入れ替わり not ラブラブ編 by 243さん



奈緒子は上田を抱き締めたまま起き上がり、そっと体を倒した。
疲れてしまったのか、上田は虚ろな目をして奈緒子を黙って見つめている。

「…えーと。上田さん、正常位でいいんですか?」
「へ?あ、あぁ…任せる」

少しは知識があるようだ。
雑誌の立ち読みなどで覚えたのだろうか。

「…あんまり長くはもたないと思います…」
「何回でもすればいいじゃないか。
 今日は何も用事はないから」
「明日は?」
「明日は大学に行かなきゃならないんだ。
 まぁ俺がサポートするから心配しなくていい」
「心配するなと言われても」
「…話はこれくらいにしないか?」
「あ…はい」



繋がったまま普通に会話するとは、やっぱり俺たちはどこかずれているのかもしれない。
そんなことを呑気に考えていると、奈緒子が腰を強く打ち付け始めた。
突然の衝撃で頭がくらくらする。

「あっ…やっ、奈緒…っ」
「気持ちいいですか?」

上田はもはや頷くこともできなかった。
振動に任せて体ががくがく震える。

「…ふぁっ…あ、あ」

奈緒子が何度も体を引いては、最奥まで突いてくる。
突然頭の中が真っ白になり、体が熱くなる。

「…っあっあぁーっ!!」

体が大きくびくんと跳ねる。
秘部から愛液が溢れ、力強くペニスを銜え込んだ。
薄れる意識の中、奈緒子の体に必死にしがみついた。

「上田さん、いった?…だめ、きつぃっ…」
「…なぉ…ひゃうっ!」

絶頂を迎えて敏感になっている秘部を、奈緒子は何度も突き続ける。
結合部がぎゅっと収縮した瞬間、奈緒子も絶頂を迎えた。

「…あぁっ!!」

上田の体の中でペニスがどくどくと熱を放つ。
はぁはぁと息を荒げ、二人はぎゅっと抱き締めあった。



「…上田さん…すき」
「…奈緒子?」

奈緒子は繋がったまま離れようとしない。
上田は不安になり、そっと結合部に手を伸ばした。

「…奈緒子、まさか外れないわけじゃ…」
「違…もう少しこのままでいさせて」

離れたくないのだろう、体が震えている。
不安にさせたくない。
上田はその一心で、奈緒子を精一杯抱き寄せた。

「…結婚、しよう」

奈緒子は体を起こして、涙が溜まった目で上田を見つめた。
上田は秘部からペニスを抜き、奈緒子に向き合って笑う。

「恐いかもしれないけど、俺がいるから」

奈緒子は両手で顔を覆い、頷きながら泣いていた。

きっと大丈夫。
奈緒子と俺なら、きっと幸せになれる。


それから、俺たちはセックスをしまくった。
人間の生まれついての欲、食欲・睡眠欲を忘れて
とにかく性欲しか残っていなかった。
幸福、恐怖、不安、何もかもが性欲に変わっていった。
まるでセックスの快感を覚えたての幼いカップルのように。



「う…ん?もう朝か…」

一体何時間寝ていたのだろうか。
性欲が尽きたあと、押し寄せた多大な睡眠欲に負けたらしい。
隣では、むにゃむにゃと寝言を言いながら奈緒子が眠っている。

か細く柔らかな体を抱き寄せ、長い髪を撫でた。
なんて幸せな朝なんだ…。

…ん?
隣に眠っているのは、…奈緒子…。奈緒子!?

