サディスティック・エクササイズ by わらび男 さん


物理学と関係があるのかわからないが、痛むことも少なく心地いい感覚が続く。
さすが、通信教育で空手を学んだ変人だ。
上田の指先が肌に触れるたび、喉がきゅっと苦しくなる。

「で。どうなんだ?」
「…どうだっ…て言われても…ん、んっ」

わかってるくせに。
上田が手を止め、ニヤニヤ笑いながら唇を舐めた。

キスするのかと重いきや、唇は耳元を捉らえる。
吐息や舌の感触がが直接脳まで届く気がして、頭が痺れる。

「ん、くっ…ふんんっ」

舌先が耳と首筋をはい回り、指先は足の付け根をそろそろと撫で回している。
なんだか体の奥が熱い。
もどかしくなって、上田さんの腕を掴んだ。

「なんだ…言えよYOU」
「…っ…んん…」

くらくらする白い世界に、上田の低い声が響く。
足を小さく擦り合わせると、上田はでかい目をさらに大きく見開いた。

「ちょっと待ってなさい、いろいろと準備があるから」

上田が慌ただしく部屋を出ていった。
…準備ってなんだろう?
今更シャワーでも浴びるっていうのか。

数分後、服を脱ぎ散らかしながら寝室に飛び込んできた上田は、手の平ほどの大きさの袋を私に差し出した。

「なんだ…これ」
「見たことないのか?避妊具、コンドームだよ」
「コンドーム!?…ってこんなに大きいか?」
「俺に合うサイズがなくてな…取り寄せに苦労したぜ!ハッハッハ」

そうだ。
セックスって最終的には、この巨根が私の体の中に入るってことじゃないのか。
今まで何度も死にかけたけど、本格的に死を覚悟するべきかもしれない。

「おっ…かなり濡れてるじゃないか、処女のくせに。
シーツがこんなにぐっしょり…」
「それは上田の汗だ」

気まずそうに咳ばらいをし、上田は避妊具を装着しはじめた。
あまり見たくはない光景だが、ついその大きさが気になってしまう。
一言で言えば、でかい。巨根とかいうレベルじゃない。
ちょっと逃げたくなった。


「装着完了…YOUはどんな具合になってるんだ?」

上田が私の両足を掴み、がばっと開いた。
恥ずかしがる暇もない。
上田は躊躇もなく私のあの場所を弄り回してきた。
くちゅくちゅと音が響き、変な声が勝手に出てしまう。

