不老不死 by 初代名無し さん

4


奈緒子はマンションに帰ってきた。
上田はまだTVを見ている。
奈緒子が出ていった時とは打って変わり、TVを食い入るように見ている。
熱中のあまり、奈緒子が帰ってきた事に気づかない。

 「ワハハハ、さすが、のいる・こいる師匠。
  芸に、更なる磨きをかけていらっしゃる。
  "老いて益々盛ん"とは、正にこの事。
  実に、実に素晴らしい!」

いつもと変わらない上田を見て安心したのか、
奈緒子はクスッと笑った。
その足でキッチンに向かい、お茶を入れ上田の元に近づく。

 「はい、どーぞ。」

上田は、大して驚いた風もない。
奈緒子が帰ってこない事など、微塵も考えた事がないからだ。
事実、奈緒子は帰ってきたが、それは男の過信である。

 「おぉ、YOU。帰ってたのか。
  外は寒かっただろう。
  ミカンでも食いながら、一緒にTVを見ようじゃないか。
  素晴らしいぞー、上方演芸は。」

 「そうですね、
  ・・・って、そんな事より 上田さん。
  ちょっとお話ししたい事があるんです。」


上田は、TVが終わってから聞こうと思った。
しかし、奈緒子が真剣で思い詰めた顔をしてる事に気づき、
TVを消して向き直った。

 「お話ししたい事ってなんだ?
  この私が時間を割いてやっているんだ。
  下らない話だったら承知しないぞ。」

 「・・・実は、」

奈緒子が口を開いたと同時に上田が割って入った。

 「どうせ、またアレだろう。
  「私、貧乳で悩んでるんです」とか言うんだろう。
  あー、下らねぇ。」

 「真面目な話なんです!
  ちゃんと聞いて下さい。」


奈緒子はムッとしながらも、
上田の言葉を相手にせず話を始めようとした。
んが、

 「じゃぁ、アレか。水虫の事か。
  気にする事はないぞ。
  いいか、水虫に悩まされている女性ってのは案外多いものなんだ。
  それに、時間はかかるがちゃんと治療すれば完治する。
  そもそもだな、水虫というのは白癬菌による感染症だ。
  大別して、趾間型、角質増殖型、小水疱型、爪白癬の4つがある。
  治療するには、自分の病状をちゃんと理解しておく事が必要だ。」

 「う うるさい!上田!!
  いいから黙って話を聞けッ!!」

上田は察知していた。
奈緒子の険しく思い詰めた表情から、
自分が聞かされるであろう話が良くない話であろう事を。
上田は聞きたくなかった。
どうにかして話を逸らしたかった。
しかし奈緒子の決心は固く、
ついにその口を封じることは出来なかった。

~ つ づ く ~

NEXT>>
最終更新:2006年10月28日 22:02