入れ替わり not ラブラブ編 by 243さん

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「上田さんっ」
遠くから聞こえる、声。
「ちょっと、聞いてるんですか!」
いつもの彼女の声。
どこにいるのだろう…
「こら上田っ!なぜベストを尽くさないのか!
素直になれ!もっと本気でぶつかってこい!」
好きだ。伝えたい。
今すぐ抱き締めたい。
でも、彼女の姿は見えない。
どこにいるんだ?
「…弱虫上田!」
声が遠くなる。
待ってくれ。行くな…

「…ッ!」
突如視界が明るくなる。
…夢か。
上田は再び目を閉じ、額の汗を拭った。
山田奈緒子がいなくなる、それは今の上田にとって一番辛い悪夢。
認めたくないけれど…。

―――なぜベストを尽くさないのか―――

夢の中での奈緒子の言葉を思い出しながら、ゆっくり目を開ける。
意識がはっきりしてくると、違和感に身体を起こした。
ここはどこだ?自分の部屋ではないが、見覚えがある。



「…山田の…。…んん?…おおおうっ!?」
奈緒子の部屋。肩にかかる長い髪。
白く細い身体。そしてこの声。
「…馬鹿な!!」
恐る恐る鏡に近づくと、散々見慣れた顔が映った。
「……。な、なんだ。待て。夢か、夢なのか!?
…はっ、裸…」
よくよく身体を見ると、なぜか全裸。
夢だ、夢に違いない。かなり破廉恥な夢だが…。
自分が山田奈緒子になるなんて、ありえない事だ。
上田はとりあえず周囲を見渡し、目についた服で身体を隠した。
「…どんと来い、超常現象」
自分に言い聞かせるように呟き、目を閉じる。
原始的な方法を試してみることにした。
よし、落ち着いて頬をつねるんだ、ほーら痛くな…
「いたたた!!」
予想外の痛みにのたうち回りながら、上田は愕然とした。
これは現実。
解明できない超常現象が、とうとう自分の身に降り掛かったのだ。
「どうする…どうしたら、あぁ…」
上田は痛みと不安で半泣きになりながら部屋を歩き回る。
なんとかこの現象を受け入れ、もとに戻る方法を探さなければ。
「…俺が山田ということは、山田の意識は俺の身体…?
そうだ…きっとそういうものだな」



よし、と頷き、上田は外に飛び出した。
一歩踏み出した瞬間に身体にかかる風に気付き、焦ってドアを閉める。
「~…服、服を…」
近くに脱ぎ散らかしてある服を拾い集める。
だいたいなんで服を着てないんだ。
初夏とはいえ、裸で寝るのはまずいだろう…
上田は辺りを見渡した。ブラジャーが見つけられない。
「まさかつけてないのか?
いくら貧乳だからといって…」
上田は無意識のうちに胸に触れていた。
貧乳貧乳と言っていたが、思っていたよりはある。
上田の心に、妙な好奇心が沸き上がってきた。
乳房を包み込むように手で撫でてみる。
少しずつ手に力を込め、ゆっくりと揉みしだいた。
…これは…まずい。
勝手に身体を弄んで、ばれたら嫌われるかもしれない。
しかし、上田の手は動きをやめようとはしなかった。
「…うっ」
乳首を撫で、そっと摘む。
しばらくいじっていると、下腹部が少し熱くなるのを感じた。
胸を触っていた右手の指先を秘部に伸ばそうとした瞬間、
激しい音を立てて玄関のドアが開かれる。
そこには、息を切らした上田次郎の姿があった。
しばらく無言のまま見つめあう。



「…う、上田さん…ですよね」
やはり上田の身体には山田奈緒子の意識が入っていた。
上田は安堵の表情で奈緒子を見上げる。
「…山田…。…っ!!」
上田は我に返り、胸と内股に触れていた手を慌てて後ろに組んだ。
怒られる!!泣かれる!!嫌われる!!
どうしたらいいかわからず俯いていると、そっと両手で顔を包まれた。
促されて顔を上げると、奈緒子が上田の目をじっと見つめる。
「…怖かったでしょ、上田さん。
泣いてるかなと思って走ってきました」
きょとんとしたまま奈緒子を見上げていると、
ぽんぽんと頭を撫でられる。
奈緒子は立ち上がり、上田の身体に布団をかけた。
「…どうしましょう、とりあえず上田さんの家に行きますか?」
先程の行為がなかったことのように、奈緒子は真摯な態度だった。
上田は申し訳なくなり、布団をぎゅっと握り締めて口を開く。
「…山田、さっきは…」
「何も言うな!!!」
大家が怒鳴り込んできそうな大声になってしまい、奈緒子は慌てて口を塞いだ。
上田の隣に座り、声を落とす。
「…私が裸で寝てたのが悪いんですよ。
生身の女の裸が久しぶりで興奮したんだろ、許す。
私なんかの身体で悪いけど…」

最終更新:2006年09月16日 11:24