上田は瞬時に起き上がり、自分の股間を見つめた。
見慣れた巨根に安堵と歓喜を覚え、思わずガッツポーズをとる。

そばに置いてあった眼鏡をかけ、奈緒子の体を揺さぶり、叩き起こした。

「おい起きろ!奈緒子っ」
「うにゃ~…ビビンバ…冷し中華」




睡眠欲の次は食欲か。
奈緒子が目を擦りながら無意識に唇を寄せてくる。
一度だけ口付け、目が完全に覚めるまで顔を押さえて待った。

「奈緒子…わかるか?俺だよ」
「……。上田さん!?」

やっと起きたか。
口をぱくぱくさせる奈緒子を、ぎゅっと強く抱き締めた。

「よかったな…奈緒子」

奈緒子は何も答えず、上田の体を押し離した。
不安そうに涙を湛え、震えた目で上田を見上げる。

「どうした?嬉しくないのか」
「戻ったから…結婚、する意味なくなっちゃいましたね…」

奈緒子は真剣に落ち込んでいるらしい。
思わず鼻で笑ってしまった。

「馬鹿だな。戻れたからこそ結婚するんだよ」
「…ほんと?」

奈緒子は安心したようにふにゃっと笑った。
溜まっていた涙が、一筋頬を伝って落ちる。
上田は奈緒子の頭を撫で、頬を流れる涙を唇で受けとめた。




「…上田さん、すき」
「結婚するのに『上田さん』はないだろ」
「う…ぇ、あう…」

俯き、困ったように髪の先を弄んでいる。
やがてちらりと目を上げ、真っ赤な顔で唇をそっと開いた。

「じ…次郎、さん…?」

これはなんだ、予想以上に…その、
…かわいいじゃないか。
何も言えず、奈緒子を抱える腕に力を込めた。
奈緒子は苦しそうに藻掻き、腕の中でくすくす笑っている。

「好き、大好き…」

寄り添って、耳元に舌を這わせてくる。
昨日も思ったが、奈緒子は意外と積極的だ。
あぁ、でも今日は…

「奈緒子、今日は大学に行くから…」
「…ちぇ」

残念そうに耳にかぷっと噛み付き、奈緒子は腕を振りほどいた。
本当は講義も学会も捨ててしまいたいくらい、奈緒子が愛しいのに…。
無言で服を探して身を包んでいく奈緒子を見ていると、忘れていたことに気が付いた。

「そうだ!服…」

シンクには、水を含んだままのズボンと下着が放置されている。




服のボタンを留めながら近寄ってきた奈緒子が、笑って言った。

「あーあ。普通、洗ったら干すでしょ」

おいおい、そもそも奈緒子が射精したから俺が洗ってやったんだろ。
…多分、服が乾くまで一緒にいられると喜んでいるんだろう。
期待に添えなくて悪いが、今日は本当に急いでいる。

「…ジャージ借りるぞ」
「はっ!?入るわけないだろ!」

それもそうか。仕方なくそばにあったタオルを拾いあげて腰に巻いた。

その格好でいいのか…という視線を感じるが、他に方法もない。
家に帰るまでに誰にも見られなければ怪しまれることはないんだ。

「YOU、ここまでどうやって来た」
「上…次郎さんの車で」

よし、それならすぐに身を隠せるな。
唯一乾いたままのシャツを身にまとっていると、奈緒子が背中にもたれかかってきた。




昨晩と違い、恐ろしい程か弱く健気な女に見える。
一瞬騙されているのかと思ってしまうが、顔が見られなければ素直になれるのだろう。
向き直って奈緒子を見つめてみると、恥ずかしそうに顔を背けた。
おもしろい奴だ。
できることならもう少しこの反応を楽しみたい。

「…またすぐ会いに来るよ」

小さく頷く奈緒子の手を握り、ドアに向かった。
玄関前で数回キスを交わし、名残惜しそうに手を離すと、
上田は周囲を気にしながら階段を駆けおりていく。

「さよなら~」

階段の上から、ジロー号にこそこそと乗り込んだ上田を手を振って見送ると、
奈緒子は一目散に部屋に戻って電話に向かった。

「…もしもし、奈緒子です!」

電話の相手は、奈緒子の母・山田里見だった。
いつもの穏やかな声が返ってくる。

「あら奈緒子。恋愛成就のお守り届いた?
 正式に結婚決めてほしくて作ったんだけど、よく効いたでしょう」

母の心遣いが嬉しく、奈緒子は思わず顔を綻ばせた。

「うん、すごく効い…じゃなくて!」

それどころじゃない、あの謎を説き明かしたい。
奈緒子は原因が里見にあるのではと考えていた。
「自分でも信じたくないんだけど、私たち体が入れ替わってね」
「お母さん忙しいから切るわね」
「ちょっと待って、何度考えてもトリックがわからないんだけど…ねぇお母さん」
「上田先生によろしくね~」

喚いている奈緒子を無視し、里見は受話器を置いた。

「…販売したら、いくら取れるかしら」

にやっと笑い、いそいそとパソコンを立ち上げる。
たくさんのお札やお守りの中に、新しい画像が追加された。

「文字の力は、愛の力…」

里見は怪しげにほくそ笑んでいた。

=END=
最終更新:2006年09月16日 11:49