クリスマス by 名無しさん


サンタクロース。
クリスマス・イブの夜、
赤い服に身を包み、世界中の子供達にプレゼントと夢を与える。
グリーンランドに住むと言われる伝説の老人である。

1947年、
アメリカでサンタクロースの存在が法廷で争われた。
世に言うサンタ裁判である。
自分は本物のサンタであると主張する老人と、
サンタは私たちが作り上げたキャラクターであると主張する企業。
法廷は縺れに縺れたが、そこに決定的な証人が現れた。
アメリカ全土の子供達から、何千何万と言う手紙が送られてきたのだ。
法廷は、サンタの存在を認めた。
アメリカという国がサンタの存在を認めたのだった。
クリスマス、それは奇跡が起こる日なのである。

                            ~このネタはフィクションです。
                               映画『34丁目の奇跡』より~


上田は寝室に1人っきり。
奈緒子の姿は、まだ無い。
妄想のネタも尽き、今の上田は冷静そのものだった。
窓から外を眺め、
一度目の奈緒子と二度目の奈緒子の事を考えていた。
そして、三度目の奈緒子が寝室に入ってきた。

奈緒子はさっきと同じ格好、バスローブ姿である。
肩にかかる黒髪は綺麗にブローされ、美しい光沢を放っている。
しかし、その黒髪より何よりも、奈緒子自身が美しい輝きを放っていた。
はにかみながら奈緒子が言う。

 「お待たせしました。」

その表情はどこか子供っぽく、
今から2人の間で交わされる事など全く意識していないようであった。
上田の中に鍋巻いていた、
ドロドロとした欲望とは懸け離れた奈緒子がそこにいた。
上田は知っていた。
さっきまでの奈緒子の行為は自分をからかっているわけでもなく、
まして、逃げているわけでもない事を。
そして、どんな事にも一生懸命である奈緒子を知っていた。


上田は大きく息を吐いた。
自分の中にある汚れた物を吐き出すように。
そして、奈緒子に向き直り言う。

 「今日は止めておこう・・・。
  クリスマスだからとか、そんな一時の感情や惰性で行うべき事じゃない。
  お互いがもっと理解し合い、互いを求め合ってこそじゃないだろうか。
  私の気持ちだけを押しつけるのは不味い事だ。
  YOUを傷つけたくないし、
  なにより、過ちは私の最も嫌うところだ。」

上田は、明らかに自分の気持ちと矛盾することを言っていた。
自分の中に、奈緒子を抱きたいという欲望が確実にある。
しかし、それと相反する気持ちが確実にあった。
無垢な奈緒子との今の関係。
奈緒子と体を交わすことで、その関係が崩れてしまうのではないか。
肉欲に溺れ、この心地よい状態はあっさり終わってしまうのではないか。
そんな童貞の危惧が上田を踏み止まらせてしまった。


微笑みながら奈緒子は言う。

 「変な事を言う上田さんですね。
  でも、私には上田さんの事が全てお見通しなんですよ。
  私の前で嘘はつけないんです。
  その証拠をお見せしましょうか?」

上田はぎこちない笑顔を見せ、いつものセリフを言う。

 「またクソ手品か?」

 「こっちに来て下さい、上田さん。
  ほら、こっち。」

奈緒子に急かされ、上田は奈緒子の前に立つ。

「そこに座って下さい。」

奈緒子は椅子を指さし、上田を座らせる。
そして手品が始まった。

「はい。
 では、目を閉じて。
 ・・・ちゃんと閉じる!
 いいですか、今から上田さんに幾つか質問をします。
 "Yes"か"No"で答えて下さい。
 その質問に、上田さんは絶対嘘をつけません。」

何を質問されるのか分からない上田は、
神妙な顔つきで目を閉じている。
奈緒子は質問した。


 「第1問。
  あなたは上田次郎ですか?」

 「Yes」

 「第2問。
  あなたは世界有数の物理学者ですか?」

 「Yeーーーs!」

 「第3問。
  あなたは、私、山田奈緒子が好きですか?」

 「・・別に・・・。
  どうって事はない・・・。」

答えになっていない答えだった。
しかし、全ては予想通りと言った風で奈緒子は微笑んでいる。




 「"Yes"か"No"で答えて下さい。
  もう一度聞きますよ。」

そう言って、
奈緒子は上田の頬に両手を添えて、唇にそっとキスをした。
思いもかけない奈緒子の行動に、上田は驚き目を見開いた。
すぐ目の前で、微笑む奈緒子が質問した。

 「私の事が好きですか?」

 「・・・ああ、愛してる。」

また返答のルールを破ってしまった。
しかし、奈緒子は満足げだった。
その答えが、正直な気持ちである事を知っていたから。

 「ほらね。」

 「フッ とんだイカサマ手品だな。」


奈緒子はマジシャンとして、まだまだ半人前だ。
とてもじゃないが、その腕前は"超一流の本格派"と呼べるシロモノではない。
しかし今、上田の前でやってのけたマジックは、
タネも仕掛けもない正真正銘のマジック。
世界中で奈緒子だけにしかできない最高のマジックだった。

これから先、2人がどうなるのかなんて誰にも分からない。
だが、きっと相変わらずの毎日を送るのだろう。
そして、いつの日か、
私たちの前に変わらぬ姿で現れてくれる事だろう。
上田次郎、山田奈緒子。
その日まで、
私たちはあなた達を忘れない。

                             ~ お し ま い ~


 「兄ィ 今回、ワシたちの出番は無かったのぅ。」

 「どーなっとるんじゃ!本当の主役はオレやぞ!!
  話が違うちゅうんじゃ。
  こうなったら事件起こしたる!
  事件起こして、上田センセと山田のボケに挑戦じゃ!!」

 「兄ィ、そんな事したらいけんよ。
  兄ィは警察官なんじゃけんの。
  国家権力なんじゃけんの。」

 「うっさい!!」

 「アリガトございますゥ!
  あぁ!ちょっと待って、兄ィ。
  兄ィ アニィ アニィ ァ・・・ ・・・ ・・・ ・・・」


                        ~ マ ジ お し ま い ~
最終更新:2006年10月15日 21:10