不老不死 by 初代名無し さん

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"不老不死"
それは、決して老いる事なく決して死ぬ事もない者。
若く美しく、精力に満ちあふれた肉体を保つ者
古来より、数多くの者たちが追い求めてきたが、
それを手に入れた者は、未だかつて誰もいない。

始皇帝。
彼は広大な国土を持つ中国大陸を統一し、秦王朝を樹立した。
そして中国初の皇帝となったのだ。
栄華を極めた始皇帝が次に望んだ物は"不老不死"であった。
不老不死の秘薬が、東海の果ての国"日本"に存在することを知った始皇帝は、
それを持ち帰るよう家臣の徐福を派遣する。
しかし始皇帝は、徐福の帰りを待つことなくあっけなく死んでしまう。
そして日本には、徐福伝説のみが残った。

決して老いず、決して死なない者。
生まれた以上、必ず死ななければならない者。
果たして、どちらが幸せなのであろうか。


 「上田さん、よく聞いて下さいね。
  実は私・・・、
  普通の人とは違うんです。」

 「なんだ、やっぱり貧乳の事か。」

 「そうそう、豊胸パッドの特大サイズが欲しいんですけどね、
  ・・・って言うか、ボケ!!」

一瞬、奈緒子の決意は挫けそうになったが、
どうしても伝えなければならない事であった。
奈緒子は思いを新たにし、言葉を続けた。

 「私、子供の頃から風邪をひいた事も、
  怪我をした事もないんです。」

 「昔から、ナントカは風邪ひかないって言うからな。」

 「あ~そっかー、そうですよね。
  ・・・っていい加減にしろ、上田!
  私は真面目な話をしてるんです!!」

上田はまだ抵抗を続けていた。
しかし、奈緒子が目が涙を浮かべている事に気付き、
ついに屈服した。

 「わかった、YOUの話を聞こう。
  ・・・話してみろ。」


奈緒子はポツリポツリと話し始める。

 「上田さん、覚えてますか?
  上田さんが私を連れ戻しに、黒門島まで来てくれた時の事。
  あの時上田さん、腕を怪我しましたよね。」

 「あぁ、名誉の不肖というヤツだな。
  かなりの怪我だったが、すぐに治った。
  つまりは、私の治癒能力が優れていると言う事だ。」

 「あの怪我を治したのは、私なんです。
  私にはそう言う力があるんです・・・。」

 「YOUが・・・?」

上田には、奈緒子が言っている意味が分からなかった。
奈緒子は話を続けていく。

自分は病気や怪我をしたことがない、
正確に言えば、病気や怪我をしてもあっという間に治ってしまうと言う事。
上田の怪我を治したのは自分である事。
過去にも、無意識のうちに他人の怪我を治した事がある事。
この力に気付いたのは最近である事。
もっと早く気付いていれば、父、剛三を救えたかも知れないと言う事。
自分には、治癒能力を高める能力があると言う事。
死に至るような状況になっても、きっと自分は死なないだろうと言う事。
上田に抱かれる度ごとの出血。
その原因は上田あるのではなく、自分にあるのだと言う事・・・。


処女喪失。
それは処女膜と言う膣内のヒダが、ペニスによって引き裂かれる事である。
出血はその裂傷に伴うものだ。
奈緒子の能力は、その体内にも及ぶ。
苦痛を乗り越え喪失した、その純血さえも再生してしまう。
奈緒子は上田に抱かれる度、処女喪失を経験していたのだ。
これから先も、その繰り返しなのである。

上田は愕然とした。
泣きながら話す奈緒子を前に、
何も出来ず何も言わず、ただ立ち尽くすだけだった。
そんな上田に、奈緒子は嗚咽混じりのか細い声で告げた。

 「上田さん、わかったでしょう・・・。
  私は・・・、普通じゃないんです。
  世の中には、科学で解明できない事ってあるんです。
  どうしようも出来ない事があるんですよ。」


奈緒子は、当初、全てを話し上田に理解してもらうつもりだった。
しかし、自分の事を包み隠さず話しているうちに、
こんな自分が理解されるはずもない、
受け入れられるはずもないと否定的な考えに捕らわれるようになっていた。
そんな想いから、つい自らを突き放すような事を言ってしまった。

上田は混乱していた。
超常現象の事象を眼前に突き付けられ、
しかもその事例は、自分の愛する奈緒子、そのものであった。
優秀な物理学者である上田は、
今までに超常現象と呼ばれる事象に数多く立ち会ってきた。
それはいつも否定的な立場であり、その横にはいつも奈緒子がいた。
しかし、黒門島以来再び、奈緒子とは違う場所に立つことになった。
目の前の奈緒子は、その能力を誇示することもなく、
実に弱々しく、能力を持つが故の無力さに打ちひしがれていた。
今までに自分が知っている超能力者と呼ばれる者たちとは、あまりにも違う姿だった。
上田は、奈緒子に問いかけるでもなく呟いた。

 「それはつまり・・・、
  YOUは"不老不死"と言う事なのか?
  バんなそカな・・・。」


不老不死。
そんな言葉を口にして、上田は自らを更なる混乱に陥れてしまった。
上田は混乱から立ち直ろうと一生懸命にあがいた。
頭の中で、奈緒子が話してくれた事、一つ一つを検証した。
一つ一つを論理的に否定しようとした。
しかし、それは敵わなかった。
否定しようとすればするほど、上田自身が否定的になっていく。
もがけばもがくほど、絶望という暗闇が広がっていく。
その暗闇は、徐々に上田の心を蝕んでいった。
上田が暗闇に飲み込まれようとした寸前、一筋の光明が差し込んだ。
小さく微かな光ではあったが、その光は確実に上田を照らした。
光は徐々に強く大きくなり、闇を払い、上田を照らす。
暗闇の中で自分の姿がハッキリとしてくるにつれ、上田は自分を取り戻した。
やがて、その光が足下までも照らし出した時、上田は光の正体を知った。
光は、奈緒子の存在そのものであった。
奈緒子と過ごしてきた日々が、そして今が、未来が、輝かしい光を放っていた。
そして上田は覚醒した。

最終更新:2006年10月28日 22:01