヤニヤした。
彼もなぜだか心が弾んでいる…のかもしれない。
「……お、お願いします」
短い躊躇のあと、消え入るような声とともに軽い温もりが被さった。

腕をまわして上田は立ち上がり、男をちらと見下ろした。
「よし、行くぞ」
肩にまわされた彼女の指に、遠慮がちな力が籠った。
「はい」
「ああ、そうだ。……you」
「なんですか」
「君をおぶっているといつもいつも思う事なんだが…」
「はい?」
「やっぱり貧乳だな」
「………バカッ」
頭を一発殴られた。

相変わらず暗い闇に、赤い着物の女を背負って上田は再び溶け込んだ。
表ではまだ、婚儀を祝う賑やかな酒盛りが続いていた。





おわり

最終更新:2006年11月02日 22:33