不老不死 by 初代名無し さん

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奈緒子は、近所の公園にいた。
1月1日の午前中、元旦である。
公園には子供やヤンママの姿もなく、奈緒子1人きりだ。
寂しげにブランコを揺らすその姿は、
まるで誰かの迎えを待っている子供のようだ。
友達が母親の声に、夕焼けの紅に帰路を急かされ帰っていく中、
誰も迎えに来てくれない事を知っていながら、
淡い期待を抱いてブランコを揺らす子供のようだ。
事実、奈緒子は孤独を感じていた。
振り返れば上田がいる、
そんなうっとうしくも幸せな生活を送っているにもかかわらず。
奈緒子は昨日の事を思いだしていた。


12月31日、大晦日である。

上田は喜々として落ち着かない。
まるでプレゼントをお預けされている子供のようだ。

 「YOU、まだ準備できないのか?
  そろそろ出かけるぞ。」

準備万端の上田に対して、
奈緒子は出かける準備など全く出来ていない。
する様子もない。

 「上田さんって毎年こんな事してるんですか?」

そんな奈緒子に、
上田は吐き捨てるように言い返す。

 「あぁー、イヤだイヤだ。
  これだから心の貧しい者はイヤなんだ。」
  いいか、除夜の鐘と言うのはだな、
  一年の節目であり、区切りとなる重要な行事なんだ。
  百八つの煩悩を取り除く、実に重要な儀式なのだ。」

 「あぁー、だから上田さんは毎年行くんですね。」


ムッとする上田をよそに、奈緒子は全く行く気がなさそうだ。
だが、上田はどうしても行きたい。
"習慣は人間に日々の正確さを与える"が信条であるし、
彼は、信心深く迷信深い純日本人だからである。

 「うるさい。黙れ。
  そもそもだな、我が上田家は先祖代々、熱心な仏教徒なのだ。
  お婆ちゃまの命日には墓参りを欠かした事はないし、
  除夜の鐘だけじゃない。
  初詣にも必ず行ってるんだッ。」

 「それって仏教か・・・?」

やはり奈緒子は全く興味が湧かない。
しかし、嫌がっても、結局上田に連れて行かれるのは分かっている。
奈緒子は渋々出かける準備をして、上田と出かけることにした。


時計の針が12時を回り、
日付だけでなく、年も2002年から2003年に変わった。
新しい1年の始まりである。
上田と奈緒子は新年を除夜の鐘を突きながら迎え、
マンションに帰ってきたのは1時を少し過ぎた頃だった。

 「いやぁー、突いた突いたァ。
  まさか、除夜の鐘があんなに燃えるものだったとは。
  あの、はらわたに染みる感じが堪らないですね。
  ねえ、上田さん。」

行くときは渋々だったが、
よっぽど除夜の鐘が気に入ったらしく、
奈緒子は興奮覚めやらぬ様子だ。

 「・・・バカか、YOUは。
  除夜の鐘はな、百八つって決まってるんだ。
  それを、百八つ越えてもガンガン叩きやがって。
  おかげで、私が住職さんに怒られたじゃないか。
  はぁーナンマンダブナンマンダブ・・・。」

何か見えるのだろうか?
上田は天井を仰ぎ、手を合わせて拝んでいる。
住職に怒られたのが、よっぽど堪えたのだろうか。
しかし、奈緒子は全く他人事のようだ。


 「まぁ、いいじゃないですか。
  これで1年の区切りがついたんでしょ?
  だったら、イヤなことはサッパリ忘れて、
  新しい気持ちで新年を迎えましょうよ。」

 「・・・確かに。それも一理ある。」

奈緒子に上手く丸め込まれてしまった感の上田であるが、
まだ奈緒子に伝えなければならない事があった。

 「これで2002年の行事は全て消化した。
  では早速だが、今からは2003年最初の行事を執り行うぞ。」

奈緒子には見当が付かない。

 「何ですか、最初の行事って?」

上田は拳で天を突き言い放つ。 

 「一年の計は元旦に有り!
  姫始めだっ!!」

奈緒子は固まったつぶやいた。

 「コイツ、
  やっぱりバカだ・・・。」

~ つ づ く ~


最終更新:2006年10月28日 21:44