不老不死 by 初代名無しさん
(旧題:お正月編)
皆さん、遅ればせながら、
新年明けましておめでとう御座います。
更なるスキルアップを目指す、美人技巧派マジシャンの山田です。
昨年は、日本科技大バカ教授のバカ上田にアチコチ引きずり回され、
散々な一年でした。
おかげで、舞台に何度も穴を開けてしまい、
とうとうクビになる始末・・・。
私目当てのお客さんで、連日連夜大賑わいだったってのに・・・。
そんな私の再就職先は、上田の家のハウスキーパーです。
ハウスキーパーですよ、ハウスキーパー・・・。
上田のせいで職を失ったんですから、仕事の斡旋くらい当然です。
しみったれた仕事ですが、
新しい舞台のスケジュールが決まるまで我慢我慢。
ガマンガマン・・・。
あぁー今年こそは良い一年になりますよーに。
年末。
年越しの準備で何かと気ぜわしい時期である。
とは言え、お気楽な居候、奈緒子にはあまり関係ない。
相変わらず、お気楽な生活を上田のマンションで送っている。
大掃除などするわけもなく、今も実家の母、里見と長電話の最中である。
お気楽な長電話と思われたが、
奈緒子の表情を見ると、どうもそうではないらしい。
「ゴメンね、お母さん。
今年も帰れそうにないや。」
「いいのよ、奈緒子。
会おうと思えばいつでも会えるんだから。
それに・・・、
今年は上田さんと一緒だから寂しくないわね。」
「な なに言ってるのよ!
帰れないのは、
毎年恒例の"新春美人マジシャン大会"に出なきゃならないからなのよ。
・・・、
そんなことより、お母さん。」
眉間のシワが深くなる。
本題を切り出そうとしているのだろう。
「なあに?」
「私って・・・、
子供の頃から病気になったり怪我したりした事ってあまりなかったよね。
病気や怪我をしても、すぐに治っちゃったよね。」
「・・・そうね。
元気は奈緒子の取り柄だもんね。」
「そうじゃなくて・・・。
あのね、わ」
「お母さんは、奈緒子が元気でいてくれさえすればいいわ。
それと、上田さんと仲良くするのよ。
じゃあね。
べろーん。」
里見は奈緒子の言葉を遮り、
言いたいことを言って電話を切ってしまった。
奈緒子は、受話器を握りしめたまま呆然と立ちつくすしかなかった。
「べろーんって・・・。」
時間を今に戻そう。
日本全国お正月、元日である。
上田と奈緒子は2人でおせち料理を食べている。
テビチ、ラフテー、ナーベラーチャンプルー、ミミガー、ナカミのおつゆ等々。
食後にはサーターアンダギーまで・・・。
まぁ、なんにせよ今日は1月1日だ。
どんな物でも、元旦に食えばお節って事にしておこう。
今年のお正月は2人にとって特別なものであろう。
1人ではなく、愛する者と共に迎える初めての新年なのだから。
"一年の計は元旦にあり"、今年は2人にとって良い年になるだろう。
幸せなはずである。
しかし、2人は沈んだ表情をしている。
会話も殆どない。
形どおり新年の挨拶をすませた後、それっきり無言である。
レアなおせちを恩着せもしない上田。
おせちにあまり箸が進まない奈緒子。
いつもの2人をとは、あまりにも違う2人がそこにいた。
その澱んだ空気を払おうと上田が言葉を発した。
「おぉ!そうだった!!
"新春お笑いカーニバル"を見ないといけないんだった。
コレを見ないと、正月って感じがしないんだ。
どうだ?YOUも一緒に見ようじゃないか。」
「いえ・・・、
私はいいです。」
いつもの奈緒子ならば、すぐに食いつくネタだったろう。
しかし、奈緒子は興味なさ気にあっさり断ってしまった。
「YOU!
何を言ってるのか分かってるのか!!
今日は"横山たかし・ひろし"が出るんだぞ。
その上、大御所"のいる・こいる"師匠まで出るんだ。
それがどういう意味か分かってるのか?
関西ならばいざ知らず、
この東京で彼らの脂がのった漫才に触れる事が出来る機会は今日しかないんだ!」
私の去年一年間は、この日のためにあったと言っても過言ではない。
それだけじゃない。
いいか、"のいる・こいる"は言わば、絶滅危惧種だ!、レッドデータなんだ!!
これを見逃したら、もう二度と見ることは出来ないかも知れない。
その可能性が実に高い!
いつもならば上田ならば、こう言っただろう。
しかし、今日の上田はあっさり引き下がってしまった。
「そ そうか・・・。」
1人でTVを見る上田。
その笑い声は、明らかにいつもの精彩を欠いていた。
そんな上田の背中をしばらく見つめ、
奈緒子は部屋を出ていった。
上田は奈緒子が出ていったことに気づいていたが、
敢えて気付かない振りをした。
笑うこともなく、TVをじっと見ていた。
~ つ づ く ~
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最終更新:2006年11月29日 03:10