クリスマス by 名無しさん
1
私の名前は上田次郎。
日本科技大教授であり、男としても一人前の超ジーニアスな物理学者だ。
私は今、山田奈緒子と言う同居人と生活を共にしている。
この山田・・・。
食って寝るだけの役立たずであるだけでなく、
寝言は言うは、歯ぎしりはうるさいは、
更に、エクソシスト並みに寝相が悪いはで、
私は睡眠時間まで削られている毎日だ。
・・・しかし、こんな生活でも良い面もある。
激務から解放され帰路に就き、自分のマンションを見上げた時。
そう、部屋の窓に灯りがともっている。
暖かい部屋と、「お帰りなさい」の声が私を迎えてくれる・・・。
フッ 私らしくもない事を言ってしまったようだ。
エレベーターを降り、上田は自分の部屋の前に立つ。
少し身構えてインターホンを押した。
ピンポーン♪
チャイムが鳴ると同時に、もの凄い勢いでドアが開く。
「帰ったか、上田!」
上田はサッと身を翻しドアの襲撃をかわす。
そして、半身のままで奈緒子を指さし言う。
「YOU!
何度言ったら分かるんだ。
ドアを開ける時は、ゆっくりと開けろ。
そうすべき物なのだ。」
だが、上田は厳しくは言わなかった。
何度もドアアタックを喰らって諦めたのか、
奈緒子が自分の帰りを、まるで子犬のように待ちわびている事を知っているからか。
「そんな事より、上田 買ってきたか?」
「何をだ?」
「何って、決まってるじゃないですか。
ケーキですよ、ケーキ。
今日は何の日だと思ってるんですか。」
「フッ 私を誰だと思っている。
ちゃんと買ってきたさ。
年に一度、今日この日だけの完全限定!寅屋謹製"小倉餡ケーキ"だ!!
本来ならば、お前のような者の口に入るシロモノではないが、
寅屋のチョーお得意様である私のおかげで食することが出来るのだ。
感謝するがよい。」
上田の戯言など全く耳に入る様子もなく、
奈緒子はケーキを引ったくると、スタスタとリビングに行ってしまった。
1人残された上田であったが、何事もなかったように奈緒子の跡に従った。
きっといつものことなのだろう。
リビングに入った上田は驚いた。
いつもならば、
テーブルの上は奈緒子の食い散らかしで溢れている。
しかし今日は違う物で溢れていた。
奈緒子の手料理だろうか?
豪華とは言えないが、
手の込んだ料理が並んでいた。
「コレは・・・、
YOUが作ったのか?」
「他に誰が作るんです・・・。」
「フッ YOUもやれば出来るじゃないか。
誉めてやるぞ。
今後、益々精進するがよい。」
「・・・冷めますよ」
奈緒子に促され、上田は食卓についた。
が、目の前に並んだ料理を見て少し考え込んだ。
「私の記憶が確かならば・・・、
コレは焼き鳥と言う料理だ。」
目の前に並んでいるのは、鳥身、ねぎま、砂ずり、手羽先、つくね・・・。
焼き鳥の盛り合わせだ。
「そうですよ、焼き鳥ですよ。
上田さんには何か他のものに見えるんですか?」
「・・・私の記憶が間違いなく確かならば、
今日はクリスマス・イブのはず。
クリスマスには七面鳥、もしくはローストチキンを食べるのが慣習だと思うのだが。」
「ええっ!?
そうなんですか?
私の実家では毎年、焼き鳥ですよ。
焼き鳥だけじゃなく、ちゃんとおやきと笹ずしも作ってますよ。」
「どんなクリスマスだ・・・」
「うるさい!
黙って食え、上田!!」
料理がどうであれ、味がどうであれ、
それが自分のために作られた物であれば美味しく頂けるものだ。
愛する奈緒子が作った物であれば尚更である。
他愛もない会話をしながら食事は進む。
寅屋謹製ケーキを食べながら、上田は奈緒子に聞いてみた。
「ところでYOU、
今日が何の日が知ってるか?」
「それくらい知ってますよ。
当たり前じゃないですか。
いいですか、今日は鳥とケーキを食べる日なんです。
ほら、節分に恵方を向いて太巻きを食べるじゃないですか。
あれと同じですよ。」
「・・・YOU、
根本的に間違ってるぞ。」
「えええっ!?
じゃ じゃあ、何の日だって言うんですか?」
TV通販で買ったベネチアングラスにワインを注ぎ、
グラス越しに奈緒子を見つめ、上田は言う。
「今日は、まぐわい公認の日だ!!」
なんだ、それ・・・(-"-;)
最終更新:2007年12月15日 18:24