「ちょっと!待…いたっ…ぁ…ふっ、あ…ぁん」
「おもしろい…ふふふ」

なんだか敏感な場所があるらしく、そこばかり執拗に撫でられる。
痛いような苦しいような感触で、体が勝手に跳ねた。

「ぁ、あっ…やぁ…んぁっ!」

見られていることが恥ずかしく、目をきつくつむった。
私が声をあげるたびに、上田が笑うのが聞こえて腹立たしい。

「ふぁ、あぁ…っ…や…中…が、変…っ」

中のほうが熱くてむず痒くて、液体が溢れてくるのがわかる。

上田が指先を中に入れようとしている。
ぬるぬると入口で焦らされ、もどかしい。

「んっ、ん、やだぁっ…」

無意識に腰を浮かせ、指先を受け入れようと動いた。

体がおかしくなるのは、全部上田のせいだ。

「ん、入れてほしいか…ほら、どうだ」

ズブズブと指が入ってくる。
体は快楽を求めるのに、いざ入れられると痛かった。
上田さんの指が、私の中でうごめく。
痛いのに、嬉しい。

「…痛…い…んん…あぁ…」
「…ハハハ…指がぐちゃぐちゃだ」
「ん…んーっ…」




指が抜かれ、何か別のものが当てられた。

まさか、まさかこの感触は。

そっと目を開くと、上田の巨根が入口に添えられている。
体の準備はいい具合らしいが、まだ心の準備ができていない。

「…やだ…待ってください…私…」
「怖いか。
力を抜けば大丈夫だ…この角度なら、つるっと…するっと…スリット…だ」

力を抜けって言われても無理だ。
歯を食いしばり、シーツにしがみつく。

上田さんのモノが中に入ろうとするたび、滑って敏感な部分を擦った。

「……ぁ…う、あぅんっ…」
「よしここだな!スリット!裂けてー!」
「さ、裂くなっ…ふぁっ…ん!」

体の力が一瞬抜けた隙に、押し広げられたそこに異物感を覚えた。
どうやら、入ったらしい。
意外と大丈夫じゃないか。
これくらいの痛みならなんとかなりそうだ。

「…おっおおう…見ろ、先端が入った…今のはYOUの体の緊張をほぐすためのっ…呪文、だ」
「うっ、嘘…これだけじゃないのか…あっ、痛いいいっ」

これ以上入らないと思ったのに、巨根はじわじわと侵入する。
セックスってこんなもんなのか。
もう気持ちよくない。
ただひたすら…痛い。
痛い痛いと呻く私を見る上田は、笑顔だった。
このサド…。

「…ふぬっ…ふんっ!こうやって!少しずつな!」
「いっ…たい!も…上田、ストップ…死ぬっ」

上田の耳には届いていないらしい。
角度とか湿度とか言いながら、遠慮なしにずんずん突いてくる。
この自己中!人で無し!巨根ー!

「YOU頑張ったじゃないか、あと少しだ!」
「…ん…う…」

あぁ、私はもう死ぬのか。
三途の川が見えた気がする。



上田が一瞬腰を引き、力強く打ち付けてきた。
体をこれまで以上の激痛が走り、涙が溢れる。

「……ひっ…ぃやあぁあ!!!」

がくんと高いところから落ちたような感覚になった。
頭が真っ白になっていく。

「よ…し、全部入っ…た!…YOU?
どうした、まさか気絶したのか?
おい!YOUーーーーー!!」

体を揺すられていることしか感じない。
遠退いていく意識の中、上田の絶叫が部屋にこだましていた。









翌日。
陽射しの眩しさに目が覚めると、上田が隣で寝息を立てていた。

「あれ?…あれからどうしたんだっけ?
う……痛ぁ…」

体が…特にあのあたりが、激しく痛い。
私、柄にもなく気絶したのか。
どうなったのか覚えていないが、シーツの赤い染みやごみ箱のティッシュの山を見て何となく事態を察した。
無事に…とは言えないが、事を終えたのだろう。
恥ずかしくなってベッドに潜ろうとすると、いつの間にか起きていた上田と目が合う。
上田はベッドから体を起こし、私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

「おはよう、奈緒子。体の調子はどうだ!」
「体?最悪です。…名前で呼ばないでください」
「照れるなって、奈緒子!」
「やめい!」
「嫌だね。俺は嫌がるYOUが一番好きだからな」

え。
…今、好きって言った?

上田も自分の言ったことに気付いたのか、眼鏡をかけようとしていた手が止まっている。

「…上田さん、今」
「YOUの嫌がるところを見たり嫌がることを言ったり…そういった行為が好きだと言ったんだよ。
風呂を沸かしてくる」

上田はぎくしゃくと部屋を出ていった。
やっぱりサド男だ。

「まぁ…、いいか」

寝返りをうつと、あのテキストが落ちていた。
よく見れば、『貧乳』の項目には赤いマーカーで書き込みがぎっしり書いてある。
私のために勉強したって、嘘じゃなかったんだな。

「ほんとに…馬鹿だよなぁ…私も上田も…」

告白もセックスも、順番はどうだっていいか。
この腐れ縁が切れることは、絶対にないのだろうから。

私たちらしく、変なペースでいい。
いつかお前から好きって言わせてやる。
覚悟してくださいね、大好きな上田さん。



END
最終更新:2006年09月29日 22